数学ビジュアライズ

代数幾何図で読む代数幾何第14回

貼り合わせの食い違いを測る:層のコホモロジー

重なりの上の切断が、2枚の開集合の上の切断の差で書けるかどうかを測るチェック・コホモロジー H^0, H^1 を定義します。円を2つの弧で覆う例を回せる立体図で見たあと、射影直線の上の O(n) について、ローラン多項式の格子 t^m で H^0 と H^1 を全部計算し、次元の差がいつも n+1 になることを確かめます。部分分数分解や微分形式 dt/t も、H^1 の言葉で読み直します。

目次
  1. 前回の宿題
  2. 重なりの上の切断は差で書けるか
  3. 円の例:重なりが2か所に分かれるとき
  4. 射影直線の上の
  5. 次元の差はいつも
  6. 被覆によらない:層のコホモロジー
  7. まとめ:被覆と層ごとの
  8. 次回:リーマン・ロッホの定理
  9. 参考文献
この記事の要点
食い違いを測る
2枚の開集合 U0,U1U_0,U_1 の上の切断から、重なりの上の差 s0−s1s_0-s_1 を作る写像を δ\delta とします。δ\delta の核が全体の切断 Hˇ0\check{H}^0、差で書けない重なりの切断を集めたもの(余核)が Hˇ1\check{H}^1 です。
円の例
円を2つの弧で覆うと、重なりは2か所に分かれます。整数値の局所定数関数では、2か所の差が必ず等しくなるので、「片方で1、もう片方で0」は差で書けず、Hˇ1≅Z\check{H}^1\cong\mathbb{Z} になります。
P1\mathbb{P}^1 の O(n)\mathcal{O}(n)
重なりの上の切断はローラン多項式です。U0U_0 の側から tmt^m(m≥0m\geq0)、U1U_1 の側から tmt^m(m≤nm\leq n)が作れ、両方で作れる分が H0H^0、どちらでも作れない分が H1H^1 です。h0−h1h^0-h^1 はいつも n+1n+1 です。
被覆によらない
ネーターで分離的なスキームの準連接層では、アフィンの開集合で覆って計算した Hˇi\check{H}^i は被覆によらず、層のコホモロジー HiH^i に一致します。ネーター環の Spec の上の準連接層では H1=0H^1=0 で、アフィン直線ではこれが部分分数分解の言い換えになります。
  • 証明は、ステップの流れだけを短く書いています。「詳しく」の付いた行をクリックすると、そのステップの詳しい説明が開きます。説明の中にも開ける行があります。
  • 定義・命題・定理には、記事全体で通し番号を振っています。
  • もう少し詳しくは補足、専門的な話は先の回につながる話題です。どちらも開かずに読み進められます。
  • 各ブロックの「AIに質問」を押すと、その部分の内容を入れた質問文で、お使いのAIを開けます。

前回の宿題

第13回では、曲線の上の微分形式と標準因子 KK を調べました。射影直線 P1\mathbb{P}^1 では dtdt が無限遠点で2位の極をもち deg⁡K=−2\deg K=-2、楕円曲線では dx/2ydx/2y が零点も極ももたず K=0K=0 でした。

第13回の最後には、貼り合わせられない食い違いを層のコホモロジーで測る、と予告しました。出発点は第3回の層の条件 (4) です(第3回の定義4)。開集合 U0,U1U_0,U_1 の上の切断が重なりの上で一致すれば、全体の切断に貼り合わせられる、という条件でした。

この記事では逆向きの問いを考えます。重なり U0∩U1U_0\cap U_1 の上の切断 hh が与えられたとき、hh を2枚の切断の差 s0∣−s1∣s_0|-s_1| と書けるでしょうか。書けないものを集めて測るのが H1H^1 です。

まず2枚の開被覆についてチェック・コホモロジー Hˇ0,Hˇ1\check{H}^0,\check{H}^1 を定義し、円の例で「差で書けない」様子を見ます。次に P1\mathbb{P}^1 の上の O(n)\mathcal{O}(n) について、第4回のローラン多項式の図を使って Hˇ0,Hˇ1\check{H}^0,\check{H}^1 を全部計算します。次元の差 h0−h1h^0-h^1 が n+1n+1 になることが、第15回のリーマン・ロッホの定理の入口です。

重なりの上の切断は差で書けるか

この記事の層はアーベル群(足し算の群)の層とし、制限写像は足し算を保つものとします。第3回の構造層や、値が kk 上のベクトル空間になる層はどれもこの形です。開集合 U0,U1U_0,U_1 の重なりを U01=U0∩U1U_{01}=U_0\cap U_1 と書きます。

定義1 2枚の開被覆のチェック・コホモロジー [1, §III.4 定義, p.24–25]

XX を位相空間、F\mathcal{F} を XX 上のアーベル群の層、U={U0,U1}\mathcal{U}=\{U_0,U_1\} を XX の開被覆(X=U0∪U1X=U_0\cup U_1)とする。準同型

δ ⁣:F(U0)×F(U1)→F(U01)δ(s0,s1)=s0∣U01−s1∣U01\delta\colon\mathcal{F}(U_0)\times\mathcal{F}(U_1)\to\mathcal{F}(U_{01})\qquad \delta(s_0,s_1)=s_0|_{U_{01}}-s_1|_{U_{01}}δ ⁣:F(U0)×F(U1)→F(U01)δ(s0,s1)=s0∣U01−s1∣U01\begin{gathered}\delta\colon\mathcal{F}(U_0)\times\mathcal{F}(U_1)\to\mathcal{F}(U_{01})\\\delta(s_0,s_1)=s_0|_{U_{01}}-s_1|_{U_{01}}\end{gathered}δ ⁣:F(U0)×F(U1)→F(U01)δ(s0,s1)=s0∣U01−s1∣U01\begin{aligned}\delta\colon\mathcal{F}(U_0)\times\mathcal{F}(U_1) &\to \mathcal{F}(U_{01})\\[4pt]\delta(s_0,s_1) &= s_0|_{U_{01}}-s_1|_{U_{01}}\end{aligned}

について、核と余核を

Hˇ0(U,F)=Ker⁡δHˇ1(U,F)=Coker⁡δ=F(U01)/Im⁡δ\check{H}^0(\mathcal{U},\mathcal{F})=\operatorname{Ker}\delta\qquad \check{H}^1(\mathcal{U},\mathcal{F})=\operatorname{Coker}\delta=\mathcal{F}(U_{01})/\operatorname{Im}\deltaHˇ0(U,F)=Ker⁡δHˇ1(U,F)=Coker⁡δ=F(U01)/Im⁡δ\begin{gathered}\check{H}^0(\mathcal{U},\mathcal{F})=\operatorname{Ker}\delta\\\check{H}^1(\mathcal{U},\mathcal{F})=\operatorname{Coker}\delta=\mathcal{F}(U_{01})/\operatorname{Im}\delta\end{gathered}Hˇ0(U,F)=Ker⁡δHˇ1(U,F)=Coker⁡δ=F(U01)/Im⁡δ\begin{aligned}\check{H}^0(\mathcal{U},\mathcal{F}) &= \operatorname{Ker}\delta\\[4pt]\check{H}^1(\mathcal{U},\mathcal{F}) &= \operatorname{Coker}\delta\\&= \mathcal{F}(U_{01})/\operatorname{Im}\delta\end{aligned}

と定め、F\mathcal{F} の被覆 U\mathcal{U} に関する第0・第1チェック・コホモロジーと呼ぶ。

余核は、行き先 F(U01)\mathcal{F}(U_{01}) を像 Im⁡δ\operatorname{Im}\delta で割った商です。h∈F(U01)h\in\mathcal{F}(U_{01}) の類を [h][h] と書くと、次のようになります。

[h]=0  ⟺  h=s0∣U01−s1∣U01((s0,s1)∈F(U0)×F(U1))[h]=[h′]  ⟺  h−h′∈Im⁡δ\begin{aligned} &[h]=0\iff h=s_0|_{U_{01}}-s_1|_{U_{01}}\\ &\qquad\bigl((s_0,s_1)\in\mathcal{F}(U_0)\times\mathcal{F}(U_1)\bigr)\\[4pt] &[h]=[h']\iff h-h'\in\operatorname{Im}\delta \end{aligned}

つまり Hˇ1\check{H}^1 は、重なりの上の切断を「差で書けるものは0とみなす」と約束して集めたものです。Hˇ1=0\check{H}^1=0 は、重なりの上のどの切断も差で書けることを意味します。

核と余核をまとめると、次の完全列になります。完全とは、各所で、入ってくる写像の像と出ていく写像の核が等しいことです。

0⟶Hˇ0(U,F)⟶F(U0)×F(U1)→ δ F(U01)⟶Hˇ1(U,F)⟶00\longrightarrow\check{H}^0(\mathcal{U},\mathcal{F})\longrightarrow\mathcal{F}(U_0)\times\mathcal{F}(U_1)\xrightarrow{\ \delta\ }\mathcal{F}(U_{01})\longrightarrow\check{H}^1(\mathcal{U},\mathcal{F})\longrightarrow00⟶Hˇ0(U,F)⟶F(U0)×F(U1)→ δ F(U01)⟶Hˇ1(U,F)⟶0\begin{aligned}0 &\longrightarrow \check{H}^0(\mathcal{U},\mathcal{F})\\&\longrightarrow \mathcal{F}(U_0)\times\mathcal{F}(U_1)\xrightarrow{\ \delta\ }\mathcal{F}(U_{01})\\&\longrightarrow \check{H}^1(\mathcal{U},\mathcal{F})\\&\longrightarrow 0\end{aligned}

図式で書くと、δ\delta は F(U0)\mathcal{F}(U_0) から右へ制限した元と、F(U1)\mathcal{F}(U_1) から下へ制限した元の差です。矢印 ρ\rho は制限写像です。

F(U1) ↓ρF(U0)→ρF(U01)δ(s0,s1)=ρ(s0)−ρ(s1)\begin{aligned} &\begin{CD} @. \mathcal{F}(U_1) \\ @. @VV{\rho}V \\ \mathcal{F}(U_0) @>>{\rho}> \mathcal{F}(U_{01}) \end{CD}\\ &\delta(s_0,s_1)=\rho(s_0)-\rho(s_1) \end{aligned}

ハーツホーンは、被覆の開集合がいくつあっても使える形で定義していて、2枚のときの写像は (s0,s1)↦s1−s0(s_0,s_1)\mapsto s_1-s_0 です。符号が逆でも核と像は変わらないので、Hˇ0,Hˇ1\check{H}^0,\check{H}^1 は同じものになります。一般の形は記事の最後の補足で扱います。

Hˇ0\check{H}^0 は、全体の切断と同じものです。

命題2 [1, 補題4.1, p.27]

記号を定義1のとおりとする。写像 F(X)→Hˇ0(U,F)\mathcal{F}(X)\to\check{H}^0(\mathcal{U},\mathcal{F})、s↦(s∣U0,s∣U1)s\mapsto(s|_{U_0},s|_{U_1}) は同型である。

証明
  1. 写像が Ker⁡δ\operatorname{Ker}\delta に入ることを示す。制限を続けて行うと1回の制限に等しいので、δ(s∣U0,s∣U1)=s∣U01−s∣U01=0\delta(s|_{U_0},s|_{U_1})=s|_{U_{01}}-s|_{U_{01}}=0 である。
  2. 単射であることを示す。s∣U0=0s|_{U_0}=0、s∣U1=0s|_{U_1}=0 なら、層の条件 (3) から s=0s=0 である。
  3. 全射であることを示す。(s0,s1)∈Ker⁡δ(s_0,s_1)\in\operatorname{Ker}\delta は重なりの上で s0=s1s_0=s_1 ということなので、層の条件 (4) から s∣U0=s0s|_{U_0}=s_0、s∣U1=s1s|_{U_1}=s_1 となる s∈F(X)s\in\mathcal{F}(X) がある。

    (4) を開被覆 {U0,U1}\{U_0,U_1\} に使う。条件は i,j∈{0,1}i,j\in\{0,1\} のすべての組で si∣Ui∩Uj=sj∣Ui∩Ujs_i|_{U_i\cap U_j}=s_j|_{U_i\cap U_j} だが、i=ji=j のときは自明で、(0,1)(0,1) と (1,0)(1,0) はどちらも δ(s0,s1)=0\delta(s_0,s_1)=0 と同じ条件である。

第3回では、層の条件 (3)(4) を写像の列 F(U)→∏iF(Vi)⇉∏i,jF(Vi∩Vj)\mathcal{F}(U)\to\prod_i\mathcal{F}(V_i)\rightrightarrows\prod_{i,j}\mathcal{F}(V_i\cap V_j) で書きました。2枚の被覆で2本の矢印の差をとったものが δ\delta で、(3)(4) はまとめて「Hˇ0=F(X)\check{H}^0=\mathcal{F}(X)」と言えます。

層の条件で δ\delta の核は決まりますが、像については何も分かりません。δ\delta が全射かどうか、つまり Hˇ1\check{H}^1 が0かどうかは、空間と層によって変わります。

円の例:重なりが2か所に分かれるとき

最初の例は、代数幾何ではなく普通の位相空間です。Hˇ1\check{H}^1 が0でない理由が、図で一番よく見える例です。

例3 円と整数値の局所定数関数 [1, 例4.0.4, p.26]

X=P1(R)X=\mathbb{P}^1(\mathbb{R})(実数の点 t∈Rt\in\mathbb{R} と ∞\infty)に普通の位相を入れる。XX は円と同相である。U0=X∖{∞}U_0=X\setminus\{\infty\}、U1=X∖{0}U_1=X\setminus\{0\} とし、F=Z‾\mathcal{F}=\underline{\mathbb{Z}} を整数値の局所定数関数の層(Z‾(V)\underline{\mathbb{Z}}(V) は VV から Z\mathbb{Z} への局所定数関数の全体)とする。このとき

Z‾(U0)=ZZ‾(U1)=ZZ‾(U01)=Z×Zδ(a,b)=(a−b, a−b)\underline{\mathbb{Z}}(U_0)=\mathbb{Z}\qquad \underline{\mathbb{Z}}(U_1)=\mathbb{Z}\qquad \underline{\mathbb{Z}}(U_{01})=\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}\qquad \delta(a,b)=(a-b,\ a-b)Z‾(U0)=ZZ‾(U1)=ZZ‾(U01)=Z×Zδ(a,b)=(a−b, a−b)\begin{gathered}\underline{\mathbb{Z}}(U_0)=\mathbb{Z}\\\underline{\mathbb{Z}}(U_1)=\mathbb{Z}\\\underline{\mathbb{Z}}(U_{01})=\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}\\\delta(a,b)=(a-b,\ a-b)\end{gathered}Z‾(U0)=ZZ‾(U1)=ZZ‾(U01)=Z×Zδ(a,b)=(a−b, a−b)\begin{aligned}\underline{\mathbb{Z}}(U_0) &= \mathbb{Z}\\[4pt]\underline{\mathbb{Z}}(U_1) &= \mathbb{Z}\\[4pt]\underline{\mathbb{Z}}(U_{01}) &= \mathbb{Z}\times\mathbb{Z}\\[4pt]\delta(a,b) &= (a-b,\ a-b)\end{aligned}

で、Hˇ0(U,Z‾)≅Z\check{H}^0(\mathcal{U},\underline{\mathbb{Z}})\cong\mathbb{Z}、Hˇ1(U,Z‾)≅Z\check{H}^1(\mathcal{U},\underline{\mathbb{Z}})\cong\mathbb{Z} である。Z‾(U01)\underline{\mathbb{Z}}(U_{01}) の2つの成分は t>0t>0 の部分と t<0t<0 の部分の値で、Hˇ1\check{H}^1 は (1,0)(1,0) の類で生成される。

証明
  1. U0U_0(座標 tt)と U1U_1(座標 ss)は実数直線と同相で連結なので、その上の局所定数関数は定数である。
  2. 重なり U01={t≠0,∞}U_{01}=\{t\neq0,\infty\} は {t>0}\{t>0\} と {t<0}\{t<0\} の2つの連結成分に分かれるので、局所定数関数は成分ごとの値の組 (p,q)∈Z2(p,q)\in\mathbb{Z}^2 で決まる。定数 a,ba,b の差は両方の成分で a−ba-b である。
  3. Ker⁡δ={(a,a)}≅Z\operatorname{Ker}\delta=\{(a,a)\}\cong\mathbb{Z} で、これは 命題2のとおり XX 全体の定数関数に当たる。
  4. Im⁡δ={(c,c)∣c∈Z}\operatorname{Im}\delta=\{(c,c)\mid c\in\mathbb{Z}\} なので、(p,q)↦p−q(p,q)\mapsto p-q が同型 Z2/Im⁡δ≅Z\mathbb{Z}^2/\operatorname{Im}\delta\cong\mathbb{Z} を与え、(1,0)(1,0) は 11 に移る。

    (p,q)↦p−q(p,q)\mapsto p-q は全射で、核は p=qp=q となる組、つまり Im⁡δ\operatorname{Im}\delta そのものである。準同型定理から同型が従う。

数で確かめます。h=(5,2)h=(5,2)(t>0t>0 で5、t<0t<0 で2)なら 5−2=35-2=3 で、[h]=3 [(1,0)][h]=3\,[(1,0)] です。実際 (5,2)−3⋅(1,0)=(2,2)=δ(2,0)(5,2)-3\cdot(1,0)=(2,2)=\delta(2,0) と差で書けます。一方 (1,0)(1,0) が差で書けるには a−b=1a-b=1 と a−b=0a-b=0 が同時に要るので、書けません。

ハーツホーンの例は、円を2つの開いた半円より少し大きい弧で覆っています。重なりが2か所に分かれる点は同じなので、計算も同じになります。

ドラッグで回せます

実数の射影直線 P1(R)\mathbb{P}^1(\mathbb{R}) を円として描いています。右の点が t=0t=0、左の点が t=∞t=\infty です。青い弧が U0U_0(∞\infty を除いた部分)、緑の弧が U1U_1(00 を除いた部分)で、2つが重なるのは上半分(t>0t>0)と下半分(t<0t<0)の2か所です。

整数値の局所定数関数の層 Z‾\underline{\mathbb{Z}} の切断 aa を U0U_0 の上に、bb を U1U_1 の上に、高さで描きました(図は a=1, b=−1a=1,\ b=-1)。弧はつながっているので、切断は定数です。重なりの上での差 δ(a,b)\delta(a,b) はオレンジの縦線で、上半分でも下半分でも同じ a−ba-b です。「真横」から見ると、左右(t<0t<0 と t>0t>0)の縦線の長さがそろっています。

重なりの上の切断 hh を、上半分で 11、下半分で 00 とします。どんな a,ba,b をとっても δ(a,b)\delta(a,b) の2つの値は等しいので、この hh は差では書けません。hh の類が Hˇ1≅Z\check{H}^1\cong\mathbb{Z} の生成元です。

hh が自然に現れる例です。各弧の上で角度 θ\theta の 1/2π1/2\pi 倍(青と緑)を高さにすると、どちらも弧の上では連続です。「真上」から見ると円の弧にしか見えませんが、横から見ると、下半分では2本が重なり、上半分ではちょうど 11 ずれています。一周すると高さが 11 変わり、らせんが閉じません。青の関数を s0s_0、緑の関数を s1s_1 とすると、差 s0−s1s_0-s_1 は上半分で 11、下半分で 00 で、これは hh そのものです。実数値の連続関数の層なら hh はこの差として書けますが、局所定数関数の層では書けません。

図1具体例例3を描いた図です。円の上の関数の値を、円の上に立てた高さで表すので、立体で描いています。「真上」から見るとどの関数も円の弧に重なって被覆の形しか見えず、「真横」から見ると、重なりの2か所(左右)での高さの差が比べられます。「らせん」の段階では、各弧の上で角度を高さにした連続関数が、一周すると 11 だけずれて閉じないことが見えます。

図1の「らせん」では、同じ hh を2つの層で比べています。実数値の連続関数の層では hh は差で書けますが、整数値の局所定数関数の層では書けません。Hˇ1\check{H}^1 は空間だけでなく、どの層で考えるかによっても変わります。

同じことを、代数幾何のザリスキー位相で試すと、結果が変わります。

例4 ザリスキー位相の P1\mathbb{P}^1 と局所定数関数

kk を体とし、P1\mathbb{P}^1 をザリスキー位相で考える。Z‾\underline{\mathbb{Z}} を整数値の局所定数関数の層とし、U0=Spec⁡k[t]U_0=\operatorname{Spec}k[t]、U1=Spec⁡k[s]U_1=\operatorname{Spec}k[s] とする。重なり U01≅Spec⁡k[t,1/t]U_{01}\cong\operatorname{Spec}k[t,1/t] は連結なので Z‾(U01)=Z\underline{\mathbb{Z}}(U_{01})=\mathbb{Z}、δ(a,b)=a−b\delta(a,b)=a-b は全射で、Hˇ1(U,Z‾)=0\check{H}^1(\mathcal{U},\underline{\mathbb{Z}})=0 である。

証明
  1. 整域の Spec では、空でない開集合はどれも生成点 (0)(0) を含むので、空でない開集合どうしは必ず交わる。

    AA を整域とする。空でない開集合は D(f)D(f)(f≠0f\neq0)の和集合で、f∉(0)f\notin(0) なので (0)∈D(f)(0)\in D(f) である。

  2. よって U0,U1,U01U_0,U_1,U_{01} は、どれも交わらない2つの空でない開集合に分かれず、連結である。局所定数関数は定数になる。
  3. δ(a,0)=a\delta(a,0)=a なので δ\delta は全射で、Hˇ1=0\check{H}^1=0。

ザリスキー位相では開集合がとても大きく、重なりが2か所に分かれることがありません。そのため局所定数関数の層では「穴」が見えません。代数幾何では、代わりに構造層 O\mathcal{O} や、次の節の O(n)\mathcal{O}(n) のコホモロジーを使います。

射影直線の上の O(n)\mathcal{O}(n)

ここから代数幾何に戻ります。kk を体とし、P1\mathbb{P}^1 を第4回のとおり Spec⁡k[t]\operatorname{Spec}k[t] と Spec⁡k[s]\operatorname{Spec}k[s] を s=1/ts=1/t で貼り合わせたものとします(第4回の例10)。第4回の X1,X2X_1,X_2 を、この記事では斉次座標 x0,x1x_0,x_1 の添字に合わせて U0,U1U_0,U_1 と書きます。

U0=Spec⁡k[t]={x0≠0}U1=Spec⁡k[s]={x1≠0}U01=D(t)≅Spec⁡k[t,1/t]U_0=\operatorname{Spec}k[t]=\{x_0\neq0\}\qquad U_1=\operatorname{Spec}k[s]=\{x_1\neq0\}\qquad U_{01}=D(t)\cong\operatorname{Spec}k[t,1/t]U0=Spec⁡k[t]={x0≠0}U1=Spec⁡k[s]={x1≠0}U01=D(t)≅Spec⁡k[t,1/t]\begin{gathered}U_0=\operatorname{Spec}k[t]=\{x_0\neq0\}\\U_1=\operatorname{Spec}k[s]=\{x_1\neq0\}\\U_{01}=D(t)\cong\operatorname{Spec}k[t,1/t]\end{gathered}U0=Spec⁡k[t]={x0≠0}U1=Spec⁡k[s]={x1≠0}U01=D(t)≅Spec⁡k[t,1/t]\begin{aligned}U_0 &= \operatorname{Spec}k[t]\\&= \{x_0\neq0\}\\[4pt]U_1 &= \operatorname{Spec}k[s]\\&= \{x_1\neq0\}\\[4pt]U_{01} &= D(t)\\&\cong \operatorname{Spec}k[t,1/t]\end{aligned}

t=x1/x0t=x_1/x_0、s=x0/x1s=x_0/x_1 です。重なりの関数の環がローラン多項式環 k[t,1/t]k[t,1/t] になることは、第4回の命題6で確かめました。

第11回の定義6では、2枚の上の関数を変換関数 tnt^n でつないで、可逆層 O(n)\mathcal{O}(n) を作りました。大域切断は nn 次斉次式で、n≥0n\geq0 なら次元は n+1n+1 でした(第11回の定理7)。変換関数の向きは本によって流儀が分かれますが、この記事では第11回と同じ向きを使います。

定義5 P1\mathbb{P}^1 の上の O(n)\mathcal{O}(n)

n∈Zn\in\mathbb{Z} とする。P1\mathbb{P}^1 の開集合 VV について、O(n)(V)\mathcal{O}(n)(V) を、組 (f,g)(f,g)(f∈O(V∩U0)f\in\mathcal{O}(V\cap U_0)、g∈O(V∩U1)g\in\mathcal{O}(V\cap U_1))で、V∩U01V\cap U_{01} の上で

f=tn gf=t^n\,gf=tn g\begin{aligned}f &= t^n\,g\end{aligned}

をみたすものの全体とする(gg は s=1/ts=1/t で tt の式とみなす)。制限は成分ごとに行う。

n=0n=0 なら条件は f=gf=g で、O(0)\mathcal{O}(0) は第4回の定義8の構造層 O\mathcal{O} そのものです。

この向きは、大域切断が nn 次斉次式になるように選んだものです。nn 次斉次式 F(x0,x1)F(x_0,x_1) から、次のように組 (f,g)(f,g) が作れます。

f(t)=F(x0,x1)x0 n=F(1,t)g(s)=F(x0,x1)x1 n=F(s,1)fg=(x1x0)n=tnf(t)=\frac{F(x_0,x_1)}{x_0^{\,n}}=F(1,t)\qquad g(s)=\frac{F(x_0,x_1)}{x_1^{\,n}}=F(s,1)\qquad \frac{f}{g}=\Bigl(\frac{x_1}{x_0}\Bigr)^n=t^nf(t)=F(x0,x1)x0 n=F(1,t)g(s)=F(x0,x1)x1 n=F(s,1)fg=(x1x0)n=tn\begin{gathered}f(t)=\frac{F(x_0,x_1)}{x_0^{\,n}}=F(1,t)\\g(s)=\frac{F(x_0,x_1)}{x_1^{\,n}}=F(s,1)\\\frac{f}{g}=\Bigl(\frac{x_1}{x_0}\Bigr)^n=t^n\end{gathered}f(t)=F(x0,x1)x0 n=F(1,t)g(s)=F(x0,x1)x1 n=F(s,1)fg=(x1x0)n=tn\begin{aligned}f(t) &= \frac{F(x_0,x_1)}{x_0^{\,n}}\\&= F(1,t)\\[4pt]g(s) &= \frac{F(x_0,x_1)}{x_1^{\,n}}\\&= F(s,1)\\[4pt]\frac{f}{g} &= \Bigl(\frac{x_1}{x_0}\Bigr)^n\\&= t^n\end{aligned}

例えば n=2n=2、F=x02+3x0x1−x12F=x_0^2+3x_0x_1-x_1^2 なら f=1+3t−t2f=1+3t-t^2、g=s2+3s−1g=s^2+3s-1 で、確かに次が成り立ちます。

t2g(1/t)=t2(t−2+3t−1−1)=1+3t−t2=ft^2g(1/t)=t^2\bigl(t^{-2}+3t^{-1}-1\bigr)=1+3t-t^2=ft2g(1/t)=t2(t−2+3t−1−1)=1+3t−t2=f\begin{aligned}t^2g(1/t) &= t^2\bigl(t^{-2}+3t^{-1}-1\bigr)\\&= 1+3t-t^2\\&= f\end{aligned}

U0U_0 の上では gg が g=t−nfg=t^{-n}f で決まるので、O(n)(U0)≅k[t]\mathcal{O}(n)(U_0)\cong k[t]((f,g)↦f(f,g)\mapsto f)です。同じように O(n)(U1)≅k[s]\mathcal{O}(n)(U_1)\cong k[s](↦g\mapsto g)、O(n)(U01)≅k[t,1/t]\mathcal{O}(n)(U_{01})\cong k[t,1/t](↦f\mapsto f)となります。

この同一視で定義1の δ\delta を書きます。f∈k[t]f\in k[t] は U0U_0 の切断 (f, t−nf)(f,\,t^{-n}f)、g∈k[s]g\in k[s] は U1U_1 の切断 (tng, g)(t^ng,\,g) で、重なりに制限して1つめの成分を読むと、次のようになります。

δ ⁣:k[t]×k[s]→k[t,1/t]δ(f,g)=f(t)−tn g(1/t)\delta\colon k[t]\times k[s]\to k[t,1/t]\qquad \delta(f,g)=f(t)-t^n\,g(1/t)δ ⁣:k[t]×k[s]→k[t,1/t]δ(f,g)=f(t)−tn g(1/t)\begin{gathered}\delta\colon k[t]\times k[s]\to k[t,1/t]\\\delta(f,g)=f(t)-t^n\,g(1/t)\end{gathered}δ ⁣:k[t]×k[s]→k[t,1/t]δ(f,g)=f(t)−tn g(1/t)\begin{aligned}\delta\colon k[t]\times k[s] &\to k[t,1/t]\\[4pt]\delta(f,g) &= f(t)-t^n\,g(1/t)\end{aligned}

基底の行き先は δ(tm,0)=tm\delta(t^m,0)=t^m(m≥0m\geq0)と δ(0,sj)=−tn−j\delta(0,s^j)=-t^{n-j}(j≥0j\geq0)です。したがって像は、2つの部分空間の和になります。

Im⁡δ=span⁡{tm∣m≥0}⏟δ(f, 0)+span⁡{tm∣m≤n}⏟δ(0, g)\operatorname{Im}\delta=\underbrace{\operatorname{span}\{t^m\mid m\geq0\}}_{\delta(f,\,0)}+\underbrace{\operatorname{span}\{t^m\mid m\leq n\}}_{\delta(0,\,g)}Im⁡δ=span⁡{tm∣m≥0}⏟δ(f, 0)+span⁡{tm∣m≤n}⏟δ(0, g)\begin{aligned}\operatorname{Im}\delta &= \underbrace{\operatorname{span}\{t^m\mid m\geq0\}}_{\delta(f,\,0)}+\underbrace{\operatorname{span}\{t^m\mid m\leq n\}}_{\delta(0,\,g)}\end{aligned}Im⁡δ=span⁡{tm∣m≥0}⏟δ(f, 0)=+span⁡{tm∣m≤n}⏟δ(0, g)\begin{aligned}\operatorname{Im}\delta &= \underbrace{\operatorname{span}\{t^m\mid m\geq0\}}_{\delta(f,\,0)}\\&\phantom{=}{} +\underbrace{\operatorname{span}\{t^m\mid m\leq n\}}_{\delta(0,\,g)}\end{aligned}

n=0n=0 では、これは第4回の定理14の証明で使った k[t]k[t] と k[1/t]k[1/t] です。第4回は2つの共通部分(=k=k)を求めましたが、この記事では和が全体になるかどうかも問います。

定理6 P1\mathbb{P}^1 の O(n)\mathcal{O}(n) のコホモロジー [1, 定理5.1, p.33–34]

kk を体、n∈Zn\in\mathbb{Z}、U={U0,U1}\mathcal{U}=\{U_0,U_1\} とする。

(1) Hˇ0(U,O(n))\check{H}^0(\mathcal{U},\mathcal{O}(n)) は (tm,sn−m)(t^m,s^{n-m})(0≤m≤n0\leq m\leq n)を基底とし、次元は n≥0n\geq0 なら n+1n+1、n<0n<0 なら 00 である。(tm,sn−m)(t^m,s^{n-m}) は斉次式 x0 n−mx1 mx_0^{\,n-m}x_1^{\,m} に当たる。
(2) Hˇ1(U,O(n))\check{H}^1(\mathcal{U},\mathcal{O}(n)) は類 [tm][t^m](n<m<0n<m<0)を基底とし、次元は n≤−2n\leq-2 なら −n−1-n-1、n≥−1n\geq-1 なら 00 である。
(3) どの nn についても dim⁡Hˇ0−dim⁡Hˇ1=n+1\dim\check{H}^0-\dim\check{H}^1=n+1 である。

証明
  1. δ\delta は tt の指数を保つ。各 m∈Zm\in\mathbb{Z} について、tmt^m に行く基底だけを集めた部分 δm\delta_m に分かれ、核と余核も mm ごとの和になる。

    Cm0C^0_m を、(tm,0)(t^m,0)(m≥0m\geq0 のとき)と (0,sn−m)(0,s^{n-m})(n−m≥0n-m\geq0 のとき)で張られる部分空間とし、Cm1=k tmC^1_m=k\,t^m とする。δ(0,sn−m)=−tn−(n−m)=−tm\delta(0,s^{n-m})=-t^{n-(n-m)}=-t^m なので、δ\delta は Cm0C^0_m を Cm1C^1_m に移す。

    k[t]×k[s]=⨁mCm0k[t]\times k[s]=\bigoplus_mC^0_m、k[t,1/t]=⨁mCm1k[t,1/t]=\bigoplus_mC^1_m で、tmt^m たちは1次独立だから、δ(∑mcm)=0\delta(\sum_mc_m)=0 なら各 δ(cm)=0\delta(c_m)=0 である。よって Ker⁡δ=⨁mKer⁡δm\operatorname{Ker}\delta=\bigoplus_m\operatorname{Ker}\delta_m、Coker⁡δ=⨁mCoker⁡δm\operatorname{Coker}\delta=\bigoplus_m\operatorname{Coker}\delta_m。

  2. mm ごとに3通りに分かれる。0≤m≤n0\leq m\leq n なら δm\delta_m は2次元から1次元への全射で、核は (tm,sn−m)(t^m,s^{n-m}) で張られる。どちらか一方だけなら同型。n<m<0n<m<0 なら Cm0=0C^0_m=0 で、余核は k tmk\,t^m。

    0≤m≤n0\leq m\leq n のとき、δm(a tm, b sn−m)=(a−b) tm\delta_m(a\,t^m,\,b\,s^{n-m})=(a-b)\,t^m なので、核は a=ba=b の直線である。

    m≥0m\geq0 と m≤nm\leq n のちょうど一方だけが成り立つとき、Cm0C^0_m は1次元で、δm\delta_m は ±1\pm1 倍の同型である。

  3. (1)(2) は、数えると従う。0≤m≤n0\leq m\leq n となる mm は n≥0n\geq0 なら n+1n+1 個、n<m<0n<m<0 となる mm は n≤−2n\leq-2 なら −n−1-n-1 個で、それ以外では0個。
  4. (1) の斉次式との対応は、F=x0 n−mx1 mF=x_0^{\,n-m}x_1^{\,m} について F(1,t)=tmF(1,t)=t^m、F(s,1)=sn−mF(s,1)=s^{n-m} となることから。
  5. (3) は場合分けで確かめる。n≥0n\geq0 なら (n+1)−0(n+1)-0、n=−1n=-1 なら 0−00-0、n≤−2n\leq-2 なら 0−(−n−1)0-(-n-1) で、どれも n+1n+1。

この定理は体 kk の標数にも、代数閉体かどうかにもよりません。係数 ±1\pm1 の比較だけで計算が済むからです。

Hˇ1\check{H}^1 の基底 tmt^m(n<m<0n<m<0)を斉次座標で書くと、重なりの上の切断 tmx0 n=x0 n−mx1 mt^m x_0^{\,n}=x_0^{\,n-m}x_1^{\,m} で、x0x_0 と x1x_1 の指数がどちらも負になります。つまり Hˇ1(U,O(n))\check{H}^1(\mathcal{U},\mathcal{O}(n)) の基底は、次の類です。

[1x0 ax1 b](a,b≥1, a+b=−n)\Bigl[\frac{1}{x_0^{\,a}x_1^{\,b}}\Bigr]\qquad(a,b\geq1,\ a+b=-n)[1x0 ax1 b](a,b≥1, a+b=−n)\begin{gathered}\Bigl[\frac{1}{x_0^{\,a}x_1^{\,b}}\Bigr]\\(a,b\geq1,\ a+b=-n)\end{gathered}

ハーツホーンが Pr\mathbb{P}^r で使う「負べきの単項式」の基底を、r=1r=1 で見たものです。

例えば n=−2n=-2 では 1/(x0x1)1/(x_0x_1) だけ、n=−4n=-4 では 1/(x03x1)1/(x_0^3x_1)、1/(x02x12)1/(x_0^2x_1^2)、1/(x0x13)1/(x_0x_1^3) の3つです。

例7 差で書く・書けない

kk を体とする。

(1) n=0n=0。第4回で例に使った h=2t−2+5+t3h=2t^{-2}+5+t^3 は、次のように差で書ける。

h=δ(5+t3, −2s2)=(5+t3)−(−2t−2)h=\delta\bigl(5+t^3,\ -2s^2\bigr)=(5+t^3)-\bigl(-2t^{-2}\bigr)h=δ(5+t3, −2s2)=(5+t3)−(−2t−2)\begin{aligned}h &= \delta\bigl(5+t^3,\ -2s^2\bigr)\\&= (5+t^3)-\bigl(-2t^{-2}\bigr)\end{aligned}h=δ(5+t3, −2s2)=(5+t3)=−(−2t−2)\begin{aligned}h &= \delta\bigl(5+t^3,\ -2s^2\bigr)\\&= (5+t^3)\\&\phantom{=}{} -\bigl(-2t^{-2}\bigr)\end{aligned}

定数 55 を gg の側に回して δ(t3, −5−2s2)\delta(t^3,\,-5-2s^2) としてもよい。2つの書き方の差 (5,5)(5,5) は Ker⁡δ\operatorname{Ker}\delta の元で、Hˇ0=k\check{H}^0=k(定数)に当たる。

(2) n=2n=2。h=t−3+5+2t4h=t^{-3}+5+2t^4 は δ(5+2t4, −s5)\delta(5+2t^4,\,-s^5) である。−t2⋅(−t−5)=t−3-t^2\cdot(-t^{-5})=t^{-3} となるからである。核は (1,s2)(1,s^2)、(t,s)(t,s)、(t2,1)(t^2,1) で張られ、斉次式 x02x_0^2、x0x1x_0x_1、x12x_1^2 に当たる。

(3) n=−2n=-2。δ(f,g)=f(t)−t−2g(1/t)\delta(f,g)=f(t)-t^{-2}g(1/t) の像には t−1t^{-1} の項が現れない。h=3t−2+t−1+th=3t^{-2}+t^{-1}+t なら

h−δ(t, −3)=(3t−2+t−1+t)−(t+3t−2)=t−1h-\delta(t,\,-3)=\bigl(3t^{-2}+t^{-1}+t\bigr)-\bigl(t+3t^{-2}\bigr)=t^{-1}h−δ(t, −3)=(3t−2+t−1+t)−(t+3t−2)=t−1\begin{aligned}h-\delta(t,\,-3) &= \bigl(3t^{-2}+t^{-1}+t\bigr)-\bigl(t+3t^{-2}\bigr)\\&= t^{-1}\end{aligned}h−δ(t, −3)=(3t−2+t−1+t)=−(t+3t−2)=t−1\begin{aligned}h-\delta(t,\,-3) &= \bigl(3t^{-2}+t^{-1}+t\bigr)\\&\phantom{=}{} -\bigl(t+3t^{-2}\bigr)\\&= t^{-1}\end{aligned}

なので [h]=[t−1]≠0[h]=[t^{-1}]\neq0 で、hh は差で書けない。

(4) n=−3n=-3。像に入らないのは t−2t^{-2} と t−1t^{-1} である。h=t−4+2t−2−t−1h=t^{-4}+2t^{-2}-t^{-1} なら、t−4=δ(0,−s)t^{-4}=\delta(0,-s) なので [h]=2[t−2]−[t−1]≠0[h]=2[t^{-2}]-[t^{-1}]\neq0 である。

(1)(2) で差の書き方が1通りに決まらないのは、核があるからです。差で書ける hh の書き方は、核の元を足す分だけずれます。Hˇ0\check{H}^0 が大きいほど書き方の自由度が大きくなり、Hˇ1\check{H}^1 が大きいほど差で書けない hh が増えます。

…………
O(0)=O\mathcal{O}(0)=\mathcal{O}
t−5t^{-5}
t−4t^{-4}
t−3t^{-3}
t−2t^{-2}
t−1t^{-1}
11
tt
t2t^{2}
t3t^{3}
t4t^{4}
青:f(t)f(t) から(m≥0m\geq0)
緑:t0g(1/t)t^{0}g(1/t) から(m≤0m\leq0)
Hˇ0\check{H}^0:11(紫)
O(−2)\mathcal{O}(-2)
t−5t^{-5}
t−4t^{-4}
t−3t^{-3}
t−2t^{-2}
t−1t^{-1}
11
tt
t2t^{2}
t3t^{3}
t4t^{4}
青:f(t)f(t) から(m≥0m\geq0)
緑:t−2g(1/t)t^{-2}g(1/t) から(m≤−2m\leq-2)
Hˇ1\check{H}^1:t−1t^{-1}(オレンジ)
図2概念図k[t,1/t]k[t,1/t] の基底 tmt^m を並べ、δ\delta の像を2本の帯で描いています。青の帯は U0U_0 の側の f(t)f(t) で作れる tmt^m(m≥0m\geq0)、緑の帯は U1U_1 の側の tng(1/t)t^ng(1/t) で作れる tmt^m(m≤nm\leq n)です。上の段 O(0)\mathcal{O}(0) は第4回の図と同じで、全部の tmt^m が覆われ、両方の帯に入る 11(紫)が Hˇ0=k\check{H}^0=k です。下の段 O(−2)\mathcal{O}(-2) では緑の帯が m≤−2m\leq-2 に縮み、t−1t^{-1}(オレンジの輪)がどちらの帯にも入りません。これが Hˇ1\check{H}^1 の基底です。

nn を動かすと、緑の帯の右端が動きます。どの帯がどこを覆うかを表にまとめます。

例8 n=−4,…,3n=-4,\dots,3 の表

定理6から、次の表を得る。hi=dim⁡Hˇi(U,O(n))h^i=\dim\check{H}^i(\mathcal{U},\mathcal{O}(n)) とする。

nnHˇ0\check{H}^0 の基底(斉次式)h0h^0Hˇ1\check{H}^1 の基底h1h^1h0−h1h^0-h^1
33x03, x02x1, x0x12, x13x_0^3,\ x_0^2x_1,\ x_0x_1^2,\ x_1^344なし0044
22x02, x0x1, x12x_0^2,\ x_0x_1,\ x_1^233なし0033
11x0, x1x_0,\ x_122なし0022
001111なし0011
−1-1なし00なし0000
−2-2なし00[t−1][t^{-1}]11−1-1
−3-3なし00[t−2], [t−1][t^{-2}],\ [t^{-1}]22−2-2
−4-4なし00[t−3], [t−2], [t−1][t^{-3}],\ [t^{-2}],\ [t^{-1}]33−3-3
t−5t^{-5}
t−4t^{-4}
t−3t^{-3}
t−2t^{-2}
t−1t^{-1}
11
tt
t2t^{2}
t3t^{3}
t4t^{4}
nn
h0h^0
h1h^1
h0−h1h^0-h^1
−4-4
00
33
−3-3
−3-3
00
22
−2-2
−2-2
00
11
−1-1
−1-1
00
00
00
00
11
00
11
11
22
00
22
22
33
00
33
33
44
00
44
青:m≥0m\geq0 緑:m≤nm\leq n 紫:両方(Hˇ0\check{H}^0) オレンジの輪:どちらでもない(Hˇ1\check{H}^1)
図3概念図例8を図2の形で並べたものです。1行が1つの nn で、紫の点(両方の帯)の数が h0h^0、オレンジの輪(どちらの帯もない)の数が h1h^1 です。nn を1つ増やすと緑の帯が右に1つ延び、輪が1つ埋まるか、紫の点が1つ増えます。どちらでも h0−h1h^0-h^1 は1だけ増えます(図を作るプログラムで、δ\delta を行列にして階数から検算しています)。

次元の差はいつも n+1n+1

表の右端の列 h0−h1h^0-h^1 は、nn の1次式 n+1n+1 です。h0h^0 と h1h^1 はそれぞれ n=−1n=-1 を境に式が変わりますが、差は1つの式 n+1n+1 で書けます。

系9

kk を体とする。すべての n∈Zn\in\mathbb{Z} について h0(O(n))−h1(O(n))=n+1h^0(\mathcal{O}(n))-h^1(\mathcal{O}(n))=n+1 である。さらに h1(O(n))=h0(O(−2−n))h^1(\mathcal{O}(n))=h^0(\mathcal{O}(-2-n)) が成り立つ。

証明
  1. 1つめは定理6(3) である。
  2. 2つめは場合分けで確かめる。n≤−2n\leq-2 なら −2−n≥0-2-n\geq0 で、両辺とも −n−1-n-1。n≥−1n\geq-1 なら −2−n<0-2-n<0 で、両辺とも 00。

差 h0−h1h^0-h^1 を、層のオイラー標数 χ(O(n))\chi(\mathcal{O}(n)) と呼びます。図3では、nn が1つ増えるたびに緑の帯が tn+1t^{n+1} まで延びます。n+1<0n+1<0 ならそこは輪(h1h^1 の基底)だったので h1h^1 が1減り、n+1≥0n+1\geq0 ならそこは青の帯の中なので h0h^0 が1増えます。

χ(O(n+1))−χ(O(n))=1χ(O(0))=1−0=1⟹χ(O(n))=n+1\chi(\mathcal{O}(n+1))-\chi(\mathcal{O}(n))=1\qquad \chi(\mathcal{O}(0))=1-0=1\qquad\Longrightarrow\qquad \chi(\mathcal{O}(n))=n+1χ(O(n+1))−χ(O(n))=1χ(O(0))=1−0=1⟹χ(O(n))=n+1\begin{gathered}\chi(\mathcal{O}(n+1))-\chi(\mathcal{O}(n))=1\\\chi(\mathcal{O}(0))=1-0=1\\\Longrightarrow \chi(\mathcal{O}(n))=n+1\end{gathered}χ(O(n+1))−χ(O(n))=1χ(O(0))=1−0=1⟹χ(O(n))=n+1\begin{aligned}\chi(\mathcal{O}(n+1))-\chi(\mathcal{O}(n)) &= 1\\[4pt]\chi(\mathcal{O}(0)) &= 1-0\\&= 1\\[4pt]&\Longrightarrow \chi(\mathcal{O}(n))=n+1\end{aligned}

第11回の言葉では、O(n)\mathcal{O}(n) は次数 nn の因子(例えば n⋅∞n\cdot\infty)に対応する直線束でした(第11回の命題13)。すると系の1つめは、次の形に書けます。

h0(O(D))−h1(O(D))=deg⁡D+1(D=n⋅∞, deg⁡D=n)h^0(\mathcal{O}(D))-h^1(\mathcal{O}(D))=\deg D+1\qquad(D=n\cdot\infty,\ \deg D=n)h0(O(D))−h1(O(D))=deg⁡D+1(D=n⋅∞, deg⁡D=n)\begin{gathered}h^0(\mathcal{O}(D))-h^1(\mathcal{O}(D))=\deg D+1\\(D=n\cdot\infty,\ \deg D=n)\end{gathered}h0(O(D))−h1(O(D))=deg⁡D+1(D=n⋅∞, deg⁡D=n)\begin{aligned}h^0(\mathcal{O}(D))-h^1(\mathcal{O}(D)) &= \deg D+1\\[4pt]&(D=n\cdot\infty,\ \deg D=n)\end{aligned}

系の2つめに出てくる −2-2 は、第13回の deg⁡K=−2\deg K=-2 です。O(−2−n)\mathcal{O}(-2-n) は因子 K−DK-D に対応するので、h1(O(D))=h0(O(K−D))h^1(\mathcal{O}(D))=h^0(\mathcal{O}(K-D)) と書けます。

h0(O(D))−h0(O(K−D))=deg⁡D+1−g(g=0)\begin{aligned} &h^0(\mathcal{O}(D))-h^0(\mathcal{O}(K-D))\\ &\quad=\deg D+1-g\qquad(g=0) \end{aligned}

これが P1\mathbb{P}^1 のリーマン・ロッホの定理です。gg は曲線の種数で、P1\mathbb{P}^1 では 00 です。第15回では、一般の曲線で同じ形の式を確かめます。

専門的な話h1(O(n))=h0(O(−2−n))h^1(\mathcal{O}(n))=h^0(\mathcal{O}(-2-n)) の理由:セールの双対性

系の2つめの等式には理由があります。大域切断と Hˇ1\check{H}^1 の類の積で、次の双一次形式が作れるからです。

Hˇ0(O(n))×Hˇ1(O(−2−n))→Hˇ1(O(−2))≅k((ta,sn−a), [h])⟼[tah]\begin{aligned} &\check{H}^0(\mathcal{O}(n))\times\check{H}^1(\mathcal{O}(-2-n))\\ &\quad\to\check{H}^1(\mathcal{O}(-2))\cong k\\[4pt] &\bigl((t^a,s^{n-a}),\ [h]\bigr)\longmapsto[t^ah] \end{aligned}

δ\delta と両立することを確かめます。O(−2−n)\mathcal{O}(-2-n) の (f,g)(f,g) について、積 (taf, sn−ag)(t^af,\ s^{n-a}g) は O(−2)\mathcal{O}(-2) の切断の組で、

δ(taf, sn−ag)=taf−t−2 ta−ng(1/t)=ta(f−t−2−ng(1/t))=ta δ(f,g)\begin{aligned} &\delta(t^af,\ s^{n-a}g)\\ &\quad=t^af-t^{-2}\,t^{a-n}g(1/t)\\ &\quad=t^a\bigl(f-t^{-2-n}g(1/t)\bigr)\\ &\quad=t^a\,\delta(f,g) \end{aligned}

となります。よって差で書ける hh には、差で書ける taht^ah が対応し、積は類の上で矛盾なく決まります。

基底で書くと、tat^a(0≤a≤n0\leq a\leq n)と [tb][t^b](−n−1≤b≤−1-n-1\leq b\leq-1)の積 [ta+b][t^{a+b}] が Hˇ1(O(−2))=k [t−1]\check{H}^1(\mathcal{O}(-2))=k\,[t^{-1}] で0でないのは、a+b=−1a+b=-1 のときだけです。aa と b=−1−ab=-1-a が1対1に組になるので、この双一次形式は非退化で、両辺の次元が等しくなります。

ハーツホーンは Pr\mathbb{P}^r の O(n)\mathcal{O}(n) について同じ形の非退化性を示しています[1, 定理5.1(d), p.34]。一般の非特異射影曲線では、これがセールの双対性 H1(O(D))≅H0(O(K−D))∨H^1(\mathcal{O}(D))\cong H^0(\mathcal{O}(K-D))^\vee になり、リーマン・ロッホの定理の証明に使われます。

被覆によらない:層のコホモロジー

ここまでの Hˇi\check{H}^i は、被覆 U\mathcal{U} を1つ決めて定義しました。別の被覆を選べば、答えが変わるかもしれません。実はスキームの準連接層では、アフィンの開集合で覆う限り答えは変わりません。しかも、被覆を使わずに定義したコホモロジー Hi(X,F)H^i(X,\mathcal{F}) と一致します。

ハーツホーンは Hi(X,−)H^i(X,-) を、大域切断をとる関手 F↦F(X)\mathcal{F}\mapsto\mathcal{F}(X) の右導来関手として定義しています[1, §III.2 定義, p.9]。この定義は連載の範囲を超えるので、ここでは結果だけを引用します。ネータースキームとは、ネーター環の Spec の有限個で覆えるスキームのことです。

定理10 [1, 定理4.5, p.29]

XX をネーターで分離的なスキーム、U\mathcal{U} をアフィンの開集合からなる XX の開被覆、F\mathcal{F} を XX 上の準連接層とする。このとき、すべての p≥0p\geq0 について自然な同型 Hˇp(U,F)≅Hp(X,F)\check{H}^p(\mathcal{U},\mathcal{F})\cong H^p(X,\mathcal{F}) がある。

P1\mathbb{P}^1 はネーターで分離的なスキームで、U0,U1U_0,U_1 はアフィン、O(n)\mathcal{O}(n) は準連接層です。よって定理6は、そのまま H0(P1,O(n))H^0(\mathbb{P}^1,\mathcal{O}(n)) と H1(P1,O(n))H^1(\mathbb{P}^1,\mathcal{O}(n)) の計算になります。2枚の被覆には3枚の重なりがないので、p≥2p\geq2 では Hp(P1,O(n))=0H^p(\mathbb{P}^1,\mathcal{O}(n))=0 です(最後の補足を見てください)。

H0(P1,O(n))≅k[x0,x1]nH1(P1,O(−2))≅kH^0(\mathbb{P}^1,\mathcal{O}(n))\cong k[x_0,x_1]_n\qquad H^1(\mathbb{P}^1,\mathcal{O}(-2))\cong kH0(P1,O(n))≅k[x0,x1]nH1(P1,O(−2))≅k\begin{gathered}H^0(\mathbb{P}^1,\mathcal{O}(n))\cong k[x_0,x_1]_n\\H^1(\mathbb{P}^1,\mathcal{O}(-2))\cong k\end{gathered}H0(P1,O(n))≅k[x0,x1]nH1(P1,O(−2))≅k\begin{aligned}H^0(\mathbb{P}^1,\mathcal{O}(n)) &\cong k[x_0,x_1]_n\\[4pt]H^1(\mathbb{P}^1,\mathcal{O}(-2)) &\cong k\end{aligned}

k[x0,x1]nk[x_0,x_1]_n は nn 次斉次式の空間(n<0n<0 なら 00)です。ハーツホーンは Pr\mathbb{P}^r の場合を、同じ形の被覆で計算しています([1, 定理5.1, p.33–34]。H0H^0 については[2, 命題5.13, p.160])。

アフィンスキームでは、H1H^1 以上がすべて消えます。

定理11 [1, 定理3.5, p.20; 1, 定理3.7, p.21]

(1) AA をネーター環、X=Spec⁡AX=\operatorname{Spec}A とする。XX 上のすべての準連接層 F\mathcal{F} とすべての i>0i>0 について Hi(X,F)=0H^i(X,\mathcal{F})=0 である。
(2)(セール)逆に、ネータースキーム XX で、すべての準連接層 F\mathcal{F} とすべての i>0i>0 について Hi(X,F)=0H^i(X,\mathcal{F})=0 なら、XX はアフィンである。

(2) を使うと、P1\mathbb{P}^1 がアフィンでないことがもう一度分かります。準連接層 O(−2)\mathcal{O}(-2) で H1(P1,O(−2))≅k≠0H^1(\mathbb{P}^1,\mathcal{O}(-2))\cong k\neq0 だからです。第4回は大域関数が定数だけであること(第4回の定理14)から示しましたが、こちらは H1H^1 が0でないことから示しています。

(1) を、アフィン直線を2枚で覆って確かめてみます。

例12 部分分数分解

kk を体、X=Spec⁡k[t]X=\operatorname{Spec}k[t] とし、V0=D(t)V_0=D(t)、V1=D(t−1)V_1=D(t-1) で覆う。重なりは D(t(t−1))D(t(t-1)) で、

δ ⁣:k[t]t×k[t]t−1→k[t]t(t−1)δ(s0,s1)=s0−s1\delta\colon k[t]_t\times k[t]_{t-1}\to k[t]_{t(t-1)}\qquad \delta(s_0,s_1)=s_0-s_1δ ⁣:k[t]t×k[t]t−1→k[t]t(t−1)δ(s0,s1)=s0−s1\begin{gathered}\delta\colon k[t]_t\times k[t]_{t-1}\to k[t]_{t(t-1)}\\\delta(s_0,s_1)=s_0-s_1\end{gathered}δ ⁣:k[t]t×k[t]t−1→k[t]t(t−1)δ(s0,s1)=s0−s1\begin{aligned}\delta\colon k[t]_t\times k[t]_{t-1} &\to k[t]_{t(t-1)}\\[4pt]\delta(s_0,s_1) &= s_0-s_1\end{aligned}

は全射である。つまり Hˇ1=0\check{H}^1=0 で、これは分母が ta(t−1)bt^a(t-1)^b の分数が、分母 tat^a の分数と分母 (t−1)b(t-1)^b の分数の和に分かれる(部分分数分解)ことと同じである。例えば

1t(t−1)=δ(−1t, −1t−1)t+1t2(t−1)=δ(−2t−1t2,−2t−1)\begin{aligned} \frac{1}{t(t-1)}&=\delta\Bigl(-\frac1t,\ -\frac{1}{t-1}\Bigr)\\[4pt] \frac{t+1}{t^2(t-1)}&=\delta\Bigl(-\frac2t-\frac1{t^2},{}\\ &\qquad\quad -\frac{2}{t-1}\Bigr) \end{aligned}

である。Hˇ0=Ker⁡δ\check{H}^0=\operatorname{Ker}\delta は k[t]t∩k[t]t−1=k[t]k[t]_t\cap k[t]_{t-1}=k[t] で、XX 全体の関数に一致する。

証明
  1. 第3回の系16(1) から、3つの開集合の上の関数の環は k[t]tk[t]_t、k[t]t−1k[t]_{t-1}、k[t]t(t−1)k[t]_{t(t-1)} で、δ\delta はそれらの中の引き算である。
  2. k[t]t(t−1)k[t]_{t(t-1)} の元は p/(ta(t−1)b)p/(t^a(t-1)^b)(p∈k[t]p\in k[t])と書ける。tat^a と (t−1)b(t-1)^b は共通の因子をもたないので、uta+v(t−1)b=1ut^a+v(t-1)^b=1 となる u,v∈k[t]u,v\in k[t] がある。
  3. 両辺に p/(ta(t−1)b)p/(t^a(t-1)^b) を掛けると p/(ta(t−1)b)=pv/ta+pu/(t−1)b=δ(pv/ta, −pu/(t−1)b)p/(t^a(t-1)^b)=pv/t^a+pu/(t-1)^b=\delta\bigl(pv/t^a,\,-pu/(t-1)^b\bigr) で、全射が分かる。
  4. 例の2つめは、恒等式 −2t(t−1)−(t−1)+2t2=t+1-2t(t-1)-(t-1)+2t^2=t+1 を t2(t−1)t^2(t-1) で割ったものである。

    係数はどれも整数なので、この恒等式はどの体でも成り立つ。標数2では 2=02=0 で、式は (t+1)/(t2(t−1))=−1/t2(t+1)/(t^2(t-1))=-1/t^2 になる。このとき t+1=t−1t+1=t-1 なので、確かに両辺は等しい。

P1\mathbb{P}^1 の n=0n=0 の行も、同じ形の主張でした。どのローラン多項式も「tt の多項式」と「1/t1/t の多項式」の差に分かれるので、H1(P1,O)=0H^1(\mathbb{P}^1,\mathcal{O})=0 です。n=−2n=-2 では、t−1t^{-1} の項だけがこの形に分けられません。

最後に、第13回の微分形式に戻ります。

例13 P1\mathbb{P}^1 の微分形式の層 [1, 例4.0.3, p.25–26; 2, 例8.20.1, p.248]

kk を体とし、Ω\Omega を P1\mathbb{P}^1 の微分形式の層とする。Ω(U0)=k[t] dt\Omega(U_0)=k[t]\,dt、Ω(U1)=k[s] ds\Omega(U_1)=k[s]\,ds、Ω(U01)=k[t,1/t] dt\Omega(U_{01})=k[t,1/t]\,dt で、重なりの上では ds=−t−2dtds=-t^{-2}dt である。このとき

δ(f dt, g ds)=(f(t)+t−2g(1/t)) dt\begin{aligned} &\delta\bigl(f\,dt,\ g\,ds\bigr)\\ &\quad=\bigl(f(t)+t^{-2}g(1/t)\bigr)\,dt \end{aligned}

で、像は tm dtt^m\,dt(m≥0m\geq0 または m≤−2m\leq-2)で張られる。よって H0(P1,Ω)=0H^0(\mathbb{P}^1,\Omega)=0、H1(P1,Ω)=k⋅[t−1dt]H^1(\mathbb{P}^1,\Omega)=k\cdot[t^{-1}dt] である。対応 (f dt, g ds)↦(f, −g)(f\,dt,\,g\,ds)\mapsto(f,\,-g) は同型 Ω≅O(−2)\Omega\cong\mathcal{O}(-2) を与える。

証明
  1. s=1/ts=1/t を微分すると ds=−t−2dtds=-t^{-2}dt なので、g(s) ds=−t−2g(1/t) dtg(s)\,ds=-t^{-2}g(1/t)\,dt となり、δ\delta の式を得る。
  2. δ(tm dt,0)=tm dt\delta(t^m\,dt,0)=t^m\,dt(m≥0m\geq0)、δ(0,sj ds)=t−2−j dt\delta(0,s^j\,ds)=t^{-2-j}\,dt(j≥0j\geq0)なので、定理6の n=−2n=-2 と同じ計算になる。
  3. Ω(V)\Omega(V) の元は、重なりの上で f dt=g dsf\,dt=g\,ds、つまり f=t−2⋅(−g)f=t^{-2}\cdot(-g) をみたす組である。これは (f,−g)(f,-g) が定義5の n=−2n=-2 の条件をみたすことと同じである。

H1(P1,Ω)H^1(\mathbb{P}^1,\Omega) の生成元は dtdt ではなく dt/tdt/t の類です。dtdt 自身は U0U_0 の上の微分形式なので、dt=δ(dt,0)dt=\delta(dt,0) と差で書けてしまいます。dt/tdt/t は t=0t=0 と t=∞t=\infty の両方に1位の極をもち、重なりの上でしか定義されません。

H0(P1,Ω)=0H^0(\mathbb{P}^1,\Omega)=0 は、P1\mathbb{P}^1 全体で正則な微分形式がないということです。第13回で見たとおり、dtdt は ∞\infty で2位の極をもち、deg⁡K=−2<0\deg K=-2<0 でした。次数が負の因子には、0でない大域切断がありません。

もう少し詳しく位相空間のコホモロジーとの関係

例3の Hˇ1(U,Z‾)≅Z\check{H}^1(\mathcal{U},\underline{\mathbb{Z}})\cong\mathbb{Z} は、被覆によらない層のコホモロジー H1(S1,Z‾)H^1(S^1,\underline{\mathbb{Z}}) と一致し、円の穴1つを数えています[1, 演習2.7, p.17; 1, 例4.0.4, p.26]。多様体では、定数層 Z‾\underline{\mathbb{Z}} のコホモロジーは位相幾何の特異コホモロジーと一致します。ハーツホーンは、この一致を示した文献を第III章2節の歴史覚え書きで挙げています[1, §III.2 歴史覚え書き, p.15]。例えば穴が gg 個の向き付けられた閉曲面では H1≅Z2gH^1\cong\mathbb{Z}^{2g} です[3, 付録B §5, p.215]。

しかし、ザリスキー位相の定数層のコホモロジーは、これとはまったく別物です。既約な空間の上の定数層は、どの制限写像も全射(脆弱)になり[2, 演習1.16(a), p.92]、脆弱な層の HiH^i(i>0i>0)は0です[1, 命題2.5, p.10]。P1\mathbb{P}^1 は既約なので H1(P1,Z‾)=0H^1(\mathbb{P}^1,\underline{\mathbb{Z}})=0 で、例4と合っています。

代数幾何で穴の数に当たるものは、構造層のコホモロジーに現れます。代数閉体の上の非特異射影曲線 XX では、正則な微分形式の空間の次元(種数 gg)が dim⁡H1(X,OX)\dim H^1(X,\mathcal{O}_X) に等しくなります[3, 命題1.1, p.2]。複素数の上では、XX の複素数の点はコンパクトなリーマン面になり、穴が gg 個の閉曲面と同相です[3, 付録B §5, p.215]。P1\mathbb{P}^1(球面)では g=0g=0 で、確かに H1(P1,O)=0H^1(\mathbb{P}^1,\mathcal{O})=0 でした。楕円曲線(トーラス)では g=1g=1 です。種数と穴の数の関係は第16回で扱います。

H1(P1,Ω)≅kH^1(\mathbb{P}^1,\Omega)\cong k も、円で測れます。k=Ck=\mathbb{C} のとき、類 [h dt][h\,dt] に hh の t−1t^{-1} の係数(t=0t=0 での留数)を対応させると、像の元 tm dtt^m\,dt(m≠−1m\neq-1)は0に移るので、同型 H1(P1,Ω)≅CH^1(\mathbb{P}^1,\Omega)\cong\mathbb{C} が得られます。この係数は、重なり C∖{0}\mathbb{C}\setminus\{0\} の中の円 ∣t∣=1|t|=1 に沿った積分 12πi∮h dt\frac{1}{2\pi i}\oint h\,dt に等しく、図1のらせんと同じように「一周して測る」量です。

専門的な話一般の被覆、高次のコホモロジーと長完全列

開被覆 U={Ui}i∈I\mathcal{U}=\{U_i\}_{i\in I}(II は全順序集合)について、Ui0⋯ip=Ui0∩⋯∩UipU_{i_0\cdots i_p}=U_{i_0}\cap\cdots\cap U_{i_p} とし、チェック複体を次のように定めます[1, §III.4, p.24–25]。

Cˇp(U,F)=∏i0<⋯<ipF(Ui0⋯ip)(dα)i0⋯ip+1=∑k=0p+1(−1)k αi0⋯ik^⋯ip+1∣Ui0⋯ip+1\begin{aligned} &\check{C}^p(\mathcal{U},\mathcal{F})=\prod_{i_0<\cdots<i_p}\mathcal{F}(U_{i_0\cdots i_p})\\[4pt] &(d\alpha)_{i_0\cdots i_{p+1}}\\ &\quad=\sum_{k=0}^{p+1}(-1)^k\,\alpha_{i_0\cdots\widehat{i_k}\cdots i_{p+1}}\big|_{U_{i_0\cdots i_{p+1}}} \end{aligned}

ik^\widehat{i_k} は iki_k を除くという意味です。d∘d=0d\circ d=0 で、Hˇp(U,F)=Ker⁡d/Im⁡d\check{H}^p(\mathcal{U},\mathcal{F})=\operatorname{Ker}d/\operatorname{Im}d(Cˇp\check{C}^p の部分)と定めます。2枚の被覆では Cˇ0=F(U0)×F(U1)\check{C}^0=\mathcal{F}(U_0)\times\mathcal{F}(U_1)、Cˇ1=F(U01)\check{C}^1=\mathcal{F}(U_{01})、p≥2p\geq2 で Cˇp=0\check{C}^p=0 となり、d=−δd=-\delta です。

導来関手のコホモロジーには、層の短完全列 0→F′→F→F′′→00\to\mathcal{F}'\to\mathcal{F}\to\mathcal{F}''\to0 から長完全列が得られるという大事な性質があります[1, p.9]。被覆を1つ固定したチェック・コホモロジーには、一般にはこの性質がありません[1, 警告4.0.2, p.25]。定理10が成り立つ場合に、チェック・コホモロジーでも長完全列が使えるようになります。

例えば P1\mathbb{P}^1 で、x0x_0 を掛ける写像 O(n−1)→O(n)\mathcal{O}(n-1)\to\mathcal{O}(n)(チャートでは (f,g)↦(f, sg)(f,g)\mapsto(f,\,sg))は単射で、余核は点 ∞\infty にだけ kk がある層 k∞k_\infty です。H0(k∞)=kH^0(k_\infty)=k、H1(k∞)=0H^1(k_\infty)=0 なので、長完全列

0→H0(O(n−1))→H0(O(n))→k→H1(O(n−1))→H1(O(n))→00\to H^0(\mathcal{O}(n-1))\to H^0(\mathcal{O}(n))\to k\to H^1(\mathcal{O}(n-1))\to H^1(\mathcal{O}(n))\to00→H0(O(n−1))→H0(O(n))→k→H1(O(n−1))→H1(O(n))→0\begin{aligned}0 &\to H^0(\mathcal{O}(n-1))\\&\to H^0(\mathcal{O}(n))\\&\to k\\&\to H^1(\mathcal{O}(n-1))\\&\to H^1(\mathcal{O}(n))\\&\to 0\end{aligned}

から χ(O(n))=χ(O(n−1))+1\chi(\mathcal{O}(n))=\chi(\mathcal{O}(n-1))+1 が出ます。図3で帯が1つ延びることの、層の言葉での言い換えです。

また、グロタンディークの消滅定理により、nn 次元のネーター位相空間では i>ni>n の HiH^i はすべて0です[1, 定理2.7, p.11]。曲線では H0H^0 と H1H^1 だけを考えれば足ります。

まとめ:被覆と層ごとの H0,H1H^0,H^1

空間と被覆層H0H^0H1H^1理由
円(普通の位相)、2つの弧Z‾\underline{\mathbb{Z}}Z\mathbb{Z}Z\mathbb{Z}重なりが2か所に分かれる
P1\mathbb{P}^1(ザリスキー位相)Z‾\underline{\mathbb{Z}}Z\mathbb{Z}00重なりが連結
P1\mathbb{P}^1、U0,U1U_0,U_1O(n)\mathcal{O}(n)、n≥0n\geq0nn 次斉次式(n+1n+1 次元)002本の帯が重なる
P1\mathbb{P}^1、U0,U1U_0,U_1O(−1)\mathcal{O}(-1)0000帯がちょうど接する
P1\mathbb{P}^1、U0,U1U_0,U_1O(n)\mathcal{O}(n)、n≤−2n\leq-200−n−1-n-1 次元帯の間に隙間
P1\mathbb{P}^1、U0,U1U_0,U_1Ω≅O(−2)\Omega\cong\mathcal{O}(-2)00k⋅[dt/t]k\cdot[dt/t]t−1 dtt^{-1}\,dt が作れない
A1\mathbb{A}^1、D(t),D(t−1)D(t),D(t-1)O\mathcal{O}k[t]k[t]00部分分数分解

H0H^0 は「重なりで一致する切断の組」、H1H^1 は「重なりの切断のうち、差で書けないもの」でした。層の条件から H0H^0 は全体の切断に一致し、H1H^1 は貼り合わせと逆向きの問い(差で書けるか)に答えます。

P1\mathbb{P}^1 の O(n)\mathcal{O}(n) では、2つの像を tmt^m の格子の上の帯として描くと、重なりが H0H^0、隙間が H1H^1 になりました。帯の重なりと隙間の差はいつも n+1n+1 で、nn とともに1ずつ増えます。

次回:リーマン・ロッホの定理

P1\mathbb{P}^1 では h0−h1=deg⁡D+1h^0-h^1=\deg D+1 で、h1h^1 は K−DK-D の大域切断の次元に等しくなりました。

次回は、この H0H^0 と H1H^1 の次元の差を、一般の曲線のリーマン・ロッホの定理 ℓ(D)−ℓ(K−D)=deg⁡D+1−g\ell(D)-\ell(K-D)=\deg D+1-g として述べます。P1\mathbb{P}^1(g=0g=0)と楕円曲線(g=1g=1)で、具体的な因子について両辺を計算して確かめます。

参考文献

  1. R. ハーツホーン(高橋宣能・松下大介 訳), 『代数幾何学 2』, 丸善出版, 2012.
  2. R. ハーツホーン(高橋宣能・松下大介 訳), 『代数幾何学 1』, 丸善出版, 2013.
  3. R. ハーツホーン(高橋宣能・松下大介 訳), 『代数幾何学 3』, 丸善出版, 2012.