この記事の要点
- 鎖で測る
- 素イデアルを包含で並べた列 P0⊊P1⊊⋯⊊Pn の長さ n の上限を、環の次元(クルル次元)と呼びます。点・曲線・平面という直観を、素イデアルだけで言い直したものです。
- 図では段の数
- 「図で読む代数幾何」第2回の Spec の図では、閉包が d 次元の点を高さ d に浮かべました。点 P の高さは、その閉包に対応する環 A/P のクルル次元です。横から見た段の数から1を引いたものが、環の次元になります。
- 平面は2次元
- どんな体 k でも dimk[x,y]=2 であることを、素イデアルを調べて証明します。
- 高さと余高度
- 素イデアル P より小さい素イデアルが何段あるかが高さ、大きい素イデアルが何段あるかが余高度です。2つの和は環の次元になるとは限らず、直線と離れた1点の例では、それが図で見えます。
- 証明は、ステップの流れだけを短く書いています。「詳しく」の付いた行をクリックすると、そのステップの詳しい説明が開きます。説明の中にも開ける行があります。
- 定義・命題・定理には、記事全体で通し番号を振っています。
- おさらいは前の回や前提の知識の確認、もう少し詳しくは補足、専門的な話は先の回につながる話題です。どれも開かずに読み進められます。
- 各ブロックの「AIに質問」を押すと、その部分の内容を入れた質問文で、お使いのAIを開けます。
この連載について
この連載では、可換環論の次元論を、定義と命題を正確に書いたうえで図で確かめていきます。松村英之『復刊 可換環論』[1]とアティヤ・マクドナルド『可換代数入門』[2]に載っている次元論の定理を、順に取り上げる予定です。
環の次元には、いくつもの測り方があります。素イデアルの鎖の長さ、商体の超越次数、ヒルベルト多項式の次数、極大イデアルを「ほぼ」生成する元の個数(巴系の長さ)などです。次元論の中心にあるのは、適当な条件のもとでこれらがすべて一致するという定理です。
この記事では、最初の物差しである素イデアルの鎖を扱います。
図は、連載「図で読む代数幾何」の第2回で使った Spec の図の約束に乗せます。閉点を床に置き、閉包が d 次元の点を高さ d に浮かべる図です。第2回では「次元」を直観のまま使っていましたが、この記事でそれに定義を与えます。
環はすべて単位元をもつ可換環とします。素イデアルは P,Q、極大イデアルは M、イデアルは J と書きます。
素イデアルの鎖とクルル次元
直線の上の点、平面の上の曲線、空間の中の平面のように、図形は「1つ低い図形」を含みます。代数幾何では、既約な図形は素イデアルに対応し、図形が大きいほど素イデアルは小さくなります。そこで、素イデアルを包含の向きに何段積めるかで次元を測ります。
おさらいSpec と V(J)
環 A の素イデアル全体を SpecA と書き、その元を点と呼びます(図で読む代数幾何 第2回の定義1)。部分集合 S⊆A について、S を含む素イデアルの集まりを V(S) とおきます。
V(S)={P∈SpecA∣S⊆P}V(S)={P∈SpecA∣S⊆P}
イデアル J,K について、V は次の性質をもちます(図で読む代数幾何 第2回の命題3)。
V(0)=SpecAV(1)=∅V(J)∪V(K)=V(JK)V(J)∪V(K)=V(J∩K)V(J)∩V(K)=V(J+K)V(J)⊆V(K)⟺K⊆J
最後の式から、イデアルを大きくすると V は小さくなります。素イデアルは自分の根基に等しいので、素イデアル P,Q については P⊆Q⟺V(P)⊇V(Q) です。
例えば A=Z では V(4)={(2)}、V(3)={(3)} で、V(12)=V(4)∪V(3)={(2),(3)} となります。
定義1 素イデアルの鎖・クルル次元 [1, §5, p.37; 2, 第8章, p.139; 3, 定義2.34, p.77]
A=0 を環とする。素イデアルの列
P0⊊P1⊊⋯⊊Pn
を長さ n の素イデアルの鎖と呼ぶ。素イデアルの鎖の長さの上限を A のクルル次元(または単に次元)と呼び、dimA と書く。dimA は0以上の整数か ∞ である。
長さは「包含の記号の数」で、素イデアルの個数より1小さくなります。1つの素イデアルだけの列も、長さ0の鎖です。
鎖の右へ行くほど、素イデアルは大きくなります。代数幾何の言葉では、V(P0)⊋V(P1)⊋⋯ と、図形は小さくなっていきます。例えば k[x,y] では
(0)⊊(x)⊊(x, y)
が長さ2の鎖で、平面 ⊋ 直線 x=0 ⊋ 原点、という図形の列に対応します。この鎖から dimk[x,y]≥2 が分かります。dimk[x,y] がちょうど2であることは、後で証明します(定理7)。
素イデアルの鎖と、対応する閉集合の列を上下に並べると、包含の向きが逆になることが見えます。
(0)↓↑Speck[x,y]⊊⊋(x)↓↑V(x)⊊⊋(x, y)↓↑V(x, y)
下の行の V(x) は直線 x=0 の点(生成点 (x) を含む)の集まり、V(x, y) は原点 (x, y) の1点だけからなる集合です。
まず、次元が0と1の環を見ます。
おさらい素イデアル・極大イデアルと剰余環
P が素イデアルであることは、A/P が整域であることと同値です。M が極大イデアルであることは、A/M が体であることと同値です。体は整域なので、極大イデアルは素イデアルです。
イデアル J について、剰余環 A/J の素イデアルは、J を含む A の素イデアル Q の像 Q/J と、包含を保って1対1に対応します(対応定理)。剰余環どうしも同型で、次の図式が可換になります。
A↓⏐A/Q∼A/J↓⏐(A/J)/(Q/J)
Spec の言葉では、Q/J↦Q が Spec(A/J) から閉集合 V(J) への同相写像になります。
Spec(A/J) ∼ V(J)⊆SpecASpec(A/J) ∼ V(J)⊆SpecA
例えば k[x,y]/(x)≅k[y] の素イデアル (0) と (y−1) は、x を含む k[x,y] の素イデアル (x) と (x, y−1) に対応します。
命題2 0次元と1次元の環 [1, §5 例1〜3, p.38; 3, 例2.35, p.78; 2, 第8章, p.139]
(1) 体の次元は0である。
(2) 次元0の整域は体である。
(3) 体でない単項イデアル整域の次元は1である。とくに dimZ=1、dimk[x]=1。
(4) アルティン環の素イデアルはすべて極大イデアルで、次元は0である。
証明開く閉じる
(1) 体
K の
イデアルは (0) と K だけなので、素イデアルは (0) だけ。鎖は長さ0のものしかない。(2) 整域 A では (0) が素イデアルである。A が体でなければ、(0) を真に含む極大イデアルがあり、長さ1の鎖ができる。詳しく閉じる
A が体でなければ、0でも単元でもない元 a がある。(a)=A なので、(a) を含む極大イデアル M がある(ツォルンの補題)。a∈M かつ a=0 なので (0)⊊M。
(3) 単項イデアル整域 A の0でない素イデアルは極大であることを示す。そうすれば、鎖は (0)⊊M より長くならない。詳しく閉じる
0=P=(p) を
素イデアルとし、P⊆(q)=A とする。p∈(q) なので p=qr と書ける。 P は
素イデアルなので q∈P か r∈P。q∈P なら (q)=P である。 r∈P なら
r=ps と
書けて、p=qps。整域なので 1=qs となり、q は単元。これは (q)=A に反する。
(3) の
続き。A は体でないので、(2) の証明と同じく長さ1の鎖 (0)⊊M がある。よって dimA=1。(4) P を素イデアルとすると、B=A/P はアルティン環である整域である。これが体であることを示す。詳しく閉じる
0=b∈B を
とる。イデアルの減少列 (b)⊇(b2)⊇(b3)⊇⋯ は、アルティン環なのでどこかで止まる。 (bn)=(bn+1) と
なる n があり、bn=bn+1c(c∈B)と書ける。 bn(1−bc)=0 で、
整域なので
bn=0 から
bc=1。
よって b は単元で、B は体。
(4) の
続き。A/P が体なので P は極大イデアル。素イデアルどうしに包含関係がないので、鎖は長さ0のものしかない。
k[x]/(x2) は k 上2次元のベクトル空間、Z/12Z は12個の元からなる環です。どちらもイデアルの減少列が必ず止まるのでアルティン環で、(4) から0次元です。素イデアルを直接数えても確かめられます。
Speck[x]/(x2)SpecZ/12Z={(x)}={(2), (3)}
素イデアルは、k[x] では x2 を含むもの、Z では 12=22⋅3 を含むものに対応するからです。Z/12Z の2点には包含関係がないので、長さ1の鎖は作れません。
k[x]/(x2) は、第2回で「x と x2 の違いが重なった点として残る」と見た環でした。次元は、この違いを見ません。k と k[x]/(x2) は、どちらも1点からなる0次元の空間です。
例3 Z(5) は1次元
Z(5)={a/s∣a,s∈Z, 5∤s} の素イデアルは (0) と (5) の2つで(図で読む代数幾何 第2回の例11)、(0)⊊(5) が最長の鎖である。よって dimZ(5)=1。
Z(5) は単項イデアル整域で体ではないので、命題2(3) からも分かる。
Z と Z(5) はどちらも1次元ですが、閉点の数が違います。Z には素数の数だけ閉点があり、Z(5) には閉点が (5) の1つしかありません。次元は「点の数」ではなく「段の数」を数えています。
k[x]/(x2) Z/12Z Z(5) 下の段=閉点(極大イデアル) 線=包含(上の点の閉包に下の点が入る)
図1概念図5つの環の Spec を、素イデアルを点、包含を線で描いたものです。下の段が閉点(極大イデアル)で、線で結ばれた上の点は、閉包に下の点を含みます。オレンジの線と点が最長の鎖です。前の3つは1段だけなので次元0、後の2つは2段なので次元1です。Z の下の段は、すべての素数について続きます。
Spec の次元:位相空間の言葉で
クルル次元は環の言葉で定義しました。同じものを、SpecA という位相空間の言葉でも書けます。
おさらいザリスキー位相と1点の閉包
SpecA では、V(S) の形の集合を閉集合とします(ザリスキー位相、図で読む代数幾何 第2回の定義5)。1点 {P} の閉包について、次が成り立ちます(図で読む代数幾何 第2回の命題6)。
{P}=V(P)Q∈{P}⟺P⊆Q{P}=V(P)Q∈{P}⟺P⊆Q{P}Q∈{P}=V(P)⟺P⊆Q
とくに、{P} が閉集合であることと、P が極大イデアルであることは同値です。閉点は極大イデアルで、それ以外の点は、より大きい素イデアルを閉包に含みます。
例えば Speck[x,y] の点 (y−x2) の閉包 V(y−x2) は、a∈k ごとの閉点 (x−a, y−a2) をすべて含みます。k が代数閉体なら、V(y−x2) の閉点はこれで全部です。
おさらい既約な閉集合と生成点
空でない閉集合 Z が既約であるとは、閉集合の和 Z=Z1∪Z2 に書くと、必ず Z=Z1 か Z=Z2 になることでした(図で読む代数幾何 第2回の定義7)。点 η∈Z で {η}=Z となるものを、Z の生成点と呼びます。
Spec では、既約な閉集合と点がちょうど対応します(図で読む代数幾何 第2回の定理8)。既約な閉集合の全体を Irr(SpecA) と書くと、次の写像が全単射です。
SpecA⟶Irr(SpecA)P⟼V(P)={P}SpecA⟶Irr(SpecA)P⟼V(P)={P}SpecAP⟼V(P)⟶Irr(SpecA)={P}
一般に、V(J) が既約であることは、J が素イデアルであることと同値です。例えば k[x,y] で V(xy)=V(x)∪V(y) は2本の座標軸の和で、どちらの軸も V(xy) より小さいので、既約ではありません。(xy)=(xy) も素イデアルではありません。
定義4 位相空間の次元 [4, p.7; 1, §5, p.37]
位相空間 X の既約な閉集合の列
Z0⊊Z1⊊⋯⊊Zn
の長さ n の上限を、X の次元と呼び、dimX と書く。
点・曲線・平面のように、既約な図形を真に大きくしていける回数を数えています。ハーツホーンは、アフィン直線 A1 の既約な閉集合が「全体と1点」だけであることから dimA1=1 としています[4, 例1.6.1, p.7]。
命題5 [1, §5, p.37; 4, 命題1.7, p.8]
環 A=0 について dimSpecA=dimA。さらに、素イデアル P の閉包 V(P) について dimV(P)=dimA/P。
証明開く閉じる
この全単射は包含を逆にする:P⊆Q⟺V(P)⊇V(Q)。詳しく閉じる
P⊆Q なら、Q を含む素イデアルは P も含むので V(Q)⊆V(P)。逆に V(Q)⊆V(P) なら、Q∈V(Q)⊆V(P) なので P⊆Q。
よって
素イデアルの鎖 P0⊊⋯⊊Pn と、既約な閉集合の列 V(Pn)⊊⋯⊊V(P0) が、長さを変えずに1対1に対応する。上限をとって dimSpecA=dimA。後半。V(P) の既約な閉集合は V(Q)(Q⊇P)の形で、それは 対応定理により A/P の素イデアル Q/P と包含を保って対応する。前半と同じ議論で dimV(P)=dimA/P。詳しく閉じる
閉集合 V(P) の部分集合が V(P) の中で閉かつ既約であることと、SpecA の中で閉かつ既約であることは同じである(V(P) 自身が閉集合なので)。よって V(P) の既約な閉集合は、V(P) に含まれる V(Q)、つまり Q⊇P となる V(Q) である。
第2回の図の約束で「閉包が d 次元の点を高さ d に置く」と言ったときの d は、この命題から dimA/P です。次の例で確かめます。
P∈Speck[x,y](x−1, y−1)(y−x2)(0)k[x,y]/Pkk[t]k[x,y]P∈Speck[x,y](x−1, y−1)(y−x2)(0)dimV(P)=dimk[x,y]/P012
2行目は x↦t, y↦t2 による同型 k[x,y]/(y−x2)≅k[t] と、命題2(3) の dimk[t]=1 から分かります。3行目の dimk[x,y]=2 は、次の節で証明します。
2行目の同型は、次の完全列から来ています。
0⟶(y−x2)⟶k[x,y] x↦t, y↦t2 k[t]⟶00⟶(y−x2)⟶k[x,y] x↦t, y↦t2 k[t]⟶0
右の写像は x を t に送るので全射です。核については、y=(y−x2)+x2 を代入して f(x,y)=(y−x2)g(x,y)+h(x) と書くと、f が核に入るとき h(t)=0 となり、f∈(y−x2) が分かります。
剰余環の対応で、Speck[t] は放物線の閉集合 V(y−x2) と同相です。
図の高さは dimA/P です。P⊊Q なら、A/Q の鎖の手前に P を足せるので dimA/P≥dimA/Q+1 です。このため、素イデアルを小さくする向きに鎖をたどると、図の中では少なくとも1段ずつ上ります。
平面は2次元
dimk[x,y]≥2 は鎖 (0)⊊(x)⊊(x,y) から分かりました。逆向きの dimk[x,y]≤2 は、長さ3の鎖がないことを示す必要があります。そのために、k[x,y] の素イデアルを調べます。
第2回では、k が代数閉体のときに Speck[x,y] の点を3種類に分けました(図で読む代数幾何 第2回の例12、[4, 例2.3.4, p.102])。次の補題は、その議論から代数閉体の仮定を外したものです。
おさらいSpec k[x,y] の3種類の点
図で読む代数幾何 第2回の例12では、k が代数閉体のとき、Speck[x,y] の点を次の3種類に分けました。
- (0):平面全体の生成点。
- (f)(f は既約多項式):曲線 f=0 の生成点。
- (x−a, y−b)(a,b∈k):閉点。
f(a,b)=0 なら (0)⊊(f)⊊(x−a, y−b) で、平面・曲線・点の3段の鎖になります。
k が代数閉体でないと、閉点の形が変わります。例えば k=R では、R[x,y]/(x2+1, y)≅R[x]/(x2+1)≅C が体なので (x2+1, y) は極大イデアルですが、(x−a, y−b) の形ではありません。そこで次の補題は、閉点の形を使わずに「(0) でも単項でもない素イデアルは極大」という形で述べます。
補題6
k を任意の体とする。k[x,y] の素イデアル P が (0) でも単項イデアルでもなければ、P は極大イデアルである。
証明開く閉じる
P は既約多項式 g を含み、g で割り切れない h∈P も含む。詳しく閉じる
0でない f∈P を既約多項式の積に分解すると、P が素イデアルなので、どれかの因子 g が P に入る。P=(g) なので、g で割り切れない h∈P がある。
g と h から、x だけの0でない多項式 d(x)∈P が作れる。詳しく閉じる
第2回の 図で読む代数幾何 第2回の例12 の証明の4つめのステップと同じ議論で、そこでは代数閉体の仮定を使っていない。要点だけ書く。
g∈k[x] なら
d=g と
すればよい。以下、g は y を含むとする。 K=k(x) とおくと、
ガウスの補題に
より g は K[y] でも既約で、K[y] で h を割り切らない。 K[y] は
単項イデアル整域なので
ug+vh=1(
u,v∈K[y])と
書ける。分母を払うと u′g+v′h=d(x)=0 で、左辺は P に入る。
d(x) を
k[x] で
既約因子に分解すると、P が素イデアルなので、ある既約多項式 p(x) が P に入る。 L=k[x]/(p) は
体で、k[x,y]/(p)≅L[y]。P/(p) は L[y] の素イデアルである。 P/(p)=0。
もし0なら P=(p) となり、P が単項でないことに反する。 L[y] は
体でない単項イデアル整域なので、0でない素イデアル P/(p) は極大(命題2(3) の証明)。対応定理により P も極大イデアル。
証明の後半では、p(x) で割ってから P で割りました。2段階の剰余環を図式で書くと、次のようになります。
k[x,y]↓⏐k[x,y]/P∼k[x,y]/(p)≅L[y]↓⏐L[y]/(P/(p))
右下は、体でない単項イデアル整域 L[y] を0でない素イデアルで割った環なので体です。左下の k[x,y]/P はそれと同型なので体になり、P は極大イデアルです。
定理7 平面は2次元
任意の体 k について dimk[x,y]=2。
証明開く閉じる
dimk[x,y]≥2:(0)⊊(x)⊊(x,y) は素イデアルの鎖である。詳しく閉じる
k[x,y]/(x)≅k[y] は整域なので (x) は素イデアル、k[x,y]/(x,y)≅k は体なので (x,y) は極大イデアル。x=0、y∈/(x) なので包含は真。
dimk[x,y]≤2:長さ3の
鎖 P0⊊P1⊊P2⊊P3 があったとして矛盾を導く。P2 が (0) でも単項でもないことを示せば、補題6で P2 が極大となり、P2⊊P3 に反する。 P2=(0) は
P0⊊P2 から
明らか。 P2 が単項なら P1=P2 となって矛盾する。詳しく閉じる
P2=(f) と
する。P1=0 なので、P1 は既約多項式 g を含む(補題の証明の最初のステップ)。 g∈P1⊆(f) なので
f は
g を
割り切る。g は既約で f は単元でないので、f は g の定数倍で (g)=(f)。 (f)=(g)⊆P1⊆P2=(f) から
P1=P2。
これは P1⊊P2 に反する。
証明の中身を図形の言葉にすると、こうなります。(0) でない素イデアル P は既約多項式 g を含むので、V(P) は曲線 V(g) に含まれます。曲線より真に小さい既約な図形は点しかないので、平面・曲線・点の3段より多くは積めません。
同じ議論は、k[x] を Z に、k(x) を Q に置き換えても通ります。d(x) の代わりに0でない整数 d が出てきて、その素因数 p について Z[x]/(p)≅Fp[x] を使います。こうして dimZ[x]=2 が分かります。第2回の SpecZ[x] の図(図で読む代数幾何 第2回の例16)で、点が3段に分かれていたのはこのためです。
変数が n 個の多項式環でも、鎖
(0)⊊(x1)⊊(x1,x2)⊊⋯⊊(x1,…,xn)
から dimk[x1,…,xn]≥n が分かります[1, §5 例4, p.38]。各 (x1,…,xi) が素イデアルなのは、剰余環が整域 k[xi+1,…,xn] だからです。
等号 dimk[x1,…,xn]=n を、n=2 のときのように素イデアルを分類して示すのは大変です。等号は次の定理から従います。
おさらい商体と超越次数
整域 B の商体 FracB は、分数 b/b′(b,b′∈B, b′=0)の全体です。体の拡大 L/k で、k 上代数的に独立な元の集まりのうち極大なものを超越基底と呼び、その個数を超越次数 trdegkL と書きます。個数は超越基底の取り方によりません。
trdegkk(x1,…,xn)=ntrdegkk(t)=1trdegQQ(2)=0trdegkk(x1,…,xn)=ntrdegkk(t)=1trdegQQ(2)=0trdegkk(x1,…,xn)trdegkk(t)trdegQQ(2)=n=1=0
部分環が真に小さくても、商体は同じになることがあります。k[t2,t3] の商体は t=t3/t2 を含むので、k(t) に等しくなります。
k[t2,t3]↓⏐Frack[t2,t3]k[t]↓⏐k(t)
定理8 [4, 定理1.8A, p.8; 1, 定理5.6((1)), p.43]
k を体、B を k 上有限生成の整域とする。
(1) dimB は、B の商体の k 上の超越次数に等しい。
(2) B のすべての素イデアル P について htP+dimB/P=dimB(ht は次の節で定義する)。
k[x1,…,xn] の商体 k(x1,…,xn) の超越次数は n なので、(1) から dimk[x1,…,xn]=n です。証明にはネーターの正規化定理を使うので、第4回で扱います(第4回の定理17)。
(1) で計算できる例を挙げます。
dimk[x,y]/(y−x2)=trdegkk(t)=1dimk[x,y,z]/(z−xy)=trdegkk(x,y)=2dimk[x,y]/(y2−x3)=trdegkk(t)=1
1つめと2つめは y=x2、z=xy で変数を1つ消せることから、3つめは x↦t2, y↦t3 で k[x,y]/(y2−x3)≅k[t2,t3] となり、商体が k(t) であることから分かります。尖点のある曲線 y2=x3 も、次元は1です。
高さと余高度
次元は、環全体での鎖の長さの上限でした。1つの素イデアルに注目して、それより小さい側と大きい側で鎖の長さを測ることもできます。
定義9 高さ・余高度 [1, §5, p.37; 2, 11.2節, p.187; 3, 定義2.34, p.77]
P を環 A の素イデアルとする。P で終わる素イデアルの鎖 P0⊊⋯⊊Pn=P の長さの上限を P の高さと呼び、htP と書く。P から始まる鎖 P=P0⊊⋯⊊Pn の長さの上限を余高度と呼び、cohtP と書く。
高さは「P より小さい素イデアルが何段あるか」、余高度は「P より大きい素イデアルが何段あるか」です。Spec の図では小さい素イデアルほど上にあるので、高さは点から上へ(生成点の側へ)、余高度は点から下へ(閉点の側へ)数えます。
アティヤ・マクドナルドは htP を「高度」と呼び、余高度を「深度」と呼んでいます[2, 第11章, p.187]。これは後の回で扱う深さ(正則列の長さ)とは別のものなので、この連載では松村の「余高度」を使います。
おさらい局所化と素イデアル
積閉集合 S による局所化 S−1A は、分母に S の元を許した分数 a/s の環です(図で読む代数幾何 第3回の定義10)。素イデアル P について S=A∖P としたものを AP と書きます。
ι:A→S−1A, a↦a/1 とします。S−1A の素イデアルは、S と交わらない A の素イデアルと、包含を保って1対1に対応します[2, 命題3.11 iv), p.63]。
Q⟼S−1QQ′⟼ι−1(Q′)=Q′∩AQ⟼S−1QQ′⟼ι−1(Q′)=Q′∩AQ′⟼ι−1(Q′)Q⟼S−1Q=Q′∩A
右の Q′∩A は、ι による逆像を略して書いたものです。環の写像と Spec の写像は、向きが逆になります。
AιS−1ASpecASpecιSpecS−1A
S=A∖P のとき、Q∩S=∅ は Q⊆P と同じです。よって AP の素イデアルは P に含まれる素イデアルと対応し、PAP がただ1つの極大イデアルになります(AP は局所環)。
例えば Z(5) の素イデアルは (0) と 5Z(5) で、Z の (0) と (5) に対応します(図で読む代数幾何 第2回の例11)。
命題10 [1, §5, p.37; 2, 命題3.11 iv), p.63]
P を環 A の素イデアルとする。
(1) htP=dimAP。
(2) cohtP=dimA/P。
(3) htP+cohtP≤dimA。
(4) dimA=supMhtM(M は極大イデアルの全体を動く)。
証明開く閉じる
(1) AP の素イデアルは、P に含まれる A の素イデアルと、包含を保って1対1に対応する [2, 命題3.11 iv), p.63]。よって AP の鎖は、P の中にある A の鎖と同じものである。詳しく閉じる
引用した命題は「S−1A の素イデアルは、S と交わらない A の素イデアル Q の S−1Q と対応する」というもの。S=A∖P のとき、S と交わらないことは Q⊆P と同じである。
P の
中にある鎖は、最後が P でなければ P を付け足して長くできる。よって長さの上限は、P で終わる鎖の上限 htP に等しい。 (2)
対応定理に
より、A/P の鎖は P を含む A の鎖と同じものである。(1) と同じく、最初が P でなければ P を付け足せる。(3)
P で
終わる鎖と P から始まる鎖をつなぐと、長さが和になる A の鎖ができる。(4) どの鎖も、最後の素イデアルを含む極大イデアルを付け足して(同じなら付け足さずに)極大イデアルで終わる鎖にできる。鎖の長さは減らない。
(1) は、Spec の図で P を閉包に含む点(P より小さい素イデアル)だけを残すと、局所化 AP の Spec になる、ということです。局所化は、点のまわりだけを見る操作でした(図で読む代数幾何 第3回の定義10)。
(1) と (2) の証明で使った鎖の対応を、図式で書いておきます。AP の鎖は、∩A(A→AP による逆像)で、P で終わる A の鎖に移ります。
P0AP↓⏐∩AP0⊊⊊P1AP↓⏐∩AP1⊊⋯⊊⊊⋯⊊PAP↓⏐∩AP
A/P の鎖は、π:A→A/P による逆像で、P から始まる A の鎖に移ります。
(0)↓⏐π−1P⊊⊊P1/P↓⏐π−1P1⊊⋯⊊⊊⋯⊊Pn/P↓⏐π−1Pn
環の側では A から2つの向きに写像が出ていて、Spec の側では矢印の向きが逆になります。
AP⟵A π A/PSpecAP⟶SpecA⟵SpecA/PSpecAPAP⟵A π A/P⟶SpecA⟵SpecA/P
左の像は P に含まれる素イデアルの全体、右の像は P の閉包 V(P) です。2つは点 P だけで交わり、htP と cohtP はそれぞれの次元です。
例11 k[x,y] の高さと余高度
k を体とし、A=k[x,y] とする。
P(0)(y−x2)(x−1, y−1)htP012cohtP210P(0)(y−x2)(x−1, y−1)htP+cohtP222
どの行でも和は dimA=2 である。
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余高度は
命題10(2) と
前の節の表から:dimA/P が順に 2,1,0。ht(0)=0 は
定義から。ht(x−1,y−1)=2 は、鎖 (0)⊊(y−x2)⊊(x−1,y−1) と dimA=2 から。 ht(y−x2)=1:(0)⊊Q⊊(y−x2) となる素イデアル Q がないことを示す。詳しく閉じる
そのような Q があれば、Q は既約多項式 g を含み、g∈(y−x2) なので y−x2 が g を割り切る。g は既約なので (g)=(y−x2) で、(y−x2)⊆Q となり矛盾する(定理7の証明で、P2 が単項の場合を否定したのと同じ議論)。
図2で、これを Spec の図の上で見ます。点 (1,1) で終わる鎖は、通る曲線を変えても、必ず2段で床に着きます。
(0)(x−1, y−1)(y−x2)(y−x)(x−1)
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1本の鎖 (0)⊊(y−x2)⊊(x−1, y−1) です。矢印は「下の点は上の点の閉包に入る」、つまり素イデアルが大きくなる向きです。「真横」から見ると、平面の生成点(高さ2)から放物線の生成点(高さ1)を通って閉点(床)まで、2段で降りています。
点 (1,1) を通る別の既約な曲線 y=x、x=1 を通っても、鎖はやはり2段で床に着きます。点 (1,1) で終わる鎖の長さの上限が、この点の高さです。ここに描いた点((0)、点を通る曲線の生成点、閉点 (1,1))が、局所化 k[x,y](x−1,y−1) の Spec の点の代表です。
灰色の矢印は長さ1の鎖 (0)⊊(x−1, y−1) です。間に (y−x2) を挟めるので、これ以上伸ばせない鎖ではありません。「真上」から見ると、どの鎖も床の上の線分に潰れて、長さの違いが見えなくなります。
放物線の生成点から下へ伸びる鎖は、どれも1段で床に着きます。(y−x2) から始まる鎖の長さの上限(余高度)は1で、これは放物線 V(y−x2) の次元です。上へは (0) まで1段なので、高さも1。1+1=2 が平面の次元になります。
図2概念図Speck[x,y] の素イデアルの鎖。床が閉点、高さ1の雲が曲線の生成点、高さ2の雲が平面の生成点です(第2回の図2と同じ約束)。矢印は、鎖の中で素イデアルが大きくなる向きです。「真横」から見ると段の数が、「真上」から見ると、鎖がどの曲線を通って閉点に降りるかが見えます。ボタンで、点 (1,1) の高さ、挟み込める短い鎖、放物線の生成点の余高度を順に表示します。
「挟める鎖」のボタンで出る灰色の矢印 (0)⊊(x−1, y−1) は、長さ1の鎖です。間に (y−x2) を挟めるので、これ以上伸ばせない鎖ではありません。間に何も挟めない鎖を飽和した鎖と呼びます[1, §5, p.38]。k[x,y] では、飽和した鎖で (0) から閉点まで行くと、どの道を選んでも長さは2になります。
高さはイデアルにも定義できます。
定義12 イデアルの高さ [1, §5, p.38]
環 A のイデアル J=A について、J を含む素イデアルの高さの下限を J の高さと呼び、htJ と書く。このとき htJ+dimA/J≤dimA が成り立つ。
不等式は、A/J の鎖 P0/J⊊⋯⊊Pn/J の手前に、P0 で終わる長さ htP0≥htJ の鎖をつなげば分かります。
k[x,y] で計算すると、次のようになります。
ht(xy)=1ht(x, y)=2ht(x2, xy)=1ht(xy)=1ht(x, y)=2ht(x2, xy)=1ht(xy)ht(x, y)ht(x2, xy)=1=2=1
1つめ:xy を含む素イデアルは x か y を含むので (0) ではなく、高さは1以上です。一方 (x) は xy を含み、高さは1です(例11の (y−x2) と同じ議論)。
2つめ:(x,y) を含む素イデアルは (x,y) 自身だけで、その高さは2です。3つめ:x2 を含む素イデアルは x を含むので、1つめと同じく高さは1になります。V(x2, xy) は直線 x=0 です。
k[x,y] のような環では、イデアルの高さは、図形 V(J) の成分のうち一番大きいものが、全体から何次元下がっているか(余次元)に当たります。
おさらい零化イデアルと台
A 加群 M の零化イデアル ann(M)={a∈A∣aM=0} はイデアルで、M は A/ann(M) 加群と見ることもできます。M の台は、局所化 MP が0でない素イデアル P の集合です。
SuppM={P∈SpecA∣MP=0}
M が有限生成なら SuppM=V(annM) です。例えば A=k[x,y] と M=k[x,y]/(y) では、次の完全列があります。
0⟶(y)⟶k[x,y]⟶M⟶00⟶(y)⟶k[x,y]⟶M⟶0
局所化は完全列を保つので MP≅AP/yAP です。y∈/P なら y は AP の単元で MP=0、y∈P なら yAP⊆PAP なので MP=0 です。よって SuppM=V(y) となります。
加群にも次元が定義されます。A 加群 M について dimM=dimA/ann(M) とします[1, §5, p.38](ann(M)={a∈A∣aM=0})。例えば A=k[x,y] 上の加群 M=k[x,y]/(y) は ann(M)=(y) なので dimM=dimk[x]=1 で、直線の上に載った加群です。ネーター環の上の有限生成加群なら、これは M の台 SuppM=V(annM) の次元に等しくなります[1, §5, p.38]。
高さと余高度の和が次元にならない例
定理8(2) は、有限生成の整域について htP+cohtP=dimB が成り立つというものでした。整域という仮定を外すと、成り立たなくなります。図形がいくつかの成分に分かれ、成分ごとに次元が違うときです。
おさらい直積環の Spec と中国剰余定理
環の直積 A1×A2 の素イデアルは、P1×A2(P1∈SpecA1)か A1×P2(P2∈SpecA2)の形です。e=(1,0) と 1−e=(0,1) は積が0で和が1なので、素イデアルはどちらか一方だけを含むからです。
よって Spec は2つの Spec の交わらない和になり、次元は大きい方になります。
Spec(A1×A2)=SpecA1⊔SpecA2dim(A1×A2)=max(dimA1, dimA2)
直積は中国剰余定理で現れます。イデアル J,K が J+K=A をみたせば、次の写像は同型です。
A/(J∩K) ∼ A/J×A/Ka⟼(amodJ, amodK)A/(J∩K) ∼ A/J×A/Ka⟼(amodJ, amodK)
例えば Z/12Z≅Z/4Z×Z/3Z で、SpecZ/12Z の2点は SpecZ/4Z={(2)} と SpecZ/3Z={(3)} に分かれます。
例13 直線と離れた1点
k を体とし、A=k[x,y]/(xy, y2−y) とする。V(xy, y2−y) は直線 y=0 と点 (0,1) の和である。A≅k[x]×k で、dimA=1。極大イデアル M=(x, y−1)/(xy, y2−y) について
htM=0cohtM=0htM+cohtM=0<1=dimAhtM=0cohtM=0htM+cohtM=0<1=dimAhtMcohtMhtM+cohtM=0=0=0<1=dimA
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J=(xy, y2−y) は (y)∩(x, y−1) に等しい。詳しく閉じる
xy=y⋅x、
y2−y=y⋅(y−1) なので
J=y⋅(x, y−1)。
f∈(y)∩(x, y−1) なら f=yg で、点 (0,1) での値は 1⋅g(0,1)。これが0なので g∈(x, y−1)、つまり f∈y⋅(x, y−1)=J。逆の包含は明らか。詳しく閉じる
(x, y−1) は f↦f(0,1) の核である(剰余環が k になる極大イデアル)。
(y)+(x, y−1)∋y−(y−1)=1 なので、
中国剰余定理に
より A≅k[x,y]/(y)×k[x,y]/(x, y−1)≅k[x]×k。 A の素イデアルは、J を含む k[x,y] の素イデアル、つまり (y) か (x, y−1) を含むものである。詳しく閉じる
P⊇J⊇(y)(x, y−1) で P は素イデアルなので、P⊇(y) または P⊇(x, y−1)(図で読む代数幾何 第2回の命題3(3) の証明と同じ)。
(x, y−1) を
含む素イデアルは自分だけ(極大イデアル)。(y) を含む素イデアルは k[x,y]/(y)≅k[x] の素イデアルと対応し、次元1の部分をなす。よって dimA=max(1,0)=1。 M より
真に小さい素イデアルは、(y) を含むはずだが、y∈/(x, y−1)(点 (0,1) での値が1)なので存在しない。よって htM=0。M は極大なので cohtM=0。
証明で使った同型と、そこから分かる Spec の分かれ方を並べると、次のとおりです。
ASpecA=k[x,y]/(xy, y2−y) ∼ k[x,y]/(y)×k[x,y]/(x, y−1)≅k[x]×k=Speck[x]⊔Speck
右辺の Speck[x] が直線 y=0、Speck が点 (0,1) です。
V(y)(x, y−1)(y)長さ 0長さ 1
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床が閉点の全体です。xy=0 かつ y2=y をみたす点は、直線 y=0 の点と、離れた1点 (0,1) です。
直線の生成点 (y) を高さ1に描きました。離れた点 (x, y−1) は極大イデアルであると同時に極小な素イデアルでもあるので、床にとどまります。この点は、自分自身の生成点です。
これ以上伸ばせない鎖は、直線の上では長さ1((y)⊊(x−a, y))、離れた点では長さ0です。「真横」(x 軸の方向)から見ると、直線は1点に潰れてその上に雲が1段あり、離れた点だけが床に1つ残ります。環の次元は長い方の1ですが、離れた点の高さは0です。
図3具体例Speck[x,y]/(xy, y2−y)。床の点は方程式 xy=0, y2=y をみたす点として計算して描いています(緑の直線と、オレンジの点 (0,1))。高さ1の雲が直線の生成点 (y) です。「真横」(x 軸の方向)から見ると、直線の上には段が1つあり、離れた点の上には何もありません。
離れた点 (x, y−1) は、極大イデアルであると同時に極小な素イデアルでもあります。それ自身が1つの既約成分で、その成分は0次元です。環全体の次元は大きい方の成分の次元1で決まるので、この点では「上にも下にも段がないのに、環は1次元」ということが起こります。
成分が交わっていても同じことが起こります。
例14 平面とそれを貫く直線
A=k[x,y,z]/(xz, yz) とする。V(xz, yz) は平面 z=0 と直線 x=y=0(z 軸)の和で、dimA=2。直線の上の点 (0,0,1) に対応する極大イデアル M=(x, y, z−1) について htM=1、cohtM=0 である。
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前の
例と同じく (xz, yz)=(z)∩(x, y) で、A の素イデアルは (z) か (x,y) を含むものである。(z) を
含む部分は k[x,y,z]/(z)≅k[x,y] で2次元、(x,y) を含む部分は k[z] で1次元。よって dimA=2。 M は
z を
含まない(点 (0,0,1) での値が1)ので、M に含まれる素イデアルは (x,y) を含む。それらは k[x,y,z]/(x,y)≅k[z] の (0) と (z−1) に対応する、(x,y) と M だけである。よって M で終わる最長の鎖は (x,y)⊊M で、htM=1。
原点 (x,y,z) は平面の上にもあるので高さは2ですが、直線の上の点 (0,0,1) の高さは1です。高さは「その点のまわりで図形が何次元か」を測っていて、平面から離れた点では直線しか見えません。命題10(1) の htM=dimAM は、このことを言っています。
専門的な話鎖状環と永田の例
素イデアル P⊆Q ごとに、P から Q までの飽和した鎖の長さがすべて同じ有限の値になる環を鎖状環と呼びます[1, §5, p.38–39]。k[x,y] は鎖状環です。飽和した鎖の各段で次元がちょうど1下がることが 定理8(2) から分かるので、図2のようにどの道を通っても段の数は同じになります。
局所整域が鎖状環なら、すべての素イデアルで htP+cohtP=dimA が成り立ちます。応用上重要なネーター環はほとんど鎖状環ですが、鎖状でないネーター環の例を永田雅宜が見つけています[1, §5, p.39]。
鎖状環と、その強い形である強鎖状環は、この連載の後の回で扱います。
まとめ
| 環 | 次元 | 理由 |
| 体 k、k[x]/(x2)、Z/12Z | 0 | アルティン環(命題2) |
| Z、k[x]、Z(5) | 1 | 体でない単項イデアル整域 |
| k[x,y]、Z[x] | 2 | 素イデアルの分類(定理7) |
| k[x1,…,xn] | n | ≥n は鎖、等号は超越次数(定理8) |
| k[x,y]/(xy, y2−y) | 1 | 成分の次元の大きい方 |
Spec の図では、次元は「横から見た段の数 − 1」、高さはその点から上にある段の数、余高度は下にある段の数です。この見方は、代数幾何の連載の図を読むときにもそのまま使えます。
次回:整拡大と Spec の写像
次回は、環 A⊆B で B の元がすべて A 係数のモニックな方程式をみたす場合(整拡大)を扱います。このとき SpecB→SpecA は全射で、A の鎖は B の鎖に持ち上がり、dimB=dimA となります。
例として、SpecZ[i]→SpecZ で素数 p の上に何点あるか(2 では1点、5=(2+i)(2−i) では2点、3 では1点)や、放物線を軸に射影する写像を図で見ます。
この連載で扱う予定の内容は、次のとおりです。順番や回の分け方は、書きながら変えることがあります。
- クルル次元と高さ(この記事)
- 整拡大:横たわり・上昇定理・比較不能性
- 下降定理と開写像
- ネーターの正規化定理と超越次数
- 次数付き環のヒルベルト多項式
- ヒルベルト–サミュエル関数
- 次元定理(鎖の長さ=多項式の次数=巴系の長さ)
- クルルの単項イデアル定理と高さ定理
- 巴系(パラメータ系)
- 正則局所環と接空間
- 多項式環の次元とファイバー
- 鎖状環・深さ・コーエン–マコーレー環
図で読む代数幾何 第2回の定義1 素スペクトル
環 A の素イデアル全体の集合を SpecA と書き、A の素スペクトルと呼ぶ。SpecA の元を点と呼ぶ。部分集合 S⊆A に対して
V(S)={P∈SpecA∣S⊆P}V(S)={P∈SpecA∣S⊆P}
とおく。
図で読む代数幾何 第2回の命題3
A を環、J,K をイデアル、Sλ(λ∈Λ)を部分集合とする。
(1) V(0)=SpecA、V(1)=∅。
(2) ⋂λV(Sλ)=V(⋃λSλ)。
(3) V(J)∪V(K)=V(JK)=V(J∩K)。
(4) V(J)⊆V(K)⟺K⊆J。とくに V(J)=V(J)。
図で読む代数幾何 第2回の例11 SpecZ(5)
Z(5)={a/b∈Q∣5∤b} とする。SpecZ(5) は2点 (0) と (5) からなる。{(5)} は閉集合で、{(0)} は開集合であり、その閉包は全体である。
図で読む代数幾何 第2回の定義5 ザリスキー位相
V(S)(S⊆A)の形の集合を閉集合とする SpecA の位相を、ザリスキー位相と呼ぶ。
図で読む代数幾何 第2回の命題6
P∈SpecA とする。
(1) 1点集合 {P} の閉包は V(P) である。
(2) Q が {P} の閉包に入る ⟺ P⊆Q。
(3) {P} が閉集合 ⟺ P は極大イデアル。
図で読む代数幾何 第2回の定義7 既約・生成点
位相空間 X の閉集合 Z が既約であるとは、Z=∅ であり、閉集合 Z1,Z2 を使って Z=Z1∪Z2 と書くと、必ず Z=Z1 または Z=Z2 となることをいう。
点 η∈Z で、{η} の閉包が Z に等しいものを、Z の生成点と呼ぶ。
図で読む代数幾何 第2回の定理8 既約な閉集合と点
A を環とする。対応 P↦V(P) は、SpecA から、SpecA の既約な閉集合全体への全単射である。言い換えると、SpecA の既約な閉集合は、どれもちょうど1つの生成点をもつ。
図で読む代数幾何 第2回の例12 Speck[x,y]
k を代数閉体とする。Speck[x,y] の点は、次の3種類である。
- (0):全体の生成点。
- (g)(g は既約多項式):既約な曲線 V(g) の生成点。
- (x−a, y−b)(a,b∈k):閉点。
図で読む代数幾何 第2回の例16 SpecZ[x]
SpecZ[x] の点は、次の4種類である。
- (0):全体の生成点。
- (p)(p は素数):閉集合 V(p) の生成点。
- (f)(f は Z[x] の既約多項式で、次数が1以上):曲線 V(f) の生成点。
- (p, f)(p は素数、f は p で割った余りの多項式 fˉ∈Fp[x] が既約になる多項式):閉点。剰余体は有限体 Fp[x]/(fˉ)。
第4回の定理17 次元は超越次数
B を体 k 上有限生成の整域とし、d=trdegkFrac(B) とする。
(1) dimB=d。
(2) (0) から極大イデアルまでの飽和した素イデアルの鎖 (0)=Q0⊊Q1⊊⋯⊊Qm の長さ m は、すべて d である。
(3) B のすべての素イデアル P について htP+dimB/P=dimB。
図で読む代数幾何 第3回の定義10 局所化
環 A の部分集合 S が 1∈S をみたし、積について閉じているとき、S を積閉集合と呼ぶ。a∈A, s∈S の組を a/s と書き、u(at−bs)=0 となる u∈S があるとき a/s=b/t と同一視したものの全体を S−1A と書く。和と積を分数と同じ式で定めると環になる。とくに、
- 素イデアル P について S=A∖P とした環を AP と書き、A の P での局所化と呼ぶ。
- f∈A について S={1,f,f2,…} とした環を Af と書く。
イデアルの減少列 J1⊇J2⊇⋯ が必ずどこかで止まる可換環。体 k 上有限次元の環はアルティン環である。アルティン環は、極大イデアルでの局所化の有限個の積 A≅∏MAM に分かれる(構造定理)。
環 A とイデアル J について、A/J のイデアルは、J を含む A のイデアル K の像 K/J と1対1に対応する。素イデアルは素イデアルに、極大イデアルは極大イデアルに対応する。
定数でない1変数多項式が、必ずその体の中に根をもつ体。例:C。R は代数閉体ではない(x2+1 に根がない)。代数閉体は必ず無限体である。
一意分解整域 R と商体 K について、係数に共通の因子がない(原始的な)f∈R[y] が K[y] で g∈R[y] を割り切れば、R[y] でも割り切る。また、次数1以上の原始的な既約多項式は K[y] でも既約である。とくに R[y] も一意分解整域になる。
体の拡大 K/k で、k 上代数的に独立な元をできるだけ多くとったときの個数。例:有理関数体 k(x1,…,xn) の k 上の超越次数は n。
体 k 上の有限生成代数 B には、k 上代数的に独立な元 y1,…,yd があって、B は k[y1,…,yd] 上で有限生成加群になる、という定理。図形を d 次元の空間へうまく射影できることに当たる。
環 A のイデアル J,K が J+K=A をみたすとき、JK=J∩K で、A/JK≅A/J×A/K。整数なら、互いに素な m,n について Z/mn≅Z/m×Z/n。
環 A の素イデアルの真に増える鎖 P0⊊P1⊊⋯⊊Pn の長さ n の最大値。dimA と書く。例:dimk[x1,…,xn]=n、dimZ=1、体の次元は0。
整域 A の元の分数 a/b(b=0)全体がなす体。FracA と書く。例:Z の商体は Q、k[x] の商体は有理関数体 k(x)。
次数1の元で生成される次数付き環 A(A0 はアルティン環)上の有限生成次数付き加群 M について、十分大きい n で Mn の長さに一致する n の多項式。例:k[x,y] では n+1、k[x,y,z]/(F)(F は e 次の斉次式)では en−e(e−3)/2。
d 次元のネーター局所環 (A,M) の元 x1,…,xd∈M で、(x1,…,xd) が M 準素イデアルになるもの。パラメータ系とも言う。例:k[x,y](x,y) の x,y や x2,y3。次元定理から、必ず存在する。
イデアル J の根基 J は、ある n≥1 で xn∈J となる元 x の全体。J を含む素イデアルすべての共通部分に等しい。例:k[x,y] で (x2,xy)=(x)。
既約な閉集合 Z に対して、閉包がちょうど Z になる点を Z の生成点と呼ぶ。Speck[x,y] では、素イデアル (0) に対応する点が平面全体の生成点になる。
0 でない元どうしの積が0にならない可換環(ab=0 なら a=0 または b=0)。例:Z、体上の多項式環。A/P が整域であることと、P が素イデアルであることは同値。
環 A をイデアル J で割った環 A/J。差が J に入る元どうしを同じとみなす。例:k[x,y]/(y)≅k[x]。
位相空間の間の全単射 f で、f も逆写像も連続なもの。開集合を開集合にちょうど移すので、位相空間として同じものとみなせる。
すべてのイデアルが1つの元で生成される整域。例:Z、体上の1変数多項式環 k[x]。素イデアルは (0) と、既約元が生成する (p) だけで、(p) は極大イデアルになる。
掛けて1になる相手(逆元)をもつ環の元。例:Z の単元は ±1、体では0以外のすべての元。
加群(ベクトル空間でもよい)の準同型の列 0→UαVβW→0 で、α が単射、β が全射、Imα=Kerβ となるもの。このとき W≅V/U で、長さ(有限次元なら次元)について ℓ(V)=ℓ(U)+ℓ(W)。
定数でなく、定数でない2つの多項式の積に分解できない多項式。例:R[x] の x2+1。C[x] では (x+i)(x−i) と分解するので既約ではない。
体 k を含む環の元 y1,…,yd が k 上代数的に独立とは、0 でない多項式 g で g(y1,…,yd)=0 となるものがないこと。このとき k[y1,…,yd] は d 変数の多項式環と同じものになる。
環 A の元の列 x1,…,xr で、各 xi が A/(x1,…,xi−1) の非零因子であり、A/(x1,…,xr)=0 となるもの。例:k[x,y] の x2, y3。k[x,y]/(x2,xy) の y は xy=0 なので正則列でない。
極大イデアルがただ1つの可換環。極大イデアルに入らない元はすべて単元になる。例:素イデアル P での局所化 AP(極大イデアルは a/s(a∈P)の全体)、k[x]/(x2)、Z/4Z。
素イデアルの鎖 P0⊊⋯⊊Pn で、隣りあう Pi−1⊊Pi の間に別の素イデアルを挟めないもの。それ以上細かくできない鎖。
環 A の上の加群(A 加群)とは、足し算について可換群で、A の元を掛けられ、分配法則などベクトル空間と同じ規則をみたすもの。体の上の加群はベクトル空間で、A のイデアルも A 加群。
すべてのイデアルが有限個の元で生成される可換環。イデアルの増大列 J1⊆J2⊆⋯ が必ずどこかで止まる、と言っても同じ。
素イデアル P⊆Q ごとに、P から Q までの飽和した鎖の長さがすべて同じ有限の値になる環。体上有限生成の整域は鎖状環である。
元が有限個の体。素数 r で割った余りの体 Fr のほか、各 d≥1 について元がちょうど rd 個の体 Frd が(同型を除いて)ただ1つある。Frd は Fr 上の d 次元のベクトル空間である。
参考文献
- 松村英之, 『復刊 可換環論』, 共立出版, 2000.
- M. F. アティヤ, I. G. マクドナルド(新妻弘 訳), 『可換代数入門』, 共立出版, 2006.
- 後藤四郎, 渡辺敬一, 『可換環論』, 日本評論社, 2011.
- R. ハーツホーン(高橋宣能・松下大介 訳), 『代数幾何学 1』, 丸善出版, 2013.