この記事の要点
問題 正方形の中に n n n 個の点を置き、どの3点を選んでも三角形の面積がなるべく大きくなるようにします。いちばん小さい三角形の面積を、どこまで大きくできるでしょうか。この最大値を Δ ( n ) \Delta(n) Δ ( n ) と書きます。
これまで エルデシュの構成から Δ ( n ) \Delta(n) Δ ( n ) は 1 / n 2 1/n^2 1/ n 2 の定数倍以上です。ハイルブロンは Δ ( n ) \Delta(n) Δ ( n ) が 1 / n 2 1/n^2 1/ n 2 の定数倍以下だと予想しましたが、1982年にコムローシュ・ピンツ・セメレディが log n \log n log n 倍の差で否定しました。それでも「1 / n 2 1/n^2 1/ n 2 とほとんど同じ大きさだろう」と考える研究者は多くいました。
今回 OpenAIのモデルが書いた論文が、十分大きいすべての n n n で Δ ( n ) ≥ c 1 n − 2 + η \Delta(n)\ge c_1n^{-2+\eta} Δ ( n ) ≥ c 1 n − 2 + η となる定数 c 1 , η > 0 c_1,\eta>0 c 1 , η > 0 があることを示しました。log n \log n log n ではなく n n n のべきの差なので、「ほとんど同じ」という見方は成り立たなくなります。
ただし η \eta η の値は具体的に書けますが、約 3 × 10 − 236 3\times10^{-236} 3 × 1 0 − 236 ととても小さい数です。Δ ( n ) \Delta(n) Δ ( n ) の本当の大きさは、今も分かっていません。
確かさ 論文は査読前のプレプリントです。Leanでの形式化があり、リポジトリの照合の設定に載っています。ただし形式化されているのは、点の個数 n n n が限りなく大きくなる列についての形です。
定義・命題の下の「証明」は、開くとステップが並びます。もう少し詳しく は大学1〜2年程度の数学の補足、専門的な話 は論文の中身に踏み込む補足です。どちらも開かずに読み進められます。
正方形の中の「いちばん小さい三角形」
2026年10月6日、OpenAIは未公開の社内モデルが書いた数学の論文をGitHubのリポジトリ openai/math で公開しました[1 ] 。その191番が、この記事で読む「A power improvement in the Heilbronn triangle lower bound」です[2 ] 。
扱っているのは、ハイルブロンの三角形問題と呼ばれる離散幾何の問題です。正方形に点をばらまくと、そのうち3点が作る三角形の中には、とても小さいものが必ず混じります。点の置き方を工夫して、いちばん小さい三角形をどこまで大きくできるかを問います。
問題文は中学生でも分かりますが、答えの大きさは70年以上たっても決まっていません。この記事では、まず問題を定義し、上からの評価と下からの評価を証明つきで確かめます。そのうえで、これまでの予想のどれが否定されていて、今回は何が新しく示されたのかを整理します。
この論文は、10月7日付の修正・取り下げには含まれていません[3 ] 。リポジトリの更新は修正と取り下げの記録 にまとめています。
問題:三角形の最小面積を大きくする
平面の3点 p , q , r p,q,r p , q , r が作る三角形の面積は、2つのベクトル q − p q-p q − p と r − p r-p r − p を並べた行列式で書けます。
Area ( p q r ) = 1 2 ∣ det ( q − p , r − p ) ∣ = 1 2 ∣ ( q 1 − p 1 ) ( r 2 − p 2 ) − ( q 2 − p 2 ) ( r 1 − p 1 ) ∣ \begin{aligned} \operatorname{Area}(pqr)&=\frac12\left|\det(q-p,\ r-p)\right|\\ &=\frac12\left|(q_1-p_1)(r_2-p_2)\right.\\ &\qquad\left.-(q_2-p_2)(r_1-p_1)\right|\end{aligned} Area ( pq r ) = 2 1 ∣ det ( q − p , r − p ) ∣ = 2 1 ∣ ( q 1 − p 1 ) ( r 2 − p 2 ) − ( q 2 − p 2 ) ( r 1 − p 1 ) ∣
3点が一直線に並ぶと、この値は 0 0 0 です。
定義1 最小三角形の面積とハイルブロンの関数 [2 , §1]
単位正方形 [ 0 , 1 ] 2 [0,1]^2 [ 0 , 1 ] 2 の中の、3個以上の点からなる有限集合 P P P について、3つの異なる点が作る三角形の面積の最小値を Δ ( P ) \Delta(P) Δ ( P ) と書く。
Δ ( P ) = min { p , q , r } ⊆ P Area ( p q r ) \Delta(P)=\min_{\{p,q,r\}\subseteq P}\operatorname{Area}(pqr) Δ ( P ) = { p , q , r } ⊆ P min Area ( pq r ) Δ ( P ) = min { p , q , r } ⊆ P Area ( p q r ) \begin{aligned}\Delta(P) &= \min_{\{p,q,r\}\subseteq P}\operatorname{Area}(pqr)\end{aligned} Δ ( P ) = { p , q , r } ⊆ P min Area ( pq r )
n ≥ 3 n\ge3 n ≥ 3 について、n n n 点の集合 P ⊆ [ 0 , 1 ] 2 P\subseteq[0,1]^2 P ⊆ [ 0 , 1 ] 2 全体での Δ ( P ) \Delta(P) Δ ( P ) の最大値を Δ ( n ) \Delta(n) Δ ( n ) と書く。
Δ ( n ) = max P ⊆ [ 0 , 1 ] 2 , ∣ P ∣ = n Δ ( P ) \Delta(n)=\max_{P\subseteq[0,1]^2,\ |P|=n}\Delta(P) Δ ( n ) = P ⊆ [ 0 , 1 ] 2 , ∣ P ∣ = n max Δ ( P ) Δ ( n ) = max P ⊆ [ 0 , 1 ] 2 , ∣ P ∣ = n Δ ( P ) \begin{aligned}\Delta(n) &= \max_{P\subseteq[0,1]^2,\ |P|=n}\Delta(P)\end{aligned} Δ ( n ) = P ⊆ [ 0 , 1 ] 2 , ∣ P ∣ = n max Δ ( P )
Δ ( P ) \Delta(P) Δ ( P ) は「P P P の中でいちばん小さい三角形の面積」です。3点が一直線に並ぶ組が1つでもあれば Δ ( P ) = 0 \Delta(P)=0 Δ ( P ) = 0 になります。Δ ( n ) \Delta(n) Δ ( n ) は、n n n 点をうまく置いたときに、その最小面積をどこまで大きくできるかを表します。
最大値が存在することは、論文の序論で確かめられています[2 , §1] 。点の重なりを許して n n n 点の組を考えると、その全体は有界な閉集合です。組を動かすと最小面積は連続的に変わるので、この全体の中に最小面積が最大になる組があります。
重なる点を含む組では、その点を2回使う三角形の面積が 0 0 0 なので、最小面積は 0 0 0 です。一方、放物線の上の n n n 点のように最小面積が正になる配置があります。よって最大になる組は重なりのない n n n 点で、これが Δ ( n ) \Delta(n) Δ ( n ) を与えます。
例2 四隅の4点と格子の9点
正方形の四隅 ( 0 , 0 ) , ( 1 , 0 ) , ( 1 , 1 ) , ( 0 , 1 ) (0,0),(1,0),(1,1),(0,1) ( 0 , 0 ) , ( 1 , 0 ) , ( 1 , 1 ) , ( 0 , 1 ) から3点を選ぶと、どれも直角をはさむ2辺が 1 1 1 の直角三角形になる。面積はすべて 1 / 2 1/2 1/2 なので、Δ ( P ) = 1 / 2 \Delta(P)=1/2 Δ ( P ) = 1/2 である。
一方、3 × 3 3\times3 3 × 3 の格子点 { 1 / 6 , 1 / 2 , 5 / 6 } 2 \{1/6,1/2,5/6\}^2 { 1/6 , 1/2 , 5/6 } 2 では、横一列の3点が一直線に並ぶので Δ ( P ) = 0 \Delta(P)=0 Δ ( P ) = 0 である。
格子のように規則正しく並べると、一直線に並ぶ3点ができてしまいます。かといって点がかたまると、近くの3点で小さい三角形ができます。下の図で、点を動かして確かめてみてください。
エルデシュの7点 格子の9点 四隅の4点 ランダム10点
最後の点を消す 点の数 n = n= n = 7 いちばん小さい三角形の面積 0.01020 n 2 × n^2\times{} n 2 × 面積 0.500
図1 具体例 単位正方形の中の点と、そのうちいちばん小さい三角形(橙)です。点はドラッグで動かせます。正方形の空いているところを押すと点が増え、「最後の点を消す」で減ります。3点が一直線に並ぶと、赤い線で示します。「エルデシュの7点」は次の節で扱う配置で、n 2 × n^2\times{} n 2 × 面積はちょうど 0.5 0.5 0.5 です。
点を1つ動かして最小の三角形を大きくすると、たいてい別の三角形が小さくなります。点が増えるほどこの兼ね合いは厳しくなり、最小面積は小さくなっていきます。問題は、n n n を大きくしたときに Δ ( n ) \Delta(n) Δ ( n ) がどのくらいの速さで小さくなるかです。
上からの評価:どう置いても 1 / n 1/n 1/ n 程度まで
まず、どんなに工夫しても最小面積は 1 / n 1/n 1/ n 程度より大きくならないことを確かめます。使うのは鳩の巣原理 だけです。
命題3 自明な上界
n ≥ 3 n\ge3 n ≥ 3 なら Δ ( n ) ≤ 1 n − 2 \Delta(n)\le\dfrac{1}{n-2} Δ ( n ) ≤ n − 2 1 である。
証明 開く 閉じる すべて開く すべて閉じる
m = ⌊ ( n − 1 ) / 2 ⌋ m=\lfloor(n-1)/2\rfloor m = ⌊( n − 1 ) /2 ⌋ とおく。
n ≥ 3 n\ge3 n ≥ 3 なので
m ≥ 1 m\ge1 m ≥ 1 で、
n ≥ 2 m + 1 n\ge2m+1 n ≥ 2 m + 1 、
2 m ≥ n − 2 2m\ge n-2 2 m ≥ n − 2 が
成り立つ。 正方
形を幅 1 / m 1/m 1/ m の縦長の帯 m m m 本に分ける。n ≥ 2 m + 1 n\ge2m+1 n ≥ 2 m + 1 個の点を m m m 本の帯に入れるので、3点以上を含む帯がある(鳩の巣原理 )。 幅 w w w 、高さ 1 1 1 の長方形に入る三角形の面積は w / 2 w/2 w /2 以下である。詳しく 閉じる
3つの頂点のうち、x x x 座標が真ん中のものを通る縦の線を引く。この線は三角形を2つの三角形に分け、どちらも縦の線分(長さ ℓ \ell ℓ )を共通の辺にもつ。
線分は正方形の中にあるので ℓ ≤ 1 \ell\le1 ℓ ≤ 1 である。2つの三角形の高さ(横方向の距離)を h 1 , h 2 h_1,h_2 h 1 , h 2 とすると h 1 + h 2 ≤ w h_1+h_2\le w h 1 + h 2 ≤ w なので、面積の和は次のようになる。
ℓ h 1 2 + ℓ h 2 2 = ℓ ( h 1 + h 2 ) 2 ≤ w 2 \frac{\ell h_1}{2}+\frac{\ell h_2}{2}=\frac{\ell(h_1+h_2)}{2}\le\frac{w}{2} 2 ℓ h 1 + 2 ℓ h 2 = 2 ℓ ( h 1 + h 2 ) ≤ 2 w ℓ h 1 2 + ℓ h 2 2 = ℓ ( h 1 + h 2 ) 2 ≤ w 2 \begin{aligned}\frac{\ell h_1}{2}+\frac{\ell h_2}{2} &= \frac{\ell(h_1+h_2)}{2}\\&\le \frac{w}{2}\end{aligned} 2 ℓ h 1 + 2 ℓ h 2 = 2 ℓ ( h 1 + h 2 ) ≤ 2 w
3点を
含む帯の中の三角形の面積は 1 / ( 2 m ) 1/(2m) 1/ ( 2 m ) 以下なので、Δ ( P ) ≤ 1 / ( 2 m ) ≤ 1 / ( n − 2 ) \Delta(P)\le1/(2m)\le1/(n-2) Δ ( P ) ≤ 1/ ( 2 m ) ≤ 1/ ( n − 2 ) である。P P P は任意なので Δ ( n ) ≤ 1 / ( n − 2 ) \Delta(n)\le1/(n-2) Δ ( n ) ≤ 1/ ( n − 2 ) が従う。
たとえば n = 101 n=101 n = 101 なら m = 50 m=50 m = 50 で、どの101点の置き方にも面積 1 / 100 1/100 1/100 以下の三角形があります。
この評価は粗いものです。帯の中の3点がたまたま帯の幅いっぱいに広がっているとは限らないからです。この上界をどこまで下げられるかも、この問題で問われていることの一つです。
下からの評価:エルデシュの放物線
反対に、最小面積が大きい置き方を作れば、Δ ( n ) \Delta(n) Δ ( n ) を下から抑えられます。よく知られた構成は、素数 p p p で割った余りの世界の放物線を使います。
この構成はハイルブロンの問題を扱ったロスの1951年の論文の付録に、エルデシュによるものとして記録されています[2 , §1] [4 ] 。ザハロフの解説は「おそらくエルデシュによる」と書いています[5 , §1] 。
命題4 エルデシュの構成 [5 , §1]
p p p を奇素数とし、x = 0 , 1 , … , p − 1 x=0,1,\dots,p-1 x = 0 , 1 , … , p − 1 について x 2 x^2 x 2 を p p p で割った余りを x 2 m o d p x^2\bmod p x 2 mod p と書く。
P p = { ( x p , x 2 m o d p p ) : ( x 2 m o d p p ) x = 0 , 1 , … , p − 1 } \begin{aligned} P_p&=\left\{\left(\frac{x}{p},\ \frac{x^2\bmod p}{p}\right):\right.\\ &\qquad\left.\vphantom{\left(\frac{x^2\bmod p}{p}\right)}x=0,1,\dots,p-1\right\} \end{aligned} P p = { ( p x , p x 2 mod p ) : ( p x 2 mod p ) x = 0 , 1 , … , p − 1 }
は単位正方形の中の p p p 点で、Δ ( P p ) ≥ 1 2 p 2 \Delta(P_p)\ge\dfrac{1}{2p^2} Δ ( P p ) ≥ 2 p 2 1 をみたす。とくに Δ ( p ) ≥ 1 2 p 2 \Delta(p)\ge\dfrac{1}{2p^2} Δ ( p ) ≥ 2 p 2 1 である。
証明 開く 閉じる すべて開く すべて閉じる
p p p 倍した
点 ( x , y x ) (x,\ y_x) ( x , y x ) (y x = x 2 m o d p y_x=x^2\bmod p y x = x 2 mod p )で考える。面積は p 2 p^2 p 2 倍になるので、どの三角形も面積 1 / 2 1/2 1/2 以上であることを示せばよい。 3点 x = a , b , c x=a,b,c x = a , b , c (互いに異なる)の行列式 D = ( b − a ) ( y c − y a ) − ( y b − y a ) ( c − a ) D=(b-a)(y_c-y_a)-(y_b-y_a)(c-a) D = ( b − a ) ( y c − y a ) − ( y b − y a ) ( c − a ) は整数で、p p p で割ると ( b − a ) ( c − a ) ( c − b ) (b-a)(c-a)(c-b) ( b − a ) ( c − a ) ( c − b ) と同じ余りになる。詳しく 閉じる
y x ≡ x 2 ( m o d p ) y_x\equiv x^2\pmod p y x ≡ x 2 ( mod p ) なので、次の合同式が成り立つ。
D ≡ ( b − a ) ( c 2 − a 2 ) − ( b 2 − a 2 ) ( c − a ) = ( b − a ) ( c − a ) ( ( c + a ) − ( b + a ) ) = ( b − a ) ( c − a ) ( c − b ) ( m o d p ) \begin{aligned} D&\equiv(b-a)(c^2-a^2)\\ &\qquad-(b^2-a^2)(c-a)\\ &=(b-a)(c-a)\\ &\qquad\bigl((c+a)-(b+a)\bigr)\\ &=(b-a)(c-a)(c-b)\\ &\qquad\pmod p\end{aligned} D ≡ ( b − a ) ( c 2 − a 2 ) − ( b 2 − a 2 ) ( c − a ) = ( b − a ) ( c − a ) ( ( c + a ) − ( b + a ) ) = ( b − a ) ( c − a ) ( c − b ) ( mod p )
これは3次のヴァンデルモンドの行列式 と同じ式である。
a , b , c a,b,c a , b , c は
0 0 0 以上
p − 1 p-1 p − 1 以下の
異なる整数なので、b − a , c − a , c − b b-a,\ c-a,\ c-b b − a , c − a , c − b はどれも p p p の倍数でない。p p p は素数なので積も p p p の倍数でなく、D ≠ 0 D\ne0 D = 0 である。 D D D は
0 0 0 でない
整数なので ∣ D ∣ ≥ 1 |D|\ge1 ∣ D ∣ ≥ 1 で、三角形の面積 ∣ D ∣ / 2 |D|/2 ∣ D ∣/2 は 1 / 2 1/2 1/2 以上である。
証明の要点は、「行列式が整数」と「p p p で割った余りが 0 0 0 でない」の2つを組み合わせたことです。余りの世界では3点が一直線に並ばないので、行列式は 0 0 0 にならず、整数なので 1 1 1 以上になります。今回の論文も、この2つの組み合わせを大きく発展させた形になっています。
p = p= p = 11 :三角形は全部で 165 個。いちばん小さい面積は格子の目で 1 / 2 1/2 1/2 で、それが 6 個。単位正方形では 1 / ( 2 p 2 ) = 1 / 1/(2p^2)=1/ 1/ ( 2 p 2 ) = 1/ 242 = \,=\, = 0.00413
図2 具体例 命題4 の点を p × p p\times p p × p の格子に打った図です。点は見やすいようにマスの中央に置いています(平行移動しても面積は変わりません)。緑の線は放物線 y = x 2 y=x^2 y = x 2 を p p p ずつ下にずらして正方形に折り込んだもので、点はすべてこの線の上にあります。橙はいちばん小さい三角形です。p = 5 , … , 23 p=5,\dots,23 p = 5 , … , 23 のどれでも、いちばん小さい三角形の面積はマスの目でちょうど 1 / 2 1/2 1/2 です。
p p p が素数でない n n n についても、ベルトランの仮説 を使えば同じ程度の評価が得られます。n ≤ p ≤ 2 n n\le p\le2n n ≤ p ≤ 2 n となる素数 p p p をとり、P p P_p P p から n n n 点を選びます。点を減らしても最小面積は小さくならないので、次の評価が成り立ちます。
Δ ( n ) ≥ Δ ( P p ) ≥ 1 2 p 2 ≥ 1 8 n 2 \Delta(n)\ge\Delta(P_p)\ge\frac{1}{2p^2}\ge\frac{1}{8n^2} Δ ( n ) ≥ Δ ( P p ) ≥ 2 p 2 1 ≥ 8 n 2 1 Δ ( n ) ≥ Δ ( P p ) ≥ 1 2 p 2 ≥ 1 8 n 2 \begin{aligned}\Delta(n) &\ge \Delta(P_p)\\&\ge \frac{1}{2p^2}\\&\ge \frac{1}{8n^2}\end{aligned} Δ ( n ) ≥ Δ ( P p ) ≥ 2 p 2 1 ≥ 8 n 2 1
命題3 と合わせると、Δ ( n ) \Delta(n) Δ ( n ) は次の範囲にあります。
1 8 n 2 ≤ Δ ( n ) ≤ 1 n − 2 ( n ≥ 3 ) \frac{1}{8n^2}\le\Delta(n)\le\frac{1}{n-2}\qquad(n\ge3) 8 n 2 1 ≤ Δ ( n ) ≤ n − 2 1 ( n ≥ 3 ) 1 8 n 2 ≤ Δ ( n ) ≤ 1 n − 2 ( n ≥ 3 ) \begin{gathered}\frac{1}{8n^2}\le\Delta(n)\le\frac{1}{n-2}\\(n\ge3)\end{gathered} 8 n 2 1 ≤ Δ ( n ) ≤ n − 2 1 ( n ≥ 3 ) 1 8 n 2 ≤ Δ ( n ) ≤ 1 n − 2 ( n ≥ 3 ) \begin{aligned}\frac{1}{8n^2} &\le \Delta(n)\\&\le \frac{1}{n-2}\\[4pt]&(n\ge3)\end{aligned} 8 n 2 1 ≤ Δ ( n ) ≤ n − 2 1 ( n ≥ 3 )
1 / n 2 1/n^2 1/ n 2 と 1 / n 1/n 1/ n のあいだには大きな開きがあります。本当の Δ ( n ) \Delta(n) Δ ( n ) はどちらに近いのか、というのがこの問題の中心です。
ランダムに置いてから消す
同じ 1 / n 2 1/n^2 1/ n 2 の大きさは、点をでたらめに置く方法でも得られます。この方法も、ザハロフの解説ではエルデシュによるものと推測されています[5 , §1] 。今回の論文の最後の段階もこの形をしているので、ここで確かめておきます。
命題5 削除による構成
m m m 個の点の集合 Q Q Q と A > 0 A>0 A > 0 について、面積が A A A 以下の三角形が Z Z Z 個あるとする。Z ≤ m − n Z\le m-n Z ≤ m − n なら、Q Q Q から n n n 個の点を選んで、どの三角形も面積が A A A より大きいようにできる。
証明 開く 閉じる
面積が
A A A 以下の
三角形のそれぞれから、頂点を1つずつ選んで消す。消す点は Z Z Z 個以下なので、m − Z ≥ n m-Z\ge n m − Z ≥ n 個以上の点が残る。 残った
点の3点が作る三角形は、もとの「面積 A A A 以下の三角形」のどれでもない。それらは頂点を1つ失っているからである。よって残った三角形の面積はすべて A A A より大きく、残りから n n n 点を選べばよい。
単位正方形に一様にでたらめに置いた3点が、面積 A A A 以下の三角形を作る確率は、ある定数 C C C について C A CA C A 以下です[5 , §2] 。期待値の線形性 から、m m m 点のうち面積 A A A 以下の三角形の個数の期待値は C A ( m 3 ) CA\binom m3 C A ( 3 m ) 以下になります。
m = 2 n m=2n m = 2 n 、A = c / n 2 A=c/n^2 A = c / n 2 (c c c は小さい定数)とすると期待値は n n n 以下になり、期待値以下になる置き方が実際にあります。それに命題5 を使うと、Δ ( n ) ≥ c / n 2 \Delta(n)\ge c/n^2 Δ ( n ) ≥ c / n 2 が得られます。
20 20 20 点のうち、面積 1 / 1000 1/1000 1/1000 以下の三角形が 13 個。消した点は 6 個で、残り 14 点のいちばん小さい三角形の面積は 0.00172
図3 具体例 命題5 を、ランダムに置いた 20 20 20 点、A = 1 / 1000 A=1/1000 A = 1/1000 で試した図です。「小さい三角形」で面積 1 / 1000 1/1000 1/1000 以下の三角形を赤で示し、「消した後」でそれぞれの三角形から頂点を1つ消した結果を示します。点線の丸が消した点、青い三角形が残った点のうちいちばん小さい三角形です。最初に表示している配置では、13個の小さい三角形をなくすために6点を消し、残った14点の最小面積は 0.00172 0.00172 0.00172 です。
もう少し詳しく 3点の三角形が小さくなる確率が C A CA C A 以下である理由
ザハロフの解説の計算をなぞります[5 , §2] 。三角形の面積は、2点 p i , p j p_i,p_j p i , p j の距離 d d d と、3点目 p k p_k p k から直線 p i p j p_ip_j p i p j までの距離 e e e で d e / 2 de/2 d e /2 と書けます。
d d d が t t t 以上 2 t 2t 2 t 未満になる確率は t 2 t^2 t 2 の定数倍程度です。そのとき面積が A A A 以下になるには、p k p_k p k が直線のまわりの幅 2 A / t 2A/t 2 A / t 程度の帯に入る必要があり、その確率は min ( A / t , 1 ) \min(A/t,1) min ( A / t , 1 ) の定数倍程度です。
2点の距離は 2 < 2 \sqrt2<2 2 < 2 以下なので、t = 1 , 1 / 2 , 1 / 4 , … t=1,1/2,1/4,\dots t = 1 , 1/2 , 1/4 , … の区間 [ t , 2 t ) [t,2t) [ t , 2 t ) で距離の全範囲を覆えます。これらについて足し合わせると、次のように A A A の定数倍で抑えられます。
Pr [ Area ( p i p j p k ) ≤ A ] ≲ ∑ j ≥ 0 t j 2 min ( A t j , 1 ) ≤ ∑ j ≥ 0 t j A = 2 A ( t j = 2 − j ) \begin{aligned} &\Pr\bigl[\operatorname{Area}(p_ip_jp_k)\le A\bigr]\\ &\quad\lesssim\sum_{j\ge0}t_j^2\min\!\left(\frac A{t_j},1\right)\\ &\quad\le\sum_{j\ge0}t_jA=2A\\ &\qquad(t_j=2^{-j})\end{aligned} Pr [ Area ( p i p j p k ) ≤ A ] ≲ j ≥ 0 ∑ t j 2 min ( t j A , 1 ) ≤ j ≥ 0 ∑ t j A = 2 A ( t j = 2 − j )
ハイルブロンの予想と「ほぼ n − 2 n^{-2} n − 2 」という見方
ここまでで c / n 2 ≤ Δ ( n ) ≤ C / n c/n^2\le\Delta(n)\le C/n c / n 2 ≤ Δ ( n ) ≤ C / n が分かりました。ここからは、どの予想がいつ誰によって否定されたのかを、順に整理します。
ハイルブロンの予想(1982年に否定)
この問題を考えたのはハイルブロンで、1940年代の終わりごろのことです[5 , §1] 。ハイルブロンは、下からの評価 1 / n 2 1/n^2 1/ n 2 が正しい大きさだと考えました。
予想6 ハイルブロン [2 , §1] [5 , §1]
ある定数 C C C があって、すべての n ≥ 3 n\ge3 n ≥ 3 について次が成り立つ。
Δ ( n ) ≤ C n 2 \Delta(n)\le\frac{C}{n^2} Δ ( n ) ≤ n 2 C Δ ( n ) ≤ C n 2 \begin{aligned}\Delta(n) &\le \frac{C}{n^2}\end{aligned} Δ ( n ) ≤ n 2 C
論文はこの予想の出典として、ロスの1951年の論文の198ページを挙げています[4 ] 。
この予想は1982年に、コムローシュ、ピンツ、セメレディによって否定されました。ある定数 c > 0 c>0 c > 0 について次が成り立つことを示したのです[6 ] [5 , §2] 。
Δ ( n ) ≥ c log n n 2 \Delta(n)\ge\frac{c\log n}{n^2} Δ ( n ) ≥ n 2 c log n Δ ( n ) ≥ c log n n 2 \begin{aligned}\Delta(n) &\ge \frac{c\log n}{n^2}\end{aligned} Δ ( n ) ≥ n 2 c log n
log n \log n log n はいくらでも大きくなるので、C / n 2 C/n^2 C / n 2 以下にはおさまりません。証明では、まずランダムに点を多めに置き、小さい三角形をハイパーグラフ の辺とみなします。そのうえで、局所的にまばらなハイパーグラフ についての強い独立集合の評価を使って、小さい三角形を含まない大きな部分集合を選び出します[2 , §1] [5 , §2] 。
「ほぼ n − 2 n^{-2} n − 2 」という見方
元の予想は否定されましたが、外れたのは log n \log n log n 倍だけです。そこで、1 / n 2 1/n^2 1/ n 2 に「ほぼ」等しいという弱い形なら正しいだろう、と考えられてきました。
予想7 ほぼ n − 2 n^{-2} n − 2 の上界 [2 , 式 (1.1)] [5 , §3]
どの ε > 0 \varepsilon>0 ε > 0 についても定数 C ε C_\varepsilon C ε と n 0 ( ε ) n_0(\varepsilon) n 0 ( ε ) があって、次が成り立つ。
Δ ( n ) ≤ C ε n − 2 + ε ( n ≥ n 0 ( ε ) ) \Delta(n)\le C_\varepsilon\,n^{-2+\varepsilon}\qquad(n\ge n_0(\varepsilon)) Δ ( n ) ≤ C ε n − 2 + ε ( n ≥ n 0 ( ε )) Δ ( n ) ≤ C ε n − 2 + ε ( n ≥ n 0 ( ε ) ) \begin{gathered}\Delta(n)\le C_\varepsilon\,n^{-2+\varepsilon}\\(n\ge n_0(\varepsilon))\end{gathered} Δ ( n ) ≤ C ε n − 2 + ε ( n ≥ n 0 ( ε )) Δ ( n ) ≤ C ε n − 2 + ε ( n ≥ n 0 ( ε ) ) \begin{aligned}\Delta(n) &\le C_\varepsilon\,n^{-2+\varepsilon}\\[4pt]&(n\ge n_0(\varepsilon))\end{aligned} Δ ( n ) ≤ C ε n − 2 + ε ( n ≥ n 0 ( ε ))
log n \log n log n は n ε n^{\varepsilon} n ε よりゆっくり増えるので、コムローシュ・ピンツ・セメレディの結果とは矛盾しません。ザハロフの2026年の解説は、セメレディを含む多くの研究者が、これが正しいと考えていると書いています[5 , §3] 。特定の一人の名前がついた予想ではないので、この記事では「ほぼ n − 2 n^{-2} n − 2 という見方」とも呼びます。
今回の論文が否定したのは、この見方です[2 , §1] 。ハイルブロンの元の予想は、1982年の時点ですでに否定されていました。
上からの評価の進歩
上からの評価も、1 / n 1/n 1/ n から少しずつ下がってきました。下の表は、論文の序論とザハロフの解説の表によります[2 , §1] [5 , §6] 。
年 示した人 上からの評価
— 自明な評価(命題3 ) Δ ( n ) ≤ C n − 1 \Delta(n)\le C\,n^{-1} Δ ( n ) ≤ C n − 1
1951 ロス[4 ] Δ ( n ) = o ( n − 1 ) \Delta(n)=o(n^{-1}) Δ ( n ) = o ( n − 1 )
1972 シュミット[7 ] Δ ( n ) ≤ C n − 1 ( log n ) − 1 / 2 \Delta(n)\le C\,n^{-1}(\log n)^{-1/2} Δ ( n ) ≤ C n − 1 ( log n ) − 1/2
1972 ロス[8 ,9 ] Δ ( n ) ≤ C n − 1 − μ \Delta(n)\le C\,n^{-1-\mu} Δ ( n ) ≤ C n − 1 − μ (ザハロフの表では指数が約 − 1.117 -1.117 − 1.117 )
1981 コムローシュ、ピンツ、セメレディ[10 ] Δ ( n ) ≤ C ε n − 8 / 7 + ε \Delta(n)\le C_\varepsilon\,n^{-8/7+\varepsilon} Δ ( n ) ≤ C ε n − 8/7 + ε
2023 コーエン、ポホアタ、ザハロフ[11 ] 十分大きい n n n で Δ ( n ) ≤ n − 8 / 7 − 1 / 2000 \Delta(n)\le n^{-8/7-1/2000} Δ ( n ) ≤ n − 8/7 − 1/2000
2025 コーエン、ポホアタ、ザハロフ[12 ] Δ ( n ) ≤ C ε n − 7 / 6 + ε \Delta(n)\le C_\varepsilon\,n^{-7/6+\varepsilon} Δ ( n ) ≤ C ε n − 7/6 + ε
Δ ( n ) \Delta(n) Δ ( n ) を n a n^a n a の形で比べたときの指数 a a a で、分かっていることを数直線に描くと次のようになります。
本当の指数がありうる範囲(今回で
− 2 -2 − 2 そのものは除かれた)
Δ ( n ) \Delta(n) Δ ( n ) を
n a n^{a} n a と比べたときの指数
a a a
図4 概念図 Δ ( n ) \Delta(n) Δ ( n ) を n a n^a n a と比べたときの指数 a a a を横軸にとった図です。青い印は上からの評価で、− 1 -1 − 1 から − 7 / 6 -7/6 − 7/6 まで左へ動いてきました。橙の印は下からの評価です。エルデシュの構成とコムローシュ・ピンツ・セメレディの評価はどちらも指数 − 2 -2 − 2 のところにあり(後者は log n \log n log n 倍だけ大きい)、今回の結果は指数を − 2 + η -2+\eta − 2 + η に上げました。η \eta η は約 3 × 10 − 236 3\times10^{-236} 3 × 1 0 − 236 なので、この図の縮尺では − 2 -2 − 2 と区別できません。
ザハロフは、指数 7 / 6 7/6 7/6 は今の手法の自然な限界で、予想される n − 2 + o ( 1 ) n^{-2+o(1)} n − 2 + o ( 1 ) とはまだ大きく離れていると書いていました[5 , §6] 。今回の結果で、その「予想される大きさ」のほうが成り立たないことになります。
今回の定理
定理8 ハイルブロンの問題の下界のべきの改良 [2 , Theorem 1.1]
絶対定数 η , c 1 > 0 \eta,c_1>0 η , c 1 > 0 と整数 n 0 ≥ 3 n_0\ge3 n 0 ≥ 3 があって、n ≥ n 0 n\ge n_0 n ≥ n 0 をみたすすべての整数 n n n について次が成り立つ。
Δ ( n ) ≥ c 1 n − 2 + η \Delta(n)\ge c_1\,n^{-2+\eta} Δ ( n ) ≥ c 1 n − 2 + η Δ ( n ) ≥ c 1 n − 2 + η \begin{aligned}\Delta(n) &\ge c_1\,n^{-2+\eta}\end{aligned} Δ ( n ) ≥ c 1 n − 2 + η
「絶対定数」は、n n n にも何にもよらない決まった数という意味です。つまり、十分大きいどの n n n についても、最小の三角形の面積が c 1 n − 2 + η c_1n^{-2+\eta} c 1 n − 2 + η 以上になる n n n 点の置き方があります。
系9 ほぼ n − 2 n^{-2} n − 2 の上界は成り立たない [2 , §1]
予想7 は成り立たない。つまり Δ ( n ) \Delta(n) Δ ( n ) は、ほぼ n − 2 n^{-2} n − 2 の上界をもたない。
証明 開く 閉じる
ε = η / 2 \varepsilon=\eta/2 ε = η /2 とし、
Δ ( n ) ≤ C n − 2 + η / 2 \Delta(n)\le C\,n^{-2+\eta/2} Δ ( n ) ≤ C n − 2 + η /2 (
n ≥ n 0 ′ n\ge n_0' n ≥ n 0 ′ )と
なる定数 C C C と n 0 ′ n_0' n 0 ′ があったと仮定して矛盾を導く。 定理8 と
合わせると、十分大きい n n n で c 1 n − 2 + η ≤ C n − 2 + η / 2 c_1n^{-2+\eta}\le C\,n^{-2+\eta/2} c 1 n − 2 + η ≤ C n − 2 + η /2 、つまり n η / 2 ≤ C / c 1 n^{\eta/2}\le C/c_1 n η /2 ≤ C / c 1 となる。 η > 0 \eta>0 η > 0 なので
n η / 2 n^{\eta/2} n η /2 は
n → ∞ n\to\infty n → ∞ で
いくらでも大きくなり、これは成り立たない。
η \eta η はどれくらいか
論文は η \eta η を具体的な式で与えています[2 , §8, 式 (8.7)] 。使う数は次のとおりです[2 , §3, 式 (3.1)] 。
d = 41 M = ( 4 d − 1 d ) = ( 163 41 ) T = ( M 3 ) k = T 2 + 1 η = 2 45435 k + 16 d=41\qquad M=\binom{4d-1}{d}=\binom{163}{41}\qquad T=\binom{M}{3}\qquad k=T^2+1\qquad \eta=\frac{2}{45435k+16} d = 41 M = ( d 4 d − 1 ) = ( 41 163 ) T = ( 3 M ) k = T 2 + 1 η = 45435 k + 16 2 d = 41 M = ( 4 d − 1 d ) = ( 163 41 ) T = ( M 3 ) k = T 2 + 1 η = 2 45435 k + 16 \begin{gathered}d=41\\M=\binom{4d-1}{d}=\binom{163}{41}\\T=\binom{M}{3}\\k=T^2+1\\\eta=\frac{2}{45435k+16}\end{gathered} d = 41 M = ( d 4 d − 1 ) = ( 41 163 ) T = ( 3 M ) k = T 2 + 1 η = 45435 k + 16 2 d = 41 M = ( 4 d − 1 d ) = ( 163 41 ) T = ( M 3 ) k = T 2 + 1 η = 2 45435 k + 16 \begin{aligned}d &= 41\\[4pt]M &= \binom{4d-1}{d}\\&= \binom{163}{41}\\[4pt]T &= \binom{M}{3}\\[4pt]k &= T^2+1\\[4pt]\eta &= \frac{2}{45435k+16}\end{aligned} d M T k η = 41 = ( d 4 d − 1 ) = ( 41 163 ) = ( 3 M ) = T 2 + 1 = 45435 k + 16 2
計算すると、M M M は39桁、T T T は116桁、k k k は232桁の整数です。45435 k + 16 45435k+16 45435 k + 16 は約 6.3 × 10 235 6.3\times10^{235} 6.3 × 1 0 235 なので、η \eta η は約 3.2 × 10 − 236 3.2\times10^{-236} 3.2 × 1 0 − 236 になります。論文自身も、この指数は「固定されているが極端に小さい」と書いています[2 , Abstract] 。
どれくらい小さいかを、コムローシュ・ピンツ・セメレディの log n \log n log n 倍と比べてみます。定数の違いを無視して n η n^{\eta} n η と log n \log n log n を比べると、n η n^\eta n η のほうが大きくなるのは、log n \log n log n がおよそ 1.7 × 10 238 1.7\times10^{238} 1.7 × 1 0 238 を超えてからです。
ですから、この定理は具体的な大きさの n n n で良い配置を与えるものではありません。示したのは、n → ∞ n\to\infty n → ∞ での指数が − 2 -2 − 2 ではない、という漸近的な事実です。
証明の考え方
証明は論文の24ページの大部分を占め、この記事では再現しません。ここでは、エルデシュの構成の考え方「行列式が整数」と「余りが 0 0 0 でない」を、論文がどう発展させているかを見ます。
点を整数の3つ組で表す
論文はまず、点を整数の3つ組(列ベクトル)u = ( u 1 , u 2 , u 3 ) u=(u_1,u_2,u_3) u = ( u 1 , u 2 , u 3 ) で表します。N N N を大きな整数として、次の箱の中の整数の点を使います[2 , §1.1, §6] 。
0 ≤ u 1 , u 2 < N N ≤ u 3 < 2 N π ( u ) = ( u 1 u 3 , u 2 u 3 ) ∈ [ 0 , 1 ) 2 0\le u_1,u_2<N\qquad N\le u_3<2N\qquad \pi(u)=\left(\frac{u_1}{u_3},\ \frac{u_2}{u_3}\right)\in[0,1)^2 0 ≤ u 1 , u 2 < N N ≤ u 3 < 2 N π ( u ) = ( u 3 u 1 , u 3 u 2 ) ∈ [ 0 , 1 ) 2 0 ≤ u 1 , u 2 < N N ≤ u 3 < 2 N π ( u ) = ( u 1 u 3 , u 2 u 3 ) ∈ [ 0 , 1 ) 2 \begin{gathered}0\le u_1,u_2<N\\N\le u_3<2N\\\pi(u)=\left(\frac{u_1}{u_3},\ \frac{u_2}{u_3}\right)\in[0,1)^2\end{gathered} 0 ≤ u 1 , u 2 < N N ≤ u 3 < 2 N π ( u ) = ( u 3 u 1 , u 3 u 2 ) ∈ [ 0 , 1 ) 2 0 ≤ u 1 , u 2 < N N ≤ u 3 < 2 N π ( u ) = ( u 1 u 3 , u 2 u 3 ) ∈ [ 0 , 1 ) 2 \begin{aligned}0 &\le u_1,u_2\\&< N\\[4pt]N &\le u_3\\&< 2N\\[4pt]\pi(u) &= \left(\frac{u_1}{u_3},\ \frac{u_2}{u_3}\right)\in[0,1)^2\end{aligned} 0 N π ( u ) ≤ u 1 , u 2 < N ≤ u 3 < 2 N = ( u 3 u 1 , u 3 u 2 ) ∈ [ 0 , 1 ) 2
3つの列を並べた 3 × 3 3\times3 3 × 3 の整数行列 A A A の行列式で、対応する三角形の面積が書けます。
命題10 列ベクトルと三角形の面積 [2 , 式 (1.2), (8.3)]
u ( 1 ) , u ( 2 ) , u ( 3 ) ∈ Z 3 u^{(1)},u^{(2)},u^{(3)}\in\mathbb{Z}^3 u ( 1 ) , u ( 2 ) , u ( 3 ) ∈ Z 3 の第3成分が正のとき、これらを列にもつ行列を A A A とすると、次が成り立つ。
Area ( π ( u ( 1 ) ) π ( u ( 2 ) ) π ( u ( 3 ) ) ) = ∣ det A ∣ 2 u 3 ( 1 ) u 3 ( 2 ) u 3 ( 3 ) \begin{aligned} &\operatorname{Area}\bigl(\pi(u^{(1)})\,\pi(u^{(2)})\,\pi(u^{(3)})\bigr)\\ &\quad=\frac{|\det A|}{2\,u^{(1)}_3u^{(2)}_3u^{(3)}_3}\end{aligned} Area ( π ( u ( 1 ) ) π ( u ( 2 ) ) π ( u ( 3 ) ) ) = 2 u 3 ( 1 ) u 3 ( 2 ) u 3 ( 3 ) ∣ det A ∣
証明 開く 閉じる すべて開く すべて閉じる
各列
u ( j ) u^{(j)} u ( j ) を
その第3成分 u 3 ( j ) u^{(j)}_3 u 3 ( j ) で割ると、列は ( x j , y j , 1 ) (x_j,y_j,1) ( x j , y j , 1 ) の形になる。ここで ( x j , y j ) = π ( u ( j ) ) (x_j,y_j)=\pi(u^{(j)}) ( x j , y j ) = π ( u ( j ) ) である。 列を
正の数で割ると行列式も同じ数で割られるので、割った後の行列式は det A / ( u 3 ( 1 ) u 3 ( 2 ) u 3 ( 3 ) ) \det A/(u^{(1)}_3u^{(2)}_3u^{(3)}_3) det A / ( u 3 ( 1 ) u 3 ( 2 ) u 3 ( 3 ) ) である。 最後の行がすべて 1 1 1 の行列式は、三角形の面積の2倍に符号をつけたものである。詳しく 閉じる
第1列と第2列から第3列を引いても行列式は変わらない。そのあと第3行で展開すると、2次の行列式になる。
det ( x 1 x 2 x 3 y 1 y 2 y 3 1 1 1 ) = det ( x 1 − x 3 x 2 − x 3 y 1 − y 3 y 2 − y 3 ) \begin{aligned} &\det\begin{pmatrix}x_1&x_2&x_3\\y_1&y_2&y_3\\1&1&1\end{pmatrix}\\ &\qquad=\det\begin{pmatrix}x_1-x_3&x_2-x_3\\y_1-y_3&y_2-y_3\end{pmatrix}\end{aligned} det x 1 y 1 1 x 2 y 2 1 x 3 y 3 1 = det ( x 1 − x 3 y 1 − y 3 x 2 − x 3 y 2 − y 3 )
右辺の絶対値の半分が、3点 ( x j , y j ) (x_j,y_j) ( x j , y j ) の三角形の面積である。
例11 N = 5 N=5 N = 5 の箱の3列
列 ( 1 , 2 , 5 ) , ( 4 , 1 , 6 ) , ( 3 , 4 , 7 ) (1,2,5),\ (4,1,6),\ (3,4,7) ( 1 , 2 , 5 ) , ( 4 , 1 , 6 ) , ( 3 , 4 , 7 ) は N = 5 N=5 N = 5 の箱に入り、点 ( 1 / 5 , 2 / 5 ) , ( 2 / 3 , 1 / 6 ) , ( 3 / 7 , 4 / 7 ) (1/5,2/5),\ (2/3,1/6),\ (3/7,4/7) ( 1/5 , 2/5 ) , ( 2/3 , 1/6 ) , ( 3/7 , 4/7 ) を表す。
det ( 1 4 3 2 1 4 5 6 7 ) = 1 ⋅ ( 7 − 24 ) − 4 ⋅ ( 14 − 20 ) = + 3 ⋅ ( 12 − 5 ) = 28 \begin{aligned} &\det\begin{pmatrix}1&4&3\\2&1&4\\5&6&7\end{pmatrix}\\ &\quad=1\cdot(7-24)-4\cdot(14-20)\\ &\quad\phantom{{}={}}+3\cdot(12-5)\\ &\quad=28\end{aligned} det 1 2 5 4 1 6 3 4 7 = 1 ⋅ ( 7 − 24 ) − 4 ⋅ ( 14 − 20 ) = + 3 ⋅ ( 12 − 5 ) = 28
Area = 28 2 ⋅ 5 ⋅ 6 ⋅ 7 = 1 15 \operatorname{Area}=\frac{28}{2\cdot5\cdot6\cdot7}=\frac{1}{15} Area = 2 ⋅ 5 ⋅ 6 ⋅ 7 28 = 15 1 Area = 28 2 ⋅ 5 ⋅ 6 ⋅ 7 = 1 15 \begin{aligned}\operatorname{Area} &= \frac{28}{2\cdot5\cdot6\cdot7}\\&= \frac{1}{15}\end{aligned} Area = 2 ⋅ 5 ⋅ 6 ⋅ 7 28 = 15 1
3点から直接計算しても、面積は 1 / 15 1/15 1/15 になる。
エルデシュの構成は、第3成分をすべて p p p にした場合にあたります。点 ( x / p , y x / p ) (x/p,\ y_x/p) ( x / p , y x / p ) を列 ( x , y x , p ) (x,\ y_x,\ p) ( x , y x , p ) で表すと、det A = p ⋅ D \det A=p\cdot D det A = p ⋅ D (D D D は命題4 の証明の行列式)となり、面積は p ∣ D ∣ / ( 2 p 3 ) = ∣ D ∣ / ( 2 p 2 ) p|D|/(2p^3)=|D|/(2p^2) p ∣ D ∣/ ( 2 p 3 ) = ∣ D ∣/ ( 2 p 2 ) です。
命題10 から、どの3列についても ∣ det A ∣ > τ |\det A|>\tau ∣ det A ∣ > τ なら、第3成分が 2 N 2N 2 N 未満なので、すべての三角形の面積が τ / ( 16 N 3 ) \tau/(16N^3) τ / ( 16 N 3 ) 以上になります[2 , 式 (8.4)] 。エルデシュの構成は「行列式が 0 0 0 でない、つまり 1 1 1 以上」でした。今回はこれを「行列式が大きな数 τ \tau τ より大きい」に強めます。
ラベルで行列式を小さくさせない
行列式を大きくする仕掛けが、論文の第3節です。各列に、元が r d r^d r d 個の有限体 F r d \mathbb{F}_{r^d} F r d の元をラベル ξ \xi ξ として付けます(r r r は大きくしていく素数、d = 41 d=41 d = 41 )。
ラベルが異なる3列について、有限体 の放物線 ( 1 , ξ , ξ 2 ) (1,\xi,\xi^2) ( 1 , ξ , ξ 2 ) の行列式(ヴァンデルモンドの行列式 )は 0 0 0 になりません。ここはエルデシュの構成と同じ考え方で、論文もそう述べています[2 , §1.1] 。
この「0 0 0 でない」という情報を、体のノルム で F r \mathbb{F}_r F r の元に移し、さらに B B B 進法の1つの桁に書き込みます。B B B は大きな素数で、h = B k h=B^k h = B k で割った余りを考えます。その結果、次の補題が得られます。
補題12 行列式の障害 [2 , Lemma 3.3]
第3節の作り方で作った3つの列(成分は h = B k h=B^k h = B k で割った余り)を並べた行列を C C C とする。3つのラベルが互いに異なるなら、det C \det C det C の h h h で割った余りは、− τ -\tau − τ 以上 τ \tau τ 以下の整数で表せない。ここで τ = ⌊ B k − 1 / 2 ⌋ \tau=\lfloor B^{k-1}/2\rfloor τ = ⌊ B k − 1 /2 ⌋ である。
証明の骨組みは次のとおりです。各成分を B B B 進法の桁 c i v c_{iv} c i v で c i = ∑ v c i v B v c_i=\sum_v c_{iv}B^v c i = ∑ v c i v B v と書き、行列式を B B B の多項式とみて展開します。桁の選び方を工夫して、B k − 1 B^{k-1} B k − 1 の係数 γ k − 1 \gamma_{k-1} γ k − 1 が、ラベルの体のノルム と r r r で割った余りで一致するようにしてあります。
ラベルが異なれば体のノルム は 0 0 0 でないので、γ k − 1 ≠ 0 \gamma_{k-1}\ne0 γ k − 1 = 0 、つまり ∣ γ k − 1 ∣ ≥ 1 |\gamma_{k-1}|\ge1 ∣ γ k − 1 ∣ ≥ 1 です。一方、低い桁からの寄与は B k − 1 B^{k-1} B k − 1 の 3 / 50 3/50 3/50 倍以下におさえられています。そのため、行列式の代表 S C S_C S C は絶対値が ( 47 / 50 ) B k − 1 (47/50)B^{k-1} ( 47/50 ) B k − 1 以上、h / 2 h/2 h /2 未満の範囲に入り、τ \tau τ 以下の範囲から外れます[2 , Lemma 3.3 の証明] 。
47 50 B k − 1 \tfrac{47}{50}B^{k-1} 50 47 B k − 1 − 47 50 B k − 1 -\tfrac{47}{50}B^{k-1} − 50 47 B k − 1 小さい行列式
∣ t ∣ ≤ τ |t|\le\tau ∣ t ∣ ≤ τ (
h = B k h=B^k h = B k で割った余りの並び。長さは実際の比ではない)
図5 概念図 補題12 の結論を、h h h で割った余りを − h / 2 -h/2 − h /2 から h / 2 h/2 h /2 まで並べた数直線に描いた図です。赤い範囲が「小さい行列式」∣ t ∣ ≤ τ |t|\le\tau ∣ t ∣ ≤ τ 、緑の範囲が、ラベルが異なるときに行列式の代表 S C S_C S C が入る範囲です。長さは実際の比ではなく、並び順だけが意味をもちます。
このあと列を行列式 1 1 1 の行列でまぜ、余りを保ったまま整数の列に持ち上げます。どちらの操作でも行列式の h h h で割った余りは det C \det C det C のままなので、ラベルが異なる3列では ∣ det A ∣ > τ |\det A|>\tau ∣ det A ∣ > τ です[2 , §3, §6] 。小さい行列式が起こりうるのは、3列のうち2つのラベルが一致したときだけになります。
全体の流れ
証明全体は、次の6段階に分かれます[2 , §3–§8] 。
1 パラメータを決める d = 41 d=41 d = 41 と k k k を固定し、大きくしていく素数 r r r に合わせて、素数 B B B 、h = B k h=B^k h = B k 、別の素数 q q q 、箱の大きさ N = ( h q ) 10 N=(hq)^{10} N = ( h q ) 10 を選ぶ(§3、§5、§6)。
2 列をランダムに作る 各列に、ラベルと桁から決まる h h h で割った余り(共通のランダムな行列式 1 1 1 の行列でまぜる)と、q q q で割った余り(一直線に3点が並ばない集合から選ぶ)を与え、箱の中の整数の列に一様に持ち上げる(§4〜§6)。
3 悪い組は少ないと数える 同じ点を表す2列と、行列式の絶対値が τ \tau τ 以下の3列を「悪い組」と呼ぶ。悪い3列はラベルの一致を必要とし、その確率は 3 r − d 3r^{-d} 3 r − d 以下である。行列式がちょうど 0 0 0 の場合は q q q での条件で別に数える(§6、§7)。
4 悪い組を消す 2 n r 2n_r 2 n r 個の列を作ると、悪い組の個数 Z Z Z の期待値は n r n_r n r よりずっと小さい。Z < n r Z\lt n_r Z < n r となる結果を選び、悪い組ごとに1列ずつ消して n r n_r n r 列を残す(§8。命題5 と同じ形)。
5 面積に戻す 残った列はどの3つも ∣ det A ∣ > τ |\det A|>\tau ∣ det A ∣ > τ なので、命題10 から最小面積は τ / ( 16 N 3 ) \tau/(16N^3) τ / ( 16 N 3 ) 以上である。点の個数と合わせると n r 2 Δ ( P r ) ≥ r 2 / 64 n_r^2\Delta(P_r)\ge r^2/64 n r 2 Δ ( P r ) ≥ r 2 /64 となる(§8)。
6 指数を読む 点の個数は n r ≈ r α n_r\approx r^{\alpha} n r ≈ r α (α = 45435 k + 16 \alpha=45435k+16 α = 45435 k + 16 )の大きさなので、r 2 ≈ n r 2 / α r^2\approx n_r^{2/\alpha} r 2 ≈ n r 2/ α となり、η = 2 / α \eta=2/\alpha η = 2/ α が得られる。素数のあいだの n n n にはベルトランの仮説 の形の補題で対応する(§8、付録A)。
改良の源は、段階3の r − d r^{-d} r − d です。点の個数を n r = ⌊ r N 3 / τ ⌋ n_r=\lfloor r\sqrt{N^3/\tau}\rfloor n r = ⌊ r N 3 / τ ⌋ と選ぶと、悪い組の個数の期待値を n r n_r n r で割った E Z / n r \mathbb{E}Z/n_r E Z / n r の評価(式 (8.2))で、第2項が ( log 2 N ) 2 ( h / τ ) r 2 − d (\log 2N)^2(h/\tau)\,r^{2-d} ( log 2 N ) 2 ( h / τ ) r 2 − d 以下になります[2 , §8] 。h / τ h/\tau h / τ は r 30 r^{30} r 30 の定数倍以下で、d = 41 d=41 d = 41 なので、この項は r → ∞ r\to\infty r → ∞ で 0 0 0 に近づきます。第1項(同じ点を表す2列の分)も 0 0 0 に近づくので、E Z \mathbb{E}Z E Z は n r n_r n r よりずっと小さくなります。
論文はこれを、改良が「サンプルした点の算術的な分布」から来ると説明しています[2 , §1.1] 。最後の削除は命題5 と同じ初等的な議論で、コムローシュ・ピンツ・セメレディが使ったハイパーグラフ の独立集合の補題は使わない、とも述べています[2 , §8] 。
専門的な話 体のノルムを行列式の和に分け、桁に書き込む
K = F r d K=\mathbb{F}_{r^d} K = F r d の F r \mathbb{F}_r F r 上の基底 β 1 , … , β d \beta_1,\dots,\beta_d β 1 , … , β d をとり、3つの変数の組 X ( 1 ) , X ( 2 ) , X ( 3 ) X^{(1)},X^{(2)},X^{(3)} X ( 1 ) , X ( 2 ) , X ( 3 ) (それぞれ 3 d 3d 3 d 個の変数)から K 3 K^3 K 3 の列 Z ( X ( j ) ) Z(X^{(j)}) Z ( X ( j ) ) を作ります。その行列式を D \mathcal{D} D とし、係数にフロベニウス写像を施したものの積を N \mathcal{N} N とします[2 , §3.1] 。
N = ∏ j = 0 d − 1 σ j ( D ) \mathcal{N}=\prod_{j=0}^{d-1}\sigma^j(\mathcal{D}) N = j = 0 ∏ d − 1 σ j ( D ) N = ∏ j = 0 d − 1 σ j ( D ) \begin{aligned}\mathcal{N} &= \prod_{j=0}^{d-1}\sigma^j(\mathcal{D})\end{aligned} N = j = 0 ∏ d − 1 σ j ( D )
N \mathcal{N} N は係数が F r \mathbb{F}_r F r に入る多項式で、F r \mathbb{F}_r F r の値を代入すると行列式の体のノルム になります。d d d が奇数なので、2つの変数の組を入れ替えると符号が変わります(交代式)。
交代式であることから、N \mathcal{N} N は T = ( M 3 ) T=\binom M3 T = ( 3 M ) 個の 3 × 3 3\times3 3 × 3 の「単項式の行列式」の和に書けます(Lemma 3.1。M M M は 3 d 3d 3 d 変数の d d d 次単項式の個数)。ラベルの列 ( 1 , ξ , ξ 2 ) (1,\xi,\xi^2) ( 1 , ξ , ξ 2 ) を代入すると、ヴァンデルモンドの行列式 から次が成り立ちます。
N ( X ( ξ 1 ) , X ( ξ 2 ) , X ( ξ 3 ) ) = Nm K / F r ( ∏ i < j ( ξ j − ξ i ) ) ≠ 0 \begin{aligned} &\mathcal{N}\bigl(X(\xi_1),X(\xi_2),X(\xi_3)\bigr)\\ &\quad=\operatorname{Nm}_{K/\mathbb{F}_r}\Bigl(\prod_{i\lt j}(\xi_j-\xi_i)\Bigr)\ne0\end{aligned} N ( X ( ξ 1 ) , X ( ξ 2 ) , X ( ξ 3 ) ) = Nm K / F r ( i < j ∏ ( ξ j − ξ i ) ) = 0
次に、和の a a a 番目の項を、3つの行の決まった桁 i a = a , j a = T a , ℓ a = T 2 − ( T + 1 ) a i_a=a,\ j_a=Ta,\ \ell_a=T^2-(T+1)a i a = a , j a = T a , ℓ a = T 2 − ( T + 1 ) a に置きます。この3つの桁の和が k − 1 = T 2 k-1=T^2 k − 1 = T 2 になるのは、3つの添字がすべて同じ a a a のときだけです(式 (3.7))。そのため、行列式を B B B 進法で展開したときの B k − 1 B^{k-1} B k − 1 の係数が、r r r で割った余りで N \mathcal{N} N と一致します。
桁 c i v c_{iv} c i v は 1 1 1 以上 L = r 10 L=r^{10} L = r 10 以下の整数から、必要な余りをもつものを一様に選びます。B > 100 k 2 L 3 B>100k^2L^3 B > 100 k 2 L 3 なので、低い桁からの繰り上がりは B k − 1 B^{k-1} B k − 1 に届きません。サレムとスペンサー、ベーレントの、3項等差数列を含まない集合の構成でも、大きな基数で繰り上がりを抑える同じ種類の工夫が使われている、と論文は述べています[2 , §1.1] 。
行列式がちょうど 0 0 0 の3列(3点が一直線)は、この補題では扱えません。そこで別の素数 q q q で、楕円2次曲面のアフィン部分(一直線上に3点が並ばない集合、キャップ)から余りを選び、短い整数の一次関係を除きます(§5、Lemma 5.1、Lemma 5.2、Proposition 5.3。一次関係を除くのは主に Lemma 5.2)。行列式が 0 0 0 の3列は、それをみたす原始的な整数ベクトルごとに格子の点を数えて評価します(§7)。
どこまで確かなのか
論文は2026年9月25日付のプレプリントで、査読はまだです[2 ] 。
2026年10月7日付の更新では、この論文は修正も取り下げもされていません[3 ] 。
リポジトリには照合(Comparator)の設定 ComparatorChallenges/HeilbronnTriangle.json があり、2つの定理 heilbronn_power_lower_bound と almost_n_minus_two_refuted が検査の対象になっています[13 ] 。許可された公理は、Leanで標準的な propext、Quot.sound、Classical.choice の3つです。
形式化の範囲の説明によると、形式化されているのは「限りなく大きくなる点の個数の列 n j n_j n j と、それぞれの点の配置」の存在です。論文の「十分大きいすべての n n n 」という主張のほうが広い、と明記されています[14 ] 。
Leanの主張の指数は 1 / ( 100000 k ) 1/(100000k) 1/ ( 100000 k ) (k k k は上と同じ数)で、論文の η = 2 / ( 45435 k + 16 ) \eta=2/(45435k+16) η = 2/ ( 45435 k + 16 ) より小さい、つまり弱い指数です。それでも 0 0 0 より大きいので、ほぼ n − 2 n^{-2} n − 2 の上界の否定には十分です。
形式化された論文の一覧 lean/formalization.yaml の主な結果の欄には、この論文は載っていません(10月9日に取得した版)。同じ欄には、照合の設定がある π \pi π の無理数度の論文も載っていないので、この欄だけでは形式化の有無を判断できません。筆者はLeanの検査を手元で再実行していません。
Leanで照合される主張の前半は次のとおりです[13 ] 。triangleAreasAtLeast (P j) a は「P j P_j P j の異なる3点が作る三角形の面積がすべて a a a 以上」という意味です。
theorem heilbronn_power_lower_bound :
0 < heilbronnExponent ∧ ∃ n : ℕ → ℕ, ∃ P : ℕ → Finset Point,
Filter.Tendsto n Filter.atTop Filter.atTop ∧ ∀ j : ℕ,
3 ≤ n j ∧ (P j).card = n j ∧ pointsInUnitSquare (P j) ∧
triangleAreasAtLeast (P j)
(Real.rpow (n j : ℝ) (-2 + heilbronnExponent))
後半の almost_n_minus_two_refuted は、ε = \varepsilon= ε = heilbronnExponent / 2 で予想7 の条件が成り立たないことを述べています。系9 の証明と同じ形です。
なお論文の序論は、今回より強いべきの下界を主張する先行のプレプリントが2つあることにも触れています[2 , §1] 。論文によれば、エルマンの第12版[15 ] は、証明されていない局所一様性の仮定があることを認め、議論を発見的なものと述べています。
アガマの第13版[16 ] については、中心と境界の点を一緒に数えると一直線に並ぶ3点ができる、と論文は指摘しています。中心を除いても、その議論が評価しているのは中心と隣り合う境界の点が作る三角形なので、すべての3点についての評価は証明されないまま残る、とも書いています。
論文は、これらの指摘は引用した議論に対するもので、主張された評価が不可能だという意味ではないと断っています。
残された問題
本当の指数: 分かっているのは、指数が − 2 + η -2+\eta − 2 + η と − 7 / 6 -7/6 − 7/6 のあいだにあることだけです(図4)。Δ ( n ) \Delta(n) Δ ( n ) がどちらの端に近いのかは分かっていません。
指数 η \eta η の改良: 論文はパラメータの最適化をしていないと書いています[2 , §8] 。3 × 10 − 236 3\times10^{-236} 3 × 1 0 − 236 よりずっと大きな η \eta η が得られるかどうかは、これからの問題です。
上からの評価: ザハロフは、指数 7 / 6 7/6 7/6 は今の手法の自然な限界で、それを超える改良はとても興味深いと書いています[5 , §6] 。
OpenAIの数学論文の解説には、ほかにπ \pi π の無理数度は2 と平面は5色では塗れない があります。
n + 1 n+1 n + 1 個の物を n n n 個の箱に入れると、2個以上入る箱が必ずある、という原理。存在だけを示す証明によく使う。
det ( 1 1 1 a b c a 2 b 2 c 2 ) = ( b − a ) ( c − a ) ( c − b ) \det\begin{pmatrix}1&1&1\\a&b&c\\a^2&b^2&c^2\end{pmatrix}=(b-a)(c-a)(c-b) det 1 a a 2 1 b b 2 1 c c 2 = ( b − a ) ( c − a ) ( c − b ) 。a , b , c a,b,c a , b , c が互いに異なれば 0 0 0 でない。どの体の上でも成り立つ。
どの整数 n ≥ 1 n\ge1 n ≥ 1 についても、n < p ≤ 2 n n<p\le2n n < p ≤ 2 n をみたす素数 p p p がある、という定理。仮説という名前だが、チェビシェフが証明し、のちにエルデシュが初等的な証明を与えた。
確率変数の和の期待値は、期待値の和に等しい:E [ X + Y ] = E [ X ] + E [ Y ] \mathbb{E}[X+Y]=\mathbb{E}[X]+\mathbb{E}[Y] E [ X + Y ] = E [ X ] + E [ Y ] 。X , Y X,Y X , Y が独立でなくても成り立つ。個数を「各事象が起きれば1」の和に分けて期待値を数えるときに使う。
元が有限個の体。素数 r r r で割った余りの体 F r \mathbb{F}_r F r のほか、各 d ≥ 1 d\ge1 d ≥ 1 について元がちょうど r d r^d r d 個の体 F r d \mathbb{F}_{r^d} F r d が(同型を除いて)ただ1つある。F r d \mathbb{F}_{r^d} F r d は F r \mathbb{F}_r F r 上の d d d 次元のベクトル空間である。
F r d \mathbb{F}_{r^d} F r d の元 t t t に対し Nm ( t ) = t ⋅ t r ⋅ t r 2 ⋯ t r d − 1 \operatorname{Nm}(t)=t\cdot t^{r}\cdot t^{r^2}\cdots t^{r^{d-1}} Nm ( t ) = t ⋅ t r ⋅ t r 2 ⋯ t r d − 1 。値は F r \mathbb{F}_r F r に入り、t ≠ 0 t\ne0 t = 0 なら Nm ( t ) ≠ 0 \operatorname{Nm}(t)\ne0 Nm ( t ) = 0 である。
頂点の集合と、頂点の部分集合(辺)の族の組。辺がすべて3元集合なら、三角形を作る3点の組を辺とみなせる。辺を1つも含まない頂点の集合を独立集合という。
参考文献
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