図で読む代数幾何 第2回

素イデアルを点にする:Spec と生成点

環の素イデアルをすべて点とみなすと、曲線や平面全体に対応する「生成点」が現れます。Spec とザリスキー位相を定義し、既約な閉集合と生成点の1対1対応を示したうえで、Spec Z、Spec k[x]、Spec k[x,y]、Spec k[x]/(x^2)、Spec Z[x] を回せる立体図で比べます。

  • 代数幾何
  • スキーム
  • 生成点
  • 立体図

この記事の要点

点を増やす
環 AA の素イデアルをすべて「点」とみなした空間が Spec⁡A\operatorname{Spec}A です。第1回の点(極大イデアル)に加えて、曲線や平面全体に対応する点が現れます。
生成点
閉包が曲線全体になるような点を、その曲線の生成点と呼びます。Spec⁡A\operatorname{Spec}A では、既約な閉集合とその生成点がちょうど1対1に対応します。
例を比べる
Spec⁡Z\operatorname{Spec}\mathbb{Z}、Spec⁡k[x]\operatorname{Spec}k[x]、Spec⁡Z(5)\operatorname{Spec}\mathbb{Z}_{(5)}、Spec⁡k[x,y]\operatorname{Spec}k[x,y]、Spec⁡k[x]/(x2)\operatorname{Spec}k[x]/(x^2)、Spec⁡Z[x]\operatorname{Spec}\mathbb{Z}[x] を図で比べます。整数の環と多項式環が同じ形の空間になり、xx と x2x^2 の違いが「重なった点」として残ります。
図の見方
Spec の図では、閉点を床に置き、閉包が dd 次元の点を高さ dd に浮かべます。真上から見ると第1回と同じ図に見え、横に回すと、増えた点が段に分かれて見えます。
  • 証明は、ステップの流れだけを短く書いています。「詳しく」の付いた行をクリックすると、そのステップの詳しい説明が開きます。説明の中にも開ける行があります。
  • 定義・命題・定理には、記事全体で通し番号を振っています。
  • もう少し詳しくは補足、専門的な話は先の回につながる話題です。どちらも開かずに読み進められます。
  • 各ブロックの「AIに質問」を押すと、その部分の内容を入れた質問文で、お使いのAIを開けます。

前回の宿題

第1回では、体 kk が代数閉体のとき、アフィン空間の点と多項式環の極大イデアルが1対1に対応することを見ました。最後のまとめの表には、次の2つの気になる点が残りました。

  • 点に対応するのは極大イデアルだけです。k[x,y]k[x,y] の素イデアル (y−x2)(y-x^2) は放物線という図形に対応しますが、1つの点には対応しません。
  • 零点集合からは xx と x2x^2 の違いが分かりません。V(x)=V(x2)V(x)=V(x^2) なので、根基イデアルでないイデアルは、零点集合の言葉では表せません。

この記事では、1つめの点に「素イデアルをすべて点とみなす」という答えを出します。そうして作る空間が Spec⁡A\operatorname{Spec}A です。

2つめの点についても、Spec⁡k[x]/(x2)\operatorname{Spec}k[x]/(x^2) という例で、何が残り何が見えないかを確かめます。

この記事で扱うのは、位相空間としての Spec⁡A\operatorname{Spec}A だけです。参考文献のハーツホーン『代数幾何学』では、Spec⁡A\operatorname{Spec}A に関数の情報(構造層)を載せたものまでを AA のスペクトラムと呼んでいます[1, §II.2, p.96–97]。構造層は次回の層と茎の回で扱います。

ハーツホーンは素イデアルを p\mathfrak{p} と書きますが、この連載では PP と書きます。

Spec:素イデアルを点にする

環はすべて単位元をもつ可換環とします。

定義1 素スペクトル [1, §II.2, p.95; 2, 演習問題1.15, p.19]

環 AA の素イデアル全体の集合を Spec⁡A\operatorname{Spec}A と書き、AA の素スペクトルと呼ぶ。Spec⁡A\operatorname{Spec}A の元を点と呼ぶ。部分集合 S⊆AS\subseteq A に対して

V(S)={ P∈Spec⁡A∣S⊆P }V(S)=\{\,P\in\operatorname{Spec}A \mid S\subseteq P\,\}

とおく。

第1回の V(S)V(S) は「SS の式がすべて0になる点の集合」でした。ここでは「SS を含む素イデアルの集合」と定義しています。この2つが同じ考え方であることは、点での関数の値を次のように決めると分かります。

定義2 剰余体と値

P∈Spec⁡AP\in\operatorname{Spec}A とする。A/PA/P は整域なので、その商体

κ(P)=Frac⁡(A/P)\kappa(P)=\operatorname{Frac}(A/P)

が作れる。これを点 PP の剰余体と呼ぶ。f∈Af\in A の κ(P)\kappa(P) での像を f(P)f(P) と書き、点 PP での ff の値と呼ぶ。

f(P)f(P) は、ff を PP で割った余りを、体 κ(P)\kappa(P) の元とみたものです。矢印で書くと、値をとる操作は次の2段の写像です。

A⟶A/P↪κ(P)=Frac⁡(A/P)f⟼f+P⟼f(P)\begin{array}{ccccc} A & \longrightarrow & A/P & \hookrightarrow & \kappa(P)=\operatorname{Frac}(A/P) \\ f & \longmapsto & f+P & \longmapsto & f(P) \end{array}

1つめの矢印は PP で割った余りをとる写像、2つめは整域をその分数体に埋め込む写像です。2つめは単射なので、定義から

f(P)=0  ⟺  f+P=0  ⟺  f∈Pf(P)=0 \iff f+P=0 \iff f\in P

です。よって V(S)V(S) は「SS のすべての元の値が0になる点の集合」です。第1回の零点集合と同じ形になりました。

値の入る体 κ(P)\kappa(P) が点ごとに違うことに注意してください。いくつか例を見ます。

まず A=ZA=\mathbb{Z}、f=12f=12 とします。素数 pp に対して Z/(p)=Fp\mathbb{Z}/(p)=\mathbb{F}_p はすでに体なので、κ((p))=Fp\kappa((p))=\mathbb{F}_p で、値は pp で割った余りです。点 (0)(0) では Z/(0)=Z\mathbb{Z}/(0)=\mathbb{Z} なので、κ((0))=Q\kappa((0))=\mathbb{Q} です。

f((2))=12 mod 2=0∈F2,f((3))=12 mod 3=0∈F3,f((5))=12 mod 5=2∈F5,f((7))=12 mod 7=5∈F7,f((0))=12∈Q.\begin{aligned} f((2)) &= 12 \bmod 2 = 0 \in\mathbb{F}_2, \\ f((3)) &= 12 \bmod 3 = 0 \in\mathbb{F}_3, \\ f((5)) &= 12 \bmod 5 = 2 \in\mathbb{F}_5, \\ f((7)) &= 12 \bmod 7 = 5 \in\mathbb{F}_7, \\ f((0)) &= 12 \in\mathbb{Q}. \end{aligned}

値が0になるのは、12=22⋅312=2^2\cdot 3 を割り切る素数の点だけです。よって

V(12)={(2),(3)}V(12)=\{(2),(3)\}

です。

次は A=k[x,y]A=k[x,y] で、P=(x−a, y−b)P=(x-a,\ y-b) とします。f↦f(a,b)f\mapsto f(a,b) で A/P≅kA/P\cong k となるので、f(P)f(P) は普通の値 f(a,b)f(a,b) です。例えば f=y−x2f=y-x^2 なら、点 (x−1, y−1)(x-1,\ y-1) と点 (x, y−1)(x,\ y-1) で

f((x−1, y−1))=1−12=0,f((x, y−1))=1−02=1\begin{aligned} f\big((x-1,\ y-1)\big) &= 1-1^2=0, \\ f\big((x,\ y-1)\big) &= 1-0^2=1 \end{aligned}

です。

A=k[x,y]A=k[x,y]、P=(y−x2)P=(y-x^2) とします。x↦t, y↦t2x\mapsto t,\ y\mapsto t^2 で A/P≅k[t]A/P\cong k[t] となるので、κ(P)=k(t)\kappa(P)=k(t) で、f(P)=f(t,t2)f(P)=f(t,t^2) です。これは ff を放物線に制限した関数です。

(y−x)(P)=t2−t≠0,(y2−x4)(P)=t4−t4=0.\begin{aligned} (y-x)(P) &= t^2-t \neq 0, \\ (y^2-x^4)(P) &= t^4-t^4 = 0. \end{aligned}

2つめは y2−x4=(y−x2)(y+x2)y^2-x^4=(y-x^2)(y+x^2) が PP に入ることと合っています。kk が無限体なら、値 f(t,t2)f(t,t^2) が0になるのは、ff が放物線の上のすべての点で0になるときです。

最後に A=k[x,y]A=k[x,y]、P=(0)P=(0) なら、κ(P)=k(x,y)\kappa(P)=k(x,y) で、値は ff そのものです。0でない ff の値は0になりません。

素イデアル PP が小さくなるにつれて、値は「数」から「曲線の上の関数」、「平面全体の関数」へと変わっていきます。点の種類ごとに、同じ f=y−x2f=y-x^2 の値を並べると次のようになります(上から順に包含の鎖になっているわけではありません)。

Pκ(P)f(P)(x, y−1)k1(y)k(x)−x2(y−x2)k(t)0(0)k(x,y)y−x2\begin{array}{c|c|c} P & \kappa(P) & f(P) \\ \hline (x,\ y-1) & k & 1 \\ (y) & k(x) & -x^2 \\ (y-x^2) & k(t) & 0 \\ (0) & k(x,y) & y-x^2 \end{array}

点 (y)(y) では A/(y)≅k[x]A/(y)\cong k[x](y↦0y\mapsto0)なので、値は yy に0を入れた −x2-x^2 です。

VV は、第1回の VV とほぼ同じ性質をもちます。

命題3 [1, 補題2.1, p.95; 2, 演習問題1.15, p.19]

AA を環、J,KJ,K をイデアル、SλS_\lambda(λ∈Λ\lambda\in\Lambda)を部分集合とする。

(1) V(0)=Spec⁡AV(0)=\operatorname{Spec}A、V(1)=∅V(1)=\varnothing。
(2) ⋂λV(Sλ)=V(⋃λSλ)\bigcap_\lambda V(S_\lambda)=V\big(\bigcup_\lambda S_\lambda\big)。
(3) V(J)∪V(K)=V(JK)=V(J∩K)V(J)\cup V(K)=V(JK)=V(J\cap K)。
(4) V(J)⊆V(K)  ⟺  K⊆JV(J)\subseteq V(K)\iff\sqrt{K}\subseteq\sqrt{J}。とくに V(J)=V(J)V(J)=V(\sqrt{J})。

証明
  1. (1) どの素イデアルも0を含み、1は含まない(素イデアルは AA と異なる)。
  2. (2) 「PP がすべての SλS_\lambda を含む」と「PP が和集合 ⋃λSλ\bigcup_\lambda S_\lambda を含む」は同じ条件である。
  3. (3) JK⊆J∩K⊆J, KJK\subseteq J\cap K\subseteq J,\,K から V(J)∪V(K)⊆V(J∩K)⊆V(JK)V(J)\cup V(K)\subseteq V(J\cap K)\subseteq V(JK)。
  4. 残りは V(JK)⊆V(J)∪V(K)V(JK)\subseteq V(J)\cup V(K)。P⊇JKP\supseteq JK かつ P⊉JP\not\supseteq J なら P⊇KP\supseteq K を示す。
    1. P⊉JP\not\supseteq J なので、f∉Pf\notin P となる f∈Jf\in J がある。
    2. 任意の g∈Kg\in K について fg∈JK⊆Pfg\in JK\subseteq P。
    3. PP は素イデアルで f∉Pf\notin P なので g∈Pg\in P。よって K⊆PK\subseteq P。
  5. (4) 根基は「それを含む素イデアル全体の共通部分」である:J=⋂P⊇JP\sqrt{J}=\bigcap_{P\supseteq J}P [2, 命題1.14, p.13]。これを使う。
  6. (⇐\Leftarrow) P⊇JP\supseteq J なら P⊇J⊇K⊇KP\supseteq\sqrt{J}\supseteq\sqrt{K}\supseteq K。

    f∈Jf\in\sqrt{J} なら、ある nn で fn∈J⊆Pf^n\in J\subseteq P。PP は素イデアルなので f∈Pf\in P。よって J⊆P\sqrt{J}\subseteq P。

  7. (⇒\Rightarrow) JJ を含むどの素イデアルも KK を含むので、K⊆⋂P⊇JP=JK\subseteq\bigcap_{P\supseteq J}P=\sqrt{J}。両辺の根基をとって K⊆J\sqrt{K}\subseteq\sqrt{J}。

    J=J\sqrt{\sqrt{J}}=\sqrt{J} を使う。fn∈Jf^n\in\sqrt{J} なら、ある mm で fnm=(fn)m∈Jf^{nm}=(f^n)^m\in J となり、f∈Jf\in\sqrt{J}。

  8. 最後の主張は、J=J\sqrt{\sqrt J}=\sqrt J なので (4) を両向きに使えばよい。

例4 Spec⁡Z\operatorname{Spec}\mathbb{Z} で命題を確かめる

Z\mathbb{Z} では、m≠0m\neq0 について V(m)V(m) は mm を割り切る素数 pp の点 (p)(p) の集合である((p)⊇(m)  ⟺  p∣m(p)\supseteq(m)\iff p\mid m)。これを使うと、命題3の各項は次のようになる。

(2) 共通部分は、生成されるイデアルの VV になる(素イデアルが SS を含めば、SS が生成するイデアル (S)(S) も含むので V(S)=V((S))V(S)=V((S)))。(12,18)=(gcd⁡(12,18))=(6)(12,18)=(\gcd(12,18))=(6) なので

V(12)∩V(18)=V({12,18})=V((12,18))=V(6)={(2),(3)}.\begin{aligned} V(12)\cap V(18) &= V(\{12,18\})=V\big((12,18)\big) \\ &= V(6)=\{(2),(3)\}. \end{aligned}

(3) (12)(10)=(120)(12)(10)=(120)、(12)∩(10)=(lcm⁡(12,10))=(60)(12)\cap(10)=(\operatorname{lcm}(12,10))=(60) で、どちらの素因数も 2,3,52,3,5 なので

V(12)∪V(10)={(2),(3)}∪{(2),(5)}={(2),(3),(5)}=V(120)=V(60).\begin{aligned} V(12)\cup V(10) &= \{(2),(3)\}\cup\{(2),(5)\} \\ &= \{(2),(3),(5)\} \\ &= V(120)=V(60). \end{aligned}

(4) (12)=(6)\sqrt{(12)}=(6) なので V(12)=V(6)V(12)=V(6)。同じように (8)=(2)\sqrt{(8)}=(2) なので V(8)=V(2)={(2)}V(8)=V(2)=\{(2)\} で、VV からは 88 と 22 の違いが見えない。

多項式環でも同じ計算ができます。kk を代数閉体とすると、k[x]k[x] では (x2)=(x)\sqrt{(x^2)}=(x) なので、第1回と同じく

V(x2)=V(x)={(x)}V(x^2)=V(x)=\{(x)\}

です。k[x,y]k[x,y] では (3) から

V(xy)=V((x)(y))=V(x)∪V(y)V(xy)=V\big((x)(y)\big)=V(x)\cup V(y)

となり、2本の座標軸の和になります。V(x)V(x) と V(y)V(y) の共通部分は、(2) から V(x,y)={(x,y)}V(x,y)=\{(x,y)\}、つまり原点だけです。

(1)〜(3) は、V(S)V(S) の形の集合が閉集合の公理をみたすことを言っています。

定義5 ザリスキー位相 [1, p.96; 2, 演習問題1.15, p.19]

V(S)V(S)(S⊆AS\subseteq A)の形の集合を閉集合とする Spec⁡A\operatorname{Spec}A の位相を、ザリスキー位相と呼ぶ。

第1回の補足(専門的な話)で紹介したザリスキー位相と同じ形の定義です。違いは、点の集合が素イデアル全体に増えたことだけです。

開集合は閉集合の補集合です。例えば Spec⁡Z\operatorname{Spec}\mathbb{Z} で V(12)V(12) の補集合をとると

Spec⁡Z∖V(12)={(0)}∪{(p)∣p≠2,3}={(0),(5),(7),(11),(13),… }\begin{aligned} \operatorname{Spec}\mathbb{Z}\setminus V(12) &= \{(0)\}\cup\{(p)\mid p\neq2,3\} \\ &= \{(0),(5),(7),(11),(13),\dots\} \end{aligned}

で、これは「1212 の値が0でない点の集合」です。生成点 (0)(0) がこの開集合に入っていることに注意してください。

閉包と生成点

点が増えると、1点だけからなる集合が閉集合になるとは限らなくなります。点 PP の閉包は、PP を含む素イデアルの全体です。

命題6 [2, 演習問題1.18, p.20]

P∈Spec⁡AP\in\operatorname{Spec}A とする。

(1) 1点集合 {P}\{P\} の閉包は V(P)V(P) である。
(2) QQ が {P}\{P\} の閉包に入る   ⟺  \iff P⊆QP\subseteq Q。
(3) {P}\{P\} が閉集合   ⟺  \iff PP は極大イデアル。

証明
  1. (1) V(P)V(P) は PP を含む閉集合である。逆に、PP を含む閉集合 V(S)V(S) はどれも V(P)V(P) を含む。よって最小の閉集合は V(P)V(P)。

    P∈V(S)P\in V(S) は S⊆PS\subseteq P という意味である。このとき、Q⊇PQ\supseteq P となる素イデアル QQ は Q⊇SQ\supseteq S もみたすので、V(P)⊆V(S)V(P)\subseteq V(S)。閉包は PP を含む閉集合すべての共通部分なので、V(P)V(P) に等しい。

  2. (2) (1) と V(P)V(P) の定義から従う。
  3. (3) (1) から、{P}\{P\} が閉集合であることは V(P)={P}V(P)=\{P\}、つまり「PP を真に含む素イデアルがない」ことと同じ。これは PP が極大であることと同値である。
    1. PP が極大なら、PP を含む素イデアル QQ は AA と異なるので Q=PQ=P。
    2. PP が極大でなければ、PP を真に含む極大イデアル MM がある。極大イデアルは素イデアルなので、M∈V(P)∖{P}M\in V(P)\setminus\{P\}。

      P⊊J⊊AP\subsetneq J\subsetneq A となるイデアル JJ があるとき、JJ を含む極大イデアルが存在する(ツォルンの補題による。どの真のイデアルも、ある極大イデアルに含まれる)。

極大イデアルに対応する点を閉点と呼びます。第1回の点は、すべて閉点でした。新しく増えた点は閉点ではなく、その閉包は自分より大きな集合になります。

Spec⁡Z\operatorname{Spec}\mathbb{Z} で確かめます。(0)(0) はどの素イデアルにも含まれ、(7)(7) を真に含む素イデアルはないので

{(0)}‾=V(0)=Spec⁡Z,{(7)}‾=V(7)={(7)}\begin{aligned} \overline{\{(0)\}} &= V(0)=\operatorname{Spec}\mathbb{Z}, \\ \overline{\{(7)\}} &= V(7)=\{(7)\} \end{aligned}

です({P}‾\overline{\{P\}} は {P}\{P\} の閉包)。(7)(7) は極大イデアルなので閉点で、(0)(0) は極大でないので閉点ではありません。

(2) は、包含の向きが逆になることを言っています。素イデアル PP が小さいほど、点 PP の閉包は大きくなります。例えば k[x,y]k[x,y] の中で

y−x2=(y−1)−(x+1)(x−1)∈(x−1, y−1)y-x^2=(y-1)-(x+1)(x-1)\in(x-1,\ y-1)

なので (y−x2)⊆(x−1, y−1)(y-x^2)\subseteq(x-1,\ y-1) で、閉点 (x−1, y−1)(x-1,\ y-1)(座標 (1,1)(1,1) の点)は点 (y−x2)(y-x^2) の閉包に入ります。一方、(x, y−1)(x,\ y-1) での y−x2y-x^2 の値は 1≠01\neq0 なので、座標 (0,1)(0,1) の閉点は入りません。

素イデアルの包含の列と閉包の包含の列を上下に並べると、向きが逆になっていることが分かります。縦の矢印は P↦{P}‾=V(P)P\mapsto\overline{\{P\}}=V(P) です。

(0)⊊(y−x2)⊊(x−1, y−1)↓↓↓Spec⁡k[x,y]⊋V(y−x2)⊋{(x−1, y−1)}\begin{array}{ccccc} (0) & \subsetneq & (y-x^2) & \subsetneq & (x-1,\ y-1) \\ \big\downarrow & & \big\downarrow & & \big\downarrow \\ \operatorname{Spec}k[x,y] & \supsetneq & V(y-x^2) & \supsetneq & \{(x-1,\ y-1)\} \end{array}

閉包が大きい点ほど「大きい点」だと考えると、図が描きやすくなります。

第1回で、和集合に分けられない集合を既約と呼びました。この記事でも同じ言葉を使います。

定義7 既約・生成点 [1, 演習2.9, p.109]

位相空間 XX の閉集合 ZZ が既約であるとは、Z≠∅Z\neq\varnothing であり、閉集合 Z1,Z2Z_1,Z_2 を使って Z=Z1∪Z2Z=Z_1\cup Z_2 と書くと、必ず Z=Z1Z=Z_1 または Z=Z2Z=Z_2 となることをいう。

点 η∈Z\eta\in Z で、{η}\{\eta\} の閉包が ZZ に等しいものを、ZZ の生成点と呼ぶ。

次の定理が、この記事の中心です。

定理8 既約な閉集合と点 [3, 命題・定義1.141, p.62; 2, 演習問題1.19, p.20; 1, 演習2.9, p.109]

AA を環とする。対応 P↦V(P)P\mapsto V(P) は、Spec⁡A\operatorname{Spec}A から、Spec⁡A\operatorname{Spec}A の既約な閉集合全体への全単射である。言い換えると、Spec⁡A\operatorname{Spec}A の既約な閉集合は、どれもちょうど1つの生成点をもつ。

証明
  1. V(P)V(P) が既約であることを示す。V(P)V(P) は点 PP の閉包なので、2つの閉集合の和に分けると、PP を含む方が全体になる。

    V(P)=Z1∪Z2V(P)=Z_1\cup Z_2(ZiZ_i は閉集合)とする。P∈V(P)P\in V(P) なので、例えば P∈Z1P\in Z_1。Z1Z_1 は PP を含む閉集合なので、PP の閉包 V(P)V(P)(命題6(1))を含む。よって Z1=V(P)Z_1=V(P)。

    V(P)V(P) は PP を含むので空でもない。

  2. 単射であることを示す。V(P)=V(Q)V(P)=V(Q) なら、Q∈V(P)Q\in V(P) かつ P∈V(Q)P\in V(Q) なので、P⊆Q⊆PP\subseteq Q\subseteq P。
  3. 全射であることを示す。既約な閉集合 Z=V(J)Z=V(J) に対して、J\sqrt{J} が素イデアルになり、Z=V(J)Z=V(\sqrt{J}) となることを確かめる。
    1. J≠A\sqrt{J}\neq A:もし 1∈J1\in\sqrt{J} なら 1∈J1\in J で、Z=V(J)=∅Z=V(J)=\varnothing となり、既約であることに反する。
    2. fg∈Jfg\in\sqrt{J} とすると、ZZ は Z∩V(f)Z\cap V(f) と Z∩V(g)Z\cap V(g) の和になる。

      命題3(4) より Z=V(J)=V(J)Z=V(J)=V(\sqrt{J})。fg∈Jfg\in\sqrt{J} なので V(J)⊆V(fg)V(\sqrt{J})\subseteq V(fg)。命題3(3) より V(fg)=V((f)(g))=V(f)∪V(g)V(fg)=V\big((f)(g)\big)=V(f)\cup V(g)。よって

      Z=(Z∩V(f))∪(Z∩V(g)).Z=\big(Z\cap V(f)\big)\cup\big(Z\cap V(g)\big).

      右辺の2つは閉集合の共通部分なので、閉集合である。

    3. 既約性から、例えば Z⊆V(f)Z\subseteq V(f)。命題3(4) より f∈(f)⊆Jf\in\sqrt{(f)}\subseteq\sqrt{J}。よって J\sqrt{J} は素イデアル。
    4. P=JP=\sqrt{J} とおくと、Z=V(J)=V(P)Z=V(\sqrt{J})=V(P)。

証明から、逆向きの写像も読み取れます。既約な閉集合 Z=V(J)Z=V(J) の生成点は J\sqrt{J} で、これは ZZ の点(JJ を含む素イデアル)すべての共通部分です[2, 命題1.14, p.13]。

P ⟼ V(P),Z ⟼ ⋂Q∈ZQP\ \longmapsto\ V(P),\qquad Z\ \longmapsto\ \bigcap_{Q\in Z}Q

Z=V(P)Z=V(P) なら、右の共通部分は P=P\sqrt{P}=P に戻ります。

既約でない閉集合では、生成点にあたる素イデアルがありません。Spec⁡Z\operatorname{Spec}\mathbb{Z} の V(12)={(2)}∪{(3)}V(12)=\{(2)\}\cup\{(3)\} は2つの閉集合の和なので既約ではなく、実際 (12)=(6)\sqrt{(12)}=(6) は素イデアルではありません。k[x,y]k[x,y] の V(xy)=V(x)∪V(y)V(xy)=V(x)\cup V(y) も同じで、(xy)(xy) は素イデアルではありません(x,y∉(xy)x,y\notin(xy) なのに xy∈(xy)xy\in(xy))。

第1回では、kk が代数閉体のとき、既約なアフィン代数的集合と素イデアルが1対1に対応することを見ました(第1回の命題14)。Spec では、その素イデアルがそのまま1つの点になっています。放物線 V(y−x2)V(y-x^2) は、点 (y−x2)(y-x^2) の閉包です。

k[x,y]k[x,y] の3つの点で、定理の対応を並べておきます。

(x−1, y−1)⟼{(x−1, y−1)}(y−x2)⟼V(y−x2)(0)⟼V(0)=Spec⁡k[x,y]\begin{array}{rcl} (x-1,\ y-1) & \longmapsto & \{(x-1,\ y-1)\} \\ (y-x^2) & \longmapsto & V(y-x^2) \\ (0) & \longmapsto & V(0)=\operatorname{Spec}k[x,y] \end{array}

上から順に、1点、放物線、平面全体です。閉点の閉包は自分だけなので、閉点は「1点からなる既約な閉集合」の生成点でもあります。

とくに AA が整域なら、(0)(0) は素イデアルで、どの素イデアルにも含まれます。よって点 (0)(0) の閉包は Spec⁡A\operatorname{Spec}A 全体で、(0)(0) は空間全体の生成点です。

1次元の例:整数と1変数多項式

最初の例は整数の環です。

例9 Spec⁡Z\operatorname{Spec}\mathbb{Z} [3, 例1.131, p.59; 1, 演習2.5, p.109]

Spec⁡Z={(0)}∪{(p)∣p∈P}\operatorname{Spec}\mathbb{Z}=\{(0)\}\cup\{(p)\mid p\in\mathcal{P}\}(P\mathcal{P} は素数全体)。(p)(p) は閉点で、(0)(0) は全体の生成点である。閉集合は、(0)(0) を含まない有限集合と、全体だけである。

証明
  1. Z\mathbb{Z} は単項イデアル整域なので、イデアルは (m)(m)(m≥0m\geq0)の形で、素イデアルは m=0m=0 か mm が素数のもの。
  2. (p)(p) は極大イデアルなので閉点(命題6(3))。(0)(0) は整域の零イデアルなので全体の生成点。
  3. 閉集合は V(m)V(m) の形。m=0m=0 なら全体、m≠0m\neq0 なら V(m)V(m) は mm の素因数 pp の (p)(p) からなる有限集合(m=1m=1 なら空集合)。

閉集合をいくつか計算します。素因数分解から V(m)V(m) が読み取れます。

V(360)=V(23⋅32⋅5)={(2),(3),(5)},V(−91)=V(7⋅13)={(7),(13)},V(1)=∅,V(0)=Spec⁡Z.\begin{aligned} V(360) &= V(2^3\cdot3^2\cdot5)=\{(2),(3),(5)\}, \\ V(-91) &= V(7\cdot13)=\{(7),(13)\}, \\ V(1) &= \varnothing,\qquad V(0)=\operatorname{Spec}\mathbb{Z}. \end{aligned}

逆に、(0)(0) を含まない有限集合 {(p1),…,(pr)}\{(p_1),\dots,(p_r)\} は V(p1⋯pr)V(p_1\cdots p_r) です。例えば {(2),(7),(11)}=V(154)\{(2),(7),(11)\}=V(154) です。

例10 Spec⁡k[x]\operatorname{Spec}k[x] [1, 例2.3.3, p.102]

kk を代数閉体とする。Spec⁡k[x]={(0)}∪{(x−a)∣a∈k}\operatorname{Spec}k[x]=\{(0)\}\cup\{(x-a)\mid a\in k\}。閉点 (x−a)(x-a) は kk の元 aa と1対1に対応し、(0)(0) は全体の生成点である。閉集合は、閉点の有限集合と、全体だけである。

証明
  1. k[x]k[x] は単項イデアル整域なので、素イデアルは (0)(0) と、既約多項式 ff が生成する (f)(f)。
  2. kk が代数閉体なので、既約多項式は1次式 x−ax-a の定数倍だけ。
  3. 閉集合は V(f)V(f) の形で、f≠0f\neq0 なら ff の根の閉点からなる有限集合、f=0f=0 なら全体。

こちらも、1次式の積に分解すれば V(f)V(f) が読み取れます。重なった根は1点にまとまります。

V(x3−x2)=V(x2(x−1))={(x),(x−1)},V(x2−2x+1)=V((x−1)2)={(x−1)}.\begin{aligned} V(x^3-x^2) &= V\big(x^2(x-1)\big)=\{(x),(x-1)\}, \\ V(x^2-2x+1) &= V\big((x-1)^2\big)=\{(x-1)\}. \end{aligned}

値も見ておきます。閉点 (x−a)(x-a) では k[x]/(x−a)≅kk[x]/(x-a)\cong k(x↦ax\mapsto a)なので、値は aa を代入した f(a)f(a) です。生成点 (0)(0) では κ((0))=k(x)\kappa((0))=k(x) で、値は ff そのものです。

(x2−1)((x−3))=32−1=8∈k,(x2−1)((0))=x2−1∈k(x).\begin{aligned} (x^2-1)\big((x-3)\big) &= 3^2-1=8\in k, \\ (x^2-1)\big((0)\big) &= x^2-1\in k(x). \end{aligned}

Spec⁡Z\operatorname{Spec}\mathbb{Z} と Spec⁡k[x]\operatorname{Spec}k[x] は、同じ形をしています。どちらも閉点が無限個あり、その上にただ1つの生成点があります。言葉を並べると、次の対応になります。

Z\mathbb{Z}k[x]k[x]
閉点(p)(p)(x−a)(x-a)
関数整数 mm多項式 ff
閉点での値m mod p∈Fpm\bmod p\in\mathbb{F}_pf(a)∈kf(a)\in k
分解の例12=22⋅312=2^2\cdot3x2(x−1)x^2(x-1)
その VV{(2),(3)}\{(2),(3)\}{(x),(x−1)}\{(x),(x-1)\}

閉集合は「有限個の閉点」か「全体」だけで、生成点を含む閉集合は全体しかありません。空でない開集合はどれも「全体から有限個の閉点を除いたもの」なので、どの2つも交わります。

素数 pp で割り切れる整数が「点 (p)(p) で0になる関数」だと考えると、整数を Spec⁡Z\operatorname{Spec}\mathbb{Z} の上の関数とみることができます。例えば 1212 は点 (2)(2) と (3)(3) で0になり、ほかの閉点では0になりません。多項式 f(x)f(x) が根で0になるのと同じ見方です。

ドラッグで回せます

Spec⁡Z\operatorname{Spec}\mathbb{Z}。床の黒い点が閉点 (p)(p)(pp は素数)、上に浮かぶ雲が生成点 (0)(0) です。(0)(0) は1点ですが、閉包が全体なので、どこか1か所に置かず全体の上に広げて描いています。矢印は「この点は (0)(0) の閉包に入る」を表します。

Spec⁡Z(5)\operatorname{Spec}\mathbb{Z}_{(5)} は2点 (5)(5) と (0)(0) だけです。{(0)}\{(0)\} は開集合、{(5)}\{(5)\} は閉集合です。

Spec⁡C[x]\operatorname{Spec}\mathbb{C}[x]。床を複素平面とみると、閉点 (x−a)(x-a) は複素数 aa と1対1に対応します。生成点 (0)(0) は平面全体の上の雲です。

Spec⁡R[x]\operatorname{Spec}\mathbb{R}[x]。実数 aa の閉点 (x−a)(x-a) に加えて、共役な2つの複素数 a±bia\pm bi が1つの閉点 (x2−2ax+a2+b2)(x^2-2ax+a^2+b^2) になります。複素平面を実軸で折り返した上半分が、閉点の全体です。

図1概念図1次元の Spec。床(高さ0)に閉点を、高さ1に生成点を描きます。生成点は1点ですが、閉包が全体なので、どこか1か所には置けません。そこで、閉包の上に雲のように広げて描いています。床の上の位置は閉包の場所を、高さは閉包の次元を表します。灰色の矢印は「この閉点は上の点の閉包に入る」を表します。「真横」から見ると、閉点と生成点が別の段に分かれます。
もう少し詳しく代数閉体でないとき:Spec⁡R[x]\operatorname{Spec}\mathbb{R}[x]

R\mathbb{R} は代数閉体ではないので、R[x]\mathbb{R}[x] には2次の既約多項式があります[1, 演習2.10, p.109]。実数係数の多項式の複素数の根は、共役な組 a±bia\pm bi で現れるので、2次の既約多項式は

x2−2ax+a2+b2=(x−(a+bi))(x−(a−bi))(b>0)x^2-2ax+a^2+b^2=\big(x-(a+bi)\big)\big(x-(a-bi)\big)\qquad(b>0)

の定数倍です。

よって Spec⁡R[x]\operatorname{Spec}\mathbb{R}[x] の閉点は、実数 aa に対応する (x−a)(x-a) と、上半平面の複素数 a+bia+bi(b>0b>0)に対応する (x2−2ax+a2+b2)(x^2-2ax+a^2+b^2) です。複素平面を実軸で折り返して、a+bia+bi と a−bia-bi を1点にまとめたものが、閉点の全体になります(図1の4つめ)。例えば点 (x2+1)(x^2+1) は ±i\pm i をまとめた点で、剰余体は R[x]/(x2+1)≅C\mathbb{R}[x]/(x^2+1)\cong\mathbb{C} です。

もう1つ例を挙げます。a=1a=1、b=2b=2 とすると

x2−2x+5=(x−(1+2i))(x−(1−2i))x^2-2x+5=\big(x-(1+2i)\big)\big(x-(1-2i)\big)

で、点 (x2−2x+5)(x^2-2x+5) は 1±2i1\pm2i をまとめた点です。剰余体は x↦1+2ix\mapsto 1+2i で R[x]/(x2−2x+5)≅C\mathbb{R}[x]/(x^2-2x+5)\cong\mathbb{C} です。

2次の閉点での値は複素数です。ただし、x↦1+2ix\mapsto1+2i と x↦1−2ix\mapsto1-2i のどちらで C\mathbb{C} とみなすかで、値は複素共役だけずれます。例えば f=x2f=x^2 の点 (x2−2x+5)(x^2-2x+5) での値は、次の2つのどちらかになります。

(1+2i)2=−3+4i,(1−2i)2=−3−4i(1+2i)^2=-3+4i,\qquad (1-2i)^2=-3-4i

どちらを選んでも、値が0かどうかは変わりません。

閉集合も、実数の範囲で因数分解して読み取ります。

x4−1=(x−1)(x+1)(x2+1)x^4-1=(x-1)(x+1)(x^2+1)

なので、V(x4−1)={(x−1),(x+1),(x2+1)}V(x^4-1)=\{(x-1),(x+1),(x^2+1)\} です。複素数で見た4つの根 ±1,±i\pm1,\pm i のうち、±i\pm i が1点にまとまって3点になります。

図1の2つめは、生成点の閉包が全体になることを、点を減らして見る例です。

例11 Spec⁡Z(5)\operatorname{Spec}\mathbb{Z}_{(5)} [1, 例2.3.2, p.102]

Z(5)={ a/b∈Q∣5∤b }\mathbb{Z}_{(5)}=\{\,a/b\in\mathbb{Q}\mid 5\nmid b\,\} とする。Spec⁡Z(5)\operatorname{Spec}\mathbb{Z}_{(5)} は2点 (0)(0) と (5)(5) からなる。{(5)}\{(5)\} は閉集合で、{(0)}\{(0)\} は開集合であり、その閉包は全体である。

証明
  1. 0でない Z(5)\mathbb{Z}_{(5)} の元は、5nu5^n u(n≥0n\geq0、uu は Z(5)\mathbb{Z}_{(5)} の単元)と書ける。

    a/ba/b(5∤b5\nmid b)の分子を a=5na′a=5^n a'(5∤a′5\nmid a')と分けると、a/b=5n⋅a′/ba/b=5^n\cdot a'/b で、a′/ba'/b の逆元 b/a′b/a' も Z(5)\mathbb{Z}_{(5)} に入る。

  2. よってイデアルは (0)(0) か (5n)(5^n) で、素イデアルは (0)(0) と (5)(5) だけ。
  3. {(5)}=V(5)\{(5)\}=V(5) は閉集合で、その補集合 {(0)}\{(0)\} は開集合。閉包は 命題6(1) から V(0)V(0)=全体。

証明の1つめのステップを、数で確かめます。

37=50⋅37,103=5⋅23,752=52⋅32\frac{3}{7}=5^0\cdot\frac{3}{7},\qquad \frac{10}{3}=5\cdot\frac{2}{3},\qquad \frac{75}{2}=5^2\cdot\frac{3}{2}

3/73/7 は逆元 7/37/3 も Z(5)\mathbb{Z}_{(5)} に入るので単元です。イデアルは

Z(5)⊋(5)⊋(25)⊋(125)⊋⋯⊋(0)\mathbb{Z}_{(5)}\supsetneq(5)\supsetneq(25)\supsetneq(125)\supsetneq\cdots\supsetneq(0)

と1列に並び、このうち素イデアルは (5)(5) と (0)(0) だけです。

Z(5)\mathbb{Z}_{(5)} の元は、分母が5で割り切れない分数、つまり「点 (5)(5) で分母が0にならない関数」です。Z(5)/(5)≅F5\mathbb{Z}_{(5)}/(5)\cong\mathbb{F}_5 で、a/ba/b の値は a⋅b−1 mod 5a\cdot b^{-1}\bmod5 です。5∤b5\nmid b なので、bb は F5\mathbb{F}_5 で逆元をもちます。

37((5))=3⋅7−1=3⋅2−1=3⋅3=9=4∈F5,103((5))=0∈F5,37((0))=37∈Q.\begin{aligned} \frac{3}{7}\Big((5)\Big) &= 3\cdot7^{-1}=3\cdot2^{-1}=3\cdot3=9=4\in\mathbb{F}_5, \\ \frac{10}{3}\Big((5)\Big) &= 0\in\mathbb{F}_5,\qquad \frac{3}{7}\Big((0)\Big)=\frac{3}{7}\in\mathbb{Q}. \end{aligned}

1行目は F5\mathbb{F}_5 で 7=27=2、2⋅3=6=12\cdot3=6=1 を使っています。検算すると 7⋅4=28≡3(mod5)7\cdot4=28\equiv3\pmod5 です。

一方、Spec⁡Z\operatorname{Spec}\mathbb{Z} のほかの閉点、例えば (7)(7) は Spec⁡Z(5)\operatorname{Spec}\mathbb{Z}_{(5)} には残りません。1/7∈Z(5)1/7\in\mathbb{Z}_{(5)} を使うと

1=7⋅17∈7Z(5)1=7\cdot\frac{1}{7}\in7\mathbb{Z}_{(5)}

となるので、77 が生成するイデアル 7Z(5)7\mathbb{Z}_{(5)} は環全体で、素イデアルではありません。

Spec⁡Z(5)\operatorname{Spec}\mathbb{Z}_{(5)} は、Spec⁡Z\operatorname{Spec}\mathbb{Z} から点 (5)(5) と生成点 (0)(0) だけを残した空間で、「点 (5)(5) のまわりだけを見る」ことに当たります。

このような環は離散付値環の例で、次回の茎の話につながります。

2次元の例:Spec⁡k[x,y]\operatorname{Spec}k[x,y]

平面になると、点が3種類に増えます。

例12 Spec⁡k[x,y]\operatorname{Spec}k[x,y] [1, 例2.3.4, p.102–103]

kk を代数閉体とする。Spec⁡k[x,y]\operatorname{Spec}k[x,y] の点は、次の3種類である。

  • (0)(0):全体の生成点。
  • (g)(g)(gg は既約多項式):既約な曲線 V(g)V(g) の生成点。
  • (x−a, y−b)(x-a,\ y-b)(a,b∈ka,b\in k):閉点。
証明
  1. 3種類とも素イデアルである。(0)(0) は k[x,y]k[x,y] が整域だから、(g)(g) は k[x,y]k[x,y] が一意分解整域だから、(x−a, y−b)(x-a,\ y-b) は f↦f(a,b)f\mapsto f(a,b) の核で、剰余環が kk だから(極大イデアル)。
  2. 残りは、0でなく単項でもない素イデアル PP が (x−a, y−b)(x-a,\ y-b) の形であることを示す。まず PP は既約多項式 gg を含む。

    0でない f∈Pf\in P を既約多項式の積に分解すると、PP が素イデアルなので、どれかの因子が PP に入る。

  3. P≠(g)P\neq(g) なので、gg で割り切れない h∈Ph\in P がある。
  4. gg と hh から、xx だけの0でない多項式 d(x)∈Pd(x)\in P が作れる。
    1. g∈k[x]g\in k[x](yy を含まない)なら、d=gd=g とすればよい。以下、gg は yy を含むとする。
    2. K=k(x)K=k(x) とおく。ガウスの補題より、gg は K[y]K[y] でも既約で、K[y]K[y] で hh を割り切らない。

      k[x,y]=k[x][y]k[x,y]=k[x][y] とみる。gg は既約で yy を含むので、k[x]k[x] 係数の多項式として原始的(係数に共通の因子がない)。原始的な既約多項式は K[y]K[y] でも既約である。

      また、K[y]K[y] で gg が hh を割り切れば、ガウスの補題により k[x][y]k[x][y] でも割り切ってしまう。

    3. K[y]K[y] は単項イデアル整域なので、ug+vh=1ug+vh=1(u,v∈K[y]u,v\in K[y])と書ける。

      gg は K[y]K[y] で既約で hh を割り切らないので、gg と hh の最大公約元は1。単項イデアル整域では、最大公約元はイデアル (g,h)(g,h) の生成元になる。

    4. u,vu,v の分母を払うと、u′g+v′h=d(x)u'g+v'h=d(x)(u′,v′∈k[x,y]u',v'\in k[x,y]、0≠d∈k[x]0\neq d\in k[x])。左辺は PP に入る。
  5. kk は代数閉体なので d(x)d(x) は1次式の積に分解し、PP が素イデアルなので、ある x−ax-a が PP に入る。
  6. xx と yy の役割を入れ替えた同じ議論で、ある y−by-b も PP に入る。
  7. (x−a, y−b)⊆P≠k[x,y](x-a,\ y-b)\subseteq P\neq k[x,y] で、左辺は極大イデアルなので P=(x−a, y−b)P=(x-a,\ y-b)。

閉点は、第1回の A2\mathbb{A}^2 の点 (a,b)(a,b) と1対1に対応します。それに加えて、既約な曲線ごとに1つの生成点と、平面全体の生成点 (0)(0) が増えました。点 (g)(g) の閉包 V(g)V(g) は、曲線上のすべての閉点と、(g)(g) 自身からなります。

例13 Spec⁡k[x,y]\operatorname{Spec}k[x,y] の閉包

kk を代数閉体とする。Spec⁡k[x,y]\operatorname{Spec}k[x,y] で、点 (y−x2)(y-x^2) と点 (y)(y) の閉包は次のとおりである。

V(y−x2)={(y−x2)}∪{(x−a, y−a2)∣a∈k},V(y)={(y)}∪{(x−a, y)∣a∈k}.\begin{aligned} V(y-x^2) &= \{(y-x^2)\}\cup\{(x-a,\ y-a^2)\mid a\in k\}, \\ V(y) &= \{(y)\}\cup\{(x-a,\ y)\mid a\in k\}. \end{aligned}

また V(xy)=V(x)∪V(y)V(xy)=V(x)\cup V(y) は、2つの生成点 (x)(x)、(y)(y) と、閉点 (x, y−b)(x,\ y-b)、(x−a, y)(x-a,\ y)(a,b∈ka,b\in k)からなる。

証明
  1. 例12の3種類の点のうち、y−x2y-x^2 を含むものを調べる。(0)(0) は含まない。
  2. (g)∋y−x2(g)\ni y-x^2 なら gg は y−x2y-x^2 を割り切る。y−x2y-x^2 は既約なので、gg はその定数倍で (g)=(y−x2)(g)=(y-x^2)。

    y−x2y-x^2 は yy について1次で、yy の係数が1である。積に分解すると、yy を含まない方の因子は yy の係数1を割り切るので定数になる。よって既約。

  3. (x−a, y−b)∋y−x2(x-a,\ y-b)\ni y-x^2 は、点 (a,b)(a,b) での値 b−a2b-a^2 が0であること、つまり b=a2b=a^2 と同じ。
  4. V(y)V(y) も同じ。yy を割り切る既約多項式は yy の定数倍で、(x−a, y−b)∋y(x-a,\ y-b)\ni y は b=0b=0 と同じ。
  5. V(xy)V(xy) は 命題3(3) から V(x)∪V(y)V(x)\cup V(y) で、V(x)V(x) は x,yx,y を入れ替えた同じ計算で {(x)}∪{(x, y−b)∣b∈k}\{(x)\}\cup\{(x,\ y-b)\mid b\in k\}。

原点 (x,y)(x,y) は V(x)V(x) にも V(y)V(y) にも入り、2本の軸の交点になっています。生成点 (x)(x) と (y)(y) は、どちらも相手の閉包には入りません。

ドラッグで回せます

床は閉点の全体です(kk が代数閉体なら、閉点 (x−a, y−b)(x-a,\ y-b) は k2k^2 の点 (a,b)(a,b) と1対1)。第1回の A2\mathbb{A}^2 と同じものが見えています。

高さ1に、既約な曲線の生成点を描いています。放物線の生成点 (y−x2)(y-x^2) は放物線の上の雲、直線の生成点 (y)(y) は直線の上の雲です。「真上」から見ると曲線と重なって見えなくなり、「真横」から見ると床とは別の段に分かれます。

高さ2の雲が、平面全体の生成点 (0)(0) です。段は3つで、これは素イデアルの鎖 (0)⊊(y−x2)⊊(x−1, y−1)(0)\subsetneq(y-x^2)\subsetneq(x-1,\ y-1) の長さ2に対応します。

放物線の生成点の閉包 V(y−x2)V(y-x^2) は、生成点そのものと、放物線上のすべての閉点です。矢印は代表としていくつかの閉点だけに引いています。

図2概念図Spec⁡k[x,y]\operatorname{Spec}k[x,y]。床が閉点の全体で、放物線 V(y−x2)V(y-x^2)(オレンジ)と直線 V(y)V(y)(緑)を描いています。高さ1の雲が曲線の生成点、高さ2の雲が平面の生成点です。床の上の位置は閉包の場所を、高さは閉包の次元を表します。「真上」から見ると、雲はそれぞれの閉包に重なり、第1回と同じ平面の図になります。「真横」から見ると、点が3段に分かれます。

図2の段の数は、素イデアルの鎖の長さと関係しています。例えば次の2本の鎖があります。

(0)⊊(y−x2)⊊(x−1, y−1),(0)⊊(y)⊊(x, y).\begin{aligned} &(0)\subsetneq(y-x^2)\subsetneq(x-1,\ y-1), \\ &(0)\subsetneq(y)\subsetneq(x,\ y). \end{aligned}

実は、素イデアルは最大で3つまでしか真に増える列に並べられません。高さ0の閉点、高さ1の曲線の生成点、高さ2の平面の生成点という3段は、この鎖の各段に当たります。

素イデアルの鎖の長さの最大値(ここでは2)を、環のクルル次元と呼びます。最大値が2であることは、次元を扱う先の回で証明します。

重なった点:Spec⁡k[x]/(x2)\operatorname{Spec}k[x]/(x^2)

次は、第1回の2つめの宿題「xx と x2x^2 の違い」です。

例14 Spec⁡k[x]/(x2)\operatorname{Spec}k[x]/(x^2)

Spec⁡k[x]/(x2)\operatorname{Spec}k[x]/(x^2) は1点 (x)(x) からなり、位相空間としては Spec⁡k\operatorname{Spec}k(1点)と同じである。しかし k[x]/(x2)k[x]/(x^2) では x≠0x\neq0、x2=0x^2=0 であり、関数 xx はただ1つの点で値0をとるのに、0ではない。

証明
  1. 対応定理により、k[x]/(x2)k[x]/(x^2) の素イデアルは、(x2)(x^2) を含む k[x]k[x] の素イデアルと1対1に対応する。
  2. (x2)(x^2) を含む素イデアルは xx を含むので、(x)(x) だけ。

    x⋅x∈Px\cdot x\in P なら、PP が素イデアルなので x∈Px\in P。k[x]k[x] で xx を含む素イデアルは (x)(x) だけ((x)(x) は極大で、P⊇(x)P\supseteq(x) なら P=(x)P=(x))。

  3. xx は (x2)(x^2) に入らないので k[x]/(x2)k[x]/(x^2) で x≠0x\neq0。点 (x)(x) での値は x∈(x)x\in(x) なので0。

ある nn で fn=0f^n=0 となる元 ff をべき零元と呼びます。

べき零元はどの素イデアルにも入るので、どの点でも値が0です。空間の点と値だけを見ていると、べき零元は0と区別できません。

k[x]/(x2)k[x]/(x^2) の元は a+bxa+bx と一通りに書けます。掛け算は x2=0x^2=0 として計算します。

(a+bx)(c+dx)=ac+(ad+bc)x+bd x2=ac+(ad+bc)x\begin{aligned} (a+bx)(c+dx) &= ac+(ad+bc)x+bd\,x^2 \\ &= ac+(ad+bc)x \end{aligned}

とくに a≠0a\neq0 なら a+bxa+bx は単元です。逆元は次のとおりです。

(a+bx)(a−1−a−2b x)=1+(a−1b−a−1b)x=1(a+bx)\big(a^{-1}-a^{-2}b\,x\big)=1+(a^{-1}b-a^{-1}b)x=1

単元でないのは a=0a=0 の元、つまりイデアル (x)(x) の元だけです。素イデアルが (x)(x) の1つしかないことと合っています。

多項式 ff の像は f(0)+f′(0)xf(0)+f'(0)x で、点での値 f(0)f(0) に加えて、微分 f′(0)f'(0) の情報も残しています。例えば f=x3+2x+1f=x^3+2x+1 なら

x3+2x+1=1+2x+x2⋅x≡1+2x(modx2)x^3+2x+1=1+2x+x^2\cdot x\equiv1+2x \pmod{x^2}

で、f(0)=1f(0)=1、f′(0)=2f'(0)=2 と一致します。

値をとる写像まで並べると、次のようになります。最初の矢印は x2x^2 で割った余り、次の矢印は xx で割った余りです。

k[x]⟶k[x]/(x2)⟶k[x]/(x)≅kf⟼f(0)+f′(0) x⟼f(0)\begin{array}{ccccc} k[x] & \longrightarrow & k[x]/(x^2) & \longrightarrow & k[x]/(x)\cong k \\ f & \longmapsto & f(0)+f'(0)\,x & \longmapsto & f(0) \end{array}

Spec⁡\operatorname{Spec} で見ると、真ん中と右はどちらも1点です。違いは真ん中の環にだけある f′(0)f'(0) の部分で、これは点の値には現れません。

Spec⁡k[x]/(x2)\operatorname{Spec}k[x]/(x^2) は、「1点と、そこから出る無限に短い向き」をもった点だと考えられます。

この点は、平面の中で2つの曲線が接するところに現れます。放物線 y=x2y=x^2 と直線 y=0y=0(図2のオレンジと緑)は原点で接しています。2つの曲線の交わりを表す環を計算すると

(y−x2, y)=(x2, y)(x2=y−(y−x2)),k[x,y]/(x2, y)≅k[x]/(x2)(y↦0)\begin{aligned} (y-x^2,\ y) &= (x^2,\ y) \qquad\big(x^2=y-(y-x^2)\big), \\ k[x,y]/(x^2,\ y) &\cong k[x]/(x^2) \qquad(y\mapsto0) \end{aligned}

となります。

一方、(x2,y)=(x,y)\sqrt{(x^2,y)}=(x,y) なので、閉集合としては V(y−x2, y)=V(x,y)V(y-x^2,\ y)=V(x,y) で、ただの1点です。接している交点は、空間としては1点でも、環としては「2点分」の重さをもっています。

このことを、直線を動かして確かめます。

命題15 [2, 命題1.10, p.10]

kk を標数が2でない代数閉体、c∈kc\in k とする。

(1) k[x,y]/(y−x2, y−c)≅k[x]/(x2−c)k[x,y]/(y-x^2,\ y-c)\cong k[x]/(x^2-c) で、これは 1,x1,x を基底とする2次元の kk ベクトル空間である。
(2) c≠0c\neq0 なら、s2=cs^2=c となる s∈ks\in k について k[x]/(x2−c)≅k×kk[x]/(x^2-c)\cong k\times k で、Spec⁡\operatorname{Spec} は2点 (x−s)(x-s)、(x+s)(x+s) からなる。
(3) c=0c=0 なら、Spec⁡k[x]/(x2)\operatorname{Spec}k[x]/(x^2) は1点で、xx は0でないべき零元である。

証明
  1. (1) y↦x2y\mapsto x^2 で k[x,y]/(y−x2)≅k[x]k[x,y]/(y-x^2)\cong k[x] となり、y−cy-c は x2−cx^2-c に移る。よって k[x]/(x2−c)k[x]/(x^2-c) と同型。
  2. x2−cx^2-c はモニックな2次式なので、どの多項式も x2−cx^2-c で割った余り a+bxa+bx とただ一通りに合同である。よって 1,x1,x が基底。
  3. (2) s≠0s\neq0 かつ標数が2でないので s≠−ss\neq-s。(x−s)(x-s) と (x+s)(x+s) は互いに素で、中国剰余定理から k[x]/(x2−c)≅k×kk[x]/(x^2-c)\cong k\times k。

    (x+s)−(x−s)=2s(x+s)-(x-s)=2s は0でない定数(単元)なので、(x−s)+(x+s)=k[x](x-s)+(x+s)=k[x]。このとき (x−s)(x+s)=(x−s)∩(x+s)(x-s)(x+s)=(x-s)\cap(x+s) で、中国剰余定理から

    k[x]/(x2−c)≅k[x]/(x−s)×k[x]/(x+s)≅k×k.k[x]/(x^2-c)\cong k[x]/(x-s)\times k[x]/(x+s)\cong k\times k.
  4. (x2−c)=(x−s)(x+s)(x^2-c)=(x-s)(x+s) を含む素イデアルは、x−sx-s か x+sx+s を含む。どちらも極大イデアルを生成するので、点は (x−s)(x-s)、(x+s)(x+s) の2つ。
  5. (3) は 例14 そのもの。

(2) の同型は、2つの点での値を並べる写像です。

k[x]/(x2−c)→ ∼ k×kf⟼(f(s), f(−s))\begin{array}{ccc} k[x]/(x^2-c) & \xrightarrow{\ \sim\ } & k\times k \\ f & \longmapsto & \big(f(s),\ f(-s)\big) \end{array}

c=4c=4、s=2s=2 で具体的に見ます。xx は (2,−2)(2,-2) に移り、元

e=x+24e=\frac{x+2}{4}

は (e(2), e(−2))=(1,0)(e(2),\ e(-2))=(1,0) に移ります。つまり ee は「点 (x−2)(x-2) で1、点 (x+2)(x+2) で0」の関数です。

実際、x2=4x^2=4 を使って e2e^2 を計算すると、e2=ee^2=e になります。

e2=x2+4x+416=4+4x+416=x+24=ee^2=\frac{x^2+4x+4}{16}=\frac{4+4x+4}{16}=\frac{x+2}{4}=e

ここで 44 で割れるのは、標数が2でないからです。同じように 1−e=(2−x)/41-e=(2-x)/4 は (0,1)(0,1) に移り、k[x]/(x2−4)k[x]/(x^2-4) は ee と 1−e1-e で2つの kk に分かれます。

c=0c=0 ではこうはなりません。k[x]/(x2)k[x]/(x^2) で e2=ee^2=e をみたす元は 00 と 11 だけです。

e=a+bxe=a+bx とおくと、e2=a2+2abxe^2=a^2+2abx なので、a2=aa^2=a と 2ab=b2ab=b が条件です。a=0a=0 なら b=0b=0、a=1a=1 なら 2b=b2b=b から b=0b=0 となります。

c≠0c\neq0 では2点、c=0c=0 では1点になります。それでも環の次元はいつも2です。

c→0c\to0 のとき2点が近づいてぶつかり、ぶつかった後の1点が k[x]/(x2)k[x]/(x^2) という「2点分の重さ」を残している、と見ることができます。

ドラッグで回せます

x2=1x^2=1 の解は x=±1x=\pm1 の2点です。環は k[x]/(x2−1)≅k×kk[x]/(x^2-1)\cong k\times k。

cc を小さくすると、2点 ±c\pm\sqrt c が近づきます。

c=0c=0 で2点がぶつかり、1点 x=0x=0 になります。環 k[x]/(x2)k[x]/(x^2) は kk 上2次元のままで、この点は「2点分の重さ」をもちます。

c<0c<0 では解 ±i∣c∣\pm i\sqrt{|c|} が虚軸の方向に出ます。「正面」から見ると2点は cc 軸の上で重なり、実数の解しか見えない図では「点がなくなった」ように見えます。回すと、2点は消えずに向きを変えただけだと分かります。

図3具体例x2=cx^2=c の解を、k=Ck=\mathbb{C} として、横の2軸に xx の実部と虚部、縦軸に実数 cc をとって描いた図です。x2=cx^2=c が実数になるのは、xx が実数(オレンジ、c=x2≥0c=x^2\geq0)か純虚数(紫、c≤0c\leq0)のときです。水平な板が cc の値を表し、板と曲線の交わりが解です。c=0c=0 で2点が1点にぶつかります。「正面」から見ると虚部が見えなくなり、c<0c<0 の2つの解は cc 軸の上で重なって見えます。

図3の c<0c<0 の段階は、第1回の「図は実数点だけを描いている」という注意の具体例にもなっています。実数の解だけを見ると、cc が0を通るとき2点が1点になって消えるように見えます。複素数で見ると、2点は消えずに向きを変えているだけです。

この記事の立場では、cc がどんな値でも、交わりは「2点分」あります。

ハーツホーンは同じ現象を、次元を1つ上げて見ています。放物線 ay=x2ay=x^2 の族で a→0a\to0 とすると、極限は被約でない「2重の直線」x2=0x^2=0 になります[1, 例3.3.1, p.123]。

整数と多項式を合わせる:Spec⁡Z[x]\operatorname{Spec}\mathbb{Z}[x]

Z\mathbb{Z} と k[x]k[x] が同じ形の空間になったので、両方を合わせた Z[x]\mathbb{Z}[x] は、平面 Spec⁡k[x,y]\operatorname{Spec}k[x,y] に似た2次元の空間になると予想できます。アティヤ・マクドナルドの演習問題は、Spec⁡Z[x]\operatorname{Spec}\mathbb{Z}[x] の図を描くよう求めています[2, 演習問題1.16, p.19]。

例16 Spec⁡Z[x]\operatorname{Spec}\mathbb{Z}[x]

Spec⁡Z[x]\operatorname{Spec}\mathbb{Z}[x] の点は、次の4種類である。

  • (0)(0):全体の生成点。
  • (p)(p)(pp は素数):閉集合 V(p)V(p) の生成点。
  • (f)(f)(ff は Z[x]\mathbb{Z}[x] の既約多項式で、次数が1以上):曲線 V(f)V(f) の生成点。
  • (p, f)(p,\ f)(pp は素数、ff は pp で割った余りの多項式 fˉ∈Fp[x]\bar f\in\mathbb{F}_p[x] が既約になる多項式):閉点。剰余体は有限体 Fp[x]/(fˉ)\mathbb{F}_p[x]/(\bar f)。
証明
  1. PP を素イデアルとする。P∩ZP\cap\mathbb{Z} は Z\mathbb{Z} の素イデアルなので、(p)(p) か (0)(0)。
  2. P∩Z=(p)P\cap\mathbb{Z}=(p) のとき、PP は Z[x]/(p)≅Fp[x]\mathbb{Z}[x]/(p)\cong\mathbb{F}_p[x] の素イデアルに対応し、それは (0)(0) か (fˉ)(\bar f)(fˉ\bar f は既約)。よって P=(p)P=(p) か (p, f)(p,\ f)。

    対応定理により、pp を含む Z[x]\mathbb{Z}[x] の素イデアルは、Fp[x]\mathbb{F}_p[x] の素イデアルと1対1に対応する。Fp[x]\mathbb{F}_p[x] は単項イデアル整域なので、素イデアルは (0)(0) と、既約多項式が生成するイデアル。

    Z[x]/(p,f)≅Fp[x]/(fˉ)\mathbb{Z}[x]/(p,f)\cong\mathbb{F}_p[x]/(\bar f) は体なので、(p,f)(p,f) は極大イデアル。

  3. P∩Z=0P\cap\mathbb{Z}=0 で P≠0P\neq0 のとき、PP の0でない元のうち次数が最小のものから、既約多項式 ff で P=(f)P=(f) となるものが取れる。
    1. 次数最小の f0∈P∖{0}f_0\in P\setminus\{0\} を取り、係数の最大公約数 cc で割って f0=cff_0=cf とする。c∈Z∖{0}c\in\mathbb{Z}\setminus\{0\} は PP に入らないので f∈Pf\in P。
    2. ff の次数は1以上。次数0なら f=±1f=\pm1 となり、P=Z[x]P=\mathbb{Z}[x] になってしまう。
    3. g∈Pg\in P を任意に取る。Q[x]\mathbb{Q}[x] で gg を ff で割り、分母を払うと dg=qf+rdg=qf+r(d∈Z∖{0}d\in\mathbb{Z}\setminus\{0\}、q,r∈Z[x]q,r\in\mathbb{Z}[x]、deg⁡r<deg⁡f\deg r<\deg f)。
    4. r=dg−qf∈Pr=dg-qf\in P で次数が ff より小さいので、r=0r=0。よって ff は dgdg を割り切る。
    5. ガウスの補題より、係数が互いに素な ff は gg を割り切る。よって P=(f)P=(f)。

      ff の係数の最大公約数は1なので、f∣dgf\mid dg から f∣gf\mid g が従う。

      ff は既約でもある。f=f1f2f=f_1f_2 と分解できたとすると、PP が素イデアルなので f1f_1 か f2f_2 が PP に入るが、次数の最小性から、その因子の次数は ff と同じ。係数の最大公約数が1なので、残りの因子は ±1\pm1。

  4. 逆に、上の4種類はどれも素イデアルである。(p)(p) は Z[x]/(p)≅Fp[x]\mathbb{Z}[x]/(p)\cong\mathbb{F}_p[x] が整域だから、(f)(f) は Z[x]\mathbb{Z}[x] が一意分解整域だから(ガウスの補題)、(p,f)(p,f) は剰余環が体だから。
  5. 閉点は (p, f)(p,\ f) の形のものだけ。(0)⊊(p)⊊(p, x)(0)\subsetneq(p)\subsetneq(p,\ x) で、(f)(f) も、ff の最高次係数を割り切らない素数 pp と fˉ\bar f の既約因子 gg を使った (p, g)(p,\ g) に真に含まれる。

4種類の点の例と、その剰余体を並べます。

PA/Pκ(P)(0)Z[x]Q(x)(3)F3[x]F3(x)(x−2)ZQ(x2+1)Z[i]Q(i)(5, x−2)F5F5(3, x2+1)F9F9\begin{array}{c|c|c} P & A/P & \kappa(P) \\ \hline (0) & \mathbb{Z}[x] & \mathbb{Q}(x) \\ (3) & \mathbb{F}_3[x] & \mathbb{F}_3(x) \\ (x-2) & \mathbb{Z} & \mathbb{Q} \\ (x^2+1) & \mathbb{Z}[i] & \mathbb{Q}(i) \\ (5,\ x-2) & \mathbb{F}_5 & \mathbb{F}_5 \\ (3,\ x^2+1) & \mathbb{F}_9 & \mathbb{F}_9 \end{array}

Z[x]/(x−2)≅Z\mathbb{Z}[x]/(x-2)\cong\mathbb{Z} は x↦2x\mapsto2、Z[x]/(x2+1)≅Z[i]\mathbb{Z}[x]/(x^2+1)\cong\mathbb{Z}[i] は x↦ix\mapsto i で与えられます。F9=F3[x]/(x2+1)\mathbb{F}_9=\mathbb{F}_3[x]/(x^2+1) は元が9個の体です。

例17 Spec⁡Z[x]\operatorname{Spec}\mathbb{Z}[x] の点での値

f=x2+1∈Z[x]f=x^2+1\in\mathbb{Z}[x] の値は、点の種類ごとに次のようになる。

f((7, x−3))=32+1=10=3∈F7,f((5, x−2))=22+1=5=0∈F5,f((x−2))=22+1=5∈Q,f((3))=x2+1≠0∈F3(x),f((3, x2+1))=f((x2+1))=0.\begin{aligned} f\big((7,\ x-3)\big) &= 3^2+1=10=3\in\mathbb{F}_7, \\ f\big((5,\ x-2)\big) &= 2^2+1=5=0\in\mathbb{F}_5, \\ f\big((x-2)\big) &= 2^2+1=5\in\mathbb{Q}, \\ f\big((3)\big) &= x^2+1\neq0\in\mathbb{F}_3(x), \\ f\big((3,\ x^2+1)\big) &= f\big((x^2+1)\big)=0. \end{aligned}

とくに、閉点 (5, x−2)(5,\ x-2) は V(f)V(f) に入り、閉点 (7, x−3)(7,\ x-3) は入らない。点 (x−2)(x-2) の値は整数 55 で、それを 55 で割った余りが閉点 (5, x−2)(5,\ x-2) での値 00 になっている。

最後の文は、点 (5, x−2)(5,\ x-2) が点 (x−2)(x-2) の閉包に入っていることの表れです。(x−2)⊆(5, x−2)(x-2)\subseteq(5,\ x-2) なので、値をとる写像は次のように2段に分かれます。

Z[x]⟶Z[x]/(x−2)≅Z⟶Z/(5)=F5x2+1⟼5⟼0\begin{array}{ccccc} \mathbb{Z}[x] & \longrightarrow & \mathbb{Z}[x]/(x-2)\cong\mathbb{Z} & \longrightarrow & \mathbb{Z}/(5)=\mathbb{F}_5 \\ x^2+1 & \longmapsto & 5 & \longmapsto & 0 \end{array}

閉集合 V(p)V(p) の点は、pp を含む素イデアル、つまり Fp[x]\mathbb{F}_p[x] の素イデアルです。V(p)V(p) は1次元の空間 Spec⁡Fp[x]\operatorname{Spec}\mathbb{F}_p[x] と同じ形をしていて、射影 Spec⁡Z[x]→Spec⁡Z\operatorname{Spec}\mathbb{Z}[x]\to\operatorname{Spec}\mathbb{Z} の、点 (p)(p) の上のファイバーになっています。

ここで射影とは、Z[x]\mathbb{Z}[x] の素イデアル PP に、Z\mathbb{Z} の素イデアル P∩ZP\cap\mathbb{Z} を対応させる写像です。4種類の点は次のように移ります。

(0), (f)⟼(0),(p), (p, f)⟼(p).\begin{array}{rcl} (0),\ (f) & \longmapsto & (0), \\ (p),\ (p,\ f) & \longmapsto & (p). \end{array}

点 (p)(p) の上のファイバーは V(p)V(p) で、閉集合です。一方、生成点 (0)(0) の上のファイバーは {(0)}∪{(f)}\{(0)\}\cup\{(f)\} で、閉集合ではありません。このファイバーの点は Q[x]\mathbb{Q}[x] の素イデアル (0)(0)、(f)(f) と1対1に対応します。

環の側では、次の図式が可換です。横の矢印は Z\mathbb{Z} から Q\mathbb{Q} への埋め込みと、pp で割った余りをとる写像です。

Q←Z→Fp↓↓↓Q[x]←Z[x]→Fp[x]\begin{CD} \mathbb{Q} @<<< \mathbb{Z} @>>> \mathbb{F}_p \\ @VVV @VVV @VVV \\ \mathbb{Q}[x] @<<< \mathbb{Z}[x] @>>> \mathbb{F}_p[x] \end{CD}

図式は、係数を Z\mathbb{Z} から Fp\mathbb{F}_p や Q\mathbb{Q} に取り替える操作を表しています。右の正方形は「Z[x]\mathbb{Z}[x] を pp で割ると Fp[x]\mathbb{F}_p[x]」(Z[x]/(p)≅Fp[x]\mathbb{Z}[x]/(p)\cong\mathbb{F}_p[x])、左の正方形は「分母を許すと Q[x]\mathbb{Q}[x]」に当たり、それぞれ点 (p)(p) の上と生成点の上のファイバーの環です。

ハーツホーンは、Spec⁡Z\operatorname{Spec}\mathbb{Z} の上の族を、生成点 (0)(0) の上では Q\mathbb{Q} 上の空間、閉点 (p)(p) の上では Fp\mathbb{F}_p 上の空間を与えるもの(pp を法とした還元)として紹介しています[1, p.122]。

一方、V(f)V(f) は、ファイバーを横切る「横向きの曲線」です。ff の最高次係数を割り切らない素数 pp では、fˉ\bar f の次数が1以上なので、V(f)V(f) はファイバー V(p)V(p) と必ず交わります。最高次係数を割り切る pp では交わらないことがあり、例えば f=2x−1f=2x-1 では

1=x⋅2−(2x−1)∈(2, 2x−1),V(2x−1)∩V(2)=V(2, 2x−1)=∅\begin{aligned} &1=x\cdot2-(2x-1)\in(2,\ 2x-1), \\ &V(2x-1)\cap V(2)=V(2,\ 2x-1)=\varnothing \end{aligned}

です。F2[x]\mathbb{F}_2[x] で 2x−12x-1 は単元 11 になってしまうからです。

代表として f=x2+1f=x^2+1 を見ます。V(x2+1)V(x^2+1) とファイバー V(p)V(p) の交わりの点は、Fp[x]\mathbb{F}_p[x] で x2+1x^2+1 を割り切る既約多項式に対応します。

例18 x2+1x^2+1 を素数で割る

V(x2+1)∩V(p)V(x^2+1)\cap V(p) の点は次のとおりである。

  • p=2p=2:x2+1=(x+1)2x^2+1=(x+1)^2 なので1点 (2, x+1)(2,\ x+1)。環 F2[x]/(x2+1)=F2[x]/((x+1)2)\mathbb{F}_2[x]/(x^2+1)=\mathbb{F}_2[x]/\big((x+1)^2\big) には0でないべき零元 x+1x+1 がある。
  • p=3,7,11p=3,7,11:x2+1x^2+1 は Fp\mathbb{F}_p に根をもたず既約なので、1点 (p, x2+1)(p,\ x^2+1)。剰余体は元が p2p^2 個の有限体。
  • p=5p=5:x2+1=(x−2)(x+2)x^2+1=(x-2)(x+2) なので2点 (5, x−2)(5,\ x-2)、(5, x+2)(5,\ x+2)。p=13p=13:x2+1=(x−5)(x+5)x^2+1=(x-5)(x+5) なので2点。
証明
  1. Fp\mathbb{F}_p の元を全部代入して根を調べる。2次式は、根をもたなければ既約で、根 aa をもてば (x−a)(x+a)(x-a)(x+a) と分解する。

    例えば p=3p=3 では 02+1=10^2+1=1、12+1=21^2+1=2、22+1=5≡22^2+1=5\equiv2 で、根がない。p=5p=5 では 22+1=5≡02^2+1=5\equiv0、p=13p=13 では 52+1=26≡05^2+1=26\equiv0。p=2p=2 では 12+1≡01^2+1\equiv0 で、(x+1)2=x2+2x+1≡x2+1(x+1)^2=x^2+2x+1\equiv x^2+1。

    図4を作るプログラムも、同じ計算を全部の素数について確かめている。

命題3(2) から、交わりは V(x2+1)∩V(p)=V(p, x2+1)V(x^2+1)\cap V(p)=V(p,\ x^2+1) です。対応定理により、交わりの点は Z[x]/(p, x2+1)≅Fp[x]/(x2+1)\mathbb{Z}[x]/(p,\ x^2+1)\cong\mathbb{F}_p[x]/(x^2+1) の素イデアルと1対1に対応します。

素数を増やしても、同じ計算で分かれ方が決まります。根 aa の確かめ方は a2+1≡0(modp)a^2+1\equiv0\pmod p です。

pa2+1x2+1 mod p1742+1=17(x−4)(x+4)29122+1=5⋅29(x−12)(x+12)3762+1=37(x−6)(x+6)\begin{array}{c|c|c} p & a^2+1 & x^2+1 \bmod p \\ \hline 17 & 4^2+1=17 & (x-4)(x+4) \\ 29 & 12^2+1=5\cdot29 & (x-12)(x+12) \\ 37 & 6^2+1=37 & (x-6)(x+6) \end{array}

一方、p=19,23,31p=19,23,31 では Fp\mathbb{F}_p のどの元を入れても a2+1a^2+1 が0にならず、x2+1x^2+1 は既約です。2点に分かれる素数 5,13,17,29,375,13,17,29,37 はどれも4で割って1余り、1点のままの 3,7,11,19,23,313,7,11,19,23,31 はどれも4で割って3余ります。

剰余体が2次になる点の例として、p=3p=3 の点 (3, x2+1)(3,\ x^2+1) の剰余体 F3[x]/(x2+1)\mathbb{F}_3[x]/(x^2+1) を見ます。元は a+bxa+bx(a,b∈F3a,b\in\mathbb{F}_3)の9個で、x2=−1x^2=-1 として計算します。例えば

(1+x)2=1+2x+x2=2x,(1+x)(2+x)=2+3x+x2=1\begin{aligned} (1+x)^2 &= 1+2x+x^2=2x, \\ (1+x)(2+x) &= 2+3x+x^2=1 \end{aligned}

で、1+x1+x の逆元は 2+x2+x です。複素数で i2=−1i^2=-1 として計算するのと同じ形です。

どの pp でも、Fp[x]/(x2+1)\mathbb{F}_p[x]/(x^2+1) は Fp\mathbb{F}_p 上2次元です。図3の x2=cx^2=c と同じで、「2点」「重なった1点」「1点だが剰余体が2次」のどれかになります。p=2p=2 の点は、c=0c=0 の重なった点と同じ形です。

ドラッグで回せます

縦の線が、素数 pp の上のファイバー V(p)≅Spec⁡Fp[x]V(p)\cong\operatorname{Spec}\mathbb{F}_p[x] です。縦の位置が aa の黒い点が閉点 (p, x−a)(p,\ x-a) で、aa は pp で割った余りを −p/2-p/2 から p/2p/2 の範囲で表しています。緑の横線 V(x)V(x) は、各ファイバーの a=0a=0 の点を通ります。

各ファイバー V(p)V(p) の生成点 (p)(p) は、縦の線の上の雲です。

曲線 V(x2+1)V(x^2+1) は、p≡1(mod4)p\equiv1\pmod 4 のファイバーでは2つの閉点を、p≡3(mod4)p\equiv3\pmod 4 のファイバーでは1つの2次の点(剰余体が Fp2\mathbb{F}_{p^2}、上端の紫)を通ります。p=2p=2 では x2+1=(x+1)2x^2+1=(x+1)^2 なので2本の枝が1点で接し、図3の c=0c=0 と同じ「重なった点」になります。曲線の生成点 (x2+1)(x^2+1) が高さ1の雲です。点を結ぶ線の形には意味がありません。

高さ2の雲が (0)(0) です。Spec⁡Z[x]\operatorname{Spec}\mathbb{Z}[x] も、Spec⁡k[x,y]\operatorname{Spec}k[x,y](図2)と同じく3段に分かれます。

図4概念図Spec⁡Z[x]\operatorname{Spec}\mathbb{Z}[x]。横に素数 pp を並べ、各 pp の上の縦の線がファイバー V(p)V(p) です。黒い点は閉点 (p, x−a)(p,\ x-a) で、縦の線の上の位置が余り aa を表します。紫の点は2次の閉点 (p, x2+1)(p,\ x^2+1) です。オレンジの線が曲線 V(x2+1)V(x^2+1) で、通る閉点だけに意味があり、点と点を結ぶ線の形には意味がありません。図2と同じく、閉包が1次元の点を高さ1に、全体の生成点を高さ2に描いています。「真上」から見ると、マンフォードの有名な図と同じ配置になります。

別の横向きの曲線でも、同じことが起こります。

例19 x2+x+1x^2+x+1 を素数で割る

Spec⁡Z[x]\operatorname{Spec}\mathbb{Z}[x] の曲線 V(x2+x+1)V(x^2+x+1) とファイバー V(p)V(p) の交わりの点は次のとおりである。

  • p=3p=3:x2+x+1≡(x−1)2x^2+x+1\equiv(x-1)^2 なので1点 (3, x−1)(3,\ x-1) で、重なった点になる。
  • p=7p=7:x2+x+1≡(x−2)(x−4)x^2+x+1\equiv(x-2)(x-4) なので2点。p=13p=13:(x−3)(x−9)(x-3)(x-9)、p=19p=19:(x−7)(x−11)(x-7)(x-11) でどちらも2点。
  • p=2,5,11,17p=2,5,11,17:Fp\mathbb{F}_p に根がなく既約なので、剰余体が2次の1点 (p, x2+x+1)(p,\ x^2+x+1)。
証明
  1. p=3p=3:(x−1)2=x2−2x+1(x-1)^2=x^2-2x+1 で、−2≡1(mod3)-2\equiv1\pmod3 なので x2+x+1x^2+x+1 に等しい。
  2. p=7,13,19p=7,13,19:根を代入して確かめる。

    22+2+1=72^2+2+1=7、42+4+1=21=3⋅74^2+4+1=21=3\cdot7。32+3+1=133^2+3+1=13、92+9+1=91=7⋅139^2+9+1=91=7\cdot13。72+7+1=57=3⋅197^2+7+1=57=3\cdot19、112+11+1=133=7⋅1911^2+11+1=133=7\cdot19。

    2つの根 a,ba,b があれば x2+x+1=(x−a)(x−b)x^2+x+1=(x-a)(x-b) で、実際 a+b≡−1a+b\equiv-1、ab≡1ab\equiv1 になっている(例えば p=7p=7 で 2+4=6≡−12+4=6\equiv-1、2⋅4=8≡12\cdot4=8\equiv1)。

  3. p=2,5,11,17p=2,5,11,17:Fp\mathbb{F}_p の元をすべて代入しても0にならない。2次式は根がなければ既約である。

    例えば p=5p=5 では、a=0,1,2,3,4a=0,1,2,3,4 に対して a2+a+1=1,3,7,13,21a^2+a+1=1,3,7,13,21 で、5で割った余りは 1,3,2,3,11,3,2,3,1。p=2p=2 では 11 と 1+1+1≡11+1+1\equiv1。

今度は、2点に分かれる 7,13,197,13,19 が3で割って1余り、1点のままの 2,5,11,172,5,11,17 が3で割って2余ります。p≠3p\neq3 では、x2+x+1x^2+x+1 の根は a3=1a^3=1、a≠1a\neq1 をみたす元(1の原始3乗根)です。Fp×\mathbb{F}_p^\times は位数 p−1p-1 の巡回群なので、位数3の元があるのは 3∣p−13\mid p-1、つまり p≡1(mod3)p\equiv1\pmod3 のときです。

Z[x]/(x2+x+1)\mathbb{Z}[x]/(x^2+x+1) は、ω=(−1+−3)/2\omega=(-1+\sqrt{-3})/2 を添加した環 Z[ω]\mathbb{Z}[\omega] です。x2+1x^2+1 では p=2p=2 で接し、x2+x+1x^2+x+1 では p=3p=3 で接します。

専門的な話どの素数で2点に分かれるか

奇素数 pp について、x2+1x^2+1 が Fp\mathbb{F}_p に根をもつのは p≡1(mod4)p\equiv1\pmod 4 のときで、そのときに限ります(平方剰余の第1補充法則)。よって V(x2+1)V(x^2+1) は、p≡1(mod4)p\equiv1\pmod4 のファイバーで2点、p≡3(mod4)p\equiv3\pmod4 のファイバーで2次の1点を通り、p=2p=2 で接します。

Z[x]/(x2+1)\mathbb{Z}[x]/(x^2+1) はガウス整数の環 Z[i]\mathbb{Z}[i] なので、V(x2+1)V(x^2+1) は Spec⁡Z[i]\operatorname{Spec}\mathbb{Z}[i] と同じものです。

整数論では、素数 pp が Z[i]\mathbb{Z}[i] で2つの素元の積に分かれることを「分解する」、素元のままであることを「惰性的」、重なった因子が出ることを「分岐する」と呼びます。図4は、これを Spec⁡Z\operatorname{Spec}\mathbb{Z} の上の曲線の形として見せています。

まとめ:点の種類の表

この記事の例を表にまとめます。「段」は、図で点を浮かべた高さの種類の数(素イデアルの鎖の長さに1を足したもの)です。

Spec⁡A\operatorname{Spec}A閉点閉点でない点段
Spec⁡Z\operatorname{Spec}\mathbb{Z}(p)(p)(0)(0)2
Spec⁡k[x]\operatorname{Spec}k[x](x−a)(x-a)(0)(0)2
Spec⁡Z(5)\operatorname{Spec}\mathbb{Z}_{(5)}(5)(5)(0)(0)(開集合)2
Spec⁡k[x,y]\operatorname{Spec}k[x,y](x−a, y−b)(x-a,\ y-b)(g)(g)、(0)(0)3
Spec⁡k[x]/(x2)\operatorname{Spec}k[x]/(x^2)(x)(x)なし(環にはべき零元 xx がある)1
Spec⁡Z[x]\operatorname{Spec}\mathbb{Z}[x](p, f)(p,\ f)(p)(p)、(f)(f)、(0)(0)3

第1回の辞書の言葉で言い直すと、「既約な閉集合」と「点」が同じものになりました。点 PP の閉包が V(P)V(P) で、包含が逆向きになることも第1回と同じです。

この記事の対応を式でまとめると、次のようになります。

P∈Spec⁡A⟼{P}‾=V(P)P⊆Q  ⟺  V(P)⊇V(Q)f(P)=0  ⟺  f∈P\begin{array}{ccc} P\in\operatorname{Spec}A & \longmapsto & \overline{\{P\}}=V(P) \\ P\subseteq Q & \iff & V(P)\supseteq V(Q) \\ f(P)=0 & \iff & f\in P \end{array}

1行目が 命題6(1)(と 定理8)、2行目が 命題6(2)、3行目が値の定義から出る関係です。

次回:点のまわりの関数

この記事の Spec は、まだ位相空間にすぎません。Spec⁡k\operatorname{Spec}k と Spec⁡k[x]/(x2)\operatorname{Spec}k[x]/(x^2) は、位相空間としては区別できませんでした。違いは環の側、つまり「その空間の上の関数」にあります。

次回は、開集合ごとに関数の集まりを決める前層と層を定義し、点のまわりの関数の集まりである茎と、その元である芽を図で見ます。点 (5)(5) での Spec⁡Z\operatorname{Spec}\mathbb{Z} の茎は、この記事の環 Z(5)\mathbb{Z}_{(5)} になります[1, 命題2.2, p.97]。

参考文献

  1. R. ハーツホーン(高橋宣能・松下大介 訳), 『代数幾何学 1』, 丸善出版, 2013.
  2. M. F. アティヤ, I. G. マクドナルド(新妻弘 訳), 『可換代数入門』, 共立出版, 2006.
  3. 後藤四郎, 渡辺敬一, 『可換環論』, 日本評論社, 2011.