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OpenAIのAIが証明した「逆ゴールドバッハ予想」:素数は2つの集合の和に分けられない

素数の集合は、2つの集合から1つずつ選んで足した数の全体として書けるか。1956年にオストマンが「書けない」と予想した問題を、OpenAIのモデルが証明しました。和の集合の定義、実際に試すとどこで破綻するか、素数で割った余りによる制限、片方が有限のときの証明を、図と数式で解説します。

目次
  1. 素数は足し算で分解できない
  2. 和の集合
  3. ゴールドバッハ予想と、その逆
  4. 試してみる
  5. 素数で割った余りで見る
  6. 片方が有限集合の場合
  7. 今回の定理
  8. 証明の考え方
  9. これまでの研究
  10. どこまで確かなのか
  11. 残された問題
  12. 参考文献
この記事の要点
問題
素数の集合は、2つの集合 A,BA,B から1つずつ選んで足した数の集合 A+BA+B の形に書けるか、という問題です。小さいところの有限個の違いは許します。AA も BB も2個以上の数を含むことが条件です。
今回の結果
OpenAIのモデルが書いた論文が、どう選んでも書けないことを証明しました。1956年にオストマンが予想したもので、「逆ゴールドバッハ予想」とも呼ばれます。
ゴールドバッハ予想は
未解決のままです。「4以上の偶数は2つの素数の和」というゴールドバッハ予想とは、問いの向きが逆の別の問題です。
確かさ
主定理はLeanで形式化され、リポジトリの照合の対象になっています。論文は査読前のプレプリントです。

この記事で読む論文

The additive indecomposability of the primes

OpenAI 2026年9月24日付 プレプリント(査読前) 80ページ PDF 764KB

PDFは2026年10月12日にGitHubから取得した版のコピーで、Apache License 2.0(全文)に従って掲載しています。修正版が出た場合は、GitHubのほうが新しくなります。

定義・命題の下の「証明」は、開くとステップが並びます。もう少し詳しくは大学1〜2年程度の数学の補足、専門的な話は論文の中身に踏み込む補足です。どちらも開かずに読み進められます。

素数は足し算で分解できない

2026年10月6日、OpenAIは未公開の社内モデルが書いた数学の論文をGitHubのリポジトリ openai/math で公開しました[1]。その013番が、この記事で読む「The additive indecomposability of the primes」(素数の加法的な分解不可能性)です[2]。

主張は、素数の集合を「2つの集合(どちらも2個以上の数を含む)の要素どうしの和の全体」として書くことはできない、というものです。問題の形は中学生でも分かりますが、1956年に予想されてから70年、解かれていませんでした。

この記事では、まず問題を正確に述べ、自分で試すとどこでうまくいかなくなるかを図で確かめます。そのうえで、初等的に示せる部分を証明し、論文の証明の骨組みを紹介します。

この論文は、10月7日付の修正・取り下げには含まれていません。リポジトリの更新は修正と取り下げの記録にまとめています。

和の集合

この記事では、00 以上の整数の全体を N0={0,1,2,… }\mathbb{N}_0=\{0,1,2,\dots\}、素数の全体を P={2,3,5,7,11,… }\mathcal{P}=\{2,3,5,7,11,\dots\} と書きます。

定義1 和の集合 [2, §1]

A,B⊆N0A,B\subseteq\mathbb{N}_0 に対して、AA と BB から1つずつ選んで足した数の全体を A+BA+B と書き、和の集合(sumset)と呼ぶ。

A+B={a+b:a∈A, b∈B}A+B=\{a+b:a\in A,\,b\in B\}A+B={a+b:a∈A, b∈B}\begin{aligned}A+B &= \{a+b:a\in A,\,b\in B\}\end{aligned}

集合の「和集合」A∪BA\cup B とは別のものです。A∪BA\cup B は AA と BB を合わせた集合ですが、A+BA+B は要素どうしを足し算した結果の集合です。

例2 和の集合の計算

(1) A={0,1}A=\{0,1\}、B={0,2,4}B=\{0,2,4\} なら A+B={0,1,2,3,4,5}A+B=\{0,1,2,3,4,5\}。

(2) A={0,2}A=\{0,2\}、B={3,5,7,11,13}B=\{3,5,7,11,13\} なら、足し算の表は次のとおりで、A+B={3,5,7,9,11,13,15}A+B=\{3,5,7,9,11,13,15\}。素数でない 9=7+29=7+2 と 15=13+215=13+2 が混ざる。

+35711130357111325791315\begin{array}{c|ccccc} + & 3 & 5 & 7 & 11 & 13\\ \hline 0 & 3 & 5 & 7 & 11 & 13\\ 2 & 5 & 7 & 9 & 13 & 15 \end{array}

(3) A={0}A=\{0\} なら A+B=BA+B=B である。

(3) から分かるように、AA が1つの数だけなら A+BA+B は BB をずらしただけです。A={0}A=\{0\}、B=PB=\mathcal{P} とすれば A+B=PA+B=\mathcal{P} となり、素数の集合は当たり前に和の集合になります。そこで、AA と BB はどちらも2個以上の数を含む、という条件をつけて考えます。

ゴールドバッハ予想と、その逆

素数どうしの足し算といえば、ゴールドバッハ予想が有名です。和の集合の言葉で書くと次のようになります。

予想3 ゴールドバッハ予想

44 以上の偶数はすべて2つの素数の和である。つまり P+P\mathcal{P}+\mathcal{P} は 44 以上のすべての偶数を含む。

4=2+24=2+2、6=3+36=3+3、8=3+58=3+5、100=3+97100=3+97 のように確かめられ、4×10184\times10^{18} までの偶数では計算で確認されています[3]。それでも証明はなく、未解決です。

ゴールドバッハ予想は「素数の和の集合はどうなっているか」という問いです。その逆に、「素数の集合そのものが、何かの和の集合になっているか」と問うことができます。これが逆ゴールドバッハ問題です。

素数の集合とぴったり等しい和の集合を探すと、22 や 33 のような小さい素数の扱いに振り回されます。そこで、小さいところの有限個の違いは気にしないことにします。

定義4 有限個の違いを除いて等しい [2, §1]

X,Y⊆N0X,Y\subseteq\mathbb{N}_0 について、片方にだけ入っている数の集合(対称差)を X△Y=(X∖Y)∪(Y∖X)X\mathbin{\triangle}Y=(X\setminus Y)\cup(Y\setminus X) と書く。X△YX\mathbin{\triangle}Y が有限集合のとき、XX と YY は有限個の違いを除いて等しいという。

有限集合には最大の数があるので、これは「ある NN があって、NN より大きい数については XX に入ることと YY に入ることが同じ」と言い換えられます。

A+BA+B と P\mathcal{P} が有限個の違いを除いて等しいとは、次の2つがどちらも成り立つことです。

  • 取りこぼさない:十分大きな素数は、すべて A+BA+B に入る。
  • はみ出さない:十分大きな A+BA+B の数は、すべて素数である。

予想5 オストマンの逆ゴールドバッハ予想 [2, §1]

A,B⊆N0A,B\subseteq\mathbb{N}_0 がどちらも2個以上の数を含むなら、A+BA+B と P\mathcal{P} は有限個の違いを除いて等しくはならない。つまり (A+B)△P(A+B)\mathbin{\triangle}\mathcal{P} は無限集合である。

この予想はオストマンの1956年の本にさかのぼります。有限個の違いを除いて等しいという今の形と用語は、エルスホルツとハーパーが明示しました[2, §1]。素数の集合は(有限個の違いを除いて)足し算で2つに分解できない、という主張です。

試してみる

A={0,2}A=\{0,2\} として、BB をうまく選べるか試してみます。すぐに思いつくのは次の2通りです。

  • BB を 33 以上の素数の全体にする:A+BA+B は 33 以上のすべての素数を含みます。しかし 7+2=97+2=9 のように、素数 pp に対して p+2p+2 が合成数になるものが混ざります。
  • BB を双子素数の小さいほうにする:bb と b+2b+2 がともに素数になる bb(3,5,11,17,29,…3,5,11,17,29,\dots)だけを集めます。今度は A+BA+B が素数だけになりますが、2323 のように双子素数に入らない素数を取りこぼします。
11
22
33
44
55
66
77
88
99
1010
1111
1212
1313
1414
1515
1616
1717
1818
1919
2020
2121
2222
2323
2424
2525
2626
2727
2828
2929
3030
3131
3232
3333
3434
3535
3636
3737
3838
3939
4040
4141
4242
4343
4444
4545
4646
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4848
4949
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5151
5252
5353
5454
5555
5656
5757
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6060
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6868
6969
7070
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7272
7373
7474
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7878
7979
8080
8181
8282
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8484
8585
8686
8787
8888
8989
9090
9191
9292
9393
9494
9595
9696
9797
9898
9999
100100
101101
102102
103103
104104
105105
106106
107107
108108
109109
110110
111111
112112
113113
114114
115115
116116
117117
118118
119119
120120
99
1515
2121
2525
3333
3939
4545
4949
5555
6363
6969
7575
8181
8585
9191
9999
105105
111111
115115

A={0,2}A=\{0,2\}、B={3,5,7,11,… }B=\{3,5,7,11,\dots\}。A+BA+B は 33 以上の素数をすべて含みますが、9,15,21,25,…9,15,21,25,\dots のような合成数(赤)も含みます。10610^6 以下では、取りこぼす素数は 22 だけで、はみ出す合成数は 7032870328 個です。

A={0,2}A=\{0,2\}、B={3,5,11,17,29,41,… }B=\{3,5,11,17,29,41,\dots\}。A+BA+B は素数だけですが、23,37,47,53,…23,37,47,53,\dots を取りこぼします(橙の枠)。10610^6 以下の素数 7849878498 個のうち、6216162161 個を取りこぼします。

図1具体例11 から 120120 までの整数で、A+BA+B に入る素数を緑、A+BA+B に入る合成数を赤、A+BA+B に入らない素数を橙の枠で示しました。片方を直すと、もう片方がうまくいかなくなります。

はみ出しをなくそうとして BB を減らすと取りこぼしが増え、取りこぼしをなくそうとして BB を増やすとはみ出しが出ます。オストマンの予想は、AA と BB をどう選んでも、この綱引きが無限に多くの数で必ず破綻することを主張しています。

素数で割った余りで見る

はみ出さない条件だけから、AA と BB の形にかなり強い制限がつきます。論文の議論の出発点になる観察です[2, §2.3]。

命題6 余りが重ならない [2, §2.3]

A,B⊆N0A,B\subseteq\mathbb{N}_0 とし、整数 NN について「NN より大きい A+BA+B の数はすべて素数」が成り立つとする。素数 pp と、任意の a∈Aa\in A、max⁡{p,N}\max\{p,N\} より大きい b∈Bb\in B について、次が成り立つ。

a≢−b(modp)a\not\equiv-b\pmod pa̸≡−b(modp)\begin{aligned}a\not &\equiv -b\pmod p\end{aligned}

言い換えると、AA の数を pp で割った余りの集合と、大きな b∈Bb\in B について −b-b を pp で割った余りの集合は、共通部分をもたない。

証明
  1. a≡−b(modp)a\equiv-b\pmod p と仮定して矛盾を導く。このとき a+ba+b は pp の倍数である。
  2. a≥0a\ge0 なので a+b≥b>Na+b\ge b>N であり、仮定から a+ba+b は素数である。
  3. pp の倍数である素数は pp 自身だけだが、a+b≥b>pa+b\ge b>p なので a+b≠pa+b\ne p である。これは矛盾である。

図1の2つめの試し方(BB が双子素数の小さいほう)は、はみ出しがないので、この命題が当てはまります。下の図で pp を変えて確かめられます。

00
11
22
p=3p=3
00
11
22
33
44
p=5p=5
00
11
22
33
44
55
66
p=7p=7
00
11
22
33
44
55
66
77
88
99
1010
p=11p=11
00
11
22
33
44
55
66
77
88
99
1010
1111
1212
p=13p=13
AA の余り
−B-B の余り

p=3p=3:A={0,2}A=\{0,2\} の余りは 0,20,2。33 より大きい双子素数の小さいほう bb は 33 で割って 22 余る(5,11,17,…5,11,17,\dots)ので、−b-b の余りは 11 だけです。

p=5p=5:AA の余りは 0,20,2。−b-b の余りは 1,3,41,3,4 で、AA の余りとは重なりません。

p=7p=7:−b-b の余りは 00 と 22 以外のすべて(1,3,4,5,61,3,4,5,6)です。

p=11p=11:−b-b の余りは 00 と 22 以外の 99 個です。

p=13p=13:−b-b の余りは 00 と 22 以外の 1111 個です。

図2具体例pp で割った余り 0,1,…,p−10,1,\dots,p-1 を円周に並べ、A={0,2}A=\{0,2\} の余りを青、双子素数の小さいほう bb(p<b≤105p<b\le10^5)について −b-b の余りを橙で塗りました。どの pp でも青と橙は重なりません。

bb と b+2b+2 がともに pp より大きい素数なら、どちらも pp で割り切れないので、b≢0b\not\equiv0 かつ b≢−2(modp)b\not\equiv-2\pmod p です。これは −b≢0,2-b\not\equiv0,2 と同じで、図の結果と合っています。

p=2p=2 の場合を見ると、偶数と奇数の話になります。

系7 偶奇がそろう

命題6の仮定で AA と BB がどちらも無限集合なら、十分大きな AA の数はすべて同じ偶奇をもち、十分大きな BB の数はすべてその反対の偶奇をもつ。

証明
  1. p=2p=2 では −b≡b(mod2)-b\equiv b\pmod2 なので、命題6から、AA の数の偶奇の集合と大きな bb の偶奇の集合は重ならない。
  2. A,BA,B は無限集合なので、どちらの集合も空ではない。偶奇は2種類しかないので、それぞれ1種類ずつに決まり、互いに反対になる。

命題6は、どの素数 pp でも、pp 個の余りを「AA が使う余り」と「−B-B が使う余り」に分け合うことを言っています。片方が多くの余りを使えば、もう片方は少ない余りしか使えません。AA と BB は、すべての素数で同時にこの制限を受けます。

一方、取りこぼさない条件からは、AA と BB はある程度たくさんの数を含まなければなりません。xx 以下の大きな素数はどれも xx 以下の aa と bb の和なので、xx 以下の A,BA,B の数の個数を A(x),B(x)A(x),B(x) と書くと、次が成り立ちます。

A(x) B(x) ≥ π(x)−π(N) ≈ xlog⁡xA(x)\,B(x)\ \ge\ \pi(x)-\pi(N)\ \approx\ \frac{x}{\log x}A(x) B(x)≥π(x)−π(N)≈xlog⁡x\begin{aligned}A(x)\,B(x) &\ge \pi(x)-\pi(N)\\&\approx \frac{x}{\log x}\end{aligned}

多くの余りを避けながら、それでも個数は多い。この2つの要求の衝突が、問題の核心です。エルスホルツは、仮にそのような A,BA,B があれば、A(x)A(x) と B(x)B(x) はどちらも x\sqrt{x} に近い大きさになることを示していました[2, Lemma 2.4]。

片方が有限集合の場合

図1の試し方は A={0,2}A=\{0,2\} のように AA が有限集合でした。この場合は、篩法(ふるいの方法)の古典的な評価を使って、うまくいかないことを証明できます。もとはラファーとマンの結果で、論文はそれに短い証明をつけています[2, Lemma 2.2]。

補題8 ずらしても素数であり続ける数は少ない [2, Lemma 2.1]

h1,…,hjh_1,\dots,h_j を相異なる 00 以上の整数とする。C⊆N0C\subseteq\mathbb{N}_0 が、十分大きなすべての c∈Cc\in C について「c+h1,…,c+hjc+h_1,\dots,c+h_j がすべて素数」をみたすなら、h1,…,hjh_1,\dots,h_j だけで決まる定数 KK があって、十分大きな YY で次が成り立つ。

∣C∩[0,Y]∣≤K Y(log⁡Y)j|C\cap[0,Y]|\le K\,\frac{Y}{(\log Y)^j}∣C∩[0,Y]∣≤K Y(log⁡Y)j\begin{aligned}|C\cap[0,Y]| &\le K\,\frac{Y}{(\log Y)^j}\end{aligned}

j=2j=2、h1=0h_1=0、h2=2h_2=2 とすると、YY 以下の双子素数の組の個数が Y/(log⁡Y)2Y/(\log Y)^2 の定数倍以下だという、篩法の古典的な評価になります。論文はこの補題を大きな篩の不等式から証明しています。この記事では証明を省きます。

命題9 有限の AA ではうまくいかない [2, Lemma 2.2]

A,B⊆N0A,B\subseteq\mathbb{N}_0 がどちらも2個以上の数を含み、A+BA+B と P\mathcal{P} が有限個の違いを除いて等しいなら、AA と BB はどちらも無限集合である。

証明
  1. AA が有限集合だと仮定して矛盾を導く(BB が有限のときも同じ)。AA の相異なる2つの数 a1,a2a_1,a_2 をとり、NN を「NN より大きい数は A+BA+B に入ることと素数であることが同じ」となるようにとる。
  2. NN より大きい b∈Bb\in B について、b+a1b+a_1 と b+a2b+a_2 はどちらも A+BA+B に入る NN より大きい数なので、素数である。
  3. 補題8を C=BC=B、h1=a1h_1=a_1、h2=a2h_2=a_2 で使うと、B(Y)≤K Y/(log⁡Y)2B(Y)\le K\,Y/(\log Y)^2 となる。
  4. 一方、NN より大きく YY 以下の素数はどれも a+ba+b(a∈Aa\in A、b≤Yb\le Y)と書けるので、π(Y)−π(N)≤∣A∣ B(Y)\pi(Y)-\pi(N)\le|A|\,B(Y) である。

    素数 qq を q=a+bq=a+b と書くと b≤q≤Yb\le q\le Y である。aa の選び方は ∣A∣|A| 通り、bb の選び方は B(Y)B(Y) 通り以下なので、そのような和は高々 ∣A∣ B(Y)|A|\,B(Y) 個である。

  5. チェビシェフの評価から、ある定数 c1>0c_1>0 があって π(Y)≥c1Y/log⁡Y\pi(Y)\ge c_1Y/\log Y である。これを合わせると次になる。c1Ylog⁡Y−π(N)≤∣A∣ K Y(log⁡Y)2\frac{c_1Y}{\log Y}-\pi(N)\le|A|\,K\,\frac{Y}{(\log Y)^2}c1Ylog⁡Y−π(N)≤∣A∣ K Y(log⁡Y)2\begin{aligned}\frac{c_1Y}{\log Y}-\pi(N) &\le |A|\,K\,\frac{Y}{(\log Y)^2}\end{aligned} 両辺を Y/log⁡YY/\log Y で割ると次になる。Y→∞Y\to\infty で左辺は c1c_1 に、右辺は 00 に近づくので矛盾する。c1−π(N)log⁡YY≤∣A∣ Klog⁡Yc_1-\frac{\pi(N)\log Y}{Y}\le\frac{|A|\,K}{\log Y}c1−π(N)log⁡YY≤∣A∣ Klog⁡Y\begin{aligned}c_1-\frac{\pi(N)\log Y}{Y} &\le \frac{|A|\,K}{\log Y}\end{aligned}

図1の双子素数の試し方で、この数え方を実際の数で確かめます。BB の個数(双子素数の組の数)は、素数の個数よりもゆっくりしか増えません。

YY素数の個数 π(Y)\pi(Y)b≤Yb\le Y で b, b+2b,\ b+2 がともに素数比1/log⁡Y1/\log Y
10310^{3}16816835350.2080.2080.1450.145
10410^{4}1,2291{,}2292052050.1670.1670.1090.109
10510^{5}9,5929{,}5921,2241{,}2240.1280.1280.0870.087
10610^{6}78,49878{,}4988,1698{,}1690.1040.1040.0720.072
10710^{7}664,579664{,}57958,98058{,}9800.0890.0890.0620.062

比はおよそ 1/log⁡Y1/\log Y と同じ速さで小さくなります。∣A∣=2|A|=2 倍しても、取りこぼす素数の割合は YY とともに 11 に近づいていきます。

命題9によって、問題は AA と BB がどちらも無限集合の場合に絞られます。こちらが本当に難しい場合で、論文の残りの約70ページがこれに充てられています。

今回の定理

定理10 OpenAI, 2026 [2, Theorem 1.1]

A,B⊆N0A,B\subseteq\mathbb{N}_0 がどちらも2個以上の数を含むなら、(A+B)△P(A+B)\mathbin{\triangle}\mathcal{P} は無限集合である。つまり予想5は正しい。

(A+B)△P(A+B)\mathbin{\triangle}\mathcal{P} が無限集合だということは、A+BA+B が素数を無限個取りこぼすか、合成数を無限個含むか(または両方)だということです。論文の序文は、次の2点も述べています。

  • 十分大きな素数をすべて含むなら、合成数を無限個含む。取りこぼしをなくすと、はみ出しは必ず無限に起きます。
  • 割合の条件に弱めていない。取りこぼしとはみ出しのどちらも、例外が有限個しかないという条件のまま扱っています。裏を返すと、割合が 00 に近づくような無限個の例外を許す「ほぼ分解」までは、この定理は否定していません。

証明は命題9で両方が無限集合の場合に帰着し、次の定理を示します。

定理11 2つの無限集合 [2, Theorem 2.3]

無限集合 A,B⊆N0A,B\subseteq\mathbb{N}_0 で、(A+B)△P(A+B)\mathbin{\triangle}\mathcal{P} が有限になるものは存在しない。

証明の考え方

論文は80ページあり、証明はこの記事では再現しません。論文の序文に沿って骨組みだけを紹介します[2, §1]。定理11の A,BA,B があると仮定し、D=−BD=-B とおいて矛盾を導きます。

  1. 1
    余りを2つに分ける

    各素数 pp で、大きな aa の余りと大きな d∈Dd\in D の余りは重ならない(命題6)。これを広げて、余りの全体を AA 側の SpS_p と DD 側の補集合に分ける。

  2. 2
    ほぼ半分ずつ、ほぼ均等に

    衝突の数の評価から、素数について平均すると、SpS_p は余りのほぼ半分で、AA と DD はそれぞれの側にほぼ均等に散らばることを示す(第2節)。

  3. 3
    乗法的な指標と相関しない

    平方剰余の記号のような乗法的な指標をずらしたものと、SpS_p が相関し続けることはないと示す。2次の指標(第3節)と、それより高い次数の指標(第4節)を別々に扱う。

  4. 4
    素数をすべて含むことを使う

    取りこぼさない条件を、余りの集合のフーリエ変換についての評価に変える(第5節)。

  5. 5
    正の量を作って矛盾させる

    正の統計量を作り(第7節)、二分木についての有限体の上の比較(第6節)と算術的な比較(第8節)で評価する。並べ方を平均した上からの評価が、統計量の下からの評価と両立しないことを示す(第9節)。

1と2の段階は直観的に理解できます。余りのほぼ半分だけを使う集合の例は、平方数です。奇素数 pp で割った平方数の余りは、00 を含めて (p+1)/2(p+1)/2 種類しかありません。しかも平方数は xx 以下に約 x\sqrt{x} 個あり、エルスホルツの評価の大きさとも合います。

そのため、仮に分解できるなら AA と BB は平方数のような2次式の構造をもつはずだ、という見方がありました。グリーンとハーパーは、大きな篩についての逆向きの予想(そうした集合は2次式で記述できる)が正しければオストマンの予想が従うことを示していました[2, §1]。今回の証明は、その一般的な分類を経由せずに、すべての素数での余りの制限と、十分大きな素数をすべて含む条件を直接ぶつけて矛盾を出しています。

専門的な話指標との相関と、二分木の比較

第3節では、各素数で中心を独立に選んでずらした2次の指標を扱います。モーメントの議論とポアソンの和公式で共通の有理数の中心を強制し、2次の大きな篩で A,BA,B の長い裾の正の割合を少数の2次の核に閉じ込め、衝突の評価で矛盾させます。

第4節は、より高い次数の指標をコーシー=シュワルツの不等式の繰り返しで扱い、指標の打ち消しで対角項を抑えます。これで、混ざった指標との非相関(系4.2)が得られます。

余りの集合の指示関数は、決まった代数的な形をもつとは限りません。第6節は、移し替えで生じる二分木について、確率の L2L^2 の上限と混ざった指標との相関だけを仮定する有限体の上の比較を証明します。各点での値がかなり不均一でもよい点が、指示関数のフーリエ変換に使うために必要だと論文は述べています。

最後の第9節では、主要な変数の並べ替えについて平均します。ほとんどの並べ方の組は重なりの成分が少なく、相関が小さいことから、正の統計量の下限と矛盾します。移し替えの深さは十分大きく固定し、そのあとで大きなスケールを無限大に送ります。

これまでの研究

論文の序文によると、仮に分解があったときの A,BA,B への制限は、次のように強められてきました[2, §1]。

  • ラファーとマン:AA と BB はどちらも無限集合でなければならない(この記事の命題9)。
  • ホルンフェック:最初期の制限。続いてポメランス・シャールケジ・スチュワート、ホフマン・ヴォルケ、エルスホルツが篩法による制限を与えた。
  • エルスホルツ:A(x),B(x)A(x),B(x) はどちらも x\sqrt x の大きさ(対数の累乗の違いを除く)でなければならない。また、3つの集合の和 A+B+CA+B+C(どれも2個以上の数を含む)には分解できない。
  • エルスホルツとハーパー:正の整数での定式化で、評価を x/(log⁡xlog⁡log⁡x)\sqrt x/(\log x\log\log x) 以上、xlog⁡log⁡x\sqrt x\log\log x 以下(どちらも定数倍を除く)まで精密にした。
  • グリーンとハーパー:大きな篩の逆向きの予想が正しければ、オストマンの予想が従う。
  • クルート・マオ・ポホアタ・イップ:各 NN で、AA と BB はどちらも [1,N][1,N] の中で、ある2次式の像(m±m\pm 平方数の形の数)と共通の要素を一定以上もつ必要がある。その個数は NN とともに限りなく増えるが、N\sqrt N よりずっと少ない。また、2次式は NN ごとに変わってよい。2次式の像にほとんど含まれるというグリーンとハーパーの筋道に必要な強さには届いていなかった。

3つの集合の和に分解できないことは分かっていたのに、2つの場合が残っていたわけです。2つの和は、AA と BB の大きさがどちらも x\sqrt x 程度で釣り合い、数え上げだけでは矛盾が出ない、ぎりぎりの場合でした。

どこまで確かなのか

  • 論文は2026年9月24日付のプレプリントで、査読はまだです[2]。
  • リポジトリの照合(Comparator)の設定は2つあります。1つは主定理 OAI.Ostmann.main を、もう1つは同じ内容の OAI.Ostmann.inverseGoldbach と、定理11にあたる OAI.Ostmann.twoInfiniteSummandsImpossible を検査の対象にしています[4]。許可された公理は、Leanで標準的な propext、Quot.sound、Classical.choice の3つです。
  • 形式化の範囲の説明では、オストマンの予想の全体と、2つの無限集合の場合が形式化されたとされています[5]。
  • 2026年10月7日付の更新では、この論文は修正も取り下げもされていません[6]。

Leanで照合される主張は次のとおりです。Set ℕ はLeanで 00 を含む自然数の部分集合、Nontrivial は「2個以上の要素をもつ」、∆ は対称差です。定理10をそのまま書いたものだと読めます。

theorem main : ∀ A B : Set ℕ, A.Nontrivial → B.Nontrivial →
    Set.Infinite ((A + B) ∆ {n : ℕ | Nat.Prime n})

なお、筆者はこの記事を書いた時点で、Leanの検査を手元で再実行していません。

残された問題

  • ゴールドバッハ予想:今回の定理とは別の問題で、未解決のままです。
  • 大きな篩の逆問題:グリーンとハーパーの予想(篩の上限に近い集合は2次式で記述できる)そのものは、今回の論文でも証明されていません。論文自身が、そのような一般的な分類は主張しないと書いています。

OpenAIの数学論文には、同じく素数についての準リーマン予想の記事もあります。

参考文献

  1. OpenAI, openai/math: mathematical manuscripts and supporting proof artifacts, GitHub, 2026.
  2. OpenAI, The additive indecomposability of the primes, OpenAI Math Release preprint, September 24, 2026.
  3. T. Oliveira e Silva, S. Herzog, S. Pardi, Empirical verification of the even Goldbach conjecture and computation of prime gaps up to 4·10^18, Mathematics of Computation 83, 2014, pp. 2033–2060.
  4. OpenAI, Lean formalization: ComparatorChallenges/OstmannPrimes.lean and OstmannComplete.lean (with their .json settings), openai/math, 2026.
  5. OpenAI, Lean formalization scope: Ostmann’s inverse Goldbach conjecture, openai/math, lean/docs/013.md, 2026.
  6. OpenAI, openai/math: History, GitHub, 2026.