数学ビジュアライズ

代数幾何図で読む代数幾何第15回

関数の空間の次元を数える:リーマン・ロッホの定理

因子が許す極の範囲に収まる関数の空間 L(D) を定義し、その次元についてのリーマン・ロッホの定理 ℓ(D)−ℓ(K−D)=deg D+1−g を、射影直線と楕円曲線で基底を書き出して確かめます。基底を並べると、楕円曲線には1点だけに1位の極をもつ関数がないことと、ワイエルシュトラスの方程式が出てくる理由が分かります。

目次
  1. 前回の宿題
  2. 極を許した関数の空間
  3. 射影直線で数える
  4. 種数とリーマン・ロッホの定理
  5. 射影直線で確かめる
  6. 楕円曲線で確かめる
  7. 因子を点にして、平面に並べる
  8. 種数0と種数1の曲線
  9. まとめ:2つの曲線の表
  10. 次回:種数を方程式から読む
  11. 参考文献
この記事の要点
関数の空間 L(D)L(D)
因子 DD が許す極の範囲に収まる有理関数を集めると、有限次元のベクトル空間 L(D)L(D) になります。その次元を ℓ(D)\ell(D) と書きます。
リーマン・ロッホの定理
種数 gg の曲線では ℓ(D)−ℓ(K−D)=deg⁡D+1−g\ell(D)-\ell(K-D)=\deg D+1-g が成り立ちます。ℓ(D)\ell(D) 自身は次数だけでは決まりませんが、ℓ(K−D)\ell(K-D) を引いた差は次数と種数だけで決まります。
射影直線と楕円曲線
P1\mathbb{P}^1 では L(n∞)L(n\infty) が nn 次以下の多項式になり、楕円曲線では L(nO)L(nO) が 1,x,y,x2,xy,…1,x,y,x^2,xy,\dots で張られます。どちらも基底を書き出して、定理の両辺を数で確かめます。
分かること
楕円曲線の上には、OO だけに1位の極をもつ関数がありません。そこから楕円曲線が P1\mathbb{P}^1 と同型でないことが分かり、ワイエルシュトラスの方程式も出てきます。定理を使うと、種数0の曲線が P1\mathbb{P}^1 と同型であることも示せます。
  • 証明は、ステップの流れだけを短く書いています。「詳しく」の付いた行をクリックすると、そのステップの詳しい説明が開きます。説明の中にも開ける行があります。
  • 定義・命題・定理には、記事全体で通し番号を振っています。
  • もう少し詳しくは補足、専門的な話は先の回につながる話題です。どちらも開かずに読み進められます。
  • 各ブロックの「AIに質問」を押すと、その部分の内容を入れた質問文で、お使いのAIを開けます。

前回の宿題

第14回では、P1\mathbb{P}^1 を2枚の直線で覆ってチェック・コホモロジーを計算しました。直線束 O(n)\mathcal{O}(n) について求めた値は次のとおりです(第14回の定理6)。hih^i は HiH^i の次元を表します。

h0(O(n))={n+1(n≥0)0(n≤−1),h1(O(n))={0(n≥−1)−n−1(n≤−2),h0−h1=n+1{}\begin{gathered} h^0(\mathcal{O}(n))=\begin{cases}n+1&(n\geq0)\\0&(n\leq-1)\end{cases},{}\\[4pt] h^1(\mathcal{O}(n))=\begin{cases}0&(n\geq-1)\\-n-1&(n\leq-2)\end{cases},{}\\[4pt] h^0-h^1=n+1 \end{gathered}

h0h^0 と h1h^1 はそれぞれ折れ線なのに、差はどの nn でも直線 n+1n+1 になります。前回の最後に、この差がリーマン・ロッホの定理の特別な場合だと予告しました。

この記事では、h0h^0 にあたるものを「極を許した関数の空間」L(D)L(D) として、コホモロジーを使わずに定義します。h1h^1 にあたるものは、標準因子 KK を使った L(K−D)L(K-D) です。そのうえで定理を述べ、P1\mathbb{P}^1 と楕円曲線で両辺を数えて確かめます。

極を許した関数の空間 L(D)L(D)

この記事では、曲線は代数閉体 kk 上の非特異射影曲線 CC とします[1, §IV.1, p.2]。点は閉点のことで、CC の関数体(有理関数の全体)を k(C)k(C) と書きます。

第10回の定理5で見たとおり、各点 PP の局所環は離散付値環で、0でない有理関数 ff に位数 ord⁡P(f)∈Z\operatorname{ord}_P(f)\in\mathbb{Z} が決まります(第10回の定義6)。正なら零点の位数、負なら極の位数です。位数は次の性質をもちます。

ord⁡P(fg)=ord⁡P(f)+ord⁡P(g)ord⁡P(f+g)≥min⁡(ord⁡P(f),ord⁡P(g))\operatorname{ord}_P(fg)=\operatorname{ord}_P(f)+\operatorname{ord}_P(g)\qquad \operatorname{ord}_P(f+g)\geq\min\bigl(\operatorname{ord}_P(f),\operatorname{ord}_P(g)\bigr)ord⁡P(fg)=ord⁡P(f)+ord⁡P(g)ord⁡P(f+g)≥min⁡(ord⁡P(f),ord⁡P(g))\begin{gathered}\operatorname{ord}_P(fg)=\operatorname{ord}_P(f)+\operatorname{ord}_P(g)\\\operatorname{ord}_P(f+g)\geq\min\bigl(\operatorname{ord}_P(f),\operatorname{ord}_P(g)\bigr)\end{gathered}ord⁡P(fg)=ord⁡P(f)+ord⁡P(g)ord⁡P(f+g)≥min⁡(ord⁡P(f),ord⁡P(g))\begin{aligned}\operatorname{ord}_P(fg) &= \operatorname{ord}_P(f)+\operatorname{ord}_P(g)\\[4pt]\operatorname{ord}_P(f+g) &\geq \min\bigl(\operatorname{ord}_P(f),\operatorname{ord}_P(g)\bigr)\end{aligned}ord⁡P(fg)=ord⁡P(f)=+ord⁡P(g)ord⁡P(f+g)≥min⁡(ord⁡P(f),ord⁡P(g))\begin{aligned}\operatorname{ord}_P(fg) &= \operatorname{ord}_P(f)\\&\phantom{=}{} +\operatorname{ord}_P(g)\\[4pt]\operatorname{ord}_P(f+g) &\geq \min\bigl(\operatorname{ord}_P(f),\operatorname{ord}_P(g)\bigr)\end{aligned}

2つめの式は、ord⁡P(f)≠ord⁡P(g)\operatorname{ord}_P(f)\neq\operatorname{ord}_P(g) なら等号になります。因子は点の整数係数の形式的な和 D=∑nPPD=\sum n_PP、次数は deg⁡D=∑nP\deg D=\sum n_P です。D≥0D\geq0(有効)は、すべての nP≥0n_P\geq0 を意味します。

主因子は div⁡(f)=∑Pord⁡P(f) P\operatorname{div}(f)=\sum_P\operatorname{ord}_P(f)\,P で、その次数は0です(第10回の定理17)[2, 系6.10, p.188]。差が主因子になる2つの因子を、線形同値(D∼D′D\sim D')と呼びます。

この記事では、文字 KK はイデアルではなく標準因子に使います。

定義1 L(D)L(D) と ℓ(D)\ell(D) [1, 記号 l(D), p.3]

曲線 CC 上の因子 DD に対して

L(D)={f∈k(C)×∣div⁡(f)+D≥0}∪{0}\begin{aligned} L(D)&=\{f\in k(C)^\times \mid{}\\ &\quad\operatorname{div}(f)+D\geq0\}\cup\{0\} \end{aligned}

とおき、その kk ベクトル空間としての次元を ℓ(D)=dim⁡kL(D)\ell(D)=\dim_kL(D) と書く。

D=∑nPPD=\sum n_PP なら、条件 div⁡(f)+D≥0\operatorname{div}(f)+D\geq0 は、各点で次の不等式が成り立つことです。

ord⁡P(f)≥−nP\operatorname{ord}_P(f)\geq-n_Pord⁡P(f)≥−nP\begin{aligned}\operatorname{ord}_P(f) &\geq -n_P\end{aligned}

つまり nP>0n_P>0 の点では位数 nPn_P までの極を許し、nP<0n_P<0 の点では位数 −nP-n_P 以上の零点を要求します。DD に現れない点では、ff は極をもちません。

ハーツホーンは ℓ(D)\ell(D) を、第11回の可逆層 O(D)\mathcal{O}(D) の大域切断の次元 dim⁡kH0(C,O(D))\dim_kH^0(C,\mathcal{O}(D)) として定義しています。2つの空間は L(D)≅H0(C,O(D))L(D)\cong H^0(C,\mathcal{O}(D)) で同じものです(命題7.7 の証明の中で、この同一視を使っています)[2, 命題7.7, p.213]。第11回は O(D)\mathcal{O}(D) を P1\mathbb{P}^1 の上で定義しましたが(第11回の定義12)、k(t)k(t) を k(C)k(C) に替えた同じ式で、曲線 CC の上にも定まります。

命題2

DD を曲線 CC 上の因子とする。

(1) L(D)L(D) は k(C)k(C) の kk 部分空間である。
(2) D′=D+div⁡(h)D'=D+\operatorname{div}(h) なら、f↦fhf\mapsto fh は同型 L(D′)→L(D)L(D')\to L(D) を与える。とくに D∼D′D\sim D' なら ℓ(D)=ℓ(D′)\ell(D)=\ell(D')。
(3) L(0)=kL(0)=k、つまり ℓ(0)=1\ell(0)=1。
(4) deg⁡D<0\deg D<0 なら ℓ(D)=0\ell(D)=0。
(5) deg⁡D=0\deg D=0 なら、D∼0D\sim0 のとき ℓ(D)=1\ell(D)=1、そうでないとき ℓ(D)=0\ell(D)=0。

証明
  1. (1) f,g∈L(D)f,g\in L(D) なら、各点で ord⁡P(f+g)≥min⁡(ord⁡Pf,ord⁡Pg)≥−nP\operatorname{ord}_P(f+g)\geq\min(\operatorname{ord}_P f,\operatorname{ord}_P g)\geq-n_P。定数倍 c≠0c\neq0 では位数は変わらない。
  2. (2) div⁡(fh)+D=div⁡(f)+div⁡(h)+D=div⁡(f)+D′\operatorname{div}(fh)+D=\operatorname{div}(f)+\operatorname{div}(h)+D=\operatorname{div}(f)+D' なので、f∈L(D′)  ⟺  fh∈L(D)f\in L(D')\iff fh\in L(D)。逆写像は hh で割る写像である。
  3. (3) f∈L(0)f\in L(0) はどの点でも極をもたない、つまり CC 全体で正則な関数である。射影多様体の上の正則関数は定数だけなので、f∈kf\in k。

    ord⁡P(f)≥0\operatorname{ord}_P(f)\geq0 は、ff が局所環 OP\mathcal{O}_P に入ること、つまり PP で正則であることと同値である。すべての点で正則な有理関数は、CC 上の正則関数 O(C)\mathcal{O}(C) の元である。

    射影多様体 YY では O(Y)=k\mathcal{O}(Y)=k である[2, 定理3.4(a), p.24]。P1\mathbb{P}^1 については第4回の定理14で直接示した。

  4. (4) 0≠f∈L(D)0\neq f\in L(D) があれば、E=div⁡(f)+DE=\operatorname{div}(f)+D は有効なので deg⁡E≥0\deg E\geq0。ところが deg⁡E=deg⁡div⁡(f)+deg⁡D=deg⁡D<0\deg E=\deg\operatorname{div}(f)+\deg D=\deg D<0 となり、矛盾する。
  5. (5) 0≠f∈L(D)0\neq f\in L(D) なら、E=div⁡(f)+DE=\operatorname{div}(f)+D は次数0の有効因子なので E=0E=0、つまり D=div⁡(1/f)∼0D=\operatorname{div}(1/f)\sim0。逆に D∼0D\sim0 なら、(2)(3) から ℓ(D)=ℓ(0)=1\ell(D)=\ell(0)=1。

(4)(5) は、ハーツホーンの補題1.2 と同じ内容です[1, 補題1.2, p.3]。

(2) の同型は、極の場所を「付け替える」写像です。hh を掛けると、D′D' が許す極が DD が許す極に移ります。

次の命題によると、因子に点を1つ足しても ℓ\ell は高々1しか増えません。リーマン・ロッホの定理の証明も、この「1点ずつ足す」形で進みます。

命題3 1点足すと高々1増える

DD を因子、PP を点とする。L(D)⊆L(D+P)L(D)\subseteq L(D+P) で、

ℓ(D)≤ℓ(D+P)≤ℓ(D)+1\ell(D)\leq\ell(D+P)\leq\ell(D)+1ℓ(D)≤ℓ(D+P)≤ℓ(D)+1\begin{aligned}\ell(D) &\leq \ell(D+P)\\&\leq \ell(D)+1\end{aligned}

が成り立つ。とくに deg⁡D≥0\deg D\geq0 なら ℓ(D)≤deg⁡D+1\ell(D)\leq\deg D+1 で、ℓ(D)\ell(D) はいつも有限である。

証明
  1. DD の PP での係数を nn、tt を PP での局所パラメータ(ord⁡P(t)=1\operatorname{ord}_P(t)=1)とする。f∈L(D+P)f\in L(D+P) なら ord⁡P(tn+1f)≥0\operatorname{ord}_P(t^{n+1}f)\geq0 なので、値 (tn+1f)(P)∈k(t^{n+1}f)(P)\in k が決まる。
  2. 線形写像 λ ⁣:L(D+P)→k\lambda\colon L(D+P)\to k、f↦(tn+1f)(P)f\mapsto(t^{n+1}f)(P) の核は L(D)L(D) である。よって ℓ(D+P)−ℓ(D)=dim⁡Im⁡λ≤1\ell(D+P)-\ell(D)=\dim\operatorname{Im}\lambda\leq1。

    (tn+1f)(P)=0  ⟺  ord⁡P(tn+1f)≥1  ⟺  ord⁡P(f)≥−n(t^{n+1}f)(P)=0\iff\operatorname{ord}_P(t^{n+1}f)\geq1\iff\operatorname{ord}_P(f)\geq-n。PP 以外の点での条件は DD と D+PD+P で同じなので、核はちょうど L(D)L(D) である。剰余体が kk なのは、kk が代数閉体で PP が閉点だから。

  3. deg⁡D=d≥0\deg D=d\geq0 なら、1点 PP を選んで ℓ(D)≤ℓ(D−(d+1)P)+(d+1)\ell(D)\leq\ell(D-(d+1)P)+(d+1)。D−(d+1)PD-(d+1)P の次数は −1-1 なので、命題2(4) から右辺は d+1d+1。

ハーツホーンは ℓ(D)\ell(D) の有限性を、射影的なスキームの上の連接層の大域切断が有限次元であることから導いています[1, p.3]。曲線の上なら、上のように数えるだけで済みます。

射影直線で数える

P1\mathbb{P}^1 の座標を第4回の例10のとおり tt と s=1/ts=1/t とし、点 t=at=a(a∈ka\in k)を PaP_a、s=0s=0 を ∞\infty と書きます。kk が代数閉体なので、点はこれで全部です。

命題4 P1\mathbb{P}^1 の L(D)L(D)

(1) n≥0n\geq0 なら、L(n∞)L(n\infty) は tt の nn 次以下の多項式の全体で、ℓ(n∞)=n+1\ell(n\infty)=n+1。n<0n<0 なら ℓ(n∞)=0\ell(n\infty)=0。
(2) P1\mathbb{P}^1 上のどの因子も D∼(deg⁡D)∞D\sim(\deg D)\infty をみたす。よって ℓ(D)=max⁡(0, deg⁡D+1)\ell(D)=\max(0,\ \deg D+1)。

証明
  1. (1) f∈L(n∞)f\in L(n\infty) は A1=Spec⁡k[t]\mathbb{A}^1=\operatorname{Spec}k[t] の点で極をもたないので、多項式である。

    f=p/qf=p/q(p,q∈k[t]p,q\in k[t] は互いに素、qq はモニック)と書く。qq が定数でなければ、kk が代数閉体なので q(a)=0q(a)=0 となる aa があり、p(a)≠0p(a)\neq0 だから ord⁡Pa(f)<0\operatorname{ord}_{P_a}(f)<0 となる。

  2. 次数 mm の多項式は ord⁡∞(p)=−m\operatorname{ord}_\infty(p)=-m をみたす。よって条件 ord⁡∞(p)≥−n\operatorname{ord}_\infty(p)\geq-n は m≤nm\leq n と同じ。

    p=cmtm+⋯+c0p=c_mt^m+\dots+c_0(cm≠0c_m\neq0)を ss で書くと p=s−m(cm+cm−1s+⋯+c0sm)p=s^{-m}(c_m+c_{m-1}s+\dots+c_0s^m) で、括弧の中は s=0s=0 で値 cm≠0c_m\neq0 をとる単元である(第4回の例16)。

  3. (2) Pa−∞=div⁡(t−a)P_a-\infty=\operatorname{div}(t-a) なので Pa∼∞P_a\sim\infty。各点を ∞\infty に置き換えると D∼(deg⁡D)∞D\sim(\deg D)\infty で、命題2(2) と (1) から従う。

多項式 1,t,…,tn1,t,\dots,t^n は ∞\infty での極の位数が 0,1,…,n0,1,\dots,n で、1つずつそろっています。これが後で楕円曲線と比べるときの基準になります。

例5 P1\mathbb{P}^1 の L(D)L(D) を書き出す

(1) D=P0+P1−∞D=P_0+P_1-\infty(次数1):L(D)L(D) は 1t(t−1), 1t−1\dfrac{1}{t(t-1)},\ \dfrac{1}{t-1} で張られ、ℓ(D)=2\ell(D)=2。
(2) D=2P0−∞D=2P_0-\infty(次数1):L(D)L(D) は 1t, 1t2\dfrac1t,\ \dfrac1{t^2} で張られ、ℓ(D)=2\ell(D)=2。定数 11 は ∞\infty で零点をもたないので入らない。
(3) D=2∞−P0−P1D=2\infty-P_0-P_1(次数0):L(D)=k⋅t(t−1)L(D)=k\cdot t(t-1)、ℓ(D)=1\ell(D)=1。実際 D=div⁡(1/(t(t−1)))∼0D=\operatorname{div}\bigl(1/(t(t-1))\bigr)\sim0。
(4) D=P0−P1−∞D=P_0-P_1-\infty(次数 −1-1):ℓ(D)=0\ell(D)=0。

証明
  1. (1) ff の極は P0,P1P_0,P_1 の1位までなので f=p(t)/(t(t−1))f=p(t)/(t(t-1)) と書ける。ord⁡∞f=2−deg⁡p≥1\operatorname{ord}_\infty f=2-\deg p\geq1 から deg⁡p≤1\deg p\leq1。
  2. (2) 同じく f=p(t)/t2f=p(t)/t^2 で、ord⁡∞f=2−deg⁡p≥1\operatorname{ord}_\infty f=2-\deg p\geq1 から deg⁡p≤1\deg p\leq1。
  3. (3) ff は2次以下の多項式で、t=0t=0 と t=1t=1 で消えるので c t(t−1)c\,t(t-1)。(4) は命題2(4)。

(1) は 命題2(2) の付け替えでも求まります。div⁡(1/(t(t−1)))=2∞−P0−P1\operatorname{div}\bigl(1/(t(t-1))\bigr)=2\infty-P_0-P_1 なので、∞=D+div⁡(h)\infty=D+\operatorname{div}(h)、h=1/(t(t−1))h=1/(t(t-1)) です。同型 L(∞)→L(D)L(\infty)\to L(D) は hh を掛ける写像です。

L(∞)=⟨1, t⟩ → ×1t(t−1)  L(D)=⟨1t(t−1), 1t−1⟩L(\infty)=\langle1,\ t\rangle\ \xrightarrow{\ \times\frac{1}{t(t-1)}\ }\ L(D)=\Bigl\langle\frac{1}{t(t-1)},\ \frac{1}{t-1}\Bigr\rangleL(∞)=⟨1, t⟩ → ×1t(t−1)  L(D)=⟨1t(t−1), 1t−1⟩\begin{aligned}L(\infty) &= \langle1,\ t\rangle\ \xrightarrow{\ \times\frac{1}{t(t-1)}\ }\ L(D)\\&= \Bigl\langle\frac{1}{t(t-1)},\ \frac{1}{t-1}\Bigr\rangle\end{aligned}

第14回の H0(P1,O(n))H^0(\mathbb{P}^1,\mathcal{O}(n)) とも比べておきます。∞\infty は斉次座標で x0=0x_0=0 の点で、t=x1/x0t=x_1/x_0 です。nn 次斉次式 FF を x0nx_0^n で割ると、nn 次以下の多項式になります。

H0(P1,O(n)) → ∼  L(n∞)F(x0,x1)⟼F(x0,x1)x0n=F(1,t)H^0(\mathbb{P}^1,\mathcal{O}(n))\ \xrightarrow{\ \sim\ }\ L(n\infty)\qquad F(x_0,x_1)\longmapsto\frac{F(x_0,x_1)}{x_0^n}=F(1,t)H0(P1,O(n)) → ∼  L(n∞)F(x0,x1)⟼F(x0,x1)x0n=F(1,t)\begin{gathered}H^0(\mathbb{P}^1,\mathcal{O}(n))\ \xrightarrow{\ \sim\ }\ L(n\infty)\\F(x_0,x_1)\longmapsto\frac{F(x_0,x_1)}{x_0^n}=F(1,t)\end{gathered}H0(P1,O(n)) → ∼  L(n∞)F(x0,x1)⟼F(x0,x1)x0n=F(1,t)\begin{aligned}&H^0(\mathbb{P}^1,\mathcal{O}(n))\ \xrightarrow{\ \sim\ }\ L(n\infty)\\[4pt]F(x_0,x_1)\longmapsto\frac{F(x_0,x_1)}{x_0^n} &= F(1,t)\end{aligned}

例えば n=2n=2 では、x02, x0x1, x12x_0^2,\ x_0x_1,\ x_1^2 が 1, t, t21,\ t,\ t^2 に移ります。第14回の h0(O(n))=n+1h^0(\mathcal{O}(n))=n+1 は、命題4の ℓ(n∞)=n+1\ell(n\infty)=n+1 と同じ数です。

種数とリーマン・ロッホの定理

第13回の定義8では、0でない有理微分形式 ω\omega の因子 div⁡(ω)\operatorname{div}(\omega) を標準因子 KK と呼びました。ω\omega を取り替えても KK は線形同値の範囲でしか変わらないので、ℓ(K)\ell(K) は ω\omega の選び方によりません。

f∈L(K)f\in L(K) は、div⁡(fω)=div⁡(f)+K≥0\operatorname{div}(f\omega)=\operatorname{div}(f)+K\geq0、つまり微分形式 fωf\omega がどこでも正則であることと同値です。したがって L(K)L(K) は、CC 上の正則な微分形式の空間と同じものです。

定義6 種数 [1, 命題1.1, p.2]

曲線 CC の種数を g=ℓ(K)g=\ell(K)(正則な微分形式の空間の次元)と定める。

ハーツホーンはこの数を幾何種数 pgp_g と呼び、算術種数 pap_a や dim⁡H1(C,OC)\dim H^1(C,\mathcal{O}_C) と等しいことを示しています[1, 命題1.1, p.2]。第13回の定理11と第13回の定理13から、2つの例の種数がすぐ求まります。

P1: K=div⁡(dt)=−2∞,  g=ℓ(−2∞)=0;E: K=div⁡(dx2y)=0,  g=ℓ(0)=1\mathbb{P}^1:\ K=\operatorname{div}(dt)=-2\infty,\ \ g=\ell(-2\infty)=0;\qquad E:\ K=\operatorname{div}\Bigl(\frac{dx}{2y}\Bigr)=0,\ \ g=\ell(0)=1P1: K=div⁡(dt)=−2∞,  g=ℓ(−2∞)=0;E: K=div⁡(dx2y)=0,  g=ℓ(0)=1\begin{gathered}\mathbb{P}^1:\ K=\operatorname{div}(dt)=-2\infty,\ \ g=\ell(-2\infty)=0;\\E:\ K=\operatorname{div}\Bigl(\frac{dx}{2y}\Bigr)=0,\ \ g=\ell(0)=1\end{gathered}P1: K=div⁡(dt)=−2∞,  g=ℓ(−2∞)=0;E: K=div⁡(dx2y)=0,  g=ℓ(0)=1\begin{aligned}\mathbb{P}^1:\ K &= \operatorname{div}(dt)\\&= -2\infty,\ \ g\\&= \ell(-2\infty)\\&= 0;\\[4pt]E:\ K &= \operatorname{div}\Bigl(\frac{dx}{2y}\Bigr)\\&= 0,\ \ g\\&= \ell(0)\\&= 1\end{aligned}

定理7 リーマン・ロッホ [1, 定理1.3, p.4]

CC を種数 gg の曲線、KK を標準因子とする。CC 上のすべての因子 DD について

ℓ(D)−ℓ(K−D)=deg⁡D+1−g\begin{aligned} &\ell(D)-\ell(K-D)\\ &=\deg D+1-g \end{aligned}

が成り立つ。

証明はハーツホーン(p.4–5)に任せ、ここでは2段階の流れだけを述べます。1段階めはセール双対性で、第14回の H1H^1 の次元が L(K−D)L(K-D) の次元に等しいことです。

h1(C,O(D))=ℓ(K−D)h^1(C,\mathcal{O}(D))=\ell(K-D)h1(C,O(D))=ℓ(K−D)\begin{aligned}h^1(C,\mathcal{O}(D)) &= \ell(K-D)\end{aligned}

2段階めは、h0−h1h^0-h^1 が次数と種数だけで決まることです。

h0(C,O(D))−h1(C,O(D))=deg⁡D+1−g\begin{aligned} &h^0(C,\mathcal{O}(D))-h^1(C,\mathcal{O}(D))\\ &=\deg D+1-g \end{aligned}

h0(O(D))=ℓ(D)h^0(\mathcal{O}(D))=\ell(D) なので、2つを合わせると定理になります。P1\mathbb{P}^1 で第14回が計算した h0−h1=n+1h^0-h^1=n+1 は、2段階めの式で D=n∞D=n\infty、g=0g=0 とした場合です。

専門的な話2段階めの証明:1点ずつ足す

χ(D)=h0(O(D))−h1(O(D))\chi(D)=h^0(\mathcal{O}(D))-h^1(\mathcal{O}(D)) とおきます。D=0D=0 では h0(OC)=1h^0(\mathcal{O}_C)=1(命題2(3))と h1(OC)=gh^1(\mathcal{O}_C)=g(命題1.1)から、χ(0)=1−g\chi(0)=1-g です。

点 PP について、層の完全列 0→O(D)→O(D+P)→k(P)→00\to\mathcal{O}(D)\to\mathcal{O}(D+P)\to k(P)\to0 があります。k(P)k(P) は点 PP にだけ kk を置いた層です。コホモロジーの長完全列から χ(D+P)=χ(D)+1\chi(D+P)=\chi(D)+1 となり、0から1点ずつ足し引きすれば、すべての DD で χ(D)=deg⁡D+1−g\chi(D)=\deg D+1-g が分かります[1, 定理1.3 の証明, p.4–5]。

命題3の写像 λ ⁣:L(D+P)→k\lambda\colon L(D+P)\to k は、この完全列から決まる H0H^0 の写像です。λ\lambda が全射なら h1h^1 は変わらず、全射でない(λ=0\lambda=0 の)ときは h1(O(D+P))=h1(O(D))−1h^1(\mathcal{O}(D+P))=h^1(\mathcal{O}(D))-1 になります。

定理からすぐ分かることを並べます。(1)(3) は、ハーツホーンが定理の直後に例として挙げています。

系8 [1, 例1.3.3, 例1.3.4, p.6]

種数 gg の曲線 CC と因子 DD について、

(1) deg⁡K=2g−2\deg K=2g-2。
(2) ℓ(D)≥deg⁡D+1−g\ell(D)\geq\deg D+1-g。
(3) deg⁡D>2g−2\deg D>2g-2 なら ℓ(K−D)=0\ell(K-D)=0 で、ℓ(D)=deg⁡D+1−g\ell(D)=\deg D+1-g。

証明
  1. (1) 定理で D=KD=K とすると ℓ(K)−ℓ(0)=deg⁡K+1−g\ell(K)-\ell(0)=\deg K+1-g。左辺は g−1g-1 なので deg⁡K=2g−2\deg K=2g-2。
  2. (2) ℓ(K−D)≥0\ell(K-D)\geq0 を定理に入れる。
  3. (3) deg⁡(K−D)=2g−2−deg⁡D<0\deg(K-D)=2g-2-\deg D<0 なので、命題2(4) から ℓ(K−D)=0\ell(K-D)=0。

(1) を第13回の計算と照らし合わせると、P1\mathbb{P}^1 は deg⁡K=−2=2⋅0−2\deg K=-2=2\cdot0-2、楕円曲線は deg⁡K=0=2⋅1−2\deg K=0=2\cdot1-2 で、どちらも合っています。

(3) により、次数が 2g−22g-2 より大きい因子では、ℓ(D)\ell(D) は DD の場所によらず次数だけで決まります。決まらないのは 0≤deg⁡D≤2g−20\leq\deg D\leq2g-2 の範囲だけで、この範囲の DD では ℓ(K−D)\ell(K-D) が0でないことがあります。

系9 1点足したときの動き

因子 DD と点 PP について、「ℓ(D+P)=ℓ(D)+1\ell(D+P)=\ell(D)+1」と「ℓ(K−D−P)=ℓ(K−D)−1\ell(K-D-P)=\ell(K-D)-1」のちょうど一方が成り立つ。

証明
  1. 定理を D+PD+P と DD に使って引くと、(ℓ(D+P)−ℓ(D))+(ℓ(K−D)−ℓ(K−D−P))=1(\ell(D+P)-\ell(D))+(\ell(K-D)-\ell(K-D-P))=1。
  2. 命題3から、2つの括弧はそれぞれ0か1である。和が1なので、ちょうど一方が1になる。

点を1つ足すたびに、「新しい関数が1つ増える」か「K−DK-D の側の関数が1つ減る」かのどちらかが起こるわけです。どちらが起こるかは DD と PP によりますが、合計はいつも1です。

射影直線で確かめる

P1\mathbb{P}^1 では g=0g=0、K=−2∞K=-2\infty です。命題4(2) からどの因子も n∞n\infty と線形同値なので、D=n∞D=n\infty で確かめれば十分です。K−D=(−2−n)∞K-D=(-2-n)\infty なので、両辺は次のとおりです。

ℓ(n∞)−ℓ((−2−n)∞)=max⁡(0, n+1)−max⁡(0, −n−1)=n+1\begin{aligned} &\ell(n\infty)-\ell\bigl((-2-n)\infty\bigr)\\ &=\max(0,\,n+1)-\max(0,\,-n-1)\\ &=n+1 \end{aligned}
nnℓ(n∞)\ell(n\infty)K−DK-Dℓ(K−D)\ell(K-D)差deg⁡D+1−g\deg D+1-g
3344(1,t,t2,t31,t,t^2,t^3)−5∞-5\infty004444
1122(1,t1,t)−3∞-3\infty002222
0011(11)−2∞-2\infty001111
−1-100−∞-\infty000000
−2-2000011(11)−1-1−1-1
−4-4002∞2\infty33(1,t,t21,t,t^2)−3-3−3-3

n=−1n=-1 の行では、両方とも0です。n≥−1n\geq-1 では ℓ(K−D)\ell(K-D) が0、n≤−1n\leq-1 では ℓ(D)\ell(D) が0で、2つの折れ線の差が1本の直線 n+1n+1 になっています。

ℓ(K−D)\ell(K-D) の列は、第14回の h1(O(n))h^1(\mathcal{O}(n)) の値(n≤−2n\leq-2 で −n−1-n-1)と一致しています。セール双対性 h1(O(n))=ℓ((−2−n)∞)h^1(\mathcal{O}(n))=\ell((-2-n)\infty) を、数で確かめたことになります。

楕円曲線で確かめる

第12回と同じく、kk を標数が2でも3でもない代数閉体とし、a,b∈ka,b\in k、4a3+27b2≠04a^3+27b^2\neq0 として、楕円曲線を次の形にとります(第12回の定義1)。

E ⁣: y2=x3+ax+bO=[0:1:0]E\colon\ y^2=x^3+ax+b\qquad O=[0:1:0]E ⁣: y2=x3+ax+bO=[0:1:0]\begin{gathered}E\colon\ y^2=x^3+ax+b\\O=[0:1:0]\end{gathered}E ⁣: y2=x3+ax+bO=[0:1:0]\begin{aligned}E\colon\ y^2 &= x^3+ax+b\\[4pt]O &= [0:1:0]\end{aligned}

EE から OO を除いた部分はアフィン曲線で、その上の正則関数の環は A=k[x,y]/(y2−x3−ax−b)A=k[x,y]/(y^2-x^3-ax-b) です[2, 定理3.2(a), p.22]。y2y^2 を xx の式に置き換えられるので、AA の元は p(x)+q(x) yp(x)+q(x)\,y(p,q∈k[x]p,q\in k[x])の形にただ1通りに書けます(第12回の補題19)。

命題10 xx と yy の極

x,yx,y の極は OO だけにあり、ord⁡O(x)=−2\operatorname{ord}_O(x)=-2、ord⁡O(y)=−3\operatorname{ord}_O(y)=-3 である。したがって ord⁡O(xiyj)=−(2i+3j)\operatorname{ord}_O(x^iy^j)=-(2i+3j)。

証明
  1. x,y∈Ax,y\in A なので、OO 以外の点では正則である。
  2. OO のまわりで、斉次座標 [X:Y:Z][X:Y:Z] の u=X/Yu=X/Y、v=Z/Yv=Z/Y を使う。曲線の式は v=u3+auv2+bv3v=u^3+auv^2+bv^3 で、OO は (u,v)=(0,0)(u,v)=(0,0)。この式から vv は u3u^3 と単元の積になり、uu が局所パラメータ、ord⁡O(v)=3\operatorname{ord}_O(v)=3 となる。

    Y2Z=X3+aXZ2+bZ3Y^2Z=X^3+aXZ^2+bZ^3 を Y3Y^3 で割ると v=u3+auv2+bv3v=u^3+auv^2+bv^3。移項して v(1−auv−bv2)=u3v(1-auv-bv^2)=u^3。1−auv−bv21-auv-bv^2 は OO で値1をとるので単元で、v∈(u3)v\in(u^3)。極大イデアル (u,v)(u,v) は (u)(u) に等しく、uu が局所パラメータになる。

  3. x=X/Z=u/vx=X/Z=u/v、y=Y/Z=1/vy=Y/Z=1/v なので、ord⁡O(x)=1−3=−2\operatorname{ord}_O(x)=1-3=-2、ord⁡O(y)=−3\operatorname{ord}_O(y)=-3。

主因子の次数は0なので、極の位数は零点の個数(重複度つき)に等しくなります。k=Ck=\mathbb{C} として、第10回の例19の曲線 y2=x3−xy^2=x^3-x(a=−1, b=0a=-1,\ b=0)で数を入れます。

div⁡(x−2)=(2,6)+(2,−6)−2Odiv⁡(y)=(−1,0)+(0,0)+(1,0)−3O\operatorname{div}(x-2)=(2,\sqrt6)+(2,-\sqrt6)-2O\qquad \operatorname{div}(y)=(-1,0)+(0,0)+(1,0)-3Odiv⁡(x−2)=(2,6)+(2,−6)−2Odiv⁡(y)=(−1,0)+(0,0)+(1,0)−3O\begin{gathered}\operatorname{div}(x-2)=(2,\sqrt6)+(2,-\sqrt6)-2O\\\operatorname{div}(y)=(-1,0)+(0,0)+(1,0)-3O\end{gathered}div⁡(x−2)=(2,6)+(2,−6)−2Odiv⁡(y)=(−1,0)+(0,0)+(1,0)−3O\begin{aligned}\operatorname{div}(x-2) &= (2,\sqrt6)+(2,-\sqrt6)-2O\\[4pt]\operatorname{div}(y) &= (-1,0)+(0,0)+(1,0)-3O\end{aligned}div⁡(x−2)=(2,6)+(2,−6)−2Odiv⁡(y)=(−1,0)+(0,0)+(1,0)=−3O\begin{aligned}\operatorname{div}(x-2) &= (2,\sqrt6)+(2,-\sqrt6)-2O\\[4pt]\operatorname{div}(y) &= (-1,0)+(0,0)+(1,0)\\&\phantom{=}{} -3O\end{aligned}div⁡(x−2)=(2,6)=+(2,−6)−2Odiv⁡(y)=(−1,0)+(0,0)=+(1,0)−3O\begin{aligned}\operatorname{div}(x-2) &= (2,\sqrt6)\\&\phantom{=}{} +(2,-\sqrt6)-2O\\[4pt]\operatorname{div}(y) &= (-1,0)+(0,0)\\&\phantom{=}{} +(1,0)-3O\end{aligned}

x−2x-2 の零点は y2=8−2=6y^2=8-2=6 の2点、yy の零点は x3−x=0x^3-x=0 の3点です。どちらも OO の極の位数と同じ数だけあります。

(2,6)(2,\sqrt6)
(2,−6)(2,-\sqrt6)
x=2x=2
(−1,0)(-1,0)
(0,0)(0,0)
(1,0)(1,0)
y=0y=0
OO へ
OO へ
div⁡(x−2)=(2,6)+(2,−6)−2O\operatorname{div}(x-2)=(2,\sqrt6)+(2,-\sqrt6)-2O
div⁡(y)=(−1,0)+(0,0)+(1,0)−3O\operatorname{div}(y)=(-1,0)+(0,0)+(1,0)-3O
図1具体例楕円曲線 y2=x3−xy^2=x^3-x の実数の点(青)。縦の線 x=2x=2 とは2点(オレンジ)で、横の線 y=0y=0 とは3点(緑)で交わります。右の枝の両端は、無限遠点 OO に向かいます。x−2x-2 と yy の極は OO だけにあり、零点の個数から、極の位数はそれぞれ2と3と分かります。0<c<10<c<1 の線 x=cx=c のように実数の交点が見えない場合も、複素数では交点が2つあります。

極の位数が違う関数を組み合わせると、位数の小さいほうは打ち消せません。この性質を補題にしておきます。

補題11 極の位数が違えば1次独立

0でない有理関数 f1,…,frf_1,\dots,f_r の ord⁡P\operatorname{ord}_P がすべて異なれば、f1,…,frf_1,\dots,f_r は kk 上1次独立である。

証明
  1. ∑cifi\sum c_if_i(係数のどれかは0でない)で、ci≠0c_i\neq0 の項のうち ord⁡P\operatorname{ord}_P が最小のものを cjfjc_jf_j とする。ほかの項の位数はそれより大きいので、和の位数は ord⁡P(fj)\operatorname{ord}_P(f_j) に等しく、和は0でない。

命題12 楕円曲線の L(nO)L(nO)

n≥0n\geq0 について、L(nO)L(nO) は xiyjx^iy^j(j∈{0,1}j\in\{0,1\}、2i+3j≤n2i+3j\leq n)を基底にもつ。極の位数 2i+3j2i+3j は 0,2,3,4,5,…0,2,3,4,5,\dots を1回ずつとり、11 だけをとらない。したがって

ℓ(0)=1ℓ(nO)=n(n≥1)\ell(0)=1\qquad \ell(nO)=n\quad(n\geq1)ℓ(0)=1ℓ(nO)=n(n≥1)\begin{gathered}\ell(0)=1\\\ell(nO)=n\\(n\geq1)\end{gathered}ℓ(0)=1ℓ(nO)=n(n≥1)\begin{aligned}\ell(0) &= 1\\[4pt]\ell(nO) &= n\\[4pt]&(n\geq1)\end{aligned}
証明
  1. xiyjx^iy^j の極は OO だけで位数は 2i+3j≤n2i+3j\leq n なので、L(nO)L(nO) に入る。位数がすべて異なるので、補題11から1次独立である。
  2. 逆に f∈L(nO)f\in L(nO) は OO の外で正則なので f=p(x)+q(x)y∈Af=p(x)+q(x)y\in A。現れる単項式 xix^i、xiyx^iy の位数はすべて異なるので、ord⁡O(f)\operatorname{ord}_O(f) はその最小値で、−n-n 以上である。よって現れる単項式はすべて 2i+3j≤n2i+3j\leq n をみたす。
  3. 位数の数え上げ:2i2i(i≥0i\geq0)は偶数を、2i+32i+3(i≥0i\geq0)は3以上の奇数を1回ずつとる。とらないのは 11 だけなので、n≥1n\geq1 で基底の個数は 0,2,3,…,n0,2,3,\dots,n の nn 個。

書き出すと、nn を1つ増やすたびに、n=1n=1 のとき以外は基底が1つずつ増えていきます。

L(O)=⟨1⟩,L(2O)=⟨1,x⟩,L(3O)=⟨1,x,y⟩,L(4O)=⟨1,x,y,x2⟩,L(5O)=⟨1,x,y,x2,xy⟩,L(6O)=⟨1,x,y,x2,xy,x3⟩\begin{aligned} L(O)&=\langle1\rangle,{}\\ L(2O)&=\langle1,x\rangle,{}\\ L(3O)&=\langle1,x,y\rangle,{}\\ L(4O)&=\langle1,x,y,x^2\rangle,{}\\ L(5O)&=\langle1,x,y,x^2,xy\rangle,{}\\ L(6O)&=\langle1,x,y,x^2,xy,x^3\rangle\end{aligned}

P1\mathbb{P}^1 の L(m∞)L(m\infty) では、極の位数 m=0,1,2,…m=0,1,2,\dots のどれにも tmt^m がありました。楕円曲線では位数1の関数がありません。この抜けた番号をワイエルシュトラスの隙間と呼びます。

極の位数
P1\mathbb{P}^1 の L(m∞)L(m\infty)
ℓ(m∞)\ell(m\infty)
EE の L(mO)L(mO)
ℓ(mO)\ell(mO)
00
11
11
11
11
11
tt
22
なし
11
22
t2t^2
33
xx
22
33
t3t^3
44
yy
33
44
t4t^4
55
x2x^2
44
55
t5t^5
66
xyxy
55
66
t6t^6
77
x3x^3
66
77
t7t^7
88
x2yx^2y
77
y2=x3+ax+by^2=x^3+ax+b
図2具体例P1\mathbb{P}^1 の L(m∞)L(m\infty)(上)と楕円曲線の L(mO)L(mO)(下)の基底を、極の位数 mm の列に並べた図です。P1\mathbb{P}^1 ではどの列にも tmt^m があり、ℓ(m∞)=m+1\ell(m\infty)=m+1 です。楕円曲線では m=1m=1 の列が空き(オレンジの破線)、ℓ(mO)\ell(mO) は 1,1,2,3,…1,1,2,3,\dots と進みます。m=6m=6 の列には x3x^3 のほかに y2y^2 も来ますが、y2=x3+ax+by^2=x^3+ax+b なので新しい基底にはなりません。

これでリーマン・ロッホの定理を確かめられます。g=1g=1、K=0K=0 なので、示すべき式は ℓ(D)−ℓ(−D)=deg⁡D\ell(D)-\ell(-D)=\deg D です。

DDℓ(D)\ell(D)ℓ(K−D)=ℓ(−D)\ell(K-D)=\ell(-D)差deg⁡D+1−g\deg D+1-g
3O3O33(1,x,y1,x,y)003333
OO11(11)001111
0011110000
P−OP-O(P≠OP\neq O)00000000
−2O-2O0022(1,x1,x)−2-2−2-2

P−OP-O の行で ℓ(P−O)=0\ell(P-O)=0 となるのは、P≁OP\not\sim O だからです(命題2(5))。もし div⁡(f)=P−O\operatorname{div}(f)=P-O となる ff があれば、ff は L(O)L(O) に入る定数でない関数になり、ℓ(O)=1\ell(O)=1 に反します。同じ理由で ℓ(O−P)=0\ell(O-P)=0 です。

例13 7つの関数と方程式 [1, 命題4.6 の証明, p.37]

7つの関数 1,x,y,x2,xy,x3,y21,x,y,x^2,xy,x^3,y^2 はどれも L(6O)L(6O) に入るが、ℓ(6O)=6\ell(6O)=6 なので、1次の関係式がある。その関係式は、EE の方程式 y2−x3−ax−b=0y^2-x^3-ax-b=0 である。

極の位数は順に 0,2,3,4,5,6,60,2,3,4,5,6,6 で、位数6が x3x^3 と y2y^2 の2つ重なります。y2y^2 を除く6つは位数がすべて異なり1次独立なので(補題11)、関係式は定数倍を除いて1つに決まります。関係式で0でない係数をもつ項のうち、極の位数が最大の項が1つだけなら、和は0になれません(補題11の証明と同じ理由です)。位数が2つ重なるのは6だけなので、x3x^3 と y2y^2 は、どちらも0でない係数で関係式に現れます。

ハーツホーンはこの議論を逆向きに使っています。種数1の曲線と点 P0P_0 から始めて、x∈L(2P0)x\in L(2P_0)、y∈L(3P0)y\in L(3P_0) を選び、7つの関数の関係式としてワイエルシュトラスの方程式を作ります。リーマン・ロッホの定理が ℓ(6P0)=6\ell(6P_0)=6 を保証するので、関係式は必ずあります。

命題14 楕円曲線は射影直線ではない

EE は P1\mathbb{P}^1 と同型でない。

証明
  1. P1\mathbb{P}^1 では、どの点 PP でも ℓ(P)=2\ell(P)=2 である。例えば L(∞)=⟨1,t⟩L(\infty)=\langle1,t\rangle、L(Pa)=⟨1, 1/(t−a)⟩L(P_a)=\langle1,\ 1/(t-a)\rangle。
  2. 同型 φ ⁣:E→P1\varphi\colon E\to\mathbb{P}^1 があれば、関数の引き戻し f↦f∘φf\mapsto f\circ\varphi は位数を保つ(ord⁡P(f∘φ)=ord⁡φ(P)(f)\operatorname{ord}_P(f\circ\varphi)=\operatorname{ord}_{\varphi(P)}(f))。よって L(φ(O))≅L(O)L(\varphi(O))\cong L(O) で、ℓ(O)=2\ell(O)=2 となるが、命題12の ℓ(O)=1\ell(O)=1 に反する。

L(O)L(O) に定数でない関数 ff があれば、ff は OO だけに1位の極をもち、P1\mathbb{P}^1 への次数1の写像になります。楕円曲線にはそのような関数がありません。隙間 m=1m=1 は、楕円曲線が P1\mathbb{P}^1 と違うことを数で表しています。

例15 y2=x3−xy^2=x^3-x の上の L(D)L(D)

kk を標数が2でも3でもない代数閉体とし、E ⁣:y2=x3−xE\colon y^2=x^3-x、P=(0,0)P=(0,0)、Q=(1,0)Q=(1,0)、R=(−1,0)R=(-1,0) とする。

(1) div⁡(yx+1)=P+Q−R−O\operatorname{div}\Bigl(\dfrac{y}{x+1}\Bigr)=P+Q-R-O。よって P+Q−O∼RP+Q-O\sim R で、L(P+Q−O)=k⋅x+1yL(P+Q-O)=k\cdot\dfrac{x+1}{y}、ℓ(P+Q−O)=1\ell(P+Q-O)=1。
(2) div⁡(x)=2P−2O\operatorname{div}(x)=2P-2O。よって L(2P)=⟨1, 1x⟩L(2P)=\Bigl\langle1,\ \dfrac1x\Bigr\rangle、ℓ(2P)=2\ell(2P)=2。

証明
  1. (1) div⁡(y)=P+Q+R−3O\operatorname{div}(y)=P+Q+R-3O、div⁡(x+1)=2R−2O\operatorname{div}(x+1)=2R-2O から引き算する。

    yy の零点は x3−x=0x^3-x=0 の3点で、極は OO の3位なので、各零点は1位である。x+1x+1 の零点は x=−1x=-1 の点 RR だけで、極は OO の2位なので、RR で2位の零点をもつ。第10回の例19の表と同じ値である。

  2. h=(x+1)/yh=(x+1)/y について div⁡(h)+P+Q−O=R≥0\operatorname{div}(h)+P+Q-O=R\geq0 なので h∈L(P+Q−O)h\in L(P+Q-O)。次数1なので、系8(3) から ℓ=1+1−1=1\ell=1+1-1=1。
  3. (2) xx の零点は PP だけで、極は OO の2位なので div⁡(x)=2P−2O\operatorname{div}(x)=2P-2O。2O=2P+div⁡(1/x)2O=2P+\operatorname{div}(1/x) なので、命題2(2) の同型 L(2O)→L(2P)L(2O)\to L(2P) は 1/x1/x を掛ける写像で、⟨1,x⟩\langle1,x\rangle を ⟨1/x, 1⟩\langle1/x,\ 1\rangle に移す。

(1) の RR は、第12回の定義6の足し算でいう P+QP+Q です。PP と QQ を通る直線 y=0y=0 は3つめの点 RR で曲線と交わり、RR を xx 軸で折り返しても RR のままだからです。

次数1の因子 DD では ℓ(D)=1\ell(D)=1 なので、DD と線形同値な有効因子は、ただ1つの点です。とくに D=P+Q−OD=P+Q-O なら、その点が P+QP+Q になります。第12回の定理22の対応 P↦[P−O]P\mapsto[P-O] が全単射になるのは、このためです[1, 例1.3.7, p.6–7]。第12回で証明を省いた全射の部分も、ここから従います。次数0の因子 DD について ℓ(D+O)=1\ell(D+O)=1 なので、D+O∼PD+O\sim P となる点 PP があり、D∼P−OD\sim P-O です。

因子を点にして、平面に並べる

リーマン・ロッホの定理を、図で見える形にします。因子 DD ごとに、3つの数を座標とする点をとります。

D ⟼ (deg⁡D, ℓ(K−D), ℓ(D))D\ \longmapsto\ \bigl(\deg D,\ \ell(K-D),\ \ell(D)\bigr)

定理は、この点が平面 ℓ(D)=deg⁡D+ℓ(K−D)+1−g\ell(D)=\deg D+\ell(K-D)+1-g に乗るという主張です。平面は曲線の種数 gg だけで決まり、種数が1違うと、高さが1ずれた平行な平面になります。

ドラッグで回せます

P1\mathbb{P}^1 の因子 D=n∞D=n\infty(−4≤n≤4-4\leq n\leq4)を、点 (deg⁡D, ℓ(K−D), ℓ(D))(\deg D,\ \ell(K-D),\ \ell(D)) として青で描きました。K=−2∞K=-2\infty です。n≥−1n\geq-1 では ℓ(K−D)=0\ell(K-D)=0、n≤−1n\leq-1 では ℓ(D)=0\ell(D)=0 なので、点は床(ℓ(D)=0\ell(D)=0)と手前の壁(ℓ(K−D)=0\ell(K-D)=0)を折れ線で進みます。それでも全部の点が、1枚の平面 ℓ(D)=deg⁡D+ℓ(K−D)+1\ell(D)=\deg D+\ell(K-D)+1 に乗っています。

楕円曲線の因子 D=nOD=nO を緑で、D=P−OD=P-O(P≠OP\neq O)を紫で描きました。K=0K=0、g=1g=1 なので、点はすべて平面 ℓ(D)=deg⁡D+ℓ(K−D)\ell(D)=\deg D+\ell(K-D) に乗ります。D=0D=0 の点 (0,1,1)(0,1,1) だけは、床からも壁からも離れています。

2枚の平面は平行で、高さが 11 だけずれています。このずれが種数の差 1−01-0 です。「平面に沿って」の向きから見ると、各平面が1本の線に潰れ、P1\mathbb{P}^1 の点も楕円曲線の点もそれぞれ1本の直線に並びます。床の上の点(ℓ(D)=0\ell(D)=0)は、この向きでは曲線ごとに1か所に重なります。どの点も線から外れないことが、リーマン・ロッホの定理です。

図3具体例因子 DD を点 (deg⁡D, ℓ(K−D), ℓ(D))(\deg D,\ \ell(K-D),\ \ell(D)) として描いた図です。青は P1\mathbb{P}^1 の D=n∞D=n\infty、緑は楕円曲線の D=nOD=nO(−4≤n≤4-4\leq n\leq4)、紫は楕円曲線の D=P−OD=P-O です。n∞n\infty と nOnO の値は図2の基底を数えて、P−OP-O の値は命題2(5) から求めました。「正面」から見ると ℓ(D)\ell(D) と deg⁡D\deg D の折れ線が見えます。「平面に沿って」の向きから見ると、各曲線の点がそれぞれ1本の直線に重なり、点が平面に乗っていることが分かります。半透明の面は、平面のうち ℓ(D)≥0\ell(D)\geq0、ℓ(K−D)≥0\ell(K-D)\geq0 の部分です。

P1\mathbb{P}^1 の点は、床(ℓ(D)=0\ell(D)=0)と手前の壁(ℓ(K−D)=0\ell(K-D)=0)を折れ線で進み、角は n=−1n=-1 にあります。楕円曲線の点も同じように進みますが、n=0n=0 では D=0D=0 と D=P−OD=P-O の2つに分かれます。D=0D=0 の点 (0,1,1)(0,1,1) だけが、床からも壁からも離れています。

種数が2以上の曲線では、0≤deg⁡D≤2g−20\leq\deg D\leq2g-2 の範囲で、ℓ(D)\ell(D) が曲線と DD によって変わります。この範囲で分かることを命題にまとめます。

命題16 ℓ(D)\ell(D) のとりうる範囲 [1, 補題1.2, p.3; 1, 定理5.4, p.71]

種数 gg の曲線上の次数 dd の因子 DD について、

(1) d<0d<0 なら ℓ(D)=0\ell(D)=0。d>2g−2d>2g-2 なら ℓ(D)=d+1−g\ell(D)=d+1-g。
(2) 0≤d≤2g−20\leq d\leq2g-2 なら max⁡(0, d+1−g)≤ℓ(D)≤⌊d/2⌋+1\max(0,\ d+1-g)\leq\ell(D)\leq\lfloor d/2\rfloor+1。
(3) d=0d=0 なら ℓ(D)∈{0,1}\ell(D)\in\{0,1\} で、11 になるのは D∼0D\sim0 のとき。g≥1g\geq1、d=2g−2d=2g-2 なら ℓ(D)∈{g−1, g}\ell(D)\in\{g-1,\ g\} で、gg になるのは D∼KD\sim K のとき。

証明
  1. (1) は命題2(4) と系8(3)。(2) の下限は系8(2)。
  2. (2) の上限は、ℓ(D)>0\ell(D)>0 かつ ℓ(K−D)>0\ell(K-D)>0 の場合にクリフォードの定理 ℓ(D)−1≤d/2\ell(D)-1\leq d/2 を使う。それ以外の場合は直接確かめられる。

    クリフォードの定理は、有効で ℓ(K−D)>0\ell(K-D)>0 をみたす因子について ℓ(D)−1≤deg⁡D/2\ell(D)-1\leq\deg D/2 を主張する(ハーツホーンは dim⁡∣D∣=ℓ(D)−1\dim|D|=\ell(D)-1 と書いている)[1, 定理5.4, p.71]。ℓ(D)>0\ell(D)>0 なら DD は有効因子 div⁡(f)+D\operatorname{div}(f)+D と線形同値なので、そちらに使えばよい。

    ℓ(D)=0\ell(D)=0 なら上限は明らか。ℓ(K−D)=0\ell(K-D)=0 なら ℓ(D)=d+1−g\ell(D)=d+1-g で、d≤2g−2d\leq2g-2 から d+1−g≤d/2+1d+1-g\leq d/2+1。

  3. (3) d=0d=0 は命題2(5)。d=2g−2d=2g-2 では deg⁡(K−D)=0\deg(K-D)=0 なので ℓ(K−D)∈{0,1}\ell(K-D)\in\{0,1\} で、定理から ℓ(D)=g−1+ℓ(K−D)\ell(D)=g-1+\ell(K-D)。

g=0g=0 では範囲 (2) がなく、ℓ(D)\ell(D) はすべて次数で決まります。g=1g=1 では範囲は d=0d=0 だけで、そこは (3) のとおり D∼0D\sim0 かどうかで決まります。図3の楕円曲線の n=0n=0 で点が2つに分かれたのは、この場合です。

g=0g=0
00
66
g=1g=1
00
66
g=2g=2
00
22
66
g=3g=3
00
44
66
横:deg⁡D\deg D(−2-2 から 66) 縦:ℓ(D)\ell(D) 灰色の破線:ℓ=deg⁡D+1−g\ell=\deg D+1-g
青:値が次数で決まる 紫:曲線と DD によって変わる範囲
図4概念図種数 g=0,1,2,3g=0,1,2,3 の曲線について、横に deg⁡D\deg D、縦に ℓ(D)\ell(D) をとり、命題16で分かることを描いた図です。青の点は値が次数だけで決まるところ、紫の縦棒は値が曲線と DD によるところで、棒の下端と上端は (2) の下限と上限です。棒の中のどの値が実際に起こるかは、ここでは主張していません。灰色の破線は deg⁡D+1−g\deg D+1-g で、紫の範囲の右では青の点がこの線に乗ります。

クリフォードの不等式 ℓ(D)−1≤d/2\ell(D)-1\leq d/2 は、D∼0D\sim0 や D∼KD\sim K のときはどの曲線でも等号になります。それ以外の因子で等号になるのは、超楕円曲線(P1\mathbb{P}^1 への次数2の写像をもつ曲線)の特別な因子だけです。等号の条件まで含めた正確な主張は、ハーツホーンの定理5.4 にあります。

種数0と種数1の曲線

リーマン・ロッホの定理を使うと、種数が小さい曲線を決められます。証明はハーツホーンに任せ、定理をどこで使うかを書きます。

命題17 種数0の曲線 [1, 例1.3.5, p.6; 2, 例6.10.1, p.189]

種数0の曲線は P1\mathbb{P}^1 と同型である。

証明
  1. 異なる2点 P,QP,Q をとり、D=P−QD=P-Q とする。deg⁡(K−D)=−2<0\deg(K-D)=-2<0 なので ℓ(K−D)=0\ell(K-D)=0 で、定理から ℓ(D)=0+1−0=1\ell(D)=0+1-0=1。
  2. 命題2(5) から P∼QP\sim Q で、div⁡(f)=P−Q\operatorname{div}(f)=P-Q となる ff がある。ff が定める射 C→P1C\to\mathbb{P}^1 は次数1で、同型になる。

    ff の極は QQ の1位だけなので、射 C→P1C\to\mathbb{P}^1 の ∞\infty の逆像は1点 QQ で、射の次数は1である。次数1の射は双有理で、非特異射影曲線の間の双有理な射は同型である。この部分はハーツホーン 例6.10.1 の議論による。

次の命題の (2) の写像は、点 P≠P0P\neq P_0 を [x(P):y(P):1][x(P):y(P):1] に送ります。[x:y:1]=[x/y:1:1/y][x:y:1]=[x/y:1:1/y] と書き直すと、x/yx/y と 1/y1/y は P0P_0 で0になるので、P0P_0 は [0:1:0][0:1:0] に送られます。

命題18 種数1の曲線 [1, 例3.3.3, p.23; 1, 命題4.6 の証明, p.37]

CC を種数1の曲線、P0∈CP_0\in C とする。

(1) n≥1n\geq1 なら ℓ(nP0)=n\ell(nP_0)=n。とくに、P0P_0 だけに極をもち位数が2の関数 xx、位数が3の関数 yy がある。
(2) P↦[x(P):y(P):1]P\mapsto[x(P):y(P):1] は CC を P2\mathbb{P}^2 の3次曲線に埋め込む。その方程式は、a1,…,a6∈ka_1,\dots,a_6\in k を使って y2+a1xy+a3y=x3+a2x2+a4x+a6y^2+a_1xy+a_3y=x^3+a_2x^2+a_4x+a_6 と書ける。

証明
  1. (1) deg⁡K=0\deg K=0 なので n≥1n\geq1 で deg⁡(nP0)>2g−2\deg(nP_0)>2g-2、系8(3) から ℓ(nP0)=n\ell(nP_0)=n。L(2P0)⊋L(P0)L(2P_0)\supsetneq L(P_0) から xx が、L(3P0)⊋L(2P0)L(3P_0)\supsetneq L(2P_0) から yy がとれる。
  2. (2) の方程式は、例13と同じく7つの関数の関係式で、x3x^3 と y2y^2 の係数は0でない(定数倍で1にそろえる)。埋め込みであることは、次数3の因子が非常に豊富であることによる(ハーツホーン 例3.3.3)。

標数が2でも3でもなければ、yy を y+(a1x+a3)/2y+(a_1x+a_3)/2 に、続いて xx を x+cx+c(cc は定数)に取り替えて、第12回の形 y2=x3+ax+by^2=x^3+ax+b にできます。つまり、種数1の曲線はどれも、この記事で扱った形の楕円曲線と同型です。

さらに、種数1の曲線の点と Pic⁡0\operatorname{Pic}^0 の元は P↦[P−P0]P\mapsto[P-P_0] で1対1に対応します。例15の後で見たとおり、ここでも、次数1の因子で ℓ=1\ell=1 となることを使います[1, 例1.3.7, p.6–7]。

まとめ:2つの曲線の表

P1\mathbb{P}^1楕円曲線 EE種数 gg の曲線
標準因子 KK−2∞-2\infty00deg⁡K=2g−2\deg K=2g-2
種数 ℓ(K)\ell(K)0011gg
1点 PP の L(nP)L(nP) の基底1,t,t2,…1,t,t^2,\dots1,x,y,x2,xy,…1,x,y,x^2,xy,\dots(P=OP=O)曲線と点による
極の位数の隙間なし11(g≥1g\geq1 なら必ずある)
ℓ(D)\ell(D)(deg⁡D=d≥0\deg D=d\geq0)d+1d+1dd(d≥1d\geq1)、d=0d=0 は D∼0D\sim0 なら1、そうでなければ0d>2g−2d>2g-2 なら d+1−gd+1-g

L(D)L(D) は、因子が許す極の範囲に収まる関数の空間でした。その次元 ℓ(D)\ell(D) から ℓ(K−D)\ell(K-D) を引いた差は、次数と種数だけで決まります。これがリーマン・ロッホの定理です。

P1\mathbb{P}^1 と楕円曲線では、基底を書き出して両辺を数えられました。違いは極の位数1の関数があるかどうかで、その1つの隙間が、ℓ(O)=1\ell(O)=1、P1\mathbb{P}^1 と同型でないこと、ワイエルシュトラスの方程式につながりました。

表の「隙間」の行で g≥1g\geq1 なら必ず隙間があるとしたのは、次の理由です。ℓ(P)=2\ell(P)=2 となる点 PP があると、命題17の証明と同じく P1\mathbb{P}^1 への次数1の射ができ、曲線は P1\mathbb{P}^1 と同型になって g=0g=0 になってしまいます。

次回:種数を方程式から読む

この記事では、種数を g=ℓ(K)g=\ell(K) として定義し、P1\mathbb{P}^1 と楕円曲線の値 00 と 11 を求めました。しかし一般の曲線では、標準因子を求めるのも ℓ(K)\ell(K) を数えるのも手間がかかります。

次回は、種数を方程式から直接読む方法を扱います。非特異な dd 次の平面曲線の種数は (d−1)(d−2)/2(d-1)(d-2)/2 で、d=1,2d=1,2(直線と円錐曲線)なら0、d=3d=3 なら1です。この記事の種数0と種数1の命題と合っています。複素数で考えると、種数は曲面の穴の数になります。

参考文献

  1. R. ハーツホーン(高橋宣能・松下大介 訳), 『代数幾何学 3』, 丸善出版, 2012.
  2. R. ハーツホーン(高橋宣能・松下大介 訳), 『代数幾何学 1』, 丸善出版, 2013.