数学ビジュアライズ

可換環論図で読む次元論第9回

点まで切る元の組:巴系と解析的独立

d 次元の局所環で原点を切り出す d 個の元(巴系)の性質を調べます。最初の i 個で割ると次元はちょうど d−i になること、高さは元の個数より小さくなりうること、巴系の間に関係式がないこと(解析的独立)を、平面と直線の和や尖点の例で計算します。完備な局所環がべき級数環の上で有限になることと、交点重複度が巴系で割った長さであることも確かめます。

目次
  1. 巴系をもう一度
  2. 巴系の定義と例
  3. 一部で割る:次元は1つずつ下がる
  4. 巴系と高さ
  5. 解析的独立:巴系の間に関係式はない
  6. 完備局所環はべき級数環の上で有限
  7. 交点重複度は巴系で割った長さ
  8. まとめ
  9. 次回:正則局所環
  10. 参考文献
この記事の要点
巴系
dd 次元のネーター局所環 (A,M)(A,M) で、(x1,…,xd)(x_1,\dots,x_d) が MM 準素イデアルになる dd 個の元を巴系と呼びます。図形の言葉では、dd 本の方程式で原点だけを切り出す元の組です。
一部で割る
巴系の最初の ii 個で割ると、次元はちょうど d−id-i になります。逆に dim⁡A/(x1,…,xi)=d−i\dim A/(x_1,\dots,x_i)=d-i なら、巴系に延ばせます。1つの元 ff が巴系の一部になるのは、次元 dd の成分の上で ff が恒等的に0でないときです。
高さ
巴系の一部が生成するイデアルの高さは、元の個数と同じとは限りません。平面と直線の和では、xx で割ると次元は1下がるのに、高さは0です。それでも、うまく選べば、どの部分の高さも元の個数に一致する巴系があります。
解析的独立
巴系の間には、係数に単元を含む斉次式の関係はありません。多項式環 k[X1,…,Xd]k[X_1,\dots,X_d] から ⨁sqs/qsM\bigoplus_sq^s/q^sM への写像が同型になる、と言い換えられます。完備な場合は、AA がべき級数環 k[[T1,…,Td]]k[[T_1,\dots,T_d]] の上で有限になります。
  • 証明は、ステップの流れだけを短く書いています。「詳しく」の付いた行をクリックすると、そのステップの詳しい説明が開きます。説明の中にも開ける行があります。
  • 定義・命題・定理には、記事全体で通し番号を振っています。
  • おさらいは前の回や前提の知識の確認、もう少し詳しくは補足、専門的な話は先の回につながる話題です。どれも開かずに読み進められます。
  • 各ブロックの「AIに質問」を押すと、その部分の内容を入れた質問文で、お使いのAIを開けます。

巴系をもう一度

第7回の次元定理で、ネーター局所環の次元は「原点だけを切り出すのに要る元の個数」でもあることが分かりました。そのとき、ちょうど次元の個数だけの元で原点を切り出す組を巴系と呼びました。今回は、この巴系の性質を詳しく調べます。

この記事を通して、(A,M,k)(A,M,k) はネーター局所環(MM は極大イデアル、k=A/Mk=A/M は剰余体)、d=dim⁡Ad=\dim A とします。ℓ( ⋅ )\ell(\,\cdot\,) は AA 加群の長さです。

おさらい次元定理と δ(A)\delta(A)

MM 準素イデアルの生成元の個数の最小値を δ(A)\delta(A) と書きました(第7回の定義2)。x1,…,xn∈Mx_1,\dots,x_n\in M について、(x1,…,xn)(x_1,\dots,x_n) が MM 準素であることは、ℓ(A/(x1,…,xn))<∞\ell(A/(x_1,\dots,x_n))<\infty と同じです(第7回の補題1)。

次元定理(第7回の定理4)は、3つの数が等しいという主張でした。

dim⁡A  =  d(A)  =  δ(A)d(A)=deg⁡nℓ(A/Mn)\dim A\;=\;d(A)\;=\;\delta(A)\qquad d(A)=\deg_n\ell(A/M^n)dim⁡A  =  d(A)  =  δ(A)d(A)=deg⁡nℓ(A/Mn)\begin{gathered}\dim A\;=\;d(A)\;=\;\delta(A)\\d(A)=\deg_n\ell(A/M^n)\end{gathered}dim⁡A=d(A)=δ(A)d(A)=deg⁡nℓ(A/Mn)\begin{aligned}\dim A &= d(A)\\&= \delta(A)\\[4pt]d(A) &= \deg_n\ell(A/M^n)\end{aligned}

この記事では主に dim⁡A=δ(A)\dim A=\delta(A) を使います。「nn 個の元で MM 準素イデアルが生成できれば dim⁡A≤n\dim A\le n」と、「dd 個の元で生成される MM 準素イデアルがある」の2つです。後者は素イデアル回避で元を1つずつ選んで示しました(第7回の命題8)。

第7回の最後に、巴系で1つずつ割ると次元がちょうど1ずつ下がることを見ました。

A⟶A/(x1)⟶A/(x1,x2)dd−1d−2⟶⋯⟶A/(x1,…,xd)⋯0{}\begin{gathered} \begin{array}{ccccc} A & \longrightarrow & A/(x_1) & \longrightarrow & A/(x_1,x_2) \\[4pt] d && d-1 && d-2 \end{array}\\[10pt] \begin{array}{cccc} \longrightarrow & \cdots & \longrightarrow & A/(x_1,\dots,x_d) \\[4pt] & \cdots && 0 \end{array} \end{gathered}

今回はこれを命題として証明し、逆向き(どんな元の組なら巴系に延ばせるか)も調べます。さらに、巴系の一部が生成するイデアルの高さ、巴系の元の間に関係式がないこと(解析的独立)、完備な局所環がべき級数環の上で有限になることを扱います。

例として何度も使うのは、第1回から登場している「平面と、それを貫く直線」の局所環です(第1回の例14、第7回の例9)。

A=k[x,y,z](x,y,z)/(xz, yz)V(xz, yz)={z=0}∪{x=y=0}A=k[x,y,z]_{(x,y,z)}/(xz,\ yz)\qquad V(xz,\ yz)=\{z=0\}\cup\{x=y=0\}A=k[x,y,z](x,y,z)/(xz, yz)V(xz, yz)={z=0}∪{x=y=0}\begin{gathered}A=k[x,y,z]_{(x,y,z)}/(xz,\ yz)\\V(xz,\ yz)=\{z=0\}\cup\{x=y=0\}\end{gathered}A=k[x,y,z](x,y,z)/(xz, yz)V(xz, yz)={z=0}∪{x=y=0}\begin{aligned}A &= k[x,y,z]_{(x,y,z)}/(xz,\ yz)\\[4pt]V(xz,\ yz) &= \{z=0\}\cup\{x=y=0\}\end{aligned}

平面は2次元、直線は1次元で、成分の次元がそろっていません。巴系の性質の多くは、このような環で崩れ方を見るとよく分かります。

巴系の定義と例

第7回では本文で定義しただけだったので、ここで定義として述べ直します。

定義1 巴系 [1, §14, p.125–126; 2, 11.2節, p.189; 3, 定義2.41 (1), p.80; 4, §7.4, p.129]

(A,M,k)(A,M,k) を dd 次元のネーター局所環とする。x1,…,xd∈Mx_1,\dots,x_d\in M で、(x1,…,xd)(x_1,\dots,x_d) が MM 準素イデアルになるものを AA の巴系(パラメータ系)と呼ぶ。言い換えると、次のどれかが成り立つ dd 個の元である。

(x1,…,xd)=M  ⟺  V(x1,…,xd)={M}  ⟺  ℓ(A/(x1,…,xd))<∞\begin{aligned} &\sqrt{(x_1,\dots,x_d)}=M\\ \iff{}&V(x_1,\dots,x_d)=\{M\}\\ \iff{}&\ell\bigl(A/(x_1,\dots,x_d)\bigr)<\infty \end{aligned}

巴系はいつも存在し(第7回の命題8)、dd 個より少ない元では MM 準素イデアルを生成できません(第7回の定理4)。巴系は「原点を切り出せる最少の個数の元の組」です。

名前について補足します。「巴系」は松村と後藤・渡辺の用語で、アティヤ・マクドナルドは「パラメーター系」、堀田は「パラメータ系」と呼んでいます。堀田は、局所環を点のまわりの関数の環とみて、巴系を「座標系」になぞらえています[4, §7.4, p.129–130]。

おさらいMM 準素イデアルと長さ

ネーター局所環 (A,M)(A,M) のイデアル J⊆MJ\subseteq M について、JJ が MM 準素イデアルであることは、次のどれとも同値でした(第7回の補題1、第6回の命題6)。

J=M  ⟺  Mr⊆J  (∃ r)  ⟺  ℓ(A/J)<∞\sqrt J=M\iff M^r\subseteq J\ \ (\exists\,r)\iff\ell(A/J)<\inftyJ=M  ⟺  Mr⊆J  (∃ r)  ⟺  ℓ(A/J)<∞\begin{aligned}\sqrt J &= M\\&\iff M^r\\&\subseteq J\ \ (\exists\,r)\\&\iff \ell(A/J)\\&< \infty\end{aligned}

A=k[x,y](x,y)A=k[x,y]_{(x,y)} なら、(x2, y3)(x^2,\ y^3) は M4M^4 を含むので MM 準素です。A/(x2,y3)A/(x^2,y^3) の基底は xaybx^ay^b(a<2, b<3a<2,\ b<3)の6個で、長さは6です。(x2, xy)(x^2,\ xy) は V(x2,xy)V(x^2,xy) に直線 x=0x=0 の生成点 (x)(x) が残るので、MM 準素ではありません。

剰余体が kk のとき、A/JA/J の長さは kk 上の次元に等しくなります。組成列の各段が A/M≅kA/M\cong k だからです。

例2 巴系 [4, §7.4, p.129–130]

(1) A=k[x1,…,xd](x1,…,xd)A=k[x_1,\dots,x_d]_{(x_1,\dots,x_d)} では x1,…,xdx_1,\dots,x_d が巴系である。正の整数 n1,…,ndn_1,\dots,n_d について x1n1,…,xdndx_1^{n_1},\dots,x_d^{n_d} も巴系で、ℓ(A/(x1n1,…,xdnd))=n1n2⋯nd\ell\bigl(A/(x_1^{n_1},\dots,x_d^{n_d})\bigr)=n_1n_2\cdots n_d。
(2) A=k[x,y](x,y)A=k[x,y]_{(x,y)} では、y−x2, xy-x^2,\ x や y−x2, yy-x^2,\ y や xy, x+yxy,\ x+y も巴系である。長さはそれぞれ 1, 2, 21,\ 2,\ 2。一方 x, xyx,\ xy や x2, xyx^2,\ xy は巴系でない。
(3) 1次元の局所整域(k[x](x)k[x]_{(x)}、Z(p)\mathbb{Z}_{(p)} など)では、MM の0でない元1つが巴系である。例えば ℓ(Z(p)/(pn))=n\ell(\mathbb{Z}_{(p)}/(p^n))=n。
(4) 0次元の局所環では、空の組が巴系である。
(5) 平面と直線 A=k[x,y,z](x,y,z)/(xz,yz)A=k[x,y,z]_{(x,y,z)}/(xz,yz) では、x+z, yx+z,\ y と x, y+zx,\ y+z と x+z, y+zx+z,\ y+z が巴系で、長さはどれも2。

証明
  1. (1) (x1n1,…,xdnd)\sqrt{(x_1^{n_1},\dots,x_d^{n_d})} は x1,…,xdx_1,\dots,x_d を含むので MM である。剰余環の基底は、各 ii で ai<nia_i<n_i となる単項式 x1a1⋯xdadx_1^{a_1}\cdots x_d^{a_d} で、その個数は n1⋯ndn_1\cdots n_d。
  2. (2) (y−x2, x)=(x,y)=M(y-x^2,\ x)=(x,y)=M。y=x2y=x^2 を代入して A/(y−x2, y)≅k[x](x)/(x2)A/(y-x^2,\ y)\cong k[x]_{(x)}/(x^2)、y=−xy=-x を代入して A/(xy, x+y)≅k[x](x)/(x2)A/(xy,\ x+y)\cong k[x]_{(x)}/(x^2)。

    (x, xy)=(x)(x,\ xy)=(x) で、A/(x)≅k[y](y)A/(x)\cong k[y]_{(y)} は 1,y,y2,…1,y,y^2,\dots が1次独立なので長さは無限。(x2, xy)⊆(x)(x^2,\ xy)\subseteq(x) なので A/(x2,xy)A/(x^2,xy) は A/(x)A/(x) に全射し、こちらも長さは無限である。

  3. (3) 1次元の局所整域の素イデアルは (0)(0) と MM だけである。a≠0a\neq0 なら (a)(a) を含む素イデアルは MM だけで、(a)=M\sqrt{(a)}=M。
  4. (5) x+z, yx+z,\ y は第7回の例9で計算した。A/(x, y+z)A/(x,\ y+z) は z=−yz=-y を代入して k[y,z]/(yz, y+z)≅k[y]/(y2)k[y,z]/(yz,\ y+z)\cong k[y]/(y^2)、A/(x+z, y+z)A/(x+z,\ y+z) は z=−x, y=xz=-x,\ y=x を代入して k[x]/(x2)k[x]/(x^2)。

    A/(x, y+z)A/(x,\ y+z):x=0x=0 で xz=0xz=0、yz=−y2yz=-y^2 となる。A/(x+z, y+z)A/(x+z,\ y+z):z=−xz=-x、y=−z=xy=-z=x で、xz=−x2xz=-x^2、yz=−x2yz=-x^2 となる。どちらも基底は2個である。

(1) の x1n1,…,xdndx_1^{n_1},\dots,x_d^{n_d} のように、巴系の各元をべきに替えても巴系のままです。根基が変わらないからです。巴系は無数にあり、生成するイデアルも長さもいろいろです。

(2) の x, xyx,\ xy は、xx で切った直線 x=0x=0 の上で xyxy が恒等的に0なので、2回目の切断で何も切れていません。(5) の環でも、zz から始めると失敗しました。平面の上で zz が恒等的に0だからです。

次の節では、この「どの元なら切れるか」を正確に述べます。

一部で割る:次元は1つずつ下がる

おさらい剰余環の素イデアルと次元

剰余環 A/JA/J の素イデアルは、JJ を含む AA の素イデアル QQ の像 Q/JQ/J と、包含を保って1対1に対応します。環の準同型と Spec の写像は向きが逆です。

A→  π  A/JSpec⁡A⊇ V(J)← ≅   π−1  Spec⁡(A/J)\begin{array}{ccc} A & \xrightarrow{\ \ \pi\ \ } & A/J \\[4pt] \begin{gathered}\operatorname{Spec}A\\ \supseteq\ V(J)\end{gathered} & \xleftarrow[\ \cong\ ]{\ \ \pi^{-1}\ \ } & \operatorname{Spec}(A/J) \end{array}

そのため dim⁡A/J\dim A/J は、JJ を含む素イデアル QQ についての dim⁡A/Q\dim A/Q の最大値です。最大値は JJ の極小素イデアル(有限個)でとれます。JJ の極小素イデアルの集合を Min⁡(J)\operatorname{Min}(J) と書くと、次のとおりです。

dim⁡A/J=max⁡{dim⁡A/P∣P∈Min⁡(J)}\begin{aligned} \dim A/J&=\max\{\dim A/P\mid{}\\ &\qquad P\in\operatorname{Min}(J)\} \end{aligned}

例えば k[x,y,z](x,y,z)k[x,y,z]_{(x,y,z)} の J=(xz, yz)=(z)∩(x,y)J=(xz,\ yz)=(z)\cap(x,y) では、dim⁡A/(z)=2\dim A/(z)=2、dim⁡A/(x,y)=1\dim A/(x,y)=1 で、dim⁡A/J=2\dim A/J=2 です。

1つの元で割ったときの次元については、第8回で次のことを示しました(第8回の命題16)。ネーター局所環 AA と x∈Mx\in M について dim⁡A/xA≥dim⁡A−1\dim A/xA\ge\dim A-1 で、等号が成り立つのは、dim⁡A/P=dim⁡A\dim A/P=\dim A となるどの素イデアル PP にも xx が入らないとき、またそのときに限ります(そのような PP は極小素イデアルです)。

次の命題は、これを巴系の言葉で精密にしたものです。(3) は、等号が成り立つ条件を「必要十分」にしています。

命題3 巴系の一部で割る [1, 定理14.1 i), p.126; 3, 命題2.42, p.80; 2, 系11.18, p.189]

(A,M,k)(A,M,k) を dd 次元のネーター局所環とする。

(1) x1,…,xdx_1,\dots,x_d が巴系なら、0≤i≤d0\le i\le d について dim⁡A/(x1,…,xi)=d−i\dim A/(x_1,\dots,x_i)=d-i で、xi+1,…,xdx_{i+1},\dots,x_d の像は A/(x1,…,xi)A/(x_1,\dots,x_i) の巴系である。
(2) x1,…,xi∈Mx_1,\dots,x_i\in M について、x1,…,xix_1,\dots,x_i をある巴系 x1,…,xdx_1,\dots,x_d の最初の ii 個にできることは、dim⁡A/(x1,…,xi)=d−i\dim A/(x_1,\dots,x_i)=d-i と同値である。
(3) f∈Mf\in M が巴系の一部になることは、dim⁡A/P=d\dim A/P=d となるどの素イデアル PP にも ff が入らないことと同値である。とくに AA の非零因子 f∈Mf\in M は巴系の一部で、dim⁡A/fA=d−1\dim A/fA=d-1。

証明
  1. (1) Aˉ=A/(x1,…,xi)\bar A=A/(x_1,\dots,x_i) とおく。xi+1,…,xdx_{i+1},\dots,x_d の像は Aˉ\bar A の MM 準素イデアルを生成するので、次元定理から dim⁡Aˉ≤d−i\dim\bar A\le d-i。

    Aˉ/(xˉi+1,…,xˉd)=A/(x1,…,xd)\bar A/(\bar x_{i+1},\dots,\bar x_d)=A/(x_1,\dots,x_d) の長さは有限である。よって (xˉi+1,…,xˉd)(\bar x_{i+1},\dots,\bar x_d) は Aˉ\bar A の極大イデアル Mˉ=M/(x1,…,xi)\bar M=M/(x_1,\dots,x_i) の準素イデアルで、δ(Aˉ)≤d−i\delta(\bar A)\le d-i。次元定理(第7回の定理4)を Aˉ\bar A に使う。

  2. 逆に e=dim⁡Aˉe=\dim\bar A とし、Aˉ\bar A の巴系 yˉ1,…,yˉe\bar y_1,\dots,\bar y_e の代表元を yj∈My_j\in M とする。x1,…,xi,y1,…,yex_1,\dots,x_i,y_1,\dots,y_e は AA の MM 準素イデアルを生成するので d≤i+ed\le i+e。

    A/(x1,…,xi,y1,…,ye)=Aˉ/(yˉ1,…,yˉe)A/(x_1,\dots,x_i,y_1,\dots,y_e)=\bar A/(\bar y_1,\dots,\bar y_e) の長さは有限である。よって d=δ(A)≤i+ed=\delta(A)\le i+e。

  3. 2つを合わせて dim⁡Aˉ=d−i\dim\bar A=d-i。xˉi+1,…,xˉd\bar x_{i+1},\dots,\bar x_d はちょうど d−id-i 個で Mˉ\bar M 準素イデアルを生成するので、Aˉ\bar A の巴系である。
  4. (2) 巴系の一部なら (1) から dim⁡A/(x1,…,xi)=d−i\dim A/(x_1,\dots,x_i)=d-i。逆に dim⁡A/(x1,…,xi)=d−i\dim A/(x_1,\dots,x_i)=d-i なら、前のステップと同じく A/(x1,…,xi)A/(x_1,\dots,x_i) の巴系 d−id-i 個の代表元を付け足すと、dd 個で MM 準素イデアルを生成し、巴系になる。
  5. (3) (2) の i=1i=1 の場合なので、「dim⁡A/fA=d−1\dim A/fA=d-1」と「dim⁡A/P=d\dim A/P=d となるどの PP にも ff が入らない」が同値であることを示せばよい。
    1. dim⁡A/P=d\dim A/P=d となる PP は極小素イデアルである。P′⊊PP'\subsetneq P があれば、dim⁡A/P′≥dim⁡A/P+1=d+1\dim A/P'\ge\dim A/P+1=d+1 となってしまうからである。
    2. f∈Pf\in P、dim⁡A/P=d\dim A/P=d とすると、A/fAA/fA は A/PA/P に全射するので dim⁡A/fA≥d\dim A/fA\ge d。よって dim⁡A/fA=d−1\dim A/fA=d-1 なら、ff はそのような PP に入らない。
    3. 逆に、ff がそのような PP に入らないとする。ff を含む素イデアル QQ は、ある極小素イデアル PP を含む。dim⁡A/P=d\dim A/P=d なら f∈Q∖Pf\in Q\setminus P から Q⊋PQ\supsetneq P で、dim⁡A/Q≤d−1\dim A/Q\le d-1。dim⁡A/P≤d−1\dim A/P\le d-1 なら dim⁡A/Q≤dim⁡A/P≤d−1\dim A/Q\le\dim A/P\le d-1。
    4. よって dim⁡A/fA≤d−1\dim A/fA\le d-1。一方 dim⁡A/fA≥d−1\dim A/fA\ge d-1((1) の後半と同じ議論、または第8回の命題16)なので、等号が成り立つ。
  6. 非零因子 ff はどの極小素イデアルにも入らないので、(3) の条件をみたす。

    ネーター環では、極小素イデアルの元はすべて零因子である。(0)(0) の準素分解に現れる素イデアルの和集合が零因子全体で [2, 命題4.7, p.81]、極小素イデアルはその中に現れる [2, 命題4.6, p.80; 2, 定理7.13, p.128]。

(1) の証明で使った「巴系を持ち上げる」操作を図式にします。上の行は AA を順に割っていく列、下の行は Aˉ\bar A で見た同じ環です。右端の環の長さが有限なので、i+ei+e 個の元で AA の MM 準素イデアルが生成でき、d≤i+ed\le i+e が分かります。

A→A/(x1,…,xi) ∥ Aˉ→A/(x1,…,xi, y1,…,ye) ∥→Aˉ/(yˉ1,…,yˉe){}\begin{gathered} \begin{CD} A @>>> A/(x_1,\dots,x_i) \\ @. @| \\ @. \bar A \end{CD}\\[6pt] \begin{CD} @>>> A/(x_1,\dots,x_i,\ y_1,\dots,y_e) \\ @. @| \\ @>>> \bar A/(\bar y_1,\dots,\bar y_e) \end{CD} \end{gathered}

(3) の条件は、図形の言葉では「ff が、次元が最大(dd 次元)の成分の上で恒等的に0にならない」ということです。次元が dd より小さい成分の上では、ff が恒等的に0でも構いません。

例4 巴系の一部になる元、ならない元

(1) 平面と直線 A=k[x,y,z](x,y,z)/(xz, yz)A=k[x,y,z]_{(x,y,z)}/(xz,\ yz)。dim⁡A/P=2\dim A/P=2 となる素イデアルは (z)(z)(平面)だけで、直線の (x,y)(x,y) は dim⁡A/(x,y)=1\dim A/(x,y)=1。よって f∈Mf\in M が巴系の一部になるのは f∉(z)f\notin(z) のときで、xx、x+zx+z、yy はなり、zz はならない。xx は xz=0xz=0 なので零因子である。
(2) A=k[x,y,z](x,y,z)A=k[x,y,z]_{(x,y,z)}。xy, x+y, zxy,\ x+y,\ z は巴系だが、xy, xxy,\ x は巴系の一部にならない(dim⁡A/(xy, x)=2\dim A/(xy,\ x)=2)。
(3) A=k[x,y](x,y)/(x2, xy)A=k[x,y]_{(x,y)}/(x^2,\ xy)(直線 x=0x=0 と、原点に埋め込まれた点)。dim⁡A=1\dim A=1 で、yy は零因子だが巴系、xx は巴系でない。

証明
  1. (1) AA の極小素イデアルは (z)(z) と (x,y)(x,y) で、A/(z)≅k[x,y](x,y)A/(z)\cong k[x,y]_{(x,y)} は2次元、A/(x,y)≅k[z](z)A/(x,y)\cong k[z]_{(z)} は1次元。x, x+z, yx,\ x+z,\ y は zz の倍数ではないので (z)(z) に入らない。
  2. (2) V(xy)V(xy) は平面 x=0x=0 と y=0y=0 の和で、A/(xy)A/(xy) の2次元の成分は両方の平面である。xx は平面 x=0x=0 の素イデアル (x)(x) に入るので、A/(xy)A/(xy) の巴系の一部にならない。x+yx+y はどちらにも入らない。

    A/(xy, x+y)A/(xy,\ x+y) は y=−xy=-x を代入して k[x,z](x,z)/(x2)k[x,z]_{(x,z)}/(x^2)。これは1次元で(zz 軸)、さらに zz で割ると k[x]/(x2)k[x]/(x^2)、長さは2。(xy, x)=(x)(xy,\ x)=(x) なので A/(xy, x)≅k[y,z](y,z)A/(xy,\ x)\cong k[y,z]_{(y,z)} は2次元である。

  3. (3) AA の素イデアルは xx を含む(x2=0x^2=0)。A/(x)≅k[y](y)A/(x)\cong k[y]_{(y)} なので、素イデアルは (x)(x) と MM の2つで、dim⁡A=1\dim A=1。A/(y)≅k[x]/(x2)A/(y)\cong k[x]/(x^2) の長さは2で、yy は巴系。xx は (x)(x) に入る。

(1)(3) から、巴系の元は非零因子とは限りません。「非零因子なら巴系の一部」は十分条件で、必要条件ではないのです。巴系の元がすべて非零因子にとれ、しかも順に割っても非零因子のままでいられる環が、第12回で扱う予定のコーエン・マコーレー環です。

(1) の様子を、実数の点で描いたのが図1です。

ドラッグで回せます

A=k[x,y,z](x,y,z)/(xz, yz)A=k[x,y,z]_{(x,y,z)}/(xz,\ yz) の実数の点です。平面 z=0z=0(青、素イデアル (z)(z))と zz 軸(緑、素イデアル (x,y)(x,y))の2つの成分があり、dim⁡A=2\dim A=2 です。

zz は平面の上で恒等的に0なので、zz で割っても平面は丸ごと残ります。A/(z)≅k[x,y](x,y)A/(z)\cong k[x,y]_{(x,y)} は2次元のままで、zz は巴系の一部になりません。

xx で割ると、平面からは yy 軸だけが残り、zz 軸は丸ごと残ります。どちらも1次元なので dim⁡A/(x)=1\dim A/(x)=1 で、xx は巴系の一部です。一方、zz 軸は AA の成分そのものなので、ht⁡(x)=0\operatorname{ht}(x)=0 です。「真上」から見ると zz 軸は1点に潰れ、次の段階と区別できません。

x+zx+z で割ると、残るのは yy 軸だけです(zz 軸の上では x+z=zx+z=z なので原点だけ)。dim⁡A/(x+z)=1\dim A/(x+z)=1、ht⁡(x+z)=1\operatorname{ht}(x+z)=1 です。「正面」から見ると yy 軸は1点に潰れます。回すと、前の段階との違いが分かります。

xx で割った後に y+zy+z(紫の面)で割ると原点だけが残り、A/(x, y+z)≅k[y]/(y2)A/(x,\ y+z)\cong k[y]/(y^2) の長さは2です。x, y+zx,\ y+z は巴系ですが、その一部 xx の高さは0でした。

図1具体例平面と直線の局所環 A=k[x,y,z](x,y,z)/(xz,yz)A=k[x,y,z]_{(x,y,z)}/(xz,yz) を、いろいろな元で割った図です(実数の点だけを描いています)。zz で割ると平面が丸ごと残り、xx で割ると yy 軸と zz 軸が残り、x+zx+z で割ると yy 軸だけが残ります。各元がどの成分の上で0になるかは、成分の点で値を計算して確かめています。xx と x+zx+z の段階は、「真上」から見ても「正面」から見ても区別がつきません。回すと、xx の段階では zz 軸が丸ごと残っていることが分かります。

図1で xx と x+zx+z を比べると、どちらで割っても次元は1で、どちらも巴系の一部です。違うのは、xx で割ったときに zz 軸という成分が丸ごと残ることです。この違いは、次の節で見る「高さ」に現れます。

(1) の巴系 x, y+zx,\ y+z と、巴系にならない zz から始めた列で、次元の変化を並べます。

Adim⁡=2→ /x k[y,z](y,z)/(yz)dim⁡=1→ /(y+z) k[y]/(y2)dim⁡=0Adim⁡=2→ /z k[x,y](x,y)dim⁡=2→ /x k[y](y)dim⁡=1\begin{aligned} &A &&\dim=2\\ &\xrightarrow{\ /x\ } k[y,z]_{(y,z)}/(yz) &&\dim=1\\ &\xrightarrow{\ /(y+z)\ } k[y]/(y^2) &&\dim=0\\[10pt] &A &&\dim=2\\ &\xrightarrow{\ /z\ } k[x,y]_{(x,y)} &&\dim=2\\ &\xrightarrow{\ /x\ } k[y]_{(y)} &&\dim=1 \end{aligned}

下の列は、2つの元で割っても1次元が残り、原点まで切れていません。

巴系と高さ

おさらいイデアルの高さと高さ定理

イデアル J≠AJ\neq A の高さは、JJ を含む素イデアルの高さの最小値です(第1回の定義12)。最小値は JJ の極小素イデアルでとれます。また ht⁡J+dim⁡A/J≤dim⁡A\operatorname{ht}J+\dim A/J\le\dim A が成り立ちます。

ht⁡J=min⁡{ht⁡P∣P∈Min⁡(J)}dim⁡A/J=max⁡{dim⁡A/P∣P∈Min⁡(J)}\begin{aligned} \operatorname{ht}J&=\min\{\operatorname{ht}P\mid{}\\ &\qquad P\in\operatorname{Min}(J)\}\\[4pt] \dim A/J&=\max\{\dim A/P\mid{}\\ &\qquad P\in\operatorname{Min}(J)\} \end{aligned}

2つの式はそれぞれ「成分の高さ(余次元)の最小値」と「成分の次元の最大値」を測っています(Min⁡(J)\operatorname{Min}(J) は JJ の極小素イデアルの集合)。成分の次元がそろっていないと、2つは食い違います。

第8回のクルルの高さ定理(第8回の定理1)は、ネーター環で nn 個の元で生成されるイデアルの極小素イデアルの高さは nn 以下、というものでした。n=1n=1 が単項イデアル定理(第8回の定理3)です。

巴系の一部 x1,…,xix_1,\dots,x_i について、命題3から dim⁡A/(x1,…,xi)=d−i\dim A/(x_1,\dots,x_i)=d-i でした。高さの不等式と合わせると、すぐに上からの評価が出ます。

ht⁡(x1,…,xi) ≤ dim⁡A−dim⁡A/(x1,…,xi) = i\operatorname{ht}(x_1,\dots,x_i)\ \le\ \dim A-\dim A/(x_1,\dots,x_i)\ =\ iht⁡(x1,…,xi)≤dim⁡A−dim⁡A/(x1,…,xi)=i\begin{aligned}\operatorname{ht}(x_1,\dots,x_i) &\le \dim A-\dim A/(x_1,\dots,x_i)\\&= i\end{aligned}ht⁡(x1,…,xi)≤dim⁡A≤−dim⁡A/(x1,…,xi)=i\begin{aligned}\operatorname{ht}(x_1,\dots,x_i) &\le \dim A\\&\phantom{\le}{} -\dim A/(x_1,\dots,x_i)\\&= i\end{aligned}

では、等号 ht⁡(x1,…,xi)=i\operatorname{ht}(x_1,\dots,x_i)=i は成り立つでしょうか。多項式環の局所化のような「よい」環では成り立ちますが、一般には成り立ちません。松村が挙げている例を、この連載の座標で見ます。

例5 高さが元の個数より小さい巴系 [1, 定理14.1 の証明の後半, p.126–127]

平面と直線 A=k[x,y,z](x,y,z)/(xz, yz)A=k[x,y,z]_{(x,y,z)}/(xz,\ yz) で、巴系 x, y+zx,\ y+z を考える。

ht⁡(x)=0ht⁡(y+z)=1ht⁡(x, y+z)=2dim⁡A/(x)=1\operatorname{ht}(x)=0\qquad\operatorname{ht}(y+z)=1\qquad\operatorname{ht}(x,\ y+z)=2\qquad \dim A/(x)=1ht⁡(x)=0ht⁡(y+z)=1ht⁡(x, y+z)=2dim⁡A/(x)=1\begin{gathered}\operatorname{ht}(x)=0\\\operatorname{ht}(y+z)=1\\\operatorname{ht}(x,\ y+z)=2\\\dim A/(x)=1\end{gathered}ht⁡(x)=0ht⁡(y+z)=1ht⁡(x, y+z)=2dim⁡A/(x)=1\begin{aligned}\operatorname{ht}(x) &= 0\\[4pt]\operatorname{ht}(y+z) &= 1\\[4pt]\operatorname{ht}(x,\ y+z) &= 2\\[4pt]\dim A/(x) &= 1\end{aligned}

巴系 x+z, yx+z,\ y(第7回で作ったもの)でも ht⁡(y)=0\operatorname{ht}(y)=0 である。一方、巴系 x+z, y+zx+z,\ y+z では、どの一部の高さも元の個数に等しい。

証明
  1. AA の極小素イデアルは (z)(z) と (x,y)(x,y) で、どちらも高さ0。xx と yy は (x,y)(x,y) に入るので、ht⁡(x)=ht⁡(y)=0\operatorname{ht}(x)=\operatorname{ht}(y)=0。
  2. y+zy+z はどちらの極小素イデアルにも入らないので、高さは1以上。(y+z)(y+z) を含む (y,z)(y,z) の高さは1なので、ht⁡(y+z)=1\operatorname{ht}(y+z)=1。

    y+z∈(z)y+z\in(z) なら y∈(z)y\in(z)、y+z∈(x,y)y+z\in(x,y) なら z∈(x,y)z\in(x,y) となるが、どちらも成り立たない(点 (0,1,0)(0,1,0) と (0,0,1)(0,0,1) で値を見ればよい)。

    (y,z)(y,z) に含まれる素イデアルは (z)(z) か (x,y)(x,y) を含むが、x∉(y,z)x\notin(y,z) なので (z)(z) を含む。それらは A/(z)≅k[x,y](x,y)A/(z)\cong k[x,y]_{(x,y)} の (y)(y) 以下の素イデアル (0)(0)、(y)(y) に対応するので、ht⁡(y,z)=1\operatorname{ht}(y,z)=1。

  3. (x, y+z)(x,\ y+z) は MM 準素なので、含む素イデアルは MM だけで、ht⁡(x, y+z)=ht⁡M=2\operatorname{ht}(x,\ y+z)=\operatorname{ht}M=2。dim⁡A/(x)=1\dim A/(x)=1 は例4(1)。
  4. x+zx+z の極小素イデアルは (x,z)(x,z) だけで高さ1(第7回の例9)。y+zy+z は上で見たとおり高さ1。2つ合わせると MM 準素で高さ2。

ht⁡(x)=0\operatorname{ht}(x)=0 と dim⁡A/(x)=1\dim A/(x)=1 を足すと 1<2=dim⁡A1<2=\dim A で、高さの不等式が真の不等式になっています。

x=0x=0 の切り口は yy 軸と zz 軸の和で、yy 軸は平面から1次元下がった成分、zz 軸は AA の成分そのものです。yy 軸も zz 軸も1次元ですが、高さは yy 軸が1、zz 軸が0です。高さは最も小さい高さの成分で、次元は最も大きい次元の成分で決まります。

松村の例は k[[X,Y,Z]]/((X)∩(Y,Z))k[[X,Y,Z]]/((X)\cap(Y,Z)) で、平面 X=0X=0 と直線 Y=Z=0Y=Z=0 の和です。座標の名前を X→zX\to z、Y→xY\to x、Z→yZ\to y と替えると、この例の巴系 x, y+zx,\ y+z になります。べき級数環でも、高さの計算は同じです。

Spec の図の約束で、この食い違いを描いたのが図2です。

……
(z)(z)
(x,y)(x,y)
(y,z)(y,z)
(x,z)(x,z)
(y−x2,z)(y-x^2,z)
MM
xx で割る:ht⁡(x)=0, dim⁡A/(x)=1\operatorname{ht}(x)=0,\ \dim A/(x)=1
極小素イデアル (x,y)(x,y)(高さ0)、(x,z)(x,z)(高さ1)
(z)(z)
(x,y)(x,y)
(y,z)(y,z)
(x,z)(x,z)
(y−x2,z)(y-x^2,z)
MM
x+zx+z で割る:ht⁡(x+z)=1, dim⁡A/(x+z)=1\operatorname{ht}(x+z)=1,\ \dim A/(x+z)=1
極小素イデアル (x,z)(x,z)(高さ1)
22
11
00
段=閉包の次元(余高度) 高さ=その点から上へたどれる段の数
図2概念図平面と直線の局所環の Spec を、代数幾何の連載の第2回と同じ約束で「真横」から見た図です。段は閉包の次元(余高度)で、平面の生成点 (z)(z) が2段目、直線の生成点が1段目、閉点 MM が0段目にあります。線は包含で、上の点の閉包に下の点が入ります。点の左右の位置には意味がありません。オレンジの点は割った元を含む素イデアル、丸で囲んだ点はその極小素イデアルです。直線の生成点 (x,y)(x,y) は1段目にありますが、上にたどれる点がないので高さは0です。どの点がどの点を含むか、各点の高さと段は、点の座標で式の値を計算して確かめています。

図2の左では、xx で割った切り口の極小素イデアルが (x,y)(x,y)(高さ0)と (x,z)(x,z)(高さ1)の2つです。右の x+zx+z では (x,z)(x,z) だけです。どちらも1段目にあるので次元は1で、高さだけが違います。

それでも、巴系をうまく選べば高さはそろいます。

おさらい素イデアル回避

有限個の素イデアル P1,…,PtP_1,\dots,P_t について、イデアル JJ が和集合 P1∪⋯∪PtP_1\cup\cdots\cup P_t に含まれれば、ある PjP_j に含まれます[2, 命題1.11, p.11]。対偶の形で使います。

J⊈Pj  (j=1,…,t) ⟹ ∃ x∈J∖(P1∪⋯∪Pt)J\not\subseteq P_j\ \ (j=1,\dots,t)\ \Longrightarrow\ \exists\,x\in J\setminus(P_1\cup\cdots\cup P_t)J̸⊆Pj  (j=1,…,t)⟹∃ x∈J∖(P1∪⋯∪Pt)\begin{aligned}J\not &\subseteq P_j\ \ (j=1,\dots,t)\\&\Longrightarrow \exists\,x\in J\setminus(P_1\cup\cdots\cup P_t)\end{aligned}

第7回の命題8では、高さ i−1i-1 の極小素イデアルをよけて xix_i を選び、巴系の存在を示しました。次の命題では、よける素イデアルを増やします。

命題6 巴系と高さ [1, 定理14.1 ii), p.126; 3, 命題2.38, p.79]

(A,M,k)(A,M,k) を dd 次元のネーター局所環とする。

(1) 巴系 x1,…,xdx_1,\dots,x_d とその部分集合 FF について、ht⁡(F)≤#F\operatorname{ht}(F)\le\#F。等号は成り立つとは限らない(例5)。
(2) 次の性質をもつ巴系 x1,…,xdx_1,\dots,x_d が存在する:どの部分集合 F⊆{x1,…,xd}F\subseteq\{x_1,\dots,x_d\} についても、(F)(F) のすべての極小素イデアルの高さが #F\#F に等しい。とくに ht⁡(F)=#F\operatorname{ht}(F)=\#F。

証明
  1. (1) 巴系の元を並べ替えても巴系なので、F={x1,…,xi}F=\{x_1,\dots,x_i\} としてよい。命題3(1) と高さの不等式から ht⁡(F)≤d−(d−i)=i\operatorname{ht}(F)\le d-(d-i)=i。

    極小素イデアルごとの不等式 ht⁡P≤#F\operatorname{ht}P\le\#F も、高さ定理(第8回の定理1)から直接分かる。

  2. (2) x1,x2,…x_1,x_2,\dots を順に選ぶ。xix_i は、{x1,…,xi−1}\{x_1,\dots,x_{i-1}\} のどの部分集合 F′F' についても、(F′)(F') のどの極小素イデアルにも入らないように選ぶ(F′=∅F'=\varnothing なら AA の極小素イデアル)。

    よける素イデアルは有限個である。部分集合は 2i−12^{i-1} 個で、それぞれの極小素イデアルは有限個だからである。

  3. よける素イデアル PP はどれも MM と異なるので、素イデアル回避からこのような xi∈Mx_i\in M がとれる。

    MM が (F′)(F') の極小素イデアルだとする。局所環なので (F′)(F') を含む素イデアルはすべて MM に含まれ、MM が極小なら MM だけが (F′)(F') を含む。

    よって (F′)(F') は MM 準素イデアルで、#F′≤i−1<d\#F'\le i-1<d 個の元で生成される。これは次元定理(δ(A)=d\delta(A)=d)に反する。

    M⊈PM\not\subseteq P がすべての PP で成り立つので、素イデアル回避 [2, 命題1.11, p.11] から、どの PP にも入らない xi∈Mx_i\in M がある。

  4. F⊆{x1,…,xi}F\subseteq\{x_1,\dots,x_i\} の極小素イデアル QQ の高さが #F\#F 以上であることを、ii についての帰納法で示す。
    1. xi∉Fx_i\notin F なら帰納法の仮定そのものである。
    2. F=F′∪{xi}F=F'\cup\{x_i\} とする。QQ は (F′)(F') を含むので、(F′)(F') の極小素イデアル PP を含む。帰納法の仮定から ht⁡P≥#F′\operatorname{ht}P\ge\#F'。
    3. xix_i の選び方から xi∉Px_i\notin P、一方 xi∈Qx_i\in Q なので Q⊋PQ\supsetneq P。PP で終わる鎖に QQ を付け足せるので、ht⁡Q≥#F′+1=#F\operatorname{ht}Q\ge\#F'+1=\#F。
  5. i=di=d まで選ぶと、(x1,…,xd)(x_1,\dots,x_d) の極小素イデアルの高さは dd 以上で、MM に一致する。よって x1,…,xdx_1,\dots,x_d は巴系で、(1) と合わせて、どの FF でも極小素イデアルの高さはちょうど #F\#F。

    ht⁡Q≥d=ht⁡M\operatorname{ht}Q\ge d=\operatorname{ht}M と Q⊆MQ\subseteq M から Q=MQ=M。(x1,…,xd)(x_1,\dots,x_d) を含む素イデアルは MM だけなので、根基は MM である。

第7回の巴系の構成(第7回の命題8)では、直前の (x1,…,xi−1)(x_1,\dots,x_{i-1}) の極小素イデアルのうち、高さが i−1i-1 のものだけをよけました。今回は、それまでに選んだ元のすべての部分集合について、極小素イデアルをよけています。

例5の環で手順をたどると、x1x_1 は (z)(z) と (x,y)(x,y) をよけて x+zx+z を選びます。x2x_2 は (z)(z)、(x,y)(x,y) と、(x+z)(x+z) の極小素イデアル (x,z)(x,z) をよけて、y+zy+z を選びます。xx や yy は (x,y)(x,y) に入るので、選べません。

後藤・渡辺は、この構成を局所環でない場合にも述べています[3, 命題2.38, p.79]。ネーター環の高さ nn のイデアル II の中に、すべての ii で ht⁡(f1,…,fi)=i\operatorname{ht}(f_1,\dots,f_i)=i となる f1,…,fnf_1,\dots,f_n がとれます。I=MI=M としたものが、この命題の (2) です。

多項式環の局所化では、どの巴系でも高さがそろいます。

例7 多項式環の局所化では、どの巴系でもよい

A=k[x1,…,xn]MA=k[x_1,\dots,x_n]_M(M=(x1,…,xn)M=(x_1,\dots,x_n))とする。AA のどの巴系 y1,…,yny_1,\dots,y_n とその部分集合 FF についても ht⁡(F)=#F\operatorname{ht}(F)=\#F である。例えば n=3n=3 の巴系 xy, x+y, zxy,\ x+y,\ z では

ht⁡(xy)=ht⁡(x+y)=ht⁡(z)=1ht⁡(xy, x+y)=ht⁡(xy, z)=ht⁡(x+y, z)=2\operatorname{ht}(xy)=\operatorname{ht}(x+y)=\operatorname{ht}(z)=1\qquad \operatorname{ht}(xy,\ x+y)=\operatorname{ht}(xy,\ z)=\operatorname{ht}(x+y,\ z)=2ht⁡(xy)=ht⁡(x+y)=ht⁡(z)=1ht⁡(xy, x+y)=ht⁡(xy, z)=ht⁡(x+y, z)=2\begin{gathered}\operatorname{ht}(xy)=\operatorname{ht}(x+y)=\operatorname{ht}(z)=1\\\operatorname{ht}(xy,\ x+y)=\operatorname{ht}(xy,\ z)=\operatorname{ht}(x+y,\ z)=2\end{gathered}ht⁡(xy)=ht⁡(x+y)=ht⁡(z)=1ht⁡(xy, x+y)=ht⁡(xy, z)=ht⁡(x+y, z)=2\begin{aligned}\operatorname{ht}(xy) &= \operatorname{ht}(x+y)\\&= \operatorname{ht}(z)\\&= 1\\[4pt]\operatorname{ht}(xy,\ x+y) &= \operatorname{ht}(xy,\ z)\\&= \operatorname{ht}(x+y,\ z)\\&= 2\end{aligned}
証明
  1. AA の素イデアル PP について ht⁡P+dim⁡A/P=n\operatorname{ht}P+\dim A/P=n が成り立つ。

    B=k[x1,…,xn]B=k[x_1,\dots,x_n] では、素イデアル PP について ht⁡P+dim⁡B/P=n\operatorname{ht}P+\dim B/P=n である(第4回の定理17(3))。P⊆MP\subseteq M なら APA=BPA_{PA}=B_P なので高さは変わらない。

    dim⁡A/PA\dim A/PA は PP から MM までの鎖の長さの最大値で、B/PB/P の極大イデアル M/PM/P の高さに等しい。同じ定理を有限生成の整域 B/PB/P に使うと、ht⁡(M/P)=dim⁡B/P\operatorname{ht}(M/P)=\dim B/P となる。

  2. F={y1,…,yi}F=\{y_1,\dots,y_i\} としてよい。(F)(F) の極小素イデアル PP について dim⁡A/P≤dim⁡A/(F)=n−i\dim A/P\le\dim A/(F)=n-i(命題3(1))なので、ht⁡P=n−dim⁡A/P≥i\operatorname{ht}P=n-\dim A/P\ge i。
  3. 命題6(1) と合わせて ht⁡P=i\operatorname{ht}P=i。極小素イデアルの高さがすべて ii なので、ht⁡(F)=i\operatorname{ht}(F)=i。

例の数値を図形で確かめます。xy=0xy=0 は2枚の平面、xy=x+y=0xy=x+y=0 は zz 軸(x=−yx=-y、x2=0x^2=0)、xy=z=0xy=z=0 は xx 軸と yy 軸、x+y=z=0x+y=z=0 は直線 x=−yx=-y です。どれも空間から #F\#F 次元下がった成分だけでできています。

例5の平面と直線の環では ht⁡P+dim⁡A/P=2\operatorname{ht}P+\dim A/P=2 が直線の生成点 P=(x,y)P=(x,y) で崩れ(0+1=10+1=1)、それが高さの食い違いの原因でした。すべての素イデアルで ht⁡P+dim⁡A/P=dim⁡A\operatorname{ht}P+\dim A/P=\dim A となる局所環は、第12回で鎖状環と次元公式の話題として扱う予定です。

専門的な話高さ定理の逆との関係

第8回の高さ定理の逆(第8回の定理14)は、高さ rr の素イデアル PP が、rr 個の元 a1,…,ara_1,\dots,a_r で生成されるイデアルの極小素イデアルになる、というものでした。松村は、そのとき ht⁡(P/(a1,…,ai))=r−i\operatorname{ht}\bigl(P/(a_1,\dots,a_i)\bigr)=r-i も示しています[1, 定理13.6, p.122]。

P=MP=M とすると、a1,…,ara_1,\dots,a_r は巴系で、これは命題3(1) の dim⁡A/(x1,…,xi)=d−i\dim A/(x_1,\dots,x_i)=d-i そのものです。松村も、定理14.1 i) は定理13.6 に含まれると書いています[1, 定理14.1 の証明, p.126]。

解析的独立:巴系の間に関係式はない

巴系 x1,…,xdx_1,\dots,x_d は「原点を切り出すのに必要なだけの元」なので、互いに無駄がないはずです。この「無駄がない」を、元の間に多項式の関係がないこととして定式化します。道具は第6回で作った随伴次数環です。

おさらい随伴次数環 gr⁡q(A)\operatorname{gr}_q(A)

イデアル qq のべきの各段の商を並べた次数付き環を、随伴次数環と呼びました(第6回の定理17の証明。第6回では Gq(A)G_q(A) と書きました)。積は代表元の積で定めます。

gr⁡q(A)=⨁s≥0qs/qs+1=A/q ⊕ q/q2 ⊕ q2/q3 ⊕⋯\begin{aligned} &\operatorname{gr}_q(A)=\bigoplus_{s\ge0}q^s/q^{s+1}\\ &\quad=A/q\ \oplus\ q/q^2\ \oplus\ q^2/q^3\ \oplus\cdots \end{aligned}

q=(x1,…,xr)q=(x_1,\dots,x_r) なら、qs/qs+1q^s/q^{s+1} は x1,…,xrx_1,\dots,x_r の ss 次の単項式の像で A/qA/q 上生成されます。そのため、次の全射の準同型ができます。

α ⁣:(A/q)[X1,…,Xr]↠gr⁡q(A)Xi⟼xˉi∈q/q2\alpha\colon(A/q)[X_1,\dots,X_r]\twoheadrightarrow\operatorname{gr}_q(A)\qquad X_i\longmapsto\bar x_i\in q/q^2α ⁣:(A/q)[X1,…,Xr]↠gr⁡q(A)Xi⟼xˉi∈q/q2\begin{gathered}\alpha\colon(A/q)[X_1,\dots,X_r]\twoheadrightarrow\operatorname{gr}_q(A)\\X_i\longmapsto\bar x_i\in q/q^2\end{gathered}

qq が MM 準素なら、ℓ(A/qn)=∑s<nℓ(qs/qs+1)\ell(A/q^n)=\sum_{s<n}\ell(q^s/q^{s+1}) は大きな nn で次数 d(A)=dim⁡Ad(A)=\dim A の多項式です(第6回の定理17、第6回の命題21、第7回の定理4)。例えば A=k[x,y](x,y)A=k[x,y]_{(x,y)}、q=Mq=M なら gr⁡M(A)≅k[X,Y]\operatorname{gr}_M(A)\cong k[X,Y] で、ℓ(A/Mn)=n(n+1)/2\ell(A/M^n)=n(n+1)/2 です。

定義8 解析的独立 [1, §14, p.128]

(A,M,k)(A,M,k) をネーター局所環とする。y1,…,yr∈My_1,\dots,y_r\in M が解析的に独立であるとは、次が成り立つことをいう:AA 係数の斉次多項式 f(X1,…,Xr)f(X_1,\dots,X_r)(次数は任意)が f(y1,…,yr)=0f(y_1,\dots,y_r)=0 をみたせば、ff の係数はすべて MM に入る。

係数が MM に入る関係式は、いつでも作れます。例えば y1⋅X2−y2⋅X1y_1\cdot X_2-y_2\cdot X_1 は1次の斉次式で、y1,y2y_1,y_2 を代入すると0になり、係数 y1,y2y_1,y_2 は MM に入っています。解析的独立は「係数に単元を含む斉次の関係式はない」という条件です。

この条件を、随伴次数環の写像で言い換えます。J=(y1,…,yr)J=(y_1,\dots,y_r) とし、各段 Js/Js+1J^s/J^{s+1} をさらに MM で割った Js/JsMJ^s/J^sM を並べます(Js+1⊆JsMJ^{s+1}\subseteq J^sM です)。次の可換図式の横の矢印は Xi↦yˉiX_i\mapsto\bar y_i、縦の矢印は係数や元を MM を法として見る写像です。

(A/J)[X1,…,Xr]→αgr⁡J(A)=⨁sJs/Js+1↓↓k[X1,…,Xr]→αˉ⨁s ⁣Js/JsM\begin{CD} (A/J)[X_1,\dots,X_r] @>{\alpha}>> {\begin{gathered}\operatorname{gr}_J(A)={}\\ \bigoplus_sJ^s/J^{s+1}\end{gathered}} \\ @VVV @VVV \\ k[X_1,\dots,X_r] @>{\bar\alpha}>> {\displaystyle\bigoplus_s\!J^s/J^sM} \end{CD}

右下の環は gr⁡J(A)⊗Ak\operatorname{gr}_J(A)\otimes_Ak です。横の矢印はどちらも全射です。

補題9 解析的独立の言い換え

y1,…,yr∈My_1,\dots,y_r\in M、J=(y1,…,yr)J=(y_1,\dots,y_r) とする。次は同値である。

(1) y1,…,yry_1,\dots,y_r は解析的に独立。
(2) AA 係数の ss 次斉次式 ff が f(y)∈JsMf(y)\in J^sM をみたせば、ff の係数はすべて MM に入る。
(3) αˉ ⁣:k[X1,…,Xr]→⨁sJs/JsM\bar\alpha\colon k[X_1,\dots,X_r]\to\bigoplus_sJ^s/J^sM は単射(したがって次数付き環の同型)。
(4) α\alpha の核の元は、係数がすべて M/JM/J に入る。つまり AA 係数の ss 次斉次式 ff が f(y)∈Js+1f(y)\in J^{s+1} をみたせば、ff の係数はすべて MM に入る。

証明
  1. (2)⇒(1)、(2)⇒(4) は、0∈JsM0\in J^sM と Js+1⊆JsMJ^{s+1}\subseteq J^sM から明らか。
  2. (1)⇒(2):f(y)∈JsMf(y)\in J^sM なら f(y)=∑∣β∣=smβyβf(y)=\sum_{|\beta|=s}m_\beta y^\beta(mβ∈Mm_\beta\in M)と書ける。g=f−∑βmβXβg=f-\sum_\beta m_\beta X^\beta は ss 次斉次式で g(y)=0g(y)=0 なので、gg の係数は MM に入り、ff の係数も MM に入る。

    JsMJ^sM は yβmy^\beta m(∣β∣=s|\beta|=s、m∈Mm\in M)の形の元で生成されるので、このように書ける。ff と gg の係数の差は mβ∈Mm_\beta\in M である。

  3. (4)⇒(2) も同じ。g(y)=0∈Js+1g(y)=0\in J^{s+1} に (4) を使う。
  4. (2)⇔(3):k[X]k[X] の ss 次の元は、AA 係数の ss 次斉次式 ff の係数を MM を法として見たもの fˉ\bar f である。αˉ(fˉ)\bar\alpha(\bar f) は f(y)f(y) の Js/JsMJ^s/J^sM での像なので、「αˉ(fˉ)=0⇒fˉ=0\bar\alpha(\bar f)=0\Rightarrow\bar f=0」は (2) そのものである。

(4) はアティヤ・マクドナルドの形で、(2) は松村の証明に出てくる形です。どれも「随伴次数環の関係式は、係数が MM に入るものしかない」と言っています。

例10 解析的に独立な元、独立でない元

A=k[x,y](x,y)A=k[x,y]_{(x,y)} とする。

(1) x, yx,\ y は解析的に独立。gr⁡M(A)≅k[X,Y]\operatorname{gr}_M(A)\cong k[X,Y] で、αˉ\bar\alpha は恒等写像になる。
(2) xx だけでも解析的に独立。解析的に独立な組の一部は、また解析的に独立である。
(3) x, y, x+yx,\ y,\ x+y は独立でない。f=X+Y−Zf=X+Y-Z は係数が単元で、f(x,y,x+y)=0f(x,y,x+y)=0。
(4) x, xyx,\ xy は独立でない。f=y X−Yf=y\,X-Y は1次の斉次式で f(x,xy)=0f(x,xy)=0、YY の係数 −1-1 は単元。

証明
  1. (1) f(x,y)=0f(x,y)=0 となる斉次式 f=∑a+b=scabXaYbf=\sum_{a+b=s}c_{ab}X^aY^b を考える。cabc_{ab} を MM を法として定数 cˉab∈k\bar c_{ab}\in k にすると、∑cˉabxayb∈Ms+1\sum\bar c_{ab}x^ay^b\in M^{s+1}。ss 次の単項式は Ms/Ms+1M^s/M^{s+1} で1次独立なので、cˉab=0\bar c_{ab}=0。
  2. (2) f(y1,…,yr′)f(y_1,\dots,y_{r'}) を y1,…,yry_1,\dots,y_r(r′≤rr'\le r)の斉次式とみればよい。

(4) の x, xyx,\ xy は2個の元ですが、(x, xy)=(x)(x,\ xy)=(x) は MM 準素ではなく、巴系ではありません。xyxy は xx の倍数なので、xx で切った後に何も切れていませんでした(例2(2))。その「倍数である」ことが、単元を係数にもつ関係式 xy=y⋅xxy=y\cdot x として現れています。

巴系ではこのようなことが起きない、というのが次の定理です。

定理11 巴系は解析的に独立 [1, 定理14.5, p.129; 2, 命題11.20, p.189–190; 2, 系11.21, p.190]

(A,M,k)(A,M,k) を dd 次元のネーター局所環、x1,…,xdx_1,\dots,x_d を巴系、q=(x1,…,xd)q=(x_1,\dots,x_d) とする。

(1) AA 係数の ss 次斉次式 ff が f(x1,…,xd)∈qsMf(x_1,\dots,x_d)\in q^sM をみたせば、ff の係数はすべて MM に入る。とくに f(x)∈qs+1f(x)\in q^{s+1} でも同じで、x1,…,xdx_1,\dots,x_d は解析的に独立である。言い換えると、次の写像は次数付き環の同型である。

αˉ ⁣:k[X1,…,Xd]→ ≅  ⨁s≥0qs/qsM\begin{aligned} \bar\alpha\colon{}& k[X_1,\dots,X_d]\\ &\xrightarrow{\ \cong\ }\ \bigoplus_{s\ge0}q^s/q^sM \end{aligned}

(2) AA が体 KK を部分環として含めば、x1,…,xdx_1,\dots,x_d は KK 上代数的に独立である。

証明
  1. (1) d=0d=0 なら変数がなく、ff は定数 aa で、f(x)=a∈q0M=Mf(x)=a\in q^0M=M。以下 d≥1d\ge1 とする。αˉ\bar\alpha の核を NN とし、N=0N=0 を示す(補題9の (2)⇔(3))。NN は斉次イデアルである。
  2. φ(s)=dim⁡kqs/qsM\varphi(s)=\dim_kq^s/q^sM とおくと、ℓ(qs/qs+1)≤φ(s) ℓ(A/q)\ell(q^s/q^{s+1})\le\varphi(s)\,\ell(A/q)。

    中山の補題から、qs/qsMq^s/q^sM の基底の代表元 φ(s)\varphi(s) 個は qsq^s を生成する [2, 命題2.8, p.33]。よって qs/qs+1q^s/q^{s+1} は φ(s)\varphi(s) 個の元で生成される A/qA/q 加群で、(A/q)φ(s)(A/q)^{\varphi(s)} の剰余加群である。長さは全射で増えない。

  3. ℓ(qs/qs+1)=ℓ(A/qs+1)−ℓ(A/qs)\ell(q^s/q^{s+1})=\ell(A/q^{s+1})-\ell(A/q^s) は、大きな ss で最高次の係数が正の d−1d-1 次式に一致する。よって φ(s)\varphi(s) も、大きな ss で c sd−1c\,s^{d-1}(c>0c>0)以上になる。

    ℓ(A/qn)\ell(A/q^n) は大きな nn で次数 d(A)d(A) の多項式に一致し(第6回の定理17)、次元定理から d(A)=dd(A)=d。値が正なので最高次の係数は正で、差分の最高次は dd 倍した d−1d-1 次の項になる。

  4. N≠0N\neq0 と仮定し、0でない ee 次斉次式 g∈Ng\in N をとる。k[X]/Nk[X]/N の ss 次の部分は k[X]/(g)k[X]/(g) の ss 次の部分の剰余なので、φ(s)\varphi(s) は大きな ss で d−2d-2 次以下の多項式で抑えられる。これは前のステップに反する。

    k[X1,…,Xd]k[X_1,\dots,X_d] の ss 次の部分の次元は (s+d−1d−1)\binom{s+d-1}{d-1}。k[X]k[X] は整域なので gg を掛ける写像は単射で、g k[X]s−eg\,k[X]_{s-e} の次元は (s−e+d−1d−1)\binom{s-e+d-1}{d-1}。よって

    φ(s) ≤ (s+d−1d−1)−(s−e+d−1d−1)(s≥e)\varphi(s)\ \le\ \binom{s+d-1}{d-1}-\binom{s-e+d-1}{d-1}\qquad(s\ge e)φ(s) ≤ (s+d−1d−1)−(s−e+d−1d−1)(s≥e)\begin{gathered}\varphi(s)\ \le\ \binom{s+d-1}{d-1}-\binom{s-e+d-1}{d-1}\\(s\ge e)\end{gathered}φ(s)≤(s+d−1d−1)−(s−e+d−1d−1)(s≥e)\begin{aligned}\varphi(s) &\le \binom{s+d-1}{d-1}-\binom{s-e+d-1}{d-1}\\[4pt]&(s\ge e)\end{aligned}φ(s)≤(s+d−1d−1)≤−(s−e+d−1d−1)(s≥e)\begin{aligned}\varphi(s) &\le \binom{s+d-1}{d-1}\\&\phantom{\le}{} -\binom{s-e+d-1}{d-1}\\[4pt]&(s\ge e)\end{aligned}

    右辺は2つの d−1d-1 次式(最高次の係数はともに 1/(d−1)!1/(d-1)!)の差なので、d−2d-2 次以下である。d=1d=1 なら右辺は 1−1=01-1=0 で、φ(s)≥c>0\varphi(s)\ge c>0 に反する。

  5. よって N=0N=0。f(x)∈qs+1f(x)\in q^{s+1} の場合は qs+1⊆qsMq^{s+1}\subseteq q^sM から従い、f(x)=0f(x)=0 の場合が解析的独立である。
  6. (2) KK 係数の0でない多項式 ff で f(x)=0f(x)=0 となるものがあったとする。ff の0でない最低次の斉次部分を fsf_s とすると fs(x)∈qs+1f_s(x)\in q^{s+1} なので、(1) から fsf_s の係数は MM に入る。KK の0でない元は単元なので MM に入らず、fs=0f_s=0 となって矛盾する。

    f=fs+fs+1+⋯+ftf=f_s+f_{s+1}+\cdots+f_t(fjf_j は jj 次斉次)と分けると、fs(x)=−∑j>sfj(x)∈qs+1f_s(x)=-\sum_{j>s}f_j(x)\in q^{s+1} である。

アティヤ・マクドナルドは (2) を、KK が剰余体 A/MA/M に同型に写る場合に述べています。証明は「KK の0でない元が単元」しか使わないので、どんな部分体でも成り立ちます。松村も、解析的独立な元と AA に含まれる体 KK について、KK 係数の0でない斉次式に代入すると0でないことを注意しています[1, §14, p.129]。

もう少し詳しくアティヤ・マクドナルドの証明

アティヤ・マクドナルドは、α ⁣:(A/q)[X1,…,Xd]→gr⁡q(A)\alpha\colon(A/q)[X_1,\dots,X_d]\to\operatorname{gr}_q(A) の核を直接調べています[2, 命題11.20, p.189–190]。f(x)∈qs+1f(x)\in q^{s+1} なら、ff の係数を A/qA/q に移した fˉ\bar f は α\alpha の核に入ります。

fˉ\bar f の係数に単元があれば、fˉ\bar f は (A/q)[X](A/q)[X] の非零因子です[2, 演習問題1.2 iii), p.16; 2, 演習問題1.3, p.17]。斉次の非零因子で割るとポアンカレ級数の極の位数 dd が1下がるので(第5回の命題15)、次の評価になります。

d(gr⁡q(A)) ≤ d((A/q)[X]/(fˉ)) = d((A/q)[X])−1 = d−1d\bigl(\operatorname{gr}_q(A)\bigr)\ \le\ d\bigl((A/q)[X]/(\bar f)\bigr)\ =\ d\bigl((A/q)[X]\bigr)-1\ =\ d-1d(gr⁡q(A))≤d((A/q)[X]/(fˉ))=d((A/q)[X])−1=d−1\begin{aligned}d\bigl(\operatorname{gr}_q(A)\bigr) &\le d\bigl((A/q)[X]/(\bar f)\bigr)\\&= d\bigl((A/q)[X]\bigr)-1\\&= d-1\end{aligned}d(gr⁡q(A))≤d((A/q)[X]/(fˉ))=d((A/q)[X])=−1=d−1\begin{aligned}d\bigl(\operatorname{gr}_q(A)\bigr) &\le d\bigl((A/q)[X]/(\bar f)\bigr)\\&= d\bigl((A/q)[X]\bigr)\\&\phantom{=}{} -1\\&= d-1\end{aligned}

一方、次元定理から d(gr⁡q(A))=dd(\operatorname{gr}_q(A))=d なので矛盾します。松村の証明(上の証明)は、A/qA/q の代わりに剰余体 kk まで落として k[X]k[X] の中で数えている点が違います。

図式で言えば、α\alpha は同型とは限らないが、その核は図式の左の縦の矢印で0に写る、ということです。kk まで落とすと同型 αˉ\bar\alpha になります。次の例で、α\alpha が同型な場合とそうでない場合を比べます。

例12 α\alpha の核

(1) A=k[x,y](x,y)A=k[x,y]_{(x,y)}、q=(x2, y3)q=(x^2,\ y^3)。α ⁣:(A/q)[X,Y]→gr⁡q(A)\alpha\colon(A/q)[X,Y]\to\operatorname{gr}_q(A) は同型で、ℓ(A/qn)=6(n+12)=3n(n+1)\ell(A/q^n)=6\binom{n+1}{2}=3n(n+1)。
(2) A=k[x,y](x,y)/(x2, xy)A=k[x,y]_{(x,y)}/(x^2,\ xy)、q=(y)q=(y)(例4(3) の巴系)。α ⁣:(A/q)[Y]→gr⁡q(A)\alpha\colon(A/q)[Y]\to\operatorname{gr}_q(A) の核は xˉ Y\bar x\,Y で生成され、係数 xˉ\bar x は M/qM/q に入る。αˉ ⁣:k[Y]→⨁sqs/qsM\bar\alpha\colon k[Y]\to\bigoplus_sq^s/q^sM は同型で、ℓ(A/qn)=n+1\ell(A/q^n)=n+1。

証明
  1. (1) 単項式 xaybx^ay^b が qs∖qs+1q^s\setminus q^{s+1} に入るのは ⌊a/2⌋+⌊b/3⌋=s\lfloor a/2\rfloor+\lfloor b/3\rfloor=s のとき。よって qs/qs+1q^s/q^{s+1} の基底は、i+j=si+j=s の各 (i,j)(i,j) について x2i+a′y3j+b′x^{2i+a'}y^{3j+b'}(a′<2, b′<3a'<2,\ b'<3)で、これは (A/q) XiYj(A/q)\,X^iY^j の基底の像である。

    qsq^s は単項式 x2iy3jx^{2i}y^{3j}(i+j=si+j=s)で生成されるので、xayb∈qsx^ay^b\in q^s は「2i≤a2i\le a、3j≤b3j\le b、i+j=si+j=s となる i,ji,j がある」こと、つまり ⌊a/2⌋+⌊b/3⌋≥s\lfloor a/2\rfloor+\lfloor b/3\rfloor\ge s と同じである。ℓ(A/qn)\ell(A/q^n) は ⌊a/2⌋+⌊b/3⌋<n\lfloor a/2\rfloor+\lfloor b/3\rfloor<n となる (a,b)(a,b) の個数で、2×32\times3 のタイルが (n+12)\binom{n+1}{2} 枚ある。

  2. (2) AA の0でない単項式は 1, x, y, y2,…1,\ x,\ y,\ y^2,\dots で、qs=(ys)q^s=(y^s) の基底は ys,ys+1,…y^s,y^{s+1},\dots(s≥1s\ge1)。よって ℓ(A/qn)=n+1\ell(A/q^n)=n+1、qs/qs+1=k ysq^s/q^{s+1}=k\,y^s(s≥1s\ge1)。
  3. α(xˉ Y)=xy‾=0\alpha(\bar x\,Y)=\overline{xy}=0 なので xˉ Y\bar x\,Y は核に入る。A/qA/q の基底 1,xˉ1,\bar x と YsY^s の積のうち、s≥1s\ge1 で残るのは YsY^s の像 ysy^s だけである。
  4. qsM=(ys)(x,y)=(xys, ys+1)=(ys+1)q^sM=(y^s)(x,y)=(xy^s,\ y^{s+1})=(y^{s+1})(s≥1s\ge1)なので qs/qsM=k ysq^s/q^sM=k\,y^s で、αˉ(Ys)=ys\bar\alpha(Y^s)=y^s は0でない。
11
YY
Y2Y^2
XX
XYXY
X2X^2
aa
bb
k[x,y](x,y),  q=(x2, y3)k[x,y]_{(x,y)},\ \ q=(x^2,\,y^3)
ℓ(A/qn)=6(n+12)\ell(A/q^n)=6\binom{n+1}{2}
11
YY
Y2Y^2
Y3Y^3
aa
bb
xyn=0xy^n=0
⇒ xˉ Yn∈Ker⁡α\Rightarrow\ \bar x\,Y^n\in\operatorname{Ker}\alpha
k[x,y](x,y)/(x2,xy),  q=(y)k[x,y]_{(x,y)}/(x^2,xy),\ \ q=(y)
ℓ(A/qn)=n+1\ell(A/q^n)=n+1
図3具体例例12の2つの環の単項式 xaybx^ay^b を、格子のマス (a,b)(a,b) で表した図です。太い枠のタイルは A/qA/q の基底の形をしていて、タイル1枚が (A/q) XiYj(A/q)\,X^iY^j の像に当たります。同じ色のタイルの集まりが qs/qs+1q^s/q^{s+1} です。各タイルの左下の黒い点が αˉ(XiYj)\bar\alpha(X^iY^j) で、qs/qsMq^s/q^sM の基底になります。左の q=(x2,y3)q=(x^2,y^3) ではタイルが隙間なく並び、α\alpha は同型です。右の x2=xy=0x^2=xy=0 の環では、YsY^s(s≥1s\ge1)のタイルから xys=0xy^s=0 のマスが欠けます。欠けるのは左下の点ではないマスだけなので、αˉ\bar\alpha は同型のままです。マスの色と個数は、単項式がイデアルのべきに入るかを計算して確かめています。

第7回の評価 ℓ(A/qn)≤ℓ(A/q)(n+d−1d)\ell(A/q^n)\le\ell(A/q)\binom{n+d-1}{d}(第7回の命題5)と比べます。(1) では ℓ(A/q)=6\ell(A/q)=6、d=2d=2 で、評価の 6(n+12)6\binom{n+1}{2} と実際の値が一致します。(2) では評価は 2n2n で、実際の n+1n+1 は n≥2n\ge2 で真に小さくなります。

n1234(1)  ℓ(A/qn)61836606(n+12)6183660(2)  ℓ(A/qn)23452(n1)2468\begin{array}{c|cccc} n & 1 & 2 & 3 & 4 \\ \hline (1)\ \ \ell(A/q^n) & 6 & 18 & 36 & 60 \\ 6\binom{n+1}{2} & 6 & 18 & 36 & 60 \\ \hline (2)\ \ \ell(A/q^n) & 2 & 3 & 4 & 5 \\ 2\binom{n}{1} & 2 & 4 & 6 & 8 \end{array}

評価との差は、α\alpha の核から生じています。(2) では yy が零因子(x⋅y=0x\cdot y=0)で、その分だけ gr⁡q(A)\operatorname{gr}_q(A) が (A/q)[Y](A/q)[Y] より小さくなっています。

専門的な話α\alpha が同型になるとき

(1) の x2, y3x^2,\ y^3 は、x2x^2 が AA の非零因子、y3y^3 が A/(x2)A/(x^2) の非零因子になっています。このように順に非零因子になる列を正則列と呼びます。巴系が正則列なら α\alpha は同型で、ℓ(A/qn)=ℓ(A/q)(n+d−1d)\ell(A/q^n)=\ell(A/q)\binom{n+d-1}{d} となります。

ある巴系が正則列になる局所環がコーエン・マコーレー環で、そのときはすべての巴系が正則列になります。これらは第12回で扱う予定です。(2) の環はコーエン・マコーレー環ではありません。

nn が大きいときの ℓ(A/qn)\ell(A/q^n) の最高次の係数に d!d! を掛けたものを、qq の重複度 e(q)e(q) と呼びます。

松村は ℓ(A/q)≥e(q)\ell(A/q)\ge e(q) を示しています[1, 定理14.10, p.132]。(1) では e(q)=6=ℓ(A/q)e(q)=6=\ell(A/q)、(2) では e(q)=1<2=ℓ(A/q)e(q)=1<2=\ell(A/q) です。この連載では重複度そのものは扱いません。

完備局所環はべき級数環の上で有限

定理11(2) から、体 kk を含む局所環では、巴系 x1,…,xdx_1,\dots,x_d が kk 上の多項式環 k[x1,…,xd]k[x_1,\dots,x_d] を生成します。第4回のネーターの正規化定理(第4回の定理4)では、有限生成代数が多項式環の上で有限になりました。完備な局所環では、その局所版が成り立ちます。

おさらい完備化と MM 進位相

局所環 (A,M)(A,M) が完備であるとは、A→lim←⁡nA/MnA\to\varprojlim_nA/M^n が同型であることでした(第7回の系15)。MnM^n を0の近傍とする位相(MM 進位相)で、コーシー列がただ1つの極限をもつ、と言っても同じです。

A→≅lim←⁡nA/Mn↓↓A/Mn+1→A/Mn\begin{CD} A @>{\cong}>> \varprojlim_nA/M^n \\ @VVV @VVV \\ A/M^{n+1} @>>> A/M^n \end{CD}

ネーター局所環では ⋂nMn=0\bigcap_nM^n=0 なので、極限はただ1つです[2, 系10.20, p.171]。例えば k[[x]]k[[x]] では、∑icixi\sum_ic_ix^i の部分和は MM 進位相で収束します。差 cnxn+cn+1xn+1+⋯c_nx^n+c_{n+1}x^{n+1}+\cdots が MnM^n に入るからです。

局所環 (A,M,k)(A,M,k) の部分体 KK で、A→A/MA\to A/M を KK に制限すると同型 K≅kK\cong k になるものを、係数体と呼びます。例えば k[[x,y]]k[[x,y]] の定数の体 kk は係数体です。

命題13 完備局所環の巴系とべき級数環 [2, 演習問題11.2, p.194]

(A,M,k)(A,M,k) を完備な dd 次元のネーター局所環とし、係数体 k⊆Ak\subseteq A をもつとする。巴系 x1,…,xdx_1,\dots,x_d について、Ti↦xiT_i\mapsto x_i で定まる準同型

φ ⁣:k[[T1,…,Td]]⟶A∑βcβTβ⟼∑βcβxβ\varphi\colon k[[T_1,\dots,T_d]]\longrightarrow A\qquad \sum_\beta c_\beta T^\beta\longmapsto\sum_\beta c_\beta x^\betaφ ⁣:k[[T1,…,Td]]⟶A∑βcβTβ⟼∑βcβxβ\begin{gathered}\varphi\colon k[[T_1,\dots,T_d]]\longrightarrow A\\\sum_\beta c_\beta T^\beta\longmapsto\sum_\beta c_\beta x^\beta\end{gathered}φ ⁣:k[[T1,…,Td]]⟶A∑βcβTβ⟼∑βcβxβ\begin{aligned}\varphi\colon k[[T_1,\dots,T_d]] &\longrightarrow A\\[4pt]&\sum_\beta c_\beta T^\beta\longmapsto\sum_\beta c_\beta x^\beta\end{aligned}

は単射で、AA は φ\varphi によって有限生成 k[[T1,…,Td]]k[[T_1,\dots,T_d]] 加群になる。

証明
  1. φ\varphi が定まる。q=(x1,…,xd)q=(x_1,\dots,x_d) とすると、右辺の部分和は MM 進位相でコーシー列なので、AA が完備であることから収束する。

    nn 次以上の項は qn⊆Mnq^n\subseteq M^n に入る。極限はただ1つで([2, 系10.20, p.171])、和と積は部分和の和と積の極限なので、φ\varphi は環の準同型である。

  2. 単射:0でない FF の最低次の斉次部分を Fs≠0F_s\neq0 とする。φ(F)=0\varphi(F)=0 なら Fs(x)∈qs+1F_s(x)\in q^{s+1} で、定理11(1) から FsF_s の係数は M∩k=0M\cap k=0 に入る。これは矛盾である。

    Fs(x)=−∑j>sFj(x)F_s(x)=-\sum_{j>s}F_j(x) で、右辺の部分和はすべて qs+1q^{s+1} に入る。qs+1q^{s+1} は MM 準素なので、ある NN で MN⊆qs+1M^N\subseteq q^{s+1}。開集合 MNM^N を含む部分群は、補集合が開集合 a+MNa+M^N の和なので閉集合で、極限も qs+1q^{s+1} に入る。

  3. 有限生成:A/qA/q の kk 上の基底 e1,…,ere_1,\dots,e_r(r=ℓ(A/q)r=\ell(A/q))をとると、gr⁡q(A)\operatorname{gr}_q(A) は k[T1,…,Td]k[T_1,\dots,T_d] 加群として eˉ1,…,eˉr\bar e_1,\dots,\bar e_r で生成される。

    TiT_i は xˉi∈q/q2\bar x_i\in q/q^2 を掛ける作用で、gr⁡q(A)=gr⁡(T)(A)\operatorname{gr}_q(A)=\operatorname{gr}_{(T)}(A) は gr⁡(T)(k[[T]])=k[T]\operatorname{gr}_{(T)}(k[[T]])=k[T] 加群になる。qs/qs+1q^s/q^{s+1} は A/qA/q 上 xβx^\beta(∣β∣=s|\beta|=s)で生成され、A/qA/q は kk 上 eje_j で張られるので、qs/qs+1q^s/q^{s+1} は kk 上 ejxβe_jx^\beta で張られる。

  4. k[[T]]k[[T]] は (T)(T) 進位相で完備で、AA のフィルター (T)nA=qn(T)^nA=q^n はハウスドルフ(⋂nqn=0\bigcap_nq^n=0)。アティヤ・マクドナルドの命題10.24 [2, 命題10.24, p.174] から、AA は e1,…,ere_1,\dots,e_r で生成される k[[T]]k[[T]] 加群である。

    引用した命題は「BB がイデアル b\mathfrak b について完備で、BB 加群 NN の b\mathfrak b フィルターがハウスドルフ、随伴次数加群が有限生成なら、NN は有限生成」というもの。⋂nqn⊆⋂nMn=0\bigcap_nq^n\subseteq\bigcap_nM^n=0 は[2, 系10.20, p.171]。

φ\varphi と、それが引き起こす随伴次数環の写像を並べます。下の行の gr⁡(φ)\operatorname{gr}(\varphi) は、補題9の α\alpha を k[T]⊆(A/q)[T]k[T]\subseteq(A/q)[T] に制限したものです。

k[[T1,…,Td]]→φA↓↓gr⁡(T)k[[T]]=k[T1,…,Td]→gr⁡(φ)gr⁡q(A)\begin{CD} k[[T_1,\dots,T_d]] @>{\varphi}>> A \\ @VVV @VVV \\ \operatorname{gr}_{(T)}k[[T]]=k[T_1,\dots,T_d] @>{\operatorname{gr}(\varphi)}>> \operatorname{gr}_q(A) \end{CD}

gr⁡(φ)\operatorname{gr}(\varphi) は単射で(定理11(1) の αˉ\bar\alpha が同型だから)、gr⁡q(A)\operatorname{gr}_q(A) は ℓ(A/q)\ell(A/q) 個の元で生成されます。上の行の φ\varphi も単射で、AA は有限生成になる、というのがこの命題です。

ネーターの正規化定理と並べると、次のようになります。左は体 kk 上有限生成の dd 次元の整域 BB、右は係数体をもつ dd 次元の完備局所環 AA で、どちらの単射も「有限」(右の環が左の環の上で有限生成加群)です。

k[y1,…,yd] ↪ Bk[[T1,…,Td]] ↪ Ak[y_1,\dots,y_d]\ \hookrightarrow\ B\qquad\qquad k[[T_1,\dots,T_d]]\ \hookrightarrow\ Ak[y1,…,yd] ↪ Bk[[T1,…,Td]] ↪ A\begin{gathered}k[y_1,\dots,y_d]\ \hookrightarrow\ B\\k[[T_1,\dots,T_d]]\ \hookrightarrow\ A\end{gathered}

例14 尖点

A=k[[t2,t3]]={∑iciti∈k[[t]]∣c1=0}A=k[[t^2,t^3]]=\{\sum_ic_it^i\in k[[t]]\mid c_1=0\} とし、x=t2x=t^2、y=t3y=t^3 とおく(y2=x3y^2=x^3)。AA は1次元の完備ネーター局所環で、xx も yy も巴系である。

(1) A/xAA/xA の基底は 1, t31,\ t^3 で、A=k[[x]]⋅1⊕k[[x]]⋅t3A=k[[x]]\cdot1\oplus k[[x]]\cdot t^3 は階数2の自由加群。
(2) A/yAA/yA の基底は 1, t2, t41,\ t^2,\ t^4 で、A=k[[y]]⋅1⊕k[[y]]⋅t2⊕k[[y]]⋅t4A=k[[y]]\cdot1\oplus k[[y]]\cdot t^2\oplus k[[y]]\cdot t^4 は階数3の自由加群。

証明
  1. AA は k[[X,Y]]→k[[t]]k[[X,Y]]\to k[[t]](X↦t2, Y↦t3X\mapsto t^2,\ Y\mapsto t^3)の像なので、完備ネーター局所環である。整域で体でないので1次元以上、A/xAA/xA の長さが有限なので1次元以下。

    11 以外の自然数は 2a+3b2a+3b と書けるので、像は t1t^1 の係数が0のべき級数全体である。完備ネーター局所環の剰余環は完備ネーター局所環である。dim⁡A≤δ(A)≤1\dim A\le\delta(A)\le1 は次元定理による。

  2. (1) xAxA の元の指数は 2+s2+s(s≠1s\neq1)で、33 だけが現れない。よって A/xAA/xA の基底は指数 0,30,3 の 1,t31,t^3。AA の指数 ss は、偶数なら 0+2j0+2j、3以上の奇数なら 3+2j3+2j とただ1通りに書ける。
  3. (2) yAyA の元の指数は 3+s3+s(s≠1s\neq1)で、0,2,40,2,4 が AA にあって yAyA にない。AA の指数は3で割った余りで 0+3j0+3j、2+3j2+3j、4+3j4+3j のどれかにただ1通りに書ける。
k[[x]]k[[x]] 上(x=t2x=t^2)
00
11
22
33
44
55
66
77
88
99
1010
1111
1212
1313
1414
t3⋅k[[t2]]t^{3}\cdot k[[t^2]]
t0⋅k[[t2]]t^{0}\cdot k[[t^2]]
k[[y]]k[[y]] 上(y=t3y=t^3)
00
11
22
33
44
55
66
77
88
99
1010
1111
1212
1313
1414
t4⋅k[[t3]]t^{4}\cdot k[[t^3]]
t2⋅k[[t3]]t^{2}\cdot k[[t^3]]
t0⋅k[[t3]]t^{0}\cdot k[[t^3]]
白丸の 11 は欠けている指数(t∉At\notin A)。丸で囲んだ指数が A/tgAA/t^gA の基底で、その個数が階数
図4具体例A=k[[t2,t3]]A=k[[t^2,t^3]] の元に現れる指数を数直線に並べた図です。白丸の1だけが欠けています。上の段は x=t2x=t^2 を掛けて移り合う指数を同じ色にしたもので、2色(11 と t3t^3 の組)に分かれます。下の段は y=t3y=t^3 で、3色に分かれます。丸で囲んだ指数が A/xAA/xA、A/yAA/yA の基底で、その個数が階数 ℓ(A/xA)=2\ell(A/xA)=2、ℓ(A/yA)=3\ell(A/yA)=3 です。指数の分け方は、どの指数もただ1通りに書けることを計算して確かめています。

図形の言葉では、尖点 y2=x3y^2=x^3 を xx 軸へ射影すると2対1、yy 軸へ射影すると3対1になる、ということです。xx を決めると y=±x3/2y=\pm x^{3/2} の2つ、yy を決めると x=y2/3x=y^{2/3} の3つ(1の3乗根の分)が対応します。

実数の点だけを見ると、yy 軸への射影は1対1に見えます。実数の3乗根は1つしかないからです。階数3は、複素数の点で数えて初めて見える数です。

もう少し詳しく完備でないと有限にならない例

完備という仮定は外せません。曲線 x=y2+yx=y^2+y の原点での局所環は k[y](y)k[y]_{(y)} で、x=y(1+y)x=y(1+y) は巴系です。しかし k[y](y)k[y]_{(y)} は k[x](x)k[x]_{(x)} の上で有限ではありません。

x=0x=0 の上には y=0y=0 と y=−1y=-1 の2点があり、局所化で y=−1y=-1 を捨てたからです。有限なら整拡大なので、横たわり(第2回の定理10)から、B=k[x](x)[y]B=k[x]_{(x)}[y] の極大イデアル (y+1)B(y+1)B の上にも k[y](y)k[y]_{(y)} の素イデアルがあるはずです。ところが k[y](y)k[y]_{(y)} の素イデアル (0)(0)、(y)(y) は、BB の (0)(0)、(y)B(y)B にしか写りません。

k[x](x)→B=k[x](x)[y]↓ k[[x]]→≅k[[y]]→k[y](y) ↓=k[[y]]{}\begin{gathered} \begin{CD} k[x]_{(x)} @>>> B=k[x]_{(x)}[y] \\ @VVV @. \\ k[[x]] @>{\cong}>> k[[y]] \end{CD}\\[6pt] \begin{CD} @>>> k[y]_{(y)} \\ @. @VVV \\ @= k[[y]] \end{CD} \end{gathered}

完備化すると、x=y+y2x=y+y^2 は y=x−x2+2x3−⋯y=x-x^2+2x^3-\cdots と逆に解けて、k[[x]]→k[[y]]k[[x]]\to k[[y]] は同型になります。k[[x]]k[[x]] の上では y=0y=0 と y=−1y=-1 の2つの枝を別々に扱えるようになり、y=0y=0 の枝だけを取り出しても有限になるのです。

交点重複度は巴系で割った長さ

代数幾何の連載の第9回では、平面曲線 f=0f=0 と g=0g=0 の点 pp での交点重複度を、局所環を2つの式で割った長さで定義しました。

おさらい交点重複度

f,g∈k[x,y]f,g\in k[x,y] が共通の因子をもたないとき、点 pp の局所環 Op=k[x,y]Mp\mathcal{O}_p=k[x,y]_{M_p} を使って、次のように定義しました(図で読む代数幾何 第9回の定義1)。

Ip(f,g)=dim⁡kOp/(f,g)Op=ℓ(Op/(f,g))I_p(f,g)=\dim_k\mathcal{O}_p/(f,g)\mathcal{O}_p=\ell\bigl(\mathcal{O}_p/(f,g)\bigr)Ip(f,g)=dim⁡kOp/(f,g)Op=ℓ(Op/(f,g))\begin{aligned}I_p(f,g) &= \dim_k\mathcal{O}_p/(f,g)\mathcal{O}_p\\&= \ell\bigl(\mathcal{O}_p/(f,g)\bigr)\end{aligned}

例えば放物線 y=x2y=x^2 と接線 y=0y=0 では、O0/(y−x2, y)≅k[x]/(x2)\mathcal{O}_0/(y-x^2,\ y)\cong k[x]/(x^2) で I0=2I_0=2 です(図で読む代数幾何 第9回の例2)。IpI_p が有限であることも、そこで確かめました(図で読む代数幾何 第9回の命題3)。

Op\mathcal{O}_p は2次元の局所環なので、f,gf,g が pp で0になるとき、Ip(f,g)<∞I_p(f,g)<\infty は「f,gf,g が Op\mathcal{O}_p の巴系である」ことにほかなりません。交点重複度は、巴系で割った長さなのです。

命題15 交点と巴系

f,g∈k[x,y]f,g\in k[x,y] を0でない多項式とし、点 pp で f(p)=g(p)=0f(p)=g(p)=0 とする。Op=k[x,y]Mp\mathcal{O}_p=k[x,y]_{M_p} について、次は同値である。

(1) f,gf,g は Op\mathcal{O}_p の巴系。
(2) Ip(f,g)=ℓ(Op/(f,g))<∞I_p(f,g)=\ell(\mathcal{O}_p/(f,g))<\infty。
(3) ff と gg は、pp で0になる既約な共通因子をもたない。

証明
  1. (1)⇔(2) は巴系の定義そのものである(dim⁡Op=2\dim\mathcal{O}_p=2 は第7回の例10の k[x,y](x,y)k[x,y]_{(x,y)} を平行移動したもの)。
  2. f≠0f\neq0 は整域 Op\mathcal{O}_p の非零因子なので巴系の一部で、dim⁡Op/(f)=1\dim\mathcal{O}_p/(f)=1(命題3(3))。よって (1) は「gg の像が Op/(f)\mathcal{O}_p/(f) の巴系」と同値である。
  3. Op/(f)\mathcal{O}_p/(f) の極小素イデアルは、ff の既約因子 hh で h(p)=0h(p)=0 となるものの (h)(h) で、どれも dim⁡Op/(h)=1\dim\mathcal{O}_p/(h)=1。

    ff を含む Op\mathcal{O}_p の素イデアル QQ を k[x,y]k[x,y] に引き戻すと、ff を含む素イデアルなので、ff の既約因子 hh を1つ含む。Q⊆MpOpQ\subseteq M_p\mathcal{O}_p なので h(p)=0h(p)=0。k[x,y]k[x,y] は一意分解整域なので (h)(h) は素イデアルで、h(p)=0h(p)=0 から (h)Op(h)\mathcal{O}_p も素イデアルである。

    h≠0h\neq0 なので、dim⁡Op/(h)=1\dim\mathcal{O}_p/(h)=1(命題3(3) を hh に使う)。

  4. 1次元の Op/(f)\mathcal{O}_p/(f) の極小素イデアルはすべて dim⁡=1\dim=1 なので、命題3(3) から、gg の像が巴系になるのは gg がどの (h)(h) にも入らないとき、つまり h∤gh\nmid g のときである。これが (3) である。

pp で0にならない共通因子は、Op\mathcal{O}_p では単元なので、ℓ(Op/(f,g))\ell(\mathcal{O}_p/(f,g)) に影響しません。例えば f=(x−1)yf=(x-1)y、g=(x−1)(y−x2)g=(x-1)(y-x^2) は共通因子 x−1x-1 をもちますが、原点では (f,g)O0=(y, y−x2)(f,g)\mathcal{O}_0=(y,\ y-x^2) で、I0=2I_0=2 です。点 (1,0)(1,0) では、共通の直線 x=1x=1 が通るので巴系になりません。

例16 尖点と直線の交点重複度

尖点 f=y2−x3f=y^2-x^3 と原点を通る直線の交点重複度は次のとおり。

I0(y2−x3, x)=2I0(y2−x3, y)=3I0(y2−x3, y−x)=2I_0(y^2-x^3,\ x)=2\qquad I_0(y^2-x^3,\ y)=3\qquad I_0(y^2-x^3,\ y-x)=2I0(y2−x3, x)=2I0(y2−x3, y)=3I0(y2−x3, y−x)=2\begin{gathered}I_0(y^2-x^3,\ x)=2\\I_0(y^2-x^3,\ y)=3\\I_0(y^2-x^3,\ y-x)=2\end{gathered}I0(y2−x3, x)=2I0(y2−x3, y)=3I0(y2−x3, y−x)=2\begin{aligned}I_0(y^2-x^3,\ x) &= 2\\[4pt]I_0(y^2-x^3,\ y) &= 3\\[4pt]I_0(y^2-x^3,\ y-x) &= 2\end{aligned}

どの直線も、O0/(f)\mathcal{O}_0/(f) の巴系である。

証明
  1. x=0x=0 を代入すると k[y]/(y2)k[y]/(y^2)、y=0y=0 を代入すると k[x]/(x3)k[x]/(x^3) で、長さは2と3。
  2. y=xy=x を代入すると x2−x3=x2(1−x)x^2-x^3=x^2(1-x) で、1−x1-x は O0\mathcal{O}_0 の単元なので k[x]/(x2)k[x]/(x^2)、長さ2。

I0(f,x)=2I_0(f,x)=2、I0(f,y)=3I_0(f,y)=3 は、例14の階数2と3と同じ数です。尖点の局所環を xx で割った長さと yy で割った長さが、それぞれの射影の「何対1か」を決めています。

尖点の重複度は2で(代数幾何の連載の第6回、図で読む代数幾何 第6回の定義14)、接錐は直線 y=0y=0 です。交点重複度は Ip(f,ℓ)≥μp(f)I_p(f,\ell)\ge\mu_p(f) で、等号は直線 ℓ\ell が接錐に含まれないときに成り立ちました(図で読む代数幾何 第9回の命題4(4))。接線 y=0y=0 だけが3で、ほかの直線は2です。

平面曲線では、一般の直線との交点重複度が最小値 μp(f)\mu_p(f) をとりました。一般の局所環でも「一般の1次結合」で巴系が作れます。松村は、剰余体が無限体のとき、MM 準素イデアル qq の生成元の十分一般な dd 個の1次結合が巴系になることを示しています[1, 定理14.14, p.135]。

まとめ

局所環巴系の例ℓ(A/q)\ell(A/q)巴系の一部にならない元高さが元の個数より小さい巴系
k[x,y](x,y)k[x,y]_{(x,y)}x2, y3x^2,\ y^36なし(MM の0でない元はどれも巴系の一部)なし
k[x,y,z](x,y,z)/(xz,yz)k[x,y,z]_{(x,y,z)}/(xz,yz)x+z, y+zx+z,\ y+z2zz(平面の上で0)x, y+zx,\ y+z(ht⁡(x)=0\operatorname{ht}(x)=0)
k[x,y](x,y)/(x2,xy)k[x,y]_{(x,y)}/(x^2,xy)yy2xxなし(1次元)
k[[t2,t3]]k[[t^2,t^3]]t2t^2、t3t^32、3なしなし

巴系は、dd 次元のネーター局所環で原点を切り出す dd 個の元です。最初の ii 個で割ると次元はちょうど d−id-i になり、逆に次元が d−id-i に下がる元の組は巴系に延ばせます。1つの元が巴系の一部になるのは、次元 dd の成分の上で恒等的に0でないときでした。

高さは成分の小さいほうで決まるので、巴系の一部の高さは元の個数より小さくなりえます。それでも、選び方を工夫すれば高さのそろった巴系があります。巴系の元は解析的に独立で、完備な場合には AA がべき級数環の上で有限になります。

この記事で扱った写像を、1つの図式にまとめます(q=(x1,…,xd)q=(x_1,\dots,x_d)、右の縦の列は AA が完備で係数体 kk をもつ場合)。

A/(x1,…,xi) ↑ A←φk[[T1,…,Td]]↓↓gr⁡q(A)←α(A/q)[T1,…,Td]↓↓⨁sqs/qsM←≅αˉk[T1,…,Td]\begin{CD} A/(x_1,\dots,x_i) @. \\ @AAA @. \\ A @<{\varphi}<< k[[T_1,\dots,T_d]] \\ @VVV @VVV \\ \operatorname{gr}_q(A) @<{\alpha}<< (A/q)[T_1,\dots,T_d] \\ @VVV @VVV \\ {\displaystyle\bigoplus_sq^s/q^sM} @<{\bar\alpha}<{\cong}< k[T_1,\dots,T_d] \end{CD} dim⁡A/(x1,…,xi)=d−iht⁡(x1,…,xi)≤ik[T]→ ≅  αˉ ⨁sqs/qsM\dim A/(x_1,\dots,x_i)=d-i\qquad \operatorname{ht}(x_1,\dots,x_i)\le i\qquad k[T]\xrightarrow[\ \cong\ ]{\ \bar\alpha\ }\bigoplus_sq^s/q^sMdim⁡A/(x1,…,xi)=d−iht⁡(x1,…,xi)≤ik[T]→ ≅  αˉ ⨁sqs/qsM\begin{gathered}\dim A/(x_1,\dots,x_i)=d-i\\\operatorname{ht}(x_1,\dots,x_i)\le i\\k[T]\xrightarrow[\ \cong\ ]{\ \bar\alpha\ }\bigoplus_sq^s/q^sM\end{gathered}dim⁡A/(x1,…,xi)=d−iht⁡(x1,…,xi)≤ik[T]→ ≅  αˉ ⨁sqs/qsM\begin{aligned}\dim A/(x_1,\dots,x_i) &= d-i\\[4pt]\operatorname{ht}(x_1,\dots,x_i) &\le i\\[4pt]&k[T]\xrightarrow[\ \cong\ ]{\ \bar\alpha\ }\bigoplus_sq^s/q^sM\end{aligned}

次回:正則局所環

次回(第10回)は、正則局所環を扱います。極大イデアル MM 自身が巴系で生成される局所環、つまり dim⁡A=dim⁡kM/M2\dim A=\dim_kM/M^2 となる局所環です。第7回で見た埋め込み次元との比較(第7回の系13)で、等号が成り立つ場合に当たります。

正則局所環では、MM を生成する巴系について gr⁡M(A)≅k[X1,…,Xd]\operatorname{gr}_M(A)\cong k[X_1,\dots,X_d] となり、今回の αˉ\bar\alpha が α\alpha そのものになります。ここから、正則局所環が整域であることや、多様体の非特異点を判定するヤコビの判定法を導く予定です。

参考文献

  1. 松村英之, 『復刊 可換環論』, 共立出版, 2000.
  2. M. F. アティヤ, I. G. マクドナルド(新妻弘 訳), 『可換代数入門』, 共立出版, 2006.
  3. 後藤四郎, 渡辺敬一, 『可換環論』, 日本評論社, 2011.
  4. 堀田良之, 『可換環と体』, 岩波書店, 2006.