この記事の要点
- 食い違いを測る
- 2枚の開集合 U0,U1 の上の切断から、重なりの上の差 s0−s1 を作る写像を δ とします。δ の核が全体の切断 Hˇ0、差で書けない重なりの切断を集めたもの(余核)が Hˇ1 です。
- 円の例
- 円を2つの弧で覆うと、重なりは2か所に分かれます。整数値の局所定数関数では、2か所の差が必ず等しくなるので、「片方で1、もう片方で0」は差で書けず、Hˇ1≅Z になります。
- P1 の O(n)
- 重なりの上の切断はローラン多項式です。U0 の側から tm(m≥0)、U1 の側から tm(m≤n)が作れ、両方で作れる分が H0、どちらでも作れない分が H1 です。h0−h1 はいつも n+1 です。
- 被覆によらない
- ネーターで分離的なスキームの準連接層では、アフィンの開集合で覆って計算した Hˇi は被覆によらず、層のコホモロジー Hi に一致します。ネーター環の Spec の上の準連接層では H1=0 で、アフィン直線ではこれが部分分数分解の言い換えになります。
- 証明は、ステップの流れだけを短く書いています。「詳しく」の付いた行をクリックすると、そのステップの詳しい説明が開きます。説明の中にも開ける行があります。
- 定義・命題・定理には、記事全体で通し番号を振っています。
- もう少し詳しくは補足、専門的な話は先の回につながる話題です。どちらも開かずに読み進められます。
- 各ブロックの「AIに質問」を押すと、その部分の内容を入れた質問文で、お使いのAIを開けます。
前回の宿題
第13回では、曲線の上の微分形式と標準因子 K を調べました。射影直線 P1 では dt が無限遠点で2位の極をもち degK=−2、楕円曲線では dx/2y が零点も極ももたず K=0 でした。
第13回の最後には、貼り合わせられない食い違いを層のコホモロジーで測る、と予告しました。出発点は第3回の層の条件 (4) です(第3回の定義4)。開集合 U0,U1 の上の切断が重なりの上で一致すれば、全体の切断に貼り合わせられる、という条件でした。
この記事では逆向きの問いを考えます。重なり U0∩U1 の上の切断 h が与えられたとき、h を2枚の切断の差 s0∣−s1∣ と書けるでしょうか。書けないものを集めて測るのが H1 です。
まず2枚の開被覆についてチェック・コホモロジー Hˇ0,Hˇ1 を定義し、円の例で「差で書けない」様子を見ます。次に P1 の上の O(n) について、第4回のローラン多項式の図を使って Hˇ0,Hˇ1 を全部計算します。次元の差 h0−h1 が n+1 になることが、第15回のリーマン・ロッホの定理の入口です。
重なりの上の切断は差で書けるか
この記事の層はアーベル群(足し算の群)の層とし、制限写像は足し算を保つものとします。第3回の構造層や、値が k 上のベクトル空間になる層はどれもこの形です。開集合 U0,U1 の重なりを U01=U0∩U1 と書きます。
定義1 2枚の開被覆のチェック・コホモロジー [1, §III.4 定義, p.24–25]
X を位相空間、F を X 上のアーベル群の層、U={U0,U1} を X の開被覆(X=U0∪U1)とする。準同型
δ:F(U0)×F(U1)→F(U01)δ(s0,s1)=s0∣U01−s1∣U01δ:F(U0)×F(U1)→F(U01)δ(s0,s1)=s0∣U01−s1∣U01δ:F(U0)×F(U1)δ(s0,s1)→F(U01)=s0∣U01−s1∣U01
について、核と余核を
Hˇ0(U,F)=KerδHˇ1(U,F)=Cokerδ=F(U01)/ImδHˇ0(U,F)=KerδHˇ1(U,F)=Cokerδ=F(U01)/ImδHˇ0(U,F)Hˇ1(U,F)=Kerδ=Cokerδ=F(U01)/Imδ
と定め、F の被覆 U に関する第0・第1チェック・コホモロジーと呼ぶ。
余核は、行き先 F(U01) を像 Imδ で割った商です。h∈F(U01) の類を [h] と書くと、次のようになります。
[h]=0⟺h=s0∣U01−s1∣U01((s0,s1)∈F(U0)×F(U1))[h]=[h′]⟺h−h′∈Imδ
つまり Hˇ1 は、重なりの上の切断を「差で書けるものは0とみなす」と約束して集めたものです。Hˇ1=0 は、重なりの上のどの切断も差で書けることを意味します。
核と余核をまとめると、次の完全列になります。完全とは、各所で、入ってくる写像の像と出ていく写像の核が等しいことです。
0⟶Hˇ0(U,F)⟶F(U0)×F(U1) δ F(U01)⟶Hˇ1(U,F)⟶00⟶Hˇ0(U,F)⟶F(U0)×F(U1) δ F(U01)⟶Hˇ1(U,F)⟶0
図式で書くと、δ は F(U0) から右へ制限した元と、F(U1) から下へ制限した元の差です。矢印 ρ は制限写像です。
F(U0) ρF(U1)↓⏐ρF(U01)δ(s0,s1)=ρ(s0)−ρ(s1)
ハーツホーンは、被覆の開集合がいくつあっても使える形で定義していて、2枚のときの写像は (s0,s1)↦s1−s0 です。符号が逆でも核と像は変わらないので、Hˇ0,Hˇ1 は同じものになります。一般の形は記事の最後の補足で扱います。
Hˇ0 は、全体の切断と同じものです。
命題2 [1, 補題4.1, p.27]
記号を定義1のとおりとする。写像 F(X)→Hˇ0(U,F)、s↦(s∣U0,s∣U1) は同型である。
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写像が
Kerδ に
入ることを示す。制限を続けて行うと1回の制限に等しいので、δ(s∣U0,s∣U1)=s∣U01−s∣U01=0 である。単射である
ことを示す。s∣U0=0、s∣U1=0 なら、層の条件 (3) から s=0 である。全射であることを示す。(s0,s1)∈Kerδ は重なりの上で s0=s1 ということなので、層の条件 (4) から s∣U0=s0、s∣U1=s1 となる s∈F(X) がある。詳しく閉じる
(4) を開被覆 {U0,U1} に使う。条件は i,j∈{0,1} のすべての組で si∣Ui∩Uj=sj∣Ui∩Uj だが、i=j のときは自明で、(0,1) と (1,0) はどちらも δ(s0,s1)=0 と同じ条件である。
第3回では、層の条件 (3)(4) を写像の列 F(U)→∏iF(Vi)⇉∏i,jF(Vi∩Vj) で書きました。2枚の被覆で2本の矢印の差をとったものが δ で、(3)(4) はまとめて「Hˇ0=F(X)」と言えます。
層の条件で δ の核は決まりますが、像については何も分かりません。δ が全射かどうか、つまり Hˇ1 が0かどうかは、空間と層によって変わります。
円の例:重なりが2か所に分かれるとき
最初の例は、代数幾何ではなく普通の位相空間です。Hˇ1 が0でない理由が、図で一番よく見える例です。
例3 円と整数値の局所定数関数 [1, 例4.0.4, p.26]
X=P1(R)(実数の点 t∈R と ∞)に普通の位相を入れる。X は円と同相である。U0=X∖{∞}、U1=X∖{0} とし、F=Z を整数値の局所定数関数の層(Z(V) は V から Z への局所定数関数の全体)とする。このとき
Z(U0)=ZZ(U1)=ZZ(U01)=Z×Zδ(a,b)=(a−b, a−b)Z(U0)=ZZ(U1)=ZZ(U01)=Z×Zδ(a,b)=(a−b, a−b)Z(U0)Z(U1)Z(U01)δ(a,b)=Z=Z=Z×Z=(a−b, a−b)
で、Hˇ0(U,Z)≅Z、Hˇ1(U,Z)≅Z である。Z(U01) の2つの成分は t>0 の部分と t<0 の部分の値で、Hˇ1 は (1,0) の類で生成される。
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U0(座標
t)と
U1(座標
s)は
実数直線と同相で連結なので、その上の局所定数関数は定数である。 重なり
U01={t=0,∞} は
{t>0} と
{t<0} の
2つの連結成分に分かれるので、局所定数関数は成分ごとの値の組 (p,q)∈Z2 で決まる。定数 a,b の差は両方の成分で a−b である。Kerδ={(a,a)}≅Z で、
これは 命題2のとおり X 全体の定数関数に当たる。 Imδ={(c,c)∣c∈Z} なので、(p,q)↦p−q が同型 Z2/Imδ≅Z を与え、(1,0) は 1 に移る。詳しく閉じる
(p,q)↦p−q は全射で、核は p=q となる組、つまり Imδ そのものである。準同型定理から同型が従う。
数で確かめます。h=(5,2)(t>0 で5、t<0 で2)なら 5−2=3 で、[h]=3[(1,0)] です。実際 (5,2)−3⋅(1,0)=(2,2)=δ(2,0) と差で書けます。一方 (1,0) が差で書けるには a−b=1 と a−b=0 が同時に要るので、書けません。
ハーツホーンの例は、円を2つの開いた半円より少し大きい弧で覆っています。重なりが2か所に分かれる点は同じなので、計算も同じになります。
t=0t=∞t>0t<0U0U1ab1010
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ドラッグで回せます
実数の射影直線 P1(R) を円として描いています。右の点が t=0、左の点が t=∞ です。青い弧が U0(∞ を除いた部分)、緑の弧が U1(0 を除いた部分)で、2つが重なるのは上半分(t>0)と下半分(t<0)の2か所です。
整数値の局所定数関数の層 Z の切断 a を U0 の上に、b を U1 の上に、高さで描きました(図は a=1, b=−1)。弧はつながっているので、切断は定数です。重なりの上での差 δ(a,b) はオレンジの縦線で、上半分でも下半分でも同じ a−b です。「真横」から見ると、左右(t<0 と t>0)の縦線の長さがそろっています。
重なりの上の切断 h を、上半分で 1、下半分で 0 とします。どんな a,b をとっても δ(a,b) の2つの値は等しいので、この h は差では書けません。h の類が Hˇ1≅Z の生成元です。
h が自然に現れる例です。各弧の上で角度 θ の 1/2π 倍(青と緑)を高さにすると、どちらも弧の上では連続です。「真上」から見ると円の弧にしか見えませんが、横から見ると、下半分では2本が重なり、上半分ではちょうど 1 ずれています。一周すると高さが 1 変わり、らせんが閉じません。青の関数を s0、緑の関数を s1 とすると、差 s0−s1 は上半分で 1、下半分で 0 で、これは h そのものです。実数値の連続関数の層なら h はこの差として書けますが、局所定数関数の層では書けません。
図1具体例例3を描いた図です。円の上の関数の値を、円の上に立てた高さで表すので、立体で描いています。「真上」から見るとどの関数も円の弧に重なって被覆の形しか見えず、「真横」から見ると、重なりの2か所(左右)での高さの差が比べられます。「らせん」の段階では、各弧の上で角度を高さにした連続関数が、一周すると 1 だけずれて閉じないことが見えます。
図1の「らせん」では、同じ h を2つの層で比べています。実数値の連続関数の層では h は差で書けますが、整数値の局所定数関数の層では書けません。Hˇ1 は空間だけでなく、どの層で考えるかによっても変わります。
同じことを、代数幾何のザリスキー位相で試すと、結果が変わります。
例4 ザリスキー位相の P1 と局所定数関数
k を体とし、P1 をザリスキー位相で考える。Z を整数値の局所定数関数の層とし、U0=Speck[t]、U1=Speck[s] とする。重なり U01≅Speck[t,1/t] は連結なので Z(U01)=Z、δ(a,b)=a−b は全射で、Hˇ1(U,Z)=0 である。
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整域の Spec では、空でない開集合はどれも生成点 (0) を含むので、空でない開集合どうしは必ず交わる。詳しく閉じる
A を整域とする。空でない開集合は D(f)(f=0)の和集合で、f∈/(0) なので (0)∈D(f) である。
よって
U0,U1,U01 は、
どれも交わらない2つの空でない開集合に分かれず、連結である。局所定数関数は定数になる。δ(a,0)=a なので
δ は
全射で、Hˇ1=0。
ザリスキー位相では開集合がとても大きく、重なりが2か所に分かれることがありません。そのため局所定数関数の層では「穴」が見えません。代数幾何では、代わりに構造層 O や、次の節の O(n) のコホモロジーを使います。
射影直線の上の O(n)
ここから代数幾何に戻ります。k を体とし、P1 を第4回のとおり Speck[t] と Speck[s] を s=1/t で貼り合わせたものとします(第4回の例10)。第4回の X1,X2 を、この記事では斉次座標 x0,x1 の添字に合わせて U0,U1 と書きます。
U0=Speck[t]={x0=0}U1=Speck[s]={x1=0}U01=D(t)≅Speck[t,1/t]U0=Speck[t]={x0=0}U1=Speck[s]={x1=0}U01=D(t)≅Speck[t,1/t]U0U1U01=Speck[t]={x0=0}=Speck[s]={x1=0}=D(t)≅Speck[t,1/t]
t=x1/x0、s=x0/x1 です。重なりの関数の環がローラン多項式環 k[t,1/t] になることは、第4回の命題6で確かめました。
第11回の定義6では、2枚の上の関数を変換関数 tn でつないで、可逆層 O(n) を作りました。大域切断は n 次斉次式で、n≥0 なら次元は n+1 でした(第11回の定理7)。変換関数の向きは本によって流儀が分かれますが、この記事では第11回と同じ向きを使います。
定義5 P1 の上の O(n)
n∈Z とする。P1 の開集合 V について、O(n)(V) を、組 (f,g)(f∈O(V∩U0)、g∈O(V∩U1))で、V∩U01 の上で
f=tngf=tng
をみたすものの全体とする(g は s=1/t で t の式とみなす)。制限は成分ごとに行う。
n=0 なら条件は f=g で、O(0) は第4回の定義8の構造層 O そのものです。
この向きは、大域切断が n 次斉次式になるように選んだものです。n 次斉次式 F(x0,x1) から、次のように組 (f,g) が作れます。
f(t)=x0nF(x0,x1)=F(1,t)g(s)=x1nF(x0,x1)=F(s,1)gf=(x0x1)n=tnf(t)=x0nF(x0,x1)=F(1,t)g(s)=x1nF(x0,x1)=F(s,1)gf=(x0x1)n=tnf(t)g(s)gf=x0nF(x0,x1)=F(1,t)=x1nF(x0,x1)=F(s,1)=(x0x1)n=tn
例えば n=2、F=x02+3x0x1−x12 なら f=1+3t−t2、g=s2+3s−1 で、確かに次が成り立ちます。
t2g(1/t)=t2(t−2+3t−1−1)=1+3t−t2=ft2g(1/t)=t2(t−2+3t−1−1)=1+3t−t2=f
U0 の上では g が g=t−nf で決まるので、O(n)(U0)≅k[t]((f,g)↦f)です。同じように O(n)(U1)≅k[s](↦g)、O(n)(U01)≅k[t,1/t](↦f)となります。
この同一視で定義1の δ を書きます。f∈k[t] は U0 の切断 (f,t−nf)、g∈k[s] は U1 の切断 (tng,g) で、重なりに制限して1つめの成分を読むと、次のようになります。
δ:k[t]×k[s]→k[t,1/t]δ(f,g)=f(t)−tng(1/t)δ:k[t]×k[s]→k[t,1/t]δ(f,g)=f(t)−tng(1/t)δ:k[t]×k[s]δ(f,g)→k[t,1/t]=f(t)−tng(1/t)
基底の行き先は δ(tm,0)=tm(m≥0)と δ(0,sj)=−tn−j(j≥0)です。したがって像は、2つの部分空間の和になります。
Imδ=δ(f,0)span{tm∣m≥0}+δ(0,g)span{tm∣m≤n}Imδ=δ(f,0)span{tm∣m≥0}+δ(0,g)span{tm∣m≤n}Imδ=δ(f,0)span{tm∣m≥0}=+δ(0,g)span{tm∣m≤n}
n=0 では、これは第4回の定理14の証明で使った k[t] と k[1/t] です。第4回は2つの共通部分(=k)を求めましたが、この記事では和が全体になるかどうかも問います。
定理6 P1 の O(n) のコホモロジー [1, 定理5.1, p.33–34]
k を体、n∈Z、U={U0,U1} とする。
(1) Hˇ0(U,O(n)) は (tm,sn−m)(0≤m≤n)を基底とし、次元は n≥0 なら n+1、n<0 なら 0 である。(tm,sn−m) は斉次式 x0n−mx1m に当たる。
(2) Hˇ1(U,O(n)) は類 [tm](n<m<0)を基底とし、次元は n≤−2 なら −n−1、n≥−1 なら 0 である。
(3) どの n についても dimHˇ0−dimHˇ1=n+1 である。
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δ は t の指数を保つ。各 m∈Z について、tm に行く基底だけを集めた部分 δm に分かれ、核と余核も m ごとの和になる。詳しく閉じる
Cm0 を、(tm,0)(m≥0 のとき)と (0,sn−m)(n−m≥0 のとき)で張られる部分空間とし、Cm1=ktm とする。δ(0,sn−m)=−tn−(n−m)=−tm なので、δ は Cm0 を Cm1 に移す。
k[t]×k[s]=⨁mCm0、k[t,1/t]=⨁mCm1 で、tm たちは1次独立だから、δ(∑mcm)=0 なら各 δ(cm)=0 である。よって Kerδ=⨁mKerδm、Cokerδ=⨁mCokerδm。
m ごとに3通りに分かれる。0≤m≤n なら δm は2次元から1次元への全射で、核は (tm,sn−m) で張られる。どちらか一方だけなら同型。n<m<0 なら Cm0=0 で、余核は ktm。詳しく閉じる
0≤m≤n のとき、δm(atm,bsn−m)=(a−b)tm なので、核は a=b の直線である。
m≥0 と m≤n のちょうど一方だけが成り立つとき、Cm0 は1次元で、δm は ±1 倍の同型である。
(1)(2) は、
数えると従う。0≤m≤n となる m は n≥0 なら n+1 個、n<m<0 となる m は n≤−2 なら −n−1 個で、それ以外では0個。(1) の
斉次式との対応は、F=x0n−mx1m について F(1,t)=tm、F(s,1)=sn−m となることから。(3) は
場合分けで確かめる。n≥0 なら (n+1)−0、n=−1 なら 0−0、n≤−2 なら 0−(−n−1) で、どれも n+1。
この定理は体 k の標数にも、代数閉体かどうかにもよりません。係数 ±1 の比較だけで計算が済むからです。
Hˇ1 の基底 tm(n<m<0)を斉次座標で書くと、重なりの上の切断 tmx0n=x0n−mx1m で、x0 と x1 の指数がどちらも負になります。つまり Hˇ1(U,O(n)) の基底は、次の類です。
[x0ax1b1](a,b≥1, a+b=−n)[x0ax1b1](a,b≥1, a+b=−n)
ハーツホーンが Pr で使う「負べきの単項式」の基底を、r=1 で見たものです。
例えば n=−2 では 1/(x0x1) だけ、n=−4 では 1/(x03x1)、1/(x02x12)、1/(x0x13) の3つです。
例7 差で書く・書けない
k を体とする。
(1) n=0。第4回で例に使った h=2t−2+5+t3 は、次のように差で書ける。
h=δ(5+t3, −2s2)=(5+t3)−(−2t−2)h=δ(5+t3, −2s2)=(5+t3)−(−2t−2)h=δ(5+t3, −2s2)=(5+t3)=−(−2t−2)
定数 5 を g の側に回して δ(t3,−5−2s2) としてもよい。2つの書き方の差 (5,5) は Kerδ の元で、Hˇ0=k(定数)に当たる。
(2) n=2。h=t−3+5+2t4 は δ(5+2t4,−s5) である。−t2⋅(−t−5)=t−3 となるからである。核は (1,s2)、(t,s)、(t2,1) で張られ、斉次式 x02、x0x1、x12 に当たる。
(3) n=−2。δ(f,g)=f(t)−t−2g(1/t) の像には t−1 の項が現れない。h=3t−2+t−1+t なら
h−δ(t,−3)=(3t−2+t−1+t)−(t+3t−2)=t−1h−δ(t,−3)=(3t−2+t−1+t)−(t+3t−2)=t−1h−δ(t,−3)=(3t−2+t−1+t)=−(t+3t−2)=t−1
なので [h]=[t−1]=0 で、h は差で書けない。
(4) n=−3。像に入らないのは t−2 と t−1 である。h=t−4+2t−2−t−1 なら、t−4=δ(0,−s) なので [h]=2[t−2]−[t−1]=0 である。
(1)(2) で差の書き方が1通りに決まらないのは、核があるからです。差で書ける h の書き方は、核の元を足す分だけずれます。Hˇ0 が大きいほど書き方の自由度が大きくなり、Hˇ1 が大きいほど差で書けない h が増えます。
O(0)=O 青:
f(t) から(
m≥0)
緑:
t0g(1/t) から(
m≤0)
O(−2) 青:
f(t) から(
m≥0)
緑:
t−2g(1/t) から(
m≤−2)
Hˇ1:
t−1(オレンジ)
図2概念図k[t,1/t] の基底 tm を並べ、δ の像を2本の帯で描いています。青の帯は U0 の側の f(t) で作れる tm(m≥0)、緑の帯は U1 の側の tng(1/t) で作れる tm(m≤n)です。上の段 O(0) は第4回の図と同じで、全部の tm が覆われ、両方の帯に入る 1(紫)が Hˇ0=k です。下の段 O(−2) では緑の帯が m≤−2 に縮み、t−1(オレンジの輪)がどちらの帯にも入りません。これが Hˇ1 の基底です。
n を動かすと、緑の帯の右端が動きます。どの帯がどこを覆うかを表にまとめます。
例8 n=−4,…,3 の表
定理6から、次の表を得る。hi=dimHˇi(U,O(n)) とする。
| n | Hˇ0 の基底(斉次式) | h0 | Hˇ1 の基底 | h1 | h0−h1 |
| 3 | x03, x02x1, x0x12, x13 | 4 | なし | 0 | 4 |
| 2 | x02, x0x1, x12 | 3 | なし | 0 | 3 |
| 1 | x0, x1 | 2 | なし | 0 | 2 |
| 0 | 1 | 1 | なし | 0 | 1 |
| −1 | なし | 0 | なし | 0 | 0 |
| −2 | なし | 0 | [t−1] | 1 | −1 |
| −3 | なし | 0 | [t−2], [t−1] | 2 | −2 |
| −4 | なし | 0 | [t−3], [t−2], [t−1] | 3 | −3 |
青:
m≥0 緑:
m≤n 紫:両方(
Hˇ0) オレンジの輪:どちらでもない(
Hˇ1)
図3概念図例8を図2の形で並べたものです。1行が1つの n で、紫の点(両方の帯)の数が h0、オレンジの輪(どちらの帯もない)の数が h1 です。n を1つ増やすと緑の帯が右に1つ延び、輪が1つ埋まるか、紫の点が1つ増えます。どちらでも h0−h1 は1だけ増えます(図を作るプログラムで、δ を行列にして階数から検算しています)。
次元の差はいつも n+1
表の右端の列 h0−h1 は、n の1次式 n+1 です。h0 と h1 はそれぞれ n=−1 を境に式が変わりますが、差は1つの式 n+1 で書けます。
系9
k を体とする。すべての n∈Z について h0(O(n))−h1(O(n))=n+1 である。さらに h1(O(n))=h0(O(−2−n)) が成り立つ。
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2つめは
場合分けで確かめる。n≤−2 なら −2−n≥0 で、両辺とも −n−1。n≥−1 なら −2−n<0 で、両辺とも 0。
差 h0−h1 を、層のオイラー標数 χ(O(n)) と呼びます。図3では、n が1つ増えるたびに緑の帯が tn+1 まで延びます。n+1<0 ならそこは輪(h1 の基底)だったので h1 が1減り、n+1≥0 ならそこは青の帯の中なので h0 が1増えます。
χ(O(n+1))−χ(O(n))=1χ(O(0))=1−0=1⟹χ(O(n))=n+1χ(O(n+1))−χ(O(n))=1χ(O(0))=1−0=1⟹χ(O(n))=n+1χ(O(n+1))−χ(O(n))χ(O(0))=1=1−0=1⟹χ(O(n))=n+1
第11回の言葉では、O(n) は次数 n の因子(例えば n⋅∞)に対応する直線束でした(第11回の命題13)。すると系の1つめは、次の形に書けます。
h0(O(D))−h1(O(D))=degD+1(D=n⋅∞, degD=n)h0(O(D))−h1(O(D))=degD+1(D=n⋅∞, degD=n)h0(O(D))−h1(O(D))=degD+1(D=n⋅∞, degD=n)
系の2つめに出てくる −2 は、第13回の degK=−2 です。O(−2−n) は因子 K−D に対応するので、h1(O(D))=h0(O(K−D)) と書けます。
h0(O(D))−h0(O(K−D))=degD+1−g(g=0)
これが P1 のリーマン・ロッホの定理です。g は曲線の種数で、P1 では 0 です。第15回では、一般の曲線で同じ形の式を確かめます。
専門的な話h1(O(n))=h0(O(−2−n)) の理由:セールの双対性
系の2つめの等式には理由があります。大域切断と Hˇ1 の類の積で、次の双一次形式が作れるからです。
Hˇ0(O(n))×Hˇ1(O(−2−n))→Hˇ1(O(−2))≅k((ta,sn−a), [h])⟼[tah]
δ と両立することを確かめます。O(−2−n) の (f,g) について、積 (taf, sn−ag) は O(−2) の切断の組で、
δ(taf, sn−ag)=taf−t−2ta−ng(1/t)=ta(f−t−2−ng(1/t))=taδ(f,g)
となります。よって差で書ける h には、差で書ける tah が対応し、積は類の上で矛盾なく決まります。
基底で書くと、ta(0≤a≤n)と [tb](−n−1≤b≤−1)の積 [ta+b] が Hˇ1(O(−2))=k[t−1] で0でないのは、a+b=−1 のときだけです。a と b=−1−a が1対1に組になるので、この双一次形式は非退化で、両辺の次元が等しくなります。
ハーツホーンは Pr の O(n) について同じ形の非退化性を示しています[1, 定理5.1(d), p.34]。一般の非特異射影曲線では、これがセールの双対性 H1(O(D))≅H0(O(K−D))∨ になり、リーマン・ロッホの定理の証明に使われます。
被覆によらない:層のコホモロジー
ここまでの Hˇi は、被覆 U を1つ決めて定義しました。別の被覆を選べば、答えが変わるかもしれません。実はスキームの準連接層では、アフィンの開集合で覆う限り答えは変わりません。しかも、被覆を使わずに定義したコホモロジー Hi(X,F) と一致します。
ハーツホーンは Hi(X,−) を、大域切断をとる関手 F↦F(X) の右導来関手として定義しています[1, §III.2 定義, p.9]。この定義は連載の範囲を超えるので、ここでは結果だけを引用します。ネータースキームとは、ネーター環の Spec の有限個で覆えるスキームのことです。
定理10 [1, 定理4.5, p.29]
X をネーターで分離的なスキーム、U をアフィンの開集合からなる X の開被覆、F を X 上の準連接層とする。このとき、すべての p≥0 について自然な同型 Hˇp(U,F)≅Hp(X,F) がある。
P1 はネーターで分離的なスキームで、U0,U1 はアフィン、O(n) は準連接層です。よって定理6は、そのまま H0(P1,O(n)) と H1(P1,O(n)) の計算になります。2枚の被覆には3枚の重なりがないので、p≥2 では Hp(P1,O(n))=0 です(最後の補足を見てください)。
H0(P1,O(n))≅k[x0,x1]nH1(P1,O(−2))≅kH0(P1,O(n))≅k[x0,x1]nH1(P1,O(−2))≅kH0(P1,O(n))H1(P1,O(−2))≅k[x0,x1]n≅k
k[x0,x1]n は n 次斉次式の空間(n<0 なら 0)です。ハーツホーンは Pr の場合を、同じ形の被覆で計算しています([1, 定理5.1, p.33–34]。H0 については[2, 命題5.13, p.160])。
アフィンスキームでは、H1 以上がすべて消えます。
定理11 [1, 定理3.5, p.20; 1, 定理3.7, p.21]
(1) A をネーター環、X=SpecA とする。X 上のすべての準連接層 F とすべての i>0 について Hi(X,F)=0 である。
(2)(セール)逆に、ネータースキーム X で、すべての準連接層 F とすべての i>0 について Hi(X,F)=0 なら、X はアフィンである。
(2) を使うと、P1 がアフィンでないことがもう一度分かります。準連接層 O(−2) で H1(P1,O(−2))≅k=0 だからです。第4回は大域関数が定数だけであること(第4回の定理14)から示しましたが、こちらは H1 が0でないことから示しています。
(1) を、アフィン直線を2枚で覆って確かめてみます。
例12 部分分数分解
k を体、X=Speck[t] とし、V0=D(t)、V1=D(t−1) で覆う。重なりは D(t(t−1)) で、
δ:k[t]t×k[t]t−1→k[t]t(t−1)δ(s0,s1)=s0−s1δ:k[t]t×k[t]t−1→k[t]t(t−1)δ(s0,s1)=s0−s1δ:k[t]t×k[t]t−1δ(s0,s1)→k[t]t(t−1)=s0−s1
は全射である。つまり Hˇ1=0 で、これは分母が ta(t−1)b の分数が、分母 ta の分数と分母 (t−1)b の分数の和に分かれる(部分分数分解)ことと同じである。例えば
t(t−1)1t2(t−1)t+1=δ(−t1, −t−11)=δ(−t2−t21,−t−12)
である。Hˇ0=Kerδ は k[t]t∩k[t]t−1=k[t] で、X 全体の関数に一致する。
証明開く閉じる
第3回の系16(1) から、
3つの開集合の上の関数の環は k[t]t、k[t]t−1、k[t]t(t−1) で、δ はそれらの中の引き算である。 k[t]t(t−1) の
元は p/(ta(t−1)b)(p∈k[t])と書ける。ta と (t−1)b は共通の因子をもたないので、uta+v(t−1)b=1 となる u,v∈k[t] がある。 両辺に
p/(ta(t−1)b) を
掛けると p/(ta(t−1)b)=pv/ta+pu/(t−1)b=δ(pv/ta,−pu/(t−1)b) で、全射が分かる。例の2つめは、恒等式 −2t(t−1)−(t−1)+2t2=t+1 を t2(t−1) で割ったものである。詳しく閉じる
係数はどれも整数なので、この恒等式はどの体でも成り立つ。標数2では 2=0 で、式は (t+1)/(t2(t−1))=−1/t2 になる。このとき t+1=t−1 なので、確かに両辺は等しい。
P1 の n=0 の行も、同じ形の主張でした。どのローラン多項式も「t の多項式」と「1/t の多項式」の差に分かれるので、H1(P1,O)=0 です。n=−2 では、t−1 の項だけがこの形に分けられません。
最後に、第13回の微分形式に戻ります。
例13 P1 の微分形式の層 [1, 例4.0.3, p.25–26; 2, 例8.20.1, p.248]
k を体とし、Ω を P1 の微分形式の層とする。Ω(U0)=k[t]dt、Ω(U1)=k[s]ds、Ω(U01)=k[t,1/t]dt で、重なりの上では ds=−t−2dt である。このとき
δ(fdt, gds)=(f(t)+t−2g(1/t))dt
で、像は tmdt(m≥0 または m≤−2)で張られる。よって H0(P1,Ω)=0、H1(P1,Ω)=k⋅[t−1dt] である。対応 (fdt,gds)↦(f,−g) は同型 Ω≅O(−2) を与える。
証明開く閉じる
s=1/t を
微分すると ds=−t−2dt なので、g(s)ds=−t−2g(1/t)dt となり、δ の式を得る。 δ(tmdt,0)=tmdt(
m≥0)、
δ(0,sjds)=t−2−jdt(
j≥0)なので、
定理6の
n=−2 と
同じ計算になる。 Ω(V) の
元は、重なりの上で fdt=gds、つまり f=t−2⋅(−g) をみたす組である。これは (f,−g) が定義5の n=−2 の条件をみたすことと同じである。
H1(P1,Ω) の生成元は dt ではなく dt/t の類です。dt 自身は U0 の上の微分形式なので、dt=δ(dt,0) と差で書けてしまいます。dt/t は t=0 と t=∞ の両方に1位の極をもち、重なりの上でしか定義されません。
H0(P1,Ω)=0 は、P1 全体で正則な微分形式がないということです。第13回で見たとおり、dt は ∞ で2位の極をもち、degK=−2<0 でした。次数が負の因子には、0でない大域切断がありません。
もう少し詳しく位相空間のコホモロジーとの関係
例3の Hˇ1(U,Z)≅Z は、被覆によらない層のコホモロジー H1(S1,Z) と一致し、円の穴1つを数えています[1, 演習2.7, p.17; 1, 例4.0.4, p.26]。多様体では、定数層 Z のコホモロジーは位相幾何の特異コホモロジーと一致します。ハーツホーンは、この一致を示した文献を第III章2節の歴史覚え書きで挙げています[1, §III.2 歴史覚え書き, p.15]。例えば穴が g 個の向き付けられた閉曲面では H1≅Z2g です[3, 付録B §5, p.215]。
しかし、ザリスキー位相の定数層のコホモロジーは、これとはまったく別物です。既約な空間の上の定数層は、どの制限写像も全射(脆弱)になり[2, 演習1.16(a), p.92]、脆弱な層の Hi(i>0)は0です[1, 命題2.5, p.10]。P1 は既約なので H1(P1,Z)=0 で、例4と合っています。
代数幾何で穴の数に当たるものは、構造層のコホモロジーに現れます。代数閉体の上の非特異射影曲線 X では、正則な微分形式の空間の次元(種数 g)が dimH1(X,OX) に等しくなります[3, 命題1.1, p.2]。複素数の上では、X の複素数の点はコンパクトなリーマン面になり、穴が g 個の閉曲面と同相です[3, 付録B §5, p.215]。P1(球面)では g=0 で、確かに H1(P1,O)=0 でした。楕円曲線(トーラス)では g=1 です。種数と穴の数の関係は第16回で扱います。
H1(P1,Ω)≅k も、円で測れます。k=C のとき、類 [hdt] に h の t−1 の係数(t=0 での留数)を対応させると、像の元 tmdt(m=−1)は0に移るので、同型 H1(P1,Ω)≅C が得られます。この係数は、重なり C∖{0} の中の円 ∣t∣=1 に沿った積分 2πi1∮hdt に等しく、図1のらせんと同じように「一周して測る」量です。
専門的な話一般の被覆、高次のコホモロジーと長完全列
開被覆 U={Ui}i∈I(I は全順序集合)について、Ui0⋯ip=Ui0∩⋯∩Uip とし、チェック複体を次のように定めます[1, §III.4, p.24–25]。
Cˇp(U,F)=i0<⋯<ip∏F(Ui0⋯ip)(dα)i0⋯ip+1=k=0∑p+1(−1)kαi0⋯ik⋯ip+1Ui0⋯ip+1
ik は ik を除くという意味です。d∘d=0 で、Hˇp(U,F)=Kerd/Imd(Cˇp の部分)と定めます。2枚の被覆では Cˇ0=F(U0)×F(U1)、Cˇ1=F(U01)、p≥2 で Cˇp=0 となり、d=−δ です。
導来関手のコホモロジーには、層の短完全列 0→F′→F→F′′→0 から長完全列が得られるという大事な性質があります[1, p.9]。被覆を1つ固定したチェック・コホモロジーには、一般にはこの性質がありません[1, 警告4.0.2, p.25]。定理10が成り立つ場合に、チェック・コホモロジーでも長完全列が使えるようになります。
例えば P1 で、x0 を掛ける写像 O(n−1)→O(n)(チャートでは (f,g)↦(f,sg))は単射で、余核は点 ∞ にだけ k がある層 k∞ です。H0(k∞)=k、H1(k∞)=0 なので、長完全列
0→H0(O(n−1))→H0(O(n))→k→H1(O(n−1))→H1(O(n))→00→H0(O(n−1))→H0(O(n))→k→H1(O(n−1))→H1(O(n))→0
から χ(O(n))=χ(O(n−1))+1 が出ます。図3で帯が1つ延びることの、層の言葉での言い換えです。
また、グロタンディークの消滅定理により、n 次元のネーター位相空間では i>n の Hi はすべて0です[1, 定理2.7, p.11]。曲線では H0 と H1 だけを考えれば足ります。
まとめ:被覆と層ごとの H0,H1
| 空間と被覆 | 層 | H0 | H1 | 理由 |
| 円(普通の位相)、2つの弧 | Z | Z | Z | 重なりが2か所に分かれる |
| P1(ザリスキー位相) | Z | Z | 0 | 重なりが連結 |
| P1、U0,U1 | O(n)、n≥0 | n 次斉次式(n+1 次元) | 0 | 2本の帯が重なる |
| P1、U0,U1 | O(−1) | 0 | 0 | 帯がちょうど接する |
| P1、U0,U1 | O(n)、n≤−2 | 0 | −n−1 次元 | 帯の間に隙間 |
| P1、U0,U1 | Ω≅O(−2) | 0 | k⋅[dt/t] | t−1dt が作れない |
| A1、D(t),D(t−1) | O | k[t] | 0 | 部分分数分解 |
H0 は「重なりで一致する切断の組」、H1 は「重なりの切断のうち、差で書けないもの」でした。層の条件から H0 は全体の切断に一致し、H1 は貼り合わせと逆向きの問い(差で書けるか)に答えます。
P1 の O(n) では、2つの像を tm の格子の上の帯として描くと、重なりが H0、隙間が H1 になりました。帯の重なりと隙間の差はいつも n+1 で、n とともに1ずつ増えます。
次回:リーマン・ロッホの定理
P1 では h0−h1=degD+1 で、h1 は K−D の大域切断の次元に等しくなりました。
次回は、この H0 と H1 の次元の差を、一般の曲線のリーマン・ロッホの定理 ℓ(D)−ℓ(K−D)=degD+1−g として述べます。P1(g=0)と楕円曲線(g=1)で、具体的な因子について両辺を計算して確かめます。
第3回の定義4 層
位相空間 X 上の前層 F が層であるとは、任意の開集合 U と、U の任意の開被覆 {Vi} について、次の2つが成り立つことをいう。
(3) s∈F(U) が、すべての i について s∣Vi=0 をみたすなら、s=0。
(4) si∈F(Vi) が、すべての i,j について si∣Vi∩Vj=sj∣Vi∩Vj をみたすなら、すべての i について s∣Vi=si となる s∈F(U) がある。
第4回の例10 射影直線
k を体とする。X1=Speck[t]、X2=Speck[s] とし、開集合 U1=D(t)≅Speck[t,1/t]、U2=D(s)≅Speck[s,1/s] を、環の同型
k[s,1/s]→k[t,1/t]s↦1/tk[s,1/s]→k[t,1/t]s↦1/tk[s,1/s]s→k[t,1/t]↦1/t
が引き起こす同型 φ:U1→U2 で貼り合わせる。こうしてできるスキームを、k 上の射影直線と呼び、P1 と書く。
第4回の命題6
A を環、f∈A とする。局所環付き空間 (D(f),O∣D(f)) は SpecAf と同型である。点の対応は、Af の素イデアル Q を Q∩A={a∈A∣a/1∈Q} に送るものである。
第11回の定義6 O(n)
k を体、n を整数とする。P1 の被覆 {U0,U1} と変換関数 g01=tn∈k[t,1/t]× から定義4で作った可逆層を O(n) と書く。開集合 V の上の切断は、組
(f0,f1)f0∈O(V∩U0)f1∈O(V∩U1)f0=tnf1∈O(V∩U0∩U1)(f0,f1)f0∈O(V∩U0)f1∈O(V∩U1)f0=tnf1∈O(V∩U0∩U1)f0(f0,f1)f0∈O(V∩U0)f1∈O(V∩U1)=tnf1∈O(V∩U0∩U1)
である。
第11回の定理7
k を体、n を整数とし、k[x0,x1]n を n 次斉次式(と0)のなすベクトル空間とする。写像
k[x0,x1]n⟶Γ(P1,O(n))F⟼(F(1,t), F(s,1))k[x0,x1]n⟶Γ(P1,O(n))F⟼(F(1,t), F(s,1))k[x0,x1]n⟶Γ(P1,O(n))F⟼(F(1,t), F(s,1))
は k 線形な同型である。とくに n≥0 なら dimkΓ(P1,O(n))=n+1、n<0 なら Γ(P1,O(n))=0 である。
第4回の定義8 貼り合わせ
X1,X2 を環付き空間、U1⊆X1、U2⊆X2 を開集合とし、φ:(U1,OX1∣U1)→(U2,OX2∣U2) を同型とする。
- 集合 X は、X1 と X2 の交わらない和で、x∈U1 と φ(x)∈U2 を同じ点とみなしたもの。X1,X2 は X の部分集合とみなす。
- V⊆X が開集合であるのは、V∩X1 と V∩X2 がそれぞれ開集合であるとき。
- X の開集合 V について、OX(V) は、組 (s1,s2)(si∈OXi(V∩Xi))で、重なりの上で φ#(s2∣V∩U2)=s1∣V∩U1 となるものの全体。
(X,OX) を、X1 と X2 を φ で貼り合わせた環付き空間と呼ぶ。
第4回の定理14
k を体とする。O(P1)=k(定数だけ)である。とくに P1 はアフィンスキームではない。
第11回の命題13
k を代数閉体とする。
(1) (f0,f1)↦f0 は、OP1 加群の同型 O(n)→O(n⋅∞) を与える。
(2) D′=D+div(h)(h∈k(t)×)なら、f↦fh は同型 O(D′)→O(D) を与える。
(3) どの因子 D についても O(D)≅O(degD) である。
第3回の系16 定理14の整域の場合
A を整域とする。K の中で、次が成り立つ。
(1) f=0 なら O(D(f))=Af。
(2) O(SpecA)=A。
(3) OP=AP。
どの点のまわりも、ある環 A の SpecA(素イデアル全体に位相と構造層を載せた空間)と同じ形をしている空間。SpecA を貼り合わせて作れる。零点集合では区別できない x=0 と x2=0 の違いも扱える。連載第4回で定義している。
スキーム X 上の OX 加群の層で、各アフィン開集合 SpecA の上では、ある A 加群 M から局所化で作った層 M(D(f) の上の切断が Mf)と同型になるもの。構造層、可逆層 O(n)、微分形式の層はどれも準連接層である。
すべてのイデアルが有限個の元で生成される可換環。イデアルの増大列 J1⊆J2⊆⋯ が必ずどこかで止まる、と言っても同じ。
開集合 U に対して、和集合がちょうど U になる開集合の族 {Vi}。
演算が可換(a+b=b+a)な群。演算を足し算で書くことが多い。例:Zd、Z/q、それらの直積。
加群(ベクトル空間でもよい)の準同型の列 0→UαVβW→0 で、α が単射、β が全射、Imα=Kerβ となるもの。このとき W≅V/U で、長さ(有限次元なら次元)について ℓ(V)=ℓ(U)+ℓ(W)。
0 でない元どうしの積が0にならない可換環(ab=0 なら a=0 または b=0)。例:Z、体上の多項式環。A/P が整域であることと、P が素イデアルであることは同値。
既約な閉集合 Z に対して、閉包がちょうど Z になる点を Z の生成点と呼ぶ。Speck[x,y] では、素イデアル (0) に対応する点が平面全体の生成点になる。
体 k で 1+1+⋯+1(p 個)=0 となる最小の正の整数 p。そのような p がなければ標数0と言う。標数は0か素数で、Fp の標数は p、Q,R,C の標数は0。体でない環でも同じように定める(Z の標数は0、Z/6 の標数は6)。0か素数になるのは体や整域の場合。
定数でない1変数多項式が、必ずその体の中に根をもつ体。例:C。R は代数閉体ではない(x2+1 に根がない)。代数閉体は必ず無限体である。
各点の上に1次元のファイバー(直線)が乗り、局所的には直積 U×A1 の形をした空間。その切断の層が可逆層(局所的に OX と同型な OX 加群)で、2つはよく同じものとして扱われる。連載第11回で扱う。
大域切断 F↦F(X) のように完全性を一部しか保たない関手 F から作る関手の列 RiF。対象を入射的な対象の列で置き換えてから F を施し、そのコホモロジーをとる。層のコホモロジー Hi(X,−) は大域切断の右導来関手として定義される。逆に、射影的(自由)な分解を使うと左導来関手ができ、テンソル積の左導来関手が Tori である。
位相空間 X のどんな開被覆からも、有限個を選んで X を覆えること。Rn の部分集合では、有界な閉集合であることと同値。例:球面はコンパクト、平面はコンパクトでない。
連結な複素1次元の多様体。各点のまわりが複素平面の円板と同じに見え、座標の取り替えが正則関数になっている。C 上の非特異な射影曲線の複素数の点はコンパクトなリーマン面で、リーマン球面 P1(C) はその例。
極大イデアルがただ1つの可換環。極大イデアルに入らない元はすべて単元になる。例:素イデアル P での局所化 AP(極大イデアルは a/s(a∈P)の全体)、k[x]/(x2)、Z/4Z。
環 A の上の加群(A 加群)とは、足し算について可換群で、A の元を掛けられ、分配法則などベクトル空間と同じ規則をみたすもの。体の上の加群はベクトル空間で、A のイデアルも A 加群。
参考文献
- R. ハーツホーン(高橋宣能・松下大介 訳), 『代数幾何学 2』, 丸善出版, 2012.
- R. ハーツホーン(高橋宣能・松下大介 訳), 『代数幾何学 1』, 丸善出版, 2013.
- R. ハーツホーン(高橋宣能・松下大介 訳), 『代数幾何学 3』, 丸善出版, 2012.