数学ビジュアライズ

代数幾何図で読む代数幾何第13回

曲線の上の dx:微分形式と標準因子

曲線の上の微分形式を計算規則だけで定義し、一意化元 t を使って h dt と書いて零点と極を数えます。射影直線の dt は無限遠で2位の極をもち(リーマン球面の矢印が2回まわる)、楕円曲線の dx/2y は零点も極もなく、平面4次曲線では標準因子が直線との交点になります。

目次
  1. 前回までの話
  2. 微分形式の定義
  3. 微分形式の位数と因子
  4. 射影直線の上の
  5. で見る:矢印が回る回数
  6. 楕円曲線の
  7. 平面4次曲線:標準因子は直線との交点
  8. 標準層と直線束
  9. まとめ:微分形式で曲線を見分ける
  10. 次回:層のコホモロジー
  11. 参考文献
この記事の要点
微分形式
曲線の関数体の元 f,gf,g から作る式 f dgf\,dg の和です。規則は d(f+g)=df+dgd(f+g)=df+dg、d(fg)=f dg+g dfd(fg)=f\,dg+g\,df、定数 cc について dc=0dc=0 の3つだけで、極限は使いません。
位数
点 PP の一意化元 tt を使うと、微分形式は ω=h dt\omega=h\,dt とただ1通りに書けます。ord⁡P(ω)=ord⁡P(h)\operatorname{ord}_P(\omega)=\operatorname{ord}_P(h) と定め、これは tt の選び方によりません。
標準因子
ω\omega の零点と極を数えた因子 div⁡(ω)\operatorname{div}(\omega) です。2つの微分形式の比は有理関数なので、標準因子の線形同値類と次数は曲線だけで決まります。
例
射影直線では div⁡(dt)=−2∞\operatorname{div}(dt)=-2\infty で、次数は −2-2 です。楕円曲線の dx/2ydx/2y は零点も極ももたず、次数は 00 です。平面4次曲線では次数が 44 になります。
  • 証明は、ステップの流れだけを短く書いています。「詳しく」の付いた行をクリックすると、そのステップの詳しい説明が開きます。説明の中にも開ける行があります。
  • 定義・命題・定理には、記事全体で通し番号を振っています。
  • もう少し詳しくは補足、専門的な話は先の回につながる話題です。どちらも開かずに読み進められます。
  • 各ブロックの「AIに質問」を押すと、その部分の内容を入れた質問文で、お使いのAIを開けます。

前回までの話

第12回では、楕円曲線 y2=x3+ax+by^2=x^3+ax+b の点を足し算しました。その最後に、曲線の種数とリーマン・ロッホの定理に向かうと予告しました。この記事はその準備で、曲線の上の微分 dxdx を扱います。

使うのは第10回の言葉です。短く言い直しておきます。この記事では、kk は代数閉体、曲線は kk 上の非特異な射影曲線 CC とし、その関数体(有理関数の全体)を k(C)k(C) と書きます。

CC の点 PP での局所環 OP\mathcal{O}_P は離散付値環です。その極大イデアル MPM_P は1つの元 tt で生成され、この tt を PP での一意化元と呼びます(第10回の定義6。ハーツホーン和訳では局所パラメータ)。0でない有理関数 ff は、単元 u∈OPu\in\mathcal{O}_P と整数 nn を使って

f=tn u(u∈OP×, n∈Z)f=t^n\,u\qquad(u\in\mathcal{O}_P^\times,\ n\in\mathbb{Z})f=tn u(u∈OP×, n∈Z)\begin{gathered}f=t^n\,u\\(u\in\mathcal{O}_P^\times,\ n\in\mathbb{Z})\end{gathered}f=tn u(u∈OP×, n∈Z)\begin{aligned}f &= t^n\,u\\[4pt]&(u\in\mathcal{O}_P^\times,\ n\in\mathbb{Z})\end{aligned}

とただ1通りに書けます。この nn が位数 ord⁡P(f)\operatorname{ord}_P(f) です。n>0n>0 なら PP は nn 位の零点、n<0n<0 なら −n-n 位の極です。

位数を係数にして点を形式的に足したものが主因子です。0でない ff の零点と極は有限個で、主因子の次数は必ず0になります(第10回の定理17)[1, 系6.10, p.188]。

div⁡(f)=∑P∈Cord⁡P(f) Pdeg⁡div⁡(f)=0\operatorname{div}(f)=\sum_{P\in C}\operatorname{ord}_P(f)\,P\qquad \deg\operatorname{div}(f)=0div⁡(f)=∑P∈Cord⁡P(f) Pdeg⁡div⁡(f)=0\begin{gathered}\operatorname{div}(f)=\sum_{P\in C}\operatorname{ord}_P(f)\,P\\\deg\operatorname{div}(f)=0\end{gathered}div⁡(f)=∑P∈Cord⁡P(f) Pdeg⁡div⁡(f)=0\begin{aligned}\operatorname{div}(f) &= \sum_{P\in C}\operatorname{ord}_P(f)\,P\\[4pt]\deg\operatorname{div}(f) &= 0\end{aligned}

例えば第10回の例19では、y2=x3−xy^2=x^3-x の無限遠点を OO として次のように求めました。

div⁡(x)=2(0,0)−2Odiv⁡(y)=(0,0)+(1,0)+(−1,0)−3O\operatorname{div}(x)=2(0,0)-2O\qquad \operatorname{div}(y)=(0,0)+(1,0)+(-1,0)-3Odiv⁡(x)=2(0,0)−2Odiv⁡(y)=(0,0)+(1,0)+(−1,0)−3O\begin{gathered}\operatorname{div}(x)=2(0,0)-2O\\\operatorname{div}(y)=(0,0)+(1,0)+(-1,0)-3O\end{gathered}div⁡(x)=2(0,0)−2Odiv⁡(y)=(0,0)+(1,0)+(−1,0)−3O\begin{aligned}\operatorname{div}(x) &= 2(0,0)-2O\\[4pt]\operatorname{div}(y) &= (0,0)+(1,0)+(-1,0)-3O\end{aligned}div⁡(x)=2(0,0)−2Odiv⁡(y)=(0,0)+(1,0)+(−1,0)=−3O\begin{aligned}\operatorname{div}(x) &= 2(0,0)-2O\\[4pt]\operatorname{div}(y) &= (0,0)+(1,0)+(-1,0)\\&\phantom{=}{} -3O\end{aligned}div⁡(x)=2(0,0)−2Odiv⁡(y)=(0,0)+(1,0)=+(−1,0)−3O\begin{aligned}\operatorname{div}(x) &= 2(0,0)-2O\\[4pt]\operatorname{div}(y) &= (0,0)+(1,0)\\&\phantom{=}{} +(-1,0)-3O\end{aligned}

主因子はどれも次数0で、曲線ごとの違いは見えません。この記事では、関数 ff の代わりに微分形式 f dxf\,dx の零点と極を数えます。こちらの因子は曲線ごとに決まった線形同値類に入り、その次数は射影直線で −2-2、楕円曲線で 00、平面4次曲線で 44 と、曲線によって変わります。

微分形式の定義

微分は、極限を使わずに計算規則だけで定義します。第6回の形式的な偏微分(第6回の定義1)と同じ考え方です。

定義1 ケーラー微分 [1, §II.8 定義, p.234]

AA を kk 上の環(kk を含む環)とする。記号 dada(a∈Aa\in A)が生成する自由 AA 加群を、次の形の元で割った AA 加群を ΩA/k\Omega_{A/k} と書き、AA の kk 上の微分加群と呼ぶ。

d(a+b)−da−dbd(ab)−a db−b dadc(a,b∈A, c∈k)d(a+b)-da-db\qquad d(ab)-a\,db-b\,da\qquad dc\quad(a,b\in A,\ c\in k)d(a+b)−da−dbd(ab)−a db−b dadc(a,b∈A, c∈k)\begin{gathered}d(a+b)-da-db\\d(ab)-a\,db-b\,da\\dc\\(a,b\in A,\ c\in k)\end{gathered}

写像 d ⁣:A→ΩA/kd\colon A\to\Omega_{A/k}、a↦daa\mapsto da も微分と呼ぶ。

3つの関係式は、和の微分、積の微分(ライプニッツ則)、定数の微分が0、という規則です。規則から、べきと逆数の微分の公式が出てきます。

d(an)=n an−1 dad(1a)=−daa2d(a^n)=n\,a^{n-1}\,da\qquad d\Bigl(\frac1a\Bigr)=-\frac{da}{a^2}d(an)=n an−1 dad(1a)=−daa2\begin{gathered}d(a^n)=n\,a^{n-1}\,da\\d\Bigl(\frac1a\Bigr)=-\frac{da}{a^2}\end{gathered}d(an)=n an−1 dad(1a)=−daa2\begin{aligned}d(a^n) &= n\,a^{n-1}\,da\\[4pt]d\Bigl(\frac1a\Bigr) &= -\frac{da}{a^2}\end{aligned}

後の式は aa が単元のときの式で、0=d(1)=d(a⋅a−1)=a d(a−1)+a−1 da0=d(1)=d\bigl(a\cdot a^{-1}\bigr)=a\,d(a^{-1})+a^{-1}\,da を aa で割れば出ます。ハーツホーンは ΩA/k\Omega_{A/k} を普遍性で定義し、上の作り方をその存在の証明に使っています。

例2 多項式環と平面曲線 [1, 例8.2.1, p.235; 1, 命題8.4A, p.235]

(1) A=k[x]A=k[x] なら ΩA/k=A dx\Omega_{A/k}=A\,dx は dxdx を基底とする自由加群で、f∈k[x]f\in k[x] について df=f′(x) dxdf=f'(x)\,dx(f′f' は形式的な微分)。

(2) A=k[x,y]A=k[x,y] なら ΩA/k=A dx⊕A dy\Omega_{A/k}=A\,dx\oplus A\,dy で、dF=Fx dx+Fy dydF=F_x\,dx+F_y\,dy。

(3) F∈k[x,y]F\in k[x,y]、A=k[x,y]/(F)A=k[x,y]/(F) なら、ΩA/k\Omega_{A/k} は dx,dydx,dy で生成され、関係式は Fx dx+Fy dy=0F_x\,dx+F_y\,dy=0 だけである。

ΩA/k=(A dx⊕A dy)/(Fx dx+Fy dy)\begin{aligned} \Omega_{A/k}&=\bigl(A\,dx\oplus A\,dy\bigr)\\ &\quad\big/\bigl(F_x\,dx+F_y\,dy\bigr)\end{aligned}

例えば y2=x3+ax+by^2=x^3+ax+b の座標環では 2y dy=(3x2+a) dx2y\,dy=(3x^2+a)\,dx、x4+y4=1x^4+y^4=1 の座標環では 4x3 dx+4y3 dy=04x^3\,dx+4y^3\,dy=0 である。

証明
  1. (1) 積の規則を繰り返すと d(xn)=nxn−1dxd(x^n)=nx^{n-1}dx で、和の規則から df=f′(x) dxdf=f'(x)\,dx。よって dxdx が生成する。

    dxdx が自由な基底であることは、形式的な微分 f↦f′f\mapsto f' が dd の3つの規則をみたすことから分かる。g dx↦gg\,dx\mapsto g を送る写像 ΩA/k→A\Omega_{A/k}\to A が矛盾なく定まり、dxdx の行き先が 1≠01\neq0 だからである。

  2. (2) も同じで、FF の単項式ごとに積の規則を使うと dF=Fx dx+Fy dydF=F_x\,dx+F_y\,dy。
  3. (3) AA では F=0F=0 なので dF=0dF=0。これ以外の関係がないことは、ハーツホーンの命題8.4A(第二完全列)から従う。

(3) の関係式 Fx dx+Fy dy=0F_x\,dx+F_y\,dy=0 は、第6回の接線の式 Fx(p)(x−a)+Fy(p)(y−b)=0F_x(p)(x-a)+F_y(p)(y-b)=0 と同じ形です。微分 dx,dydx,dy は、点を動かしたときの x,yx,y の1次の変化を表しています。

曲線の上の微分形式は、関数体で考えます。

定義3 有理微分形式

曲線 CC の関数体 k(C)k(C) について、Ωk(C)/k\Omega_{k(C)/k} の元を CC の有理微分形式(または単に微分形式)と呼ぶ。有理関数 fi,gif_i,g_i を使って ∑ifi dgi\sum_if_i\,dg_i と書ける元である。

この記事の計算は、すべて次の命題をもとにしています。一意化元 tt の微分 dtdt が、点のまわりの微分形式の基底になります。

命題4 [1, 命題8.7, p.236; 1, 定理8.8, p.237; 2, §IV.2, p.11]

PP を曲線 CC の点、tt を PP での一意化元とする。

(1) ΩOP/k\Omega_{\mathcal{O}_P/k} は dtdt を基底とする階数1の自由 OP\mathcal{O}_P 加群である。とくに g∈OPg\in\mathcal{O}_P なら、dg=g′ dtdg=g'\,dt となる g′∈OPg'\in\mathcal{O}_P がただ1つある。

(2) Ωk(C)/k\Omega_{k(C)/k} は dtdt を基底とする1次元の k(C)k(C) ベクトル空間である。よって0でない微分形式 ω\omega は、0でない有理関数 hh を使って ω=h dt\omega=h\,dt とただ1通りに書ける。

証明
  1. MP/MP2M_P/M_P^2 から ΩOP/k⊗k\Omega_{\mathcal{O}_P/k}\otimes k への写像 gˉ↦dg⊗1\bar g\mapsto dg\otimes1 は同型である(ハーツホーンの命題8.7)。MP/MP2M_P/M_P^2 は tˉ\bar t で張られるので、右辺は dt⊗1dt\otimes1 で張られる。
  2. ΩOP/k\Omega_{\mathcal{O}_P/k} は有限生成なので(系8.5)、中山の補題から dtdt だけで生成される。
  3. OP\mathcal{O}_P は1次元の正則局所環なので、ΩOP/k\Omega_{\mathcal{O}_P/k} は階数1の自由加群である(定理8.8。この定理は kk が完全体であることを仮定するが、代数閉体は完全体である)。1つの元で生成される階数1の自由加群なので、dtdt が基底になる。
  4. (2) 微分加群は局所化と交換する(命題8.2A)。k(C)k(C) は OP\mathcal{O}_P の商体なので Ωk(C)/k=ΩOP/k⊗k(C)=k(C) dt\Omega_{k(C)/k}=\Omega_{\mathcal{O}_P/k}\otimes k(C)=k(C)\,dt となる。

g′g' を dg/dtdg/dt とも書きます。例えば射影直線の点 a∈ka\in k では t−at-a が一意化元で、d(t−a)=dtd(t-a)=dt なので、dg/d(t−a)dg/d(t-a) は普通の形式的な微分 g′(t)g'(t) です。

専門的な話第6回のザリスキー接空間とのつながり

証明の1つめのステップで使った同型 MP/MP2≅ΩOP/k⊗kM_P/M_P^2\cong\Omega_{\mathcal{O}_P/k}\otimes k は、第6回の定理12と同じものです。第6回では、関数 g∈Mpg\in M_p に偏微分の値の組 (∂g/∂xj(p))j\bigl(\partial g/\partial x_j(p)\bigr)_j を対応させ、M/M2M/M^2 を計算しました。

ここでの写像 gˉ↦dg⊗1\bar g\mapsto dg\otimes1 は、それを座標によらない形に書き直したものです。dg=∑j(∂g/∂xj) dxjdg=\sum_j(\partial g/\partial x_j)\,dx_j の係数を点 pp で評価すると、第6回の θ(g)\theta(g) になります。

M/M2 → ≅  ΩOP/k⊗k(P)gˉ⟼dg⊗1(M/M2)∨≅TPM/M^2\ \xrightarrow{\ \cong\ }\ \Omega_{\mathcal{O}_P/k}\otimes k(P)\qquad \bar g\longmapsto dg\otimes1\qquad (M/M^2)^\vee\cong T_PM/M2 → ≅  ΩOP/k⊗k(P)gˉ⟼dg⊗1(M/M2)∨≅TP\begin{gathered}M/M^2\ \xrightarrow{\ \cong\ }\ \Omega_{\mathcal{O}_P/k}\otimes k(P)\\\bar g\longmapsto dg\otimes1\\(M/M^2)^\vee\cong T_P\end{gathered}M/M2 → ≅  ΩOP/k⊗k(P)gˉ⟼dg⊗1(M/M2)∨≅TP\begin{aligned}&M/M^2\ \xrightarrow{\ \cong\ }\ \Omega_{\mathcal{O}_P/k}\otimes k(P)\\[4pt]&\bar g\longmapsto dg\otimes1\\[4pt](M/M^2)^\vee &\cong T_P\end{aligned}

つまり Ω\Omega の点 PP での「値」は、ザリスキー接空間の双対(余接空間)です。微分形式は、各点の接空間の上の1次関数を、点を動かしてつないだものだと言えます。曲線が非特異であることは、この空間がどの点でも1次元であること、つまり ΩC\Omega_C が直線束であることと同じです[1, 定理8.15, p.241]。

微分形式の位数と因子

命題4(2) で、0でない微分形式は点ごとに ω=h dt\omega=h\,dt と書けました。係数 hh の位数を ω\omega の位数とします。

定義5 微分形式の位数

ω≠0\omega\neq0 を曲線 CC の微分形式、P∈CP\in C、tt を PP での一意化元とし、ω=h dt\omega=h\,dt と書く。ord⁡P(ω)=ord⁡P(h)\operatorname{ord}_P(\omega)=\operatorname{ord}_P(h) と定め、ω\omega の PP での位数と呼ぶ。

命題6

ord⁡P(ω)\operatorname{ord}_P(\omega) は一意化元 tt の選び方によらない。

証明
  1. 別の一意化元 t1t_1 をとる。t1t_1 と tt はどちらも MPM_P の生成元なので、単元 u∈OP×u\in\mathcal{O}_P^\times を使って t1=u tt_1=u\,t と書ける。
  2. dt1=e dtdt_1=e\,dt とすると ee は OP\mathcal{O}_P の単元である。

    積の規則と命題4(1) から、du=u′ dtdu=u'\,dt(u′∈OPu'\in\mathcal{O}_P)として

    dt1=d(ut)=u dt+t du=(u+t u′) dtdt_1=d(ut)=u\,dt+t\,du=(u+t\,u')\,dtdt1=d(ut)=u dt+t du=(u+t u′) dt\begin{aligned}dt_1 &= d(ut)\\&= u\,dt+t\,du\\&= (u+t\,u')\,dt\end{aligned}

    e=u+t u′e=u+t\,u' の点 PP での値は u(P)≠0u(P)\neq0 なので、ee は単元である。

  3. ω=h dt=h1 dt1\omega=h\,dt=h_1\,dt_1 なら h=h1eh=h_1e で、ord⁡P(h)=ord⁡P(h1)+ord⁡P(e)=ord⁡P(h1)\operatorname{ord}_P(h)=\operatorname{ord}_P(h_1)+\operatorname{ord}_P(e)=\operatorname{ord}_P(h_1)。

一意化元を取り替えても、係数は単元倍しか変わりません。単元の位数は0なので、位数は変わりません。

関数の位数と、その微分の位数の関係も見ておきます。tnt^n を微分すると ntn−1 dtnt^{n-1}\,dt なので、位数がちょうど1下がります。ただし、標数が nn を割り切ると係数 nn が0になってしまいます。

補題7

ff を0でない有理関数とし、n=ord⁡P(f)n=\operatorname{ord}_P(f) とする。nn が kk の中で0でなければ(標数 p>0p>0 なら p∤np\nmid n)、ord⁡P(df)=n−1\operatorname{ord}_P(df)=n-1 である。

証明
  1. f=tnuf=t^nu(uu は単元)と書き、du=u′ dtdu=u'\,dt とすると、df=tn−1(nu+t u′) dtdf=t^{n-1}(nu+t\,u')\,dt。
    df=d(tn) u+tn du=n tn−1u dt+tnu′ dt=tn−1(n u+t u′) dtdf=d(t^n)\,u+t^n\,du=n\,t^{n-1}u\,dt+t^nu'\,dt=t^{n-1}\bigl(n\,u+t\,u'\bigr)\,dtdf=d(tn) u+tn du=n tn−1u dt+tnu′ dt=tn−1(n u+t u′) dt\begin{aligned}df &= d(t^n)\,u+t^n\,du\\&= n\,t^{n-1}u\,dt+t^nu'\,dt\\&= t^{n-1}\bigl(n\,u+t\,u'\bigr)\,dt\end{aligned}df=d(tn) u+tn du=n tn−1u dt=+tnu′ dt=tn−1(n u+t u′) dt\begin{aligned}df &= d(t^n)\,u+t^n\,du\\&= n\,t^{n-1}u\,dt\\&\phantom{=}{} +t^nu'\,dt\\&= t^{n-1}\bigl(n\,u+t\,u'\bigr)\,dt\end{aligned}

    n<0n<0 のときも、d(tn)=ntn−1dtd(t^n)=nt^{n-1}dt は逆数の微分の公式から従う。

  2. nu+t u′nu+t\,u' の PP での値は n u(P)≠0n\,u(P)\neq0 なので単元で、位数は n−1n-1。

例えば ord⁡P(f)=−1\operatorname{ord}_P(f)=-1(1位の極)なら dfdf は2位の極、ord⁡P(f)=−2\operatorname{ord}_P(f)=-2 なら(標数が2でなければ)dfdf は3位の極です。標数 pp の体では d(tp)=p tp−1 dt=0d(t^p)=p\,t^{p-1}\,dt=0 となり、補題の仮定が要ることが分かります。

定義8 微分形式の因子と標準因子 [2, §IV.1, p.4]

0でない微分形式 ω\omega の因子を次で定める。

div⁡(ω)=∑P∈Cord⁡P(ω) P\operatorname{div}(\omega)=\sum_{P\in C}\operatorname{ord}_P(\omega)\,Pdiv⁡(ω)=∑P∈Cord⁡P(ω) P\begin{aligned}\operatorname{div}(\omega) &= \sum_{P\in C}\operatorname{ord}_P(\omega)\,P\end{aligned}

この形の因子を CC の標準因子と呼び、KK(または KCK_C)と書く。div⁡(ω)≥0\operatorname{div}(\omega)\geq0(すべての位数が0以上)のとき、ω\omega を正則な微分形式と呼ぶ。

命題9

ω≠0\omega\neq0 を微分形式とする。

(1) ord⁡P(ω)≠0\operatorname{ord}_P(\omega)\neq0 となる点 PP は有限個で、div⁡(ω)\operatorname{div}(\omega) は因子である。

(2) 0でない有理関数 ff について div⁡(fω)=div⁡(f)+div⁡(ω)\operatorname{div}(f\omega)=\operatorname{div}(f)+\operatorname{div}(\omega)。

(3) 0でない微分形式 ω′\omega' をもう1つとると、div⁡(ω′)\operatorname{div}(\omega') と div⁡(ω)\operatorname{div}(\omega) は線形同値で、deg⁡div⁡(ω′)=deg⁡div⁡(ω)\deg\operatorname{div}(\omega')=\deg\operatorname{div}(\omega) である。

証明
  1. (1) ΩC\Omega_C は直線束なので、CC は有限個の開集合 UiU_i で覆われ、各 UiU_i の上で ΩC\Omega_C は1つの元 ηi\eta_i で生成される[1, 定理8.15, p.241]。

    ハーツホーンの定理8.15は、非特異な多様体の Ω\Omega が、次元と同じ階数の局所自由層であることを述べている。曲線では階数1である。CC は有限個のアフィン開集合で覆えるので、開集合 UiU_i は有限個にとれる。

  2. ω=hi ηi\omega=h_i\,\eta_i(hi∈k(C)h_i\in k(C))と書くと、P∈UiP\in U_i で ord⁡P(ω)=ord⁡P(hi)\operatorname{ord}_P(\omega)=\operatorname{ord}_P(h_i) である。0でない hih_i の零点と極は有限個なので、(1) が従う。

    ηi\eta_i も dtdt も、ΩOP/k\Omega_{\mathcal{O}_P/k} の生成元である。生成元どうしの比は単元なので、ηi=e dt\eta_i=e\,dt(ee は単元)で、ω=hie dt\omega=h_ie\,dt の位数は ord⁡P(hi)\operatorname{ord}_P(h_i) である。

  3. (2) ω=h dt\omega=h\,dt なら fω=fh dtf\omega=fh\,dt で、ord⁡P(fh)=ord⁡P(f)+ord⁡P(h)\operatorname{ord}_P(fh)=\operatorname{ord}_P(f)+\operatorname{ord}_P(h)。
  4. (3) Ωk(C)/k\Omega_{k(C)/k} は1次元なので、ω′=fω\omega'=f\omega となる0でない有理関数 ff がある。(2) から div⁡(ω′)−div⁡(ω)=div⁡(f)\operatorname{div}(\omega')-\operatorname{div}(\omega)=\operatorname{div}(f) で、主因子の次数は0である。

(3) から、標準因子は1つには決まりませんが、線形同値類としてはただ1つに決まります。とくに次数 deg⁡K\deg K は曲線だけで決まる数です。

ω′=f ω⟹div⁡(ω′)=div⁡(ω)+div⁡(f)deg⁡div⁡(ω′)=deg⁡div⁡(ω)\omega'=f\,\omega\quad\Longrightarrow\quad\operatorname{div}(\omega')=\operatorname{div}(\omega)+\operatorname{div}(f)\qquad\deg\operatorname{div}(\omega')=\deg\operatorname{div}(\omega)ω′=f ω⟹div⁡(ω′)=div⁡(ω)+div⁡(f)deg⁡div⁡(ω′)=deg⁡div⁡(ω)\begin{gathered}\omega'=f\,\omega\\\Longrightarrow \operatorname{div}(\omega')=\operatorname{div}(\omega)+\operatorname{div}(f)\\\deg\operatorname{div}(\omega')=\deg\operatorname{div}(\omega)\end{gathered}ω′=f ω⟹div⁡(ω′)=div⁡(ω)+div⁡(f)deg⁡div⁡(ω′)=deg⁡div⁡(ω)\begin{aligned}\omega' &= f\,\omega\\[4pt]&\Longrightarrow \operatorname{div}(\omega')=\operatorname{div}(\omega)+\operatorname{div}(f)\\[4pt]\deg\operatorname{div}(\omega') &= \deg\operatorname{div}(\omega)\end{aligned}

関数の主因子は、どの曲線でも0と線形同値でした。標準因子は、曲線ごとに決まった別の類を指します。ここが関数との違いです。

射影直線の上の dtdt

射影直線 P1\mathbb{P}^1 は、tt の直線と ss の直線を s=1/ts=1/t で貼り合わせたものでした(第4回の例10)。関数体は k(t)k(t) で、点 a∈ka\in k での一意化元は t−at-a、無限遠点 ∞\infty での一意化元は s=1/ts=1/t です。

∞\infty で位数を計算するには、dtdt を ss で書き直します。逆数の微分の公式から次のようになります。

t=1sdt=d(1s)=−1s2 dst=\frac1s\qquad dt=d\Bigl(\frac1s\Bigr)=-\frac{1}{s^2}\,dst=1sdt=d(1s)=−1s2 ds\begin{gathered}t=\frac1s\\dt=d\Bigl(\frac1s\Bigr)=-\frac{1}{s^2}\,ds\end{gathered}t=1sdt=d(1s)=−1s2 ds\begin{aligned}t &= \frac1s\\[4pt]dt &= d\Bigl(\frac1s\Bigr)\\&= -\frac{1}{s^2}\,ds\end{aligned}

例10 P1\mathbb{P}^1 の微分形式

kk を代数閉体とする。ω=h(t) dt\omega=h(t)\,dt を ss で書くと ω=−h(1/s) s−2 ds\omega=-h(1/s)\,s^{-2}\,ds で、いくつかの ω\omega の因子は次のようになる(最後の行は標数が2でないとする)。

ω\omegatt の側ss の側div⁡(ω)\operatorname{div}(\omega)次数
dtdt零点も極もない−s−2 ds-s^{-2}\,ds−2∞-2\infty−2-2
dt/tdt/t00 で1位の極−s−1 ds-s^{-1}\,ds−0−∞-0-\infty−2-2
t dtt\,dt00 で1位の零点−s−3 ds-s^{-3}\,ds0−3∞0-3\infty−2-2
dt/(t2−1)dt/(t^2-1)±1\pm1 で1位の極−ds/(1−s2)-ds/(1-s^2)−(1)−(−1)-(1)-(-1)−2-2

表の 00、∞\infty、(1)(1)、(−1)(-1) は点を表す(0−3∞0-3\infty は「点 00 の1倍から点 ∞\infty の3倍を引いた因子」)。

証明
  1. tt の側:点 aa では d(t−a)=dtd(t-a)=dt なので、h(t) dth(t)\,dt の位数は ord⁡a(h)\operatorname{ord}_a(h)。1, 1/t, t, 1/(t2−1)1,\ 1/t,\ t,\ 1/(t^2-1) の零点と極を読めばよい。
  2. ss の側:dt=−s−2dsdt=-s^{-2}ds を代入する。∞\infty での位数は ss の何乗が残るかで読める。
    dtt=s⋅(−dss2)=−dsst dt=1s⋅(−dss2)=−dss3\frac{dt}{t}=s\cdot\Bigl(-\frac{ds}{s^2}\Bigr)=-\frac{ds}{s}\qquad t\,dt=\frac1s\cdot\Bigl(-\frac{ds}{s^2}\Bigr)=-\frac{ds}{s^3}dtt=s⋅(−dss2)=−dsst dt=1s⋅(−dss2)=−dss3\begin{gathered}\frac{dt}{t}=s\cdot\Bigl(-\frac{ds}{s^2}\Bigr)=-\frac{ds}{s}\\t\,dt=\frac1s\cdot\Bigl(-\frac{ds}{s^2}\Bigr)=-\frac{ds}{s^3}\end{gathered}dtt=s⋅(−dss2)=−dsst dt=1s⋅(−dss2)=−dss3\begin{aligned}\frac{dt}{t} &= s\cdot\Bigl(-\frac{ds}{s^2}\Bigr)\\&= -\frac{ds}{s}\\[4pt]t\,dt &= \frac1s\cdot\Bigl(-\frac{ds}{s^2}\Bigr)\\&= -\frac{ds}{s^3}\end{aligned} dtt2−1=s21−s2⋅(−dss2)=−ds1−s2\frac{dt}{t^2-1}=\frac{s^2}{1-s^2}\cdot\Bigl(-\frac{ds}{s^2}\Bigr)=-\frac{ds}{1-s^2}dtt2−1=s21−s2⋅(−dss2)=−ds1−s2\begin{aligned}\frac{dt}{t^2-1} &= \frac{s^2}{1-s^2}\cdot\Bigl(-\frac{ds}{s^2}\Bigr)\\&= -\frac{ds}{1-s^2}\end{aligned}

    最後の式の 1/(1−s2)1/(1-s^2) は s=0s=0 で値1をとる単元なので、∞\infty での位数は0である。

4つとも、次数は −2-2 になりました。dtdt の ∞\infty での位数は、補題7からもすぐ分かります。ord⁡∞(t)=−1\operatorname{ord}_\infty(t)=-1 なので、ord⁡∞(dt)=−1−1=−2\operatorname{ord}_\infty(dt)=-1-1=-2 です。

数で見ると、t=100t=100(s=0.01s=0.01)の近くで tt を 0.010.01 動かしても、ss は約 −0.000001-0.000001 しか動きません(ds=−s2 dtds=-s^2\,dt)。逆に ss を基準にすると、dt=−s−2 dsdt=-s^{-2}\,ds の係数の大きさ 1/s2=100001/s^2=10000 は、∞\infty に近づくほど大きくなります。これが ∞\infty での極です。

表の4つで次数がそろったのは偶然ではありません。

定理11 [1, 例8.20.1, p.248; 1, 例8.20.3, p.249]

kk を代数閉体とする。P1\mathbb{P}^1 の0でない微分形式 ω\omega について deg⁡div⁡(ω)=−2\deg\operatorname{div}(\omega)=-2 である。標準因子は K=−2∞K=-2\infty にとれ、P1\mathbb{P}^1 には0でない正則な微分形式がない。

証明
  1. Ωk(t)/k=k(t) dt\Omega_{k(t)/k}=k(t)\,dt なので、ω=f dt\omega=f\,dt(f∈k(t)f\in k(t)、f≠0f\neq0)と書ける。

    例2(1) から Ωk[t]/k=k[t] dt\Omega_{k[t]/k}=k[t]\,dt で、局所化して Ωk(t)/k=k(t) dt\Omega_{k(t)/k}=k(t)\,dt となる(命題4の証明の最後のステップと同じ)。dt≠0dt\neq0 である。

  2. 命題9(2) から div⁡(ω)=div⁡(f)+div⁡(dt)=div⁡(f)−2∞\operatorname{div}(\omega)=\operatorname{div}(f)+\operatorname{div}(dt)=\operatorname{div}(f)-2\infty。
  3. deg⁡div⁡(f)=0\deg\operatorname{div}(f)=0 なので、deg⁡div⁡(ω)=−2\deg\operatorname{div}(\omega)=-2。

    P1\mathbb{P}^1 ではこれを直接確かめられる。f=c∏i(t−ai)nif=c\prod_i(t-a_i)^{n_i}(c≠0c\neq0、aia_i は相異なる)と分解すると、tt の側の位数は ord⁡ai(f)=ni\operatorname{ord}_{a_i}(f)=n_i で、ほかの点では0である。

    ∞\infty では、t−ai=(1−ais)/st-a_i=(1-a_is)/s で 1−ais1-a_is は単元なので、ord⁡∞(f)=−∑ini\operatorname{ord}_\infty(f)=-\sum_in_i となる(第4回の例16と同じ計算)。合計は ∑ini−∑ini=0\sum_in_i-\sum_in_i=0。

  4. 正則な ω≠0\omega\neq0 があれば div⁡(ω)≥0\operatorname{div}(\omega)\geq0 で次数が0以上になり、−2-2 に反する。
もう少し詳しく標数 pp の注意

kk の標数が p>0p>0 のとき、d(tp)=p tp−1 dt=0d(t^p)=p\,t^{p-1}\,dt=0 です。tpt^p は定数でない関数なのに、微分が0になります。

このため、「dxdx を基準にとる」ときは、dx≠0dx\neq0 となる xx を選ぶ必要があります。射影直線なら tt で十分で、tpt^p は使えません。命題4が保証しているのは、一意化元 tt なら dt≠0dt\neq0 だということです。

定理11はどの標数でも成り立ちます。証明に使ったのは dtdt と −s−2ds-s^{-2}ds の書き換えだけで、標数で割る操作がないからです。

k=Ck=\mathbb{C} で見る:矢印が回る回数

k=Ck=\mathbb{C} のとき、微分形式を矢印の場として描けます。点 tt での接ベクトルを、tt から進む向きの複素数 cc で表します。微分形式 ω=h dt\omega=h\,dt は、この接ベクトルに数 h(t) ch(t)\,c を返す「1次の物差し」です。

そこで、ω\omega で測ってちょうど1になる接ベクトル vv を各点に描きます。式で書くと次のとおりで、ω\omega の nn 位の極は vv の nn 位の零点に、ω\omega の零点は vv の極になります。

ω(v)=1v=1h(t) ∂∂t\omega(v)=1\qquad v=\frac{1}{h(t)}\,\frac{\partial}{\partial t}ω(v)=1v=1h(t) ∂∂t\begin{gathered}\omega(v)=1\\v=\frac{1}{h(t)}\,\frac{\partial}{\partial t}\end{gathered}ω(v)=1v=1h(t) ∂∂t\begin{aligned}\omega(v) &= 1\\[4pt]v &= \frac{1}{h(t)}\,\frac{\partial}{\partial t}\end{aligned}

ω=dt\omega=dt なら v=∂/∂tv=\partial/\partial t で、tt の地図ではどこでも同じ向き(実軸の正の向き)の矢印です。ss の地図では dt=−s−2 dsdt=-s^{-2}\,ds なので、同じ vv が v=−s2 ∂/∂sv=-s^2\,\partial/\partial s になります。

Re⁡t\operatorname{Re}t
Im⁡t\operatorname{Im}t
Re⁡s\operatorname{Re}s
Im⁡s\operatorname{Im}s
tt の地図:ω=1⋅dt\omega=1\cdot dt
ss の地図:ω=−s−2 ds\omega=-s^{-2}\,ds
v=∂/∂tv=\partial/\partial t:どこでも同じ向き
v=−s2 ∂/∂sv=-s^2\,\partial/\partial s:s=0s=0 で2回まわる
s=1/ts=1/t
図1具体例射影直線の2枚の地図で、ω=dt\omega=dt に対応する矢印 vv(ω(v)=1\omega(v)=1)を描いた図です。矢印の長さはそろえ、向きだけを描いています。左の tt の地図では矢印はすべて平行です。右の ss の地図では、矢印の向きは複素数 −s2-s^2 の向きで、原点 s=0s=0(点 ∞\infty)のまわりを1周する間に2回まわります。これが ∞\infty での2位の極です。

2回まわる理由は、−s2-s^2 の偏角が π+2arg⁡s\pi+2\arg s だからです。一般に、vv が nn 位の零点をもつ点のまわりでは、矢印は nn 回まわります。vv が極をもつ点(ω\omega の零点)のまわりでは、逆向きにまわります。

2枚の地図を貼り合わせると、第4回のリーマン球面になります(第4回の例12)。球面の上に矢印を描くと、2枚の地図の見え方が1つの図にまとまります。

ドラッグで回せます

ω=dt\omega=dt。矢印は ω(v)=1\omega(v)=1 となるベクトル場 v=∂/∂tv=\partial/\partial t の向きで、オレンジの線はその流れの線(tt の地図で Im⁡t\operatorname{Im}t が一定の直線を球面に移したもの)です。南極 00 のあたりでは矢印がそろって平行です。「北極の真上」から見ると、どの線も ∞\infty を通ってそこで接し、∞\infty のまわりを1周する間に矢印が2回まわります。これが ∞\infty での2位の極です。

ω=dt/t\omega=dt/t。v=t ∂/∂tv=t\,\partial/\partial t は 00 から湧き出して経線に沿って ∞\infty に流れ込みます。00 と ∞\infty のまわりでは、矢印はそれぞれ1回ずつまわります(1位の極が2つ)。

ω=dt/(t2−1)\omega=dt/(t^2-1)。v=(t2−1) ∂/∂tv=(t^2-1)\,\partial/\partial t は 11 と −1-1 で0になり、流れの線は2点を通る大円です。∞\infty では矢印は止まらずに通り過ぎます。2つの極を ∞\infty に寄せていくと、dtdt の図になります(本文を参照)。

図2具体例リーマン球面(第4回の図2と同じ球面。南極が t=0t=0、北極が ∞\infty)の上に、ω(v)=1\omega(v)=1 となる矢印 vv の向きを描いた図です。線は vv の流れの線です。「dtdt」で北極の真上から見ると、流れの線はすべて北極を通ってそこで接し、矢印は北極のまわりで2回まわります。「南極の真下」から見ると、tt の地図の平行な矢印です。ほかの段階では、dt/tdt/t と dt/(t2−1)dt/(t^2-1) の1位の極が2つずつ見えます。矢印の向きと流れの線が vv と一致することは、図を作るプログラムで確かめています。

dt/(t2−1)dt/(t^2-1) の段階と見比べると、dtdt の2位の極は、1位の極が2つ寄り集まったものだと分かります。ωε=dt/(1−ε2t2)\omega_\varepsilon=dt/(1-\varepsilon^2t^2) は t=±1/εt=\pm1/\varepsilon に1位の極をもち、ε→0\varepsilon\to0 で2つの極が ∞\infty に寄って ω0=dt\omega_0=dt になります(ε=1\varepsilon=1 のときは dt/(t2−1)dt/(t^2-1) の −1-1 倍です)。

定理11を図の言葉で言い直すと、どの微分形式でも、vv の零点と極のまわりで矢印が回る回数(極では逆向きなので負に数える)を合計すると2になります。例えば t dtt\,dt では、v=t−1 ∂/∂tv=t^{-1}\,\partial/\partial t が 00 で極(−1-1 回)、∞\infty で3位の零点(3回)をもち、合計は2です。

専門的な話回る回数の合計と球面の形

図2の矢印の向きは、vv の零点と極を除いた球面の上の連続な向きの場です。ポアンカレ・ホップの定理によると、閉じた曲面の上の向きの場では、向きが定まらない孤立した点のまわりで矢印が回る回数の合計は、曲面のオイラー標数に等しくなります。球面のオイラー標数は2です。

ω\omega の nn 位の極では矢印が nn 回、nn 位の零点では −n-n 回まわるので、回る回数の合計は −deg⁡div⁡(ω)-\deg\operatorname{div}(\omega) です。−deg⁡div⁡(ω)=2-\deg\operatorname{div}(\omega)=2 は、この定理の特別な場合と見られます。穴が gg 個ある曲面のオイラー標数は 2−2g2-2g です。代数の側でも deg⁡K=2g−2\deg K=2g-2 が成り立つことを、第16回で扱います。

楕円曲線の dx/2ydx/2y

楕円曲線では、deg⁡K=0\deg K=0 となる微分形式を具体的に書けます。その前に、平面曲線のどの点で xx が一意化元に使えるかを調べます。

命題12 平面曲線の一意化元

f∈k[x,y]f\in k[x,y] を既約多項式、C=V(f)C=V(f) とし、P=(x0,y0)P=(x_0,y_0) を CC の非特異点とする。

(1) fy(P)≠0f_y(P)\neq0 なら、x−x0x-x_0 は PP での一意化元である。

(2) fy(P)=0f_y(P)=0 なら fx(P)≠0f_x(P)\neq0 で、y−y0y-y_0 は PP での一意化元であり、ord⁡P(x−x0)≥2\operatorname{ord}_P(x-x_0)\geq2 である。

証明
  1. MP/MP2M_P/M_P^2 は1次元で、x−x0‾\overline{x-x_0} と y−y0‾\overline{y-y_0} で張られ、その間に関係 fx(P) x−x0‾+fy(P) y−y0‾=0f_x(P)\,\overline{x-x_0}+f_y(P)\,\overline{y-y_0}=0 がある。

    第6回の定理12の証明と第6回の例13(2) の計算である。ff を PP のまわりで展開すると、f≡fx(P)(x−x0)+fy(P)(y−y0)(modM2)f\equiv f_x(P)(x-x_0)+f_y(P)(y-y_0)\pmod{M^2} で、CC の上では f=0f=0 である。PP は非特異なので dim⁡MP/MP2=1\dim M_P/M_P^2=1。

  2. (1) fy(P)≠0f_y(P)\neq0 なら y−y0‾\overline{y-y_0} は x−x0‾\overline{x-x_0} の定数倍なので、x−x0‾\overline{x-x_0} が MP/MP2M_P/M_P^2 を張る。とくに x−x0∈MP∖MP2x-x_0\in M_P\setminus M_P^2 で、位数は1である。

    離散付値環では MPnM_P^n は位数 nn 以上の元の全体なので、MP∖MP2M_P\setminus M_P^2 の元は位数がちょうど1で、一意化元である。

  3. (2) fy(P)=0f_y(P)=0 なら、非特異なので fx(P)≠0f_x(P)\neq0。(1) の xx と yy を入れ替えて y−y0y-y_0 が一意化元で、関係式から x−x0‾=0\overline{x-x_0}=0、つまり x−x0∈MP2x-x_0\in M_P^2。

この命題は、第10回の命題9で直線の式を x−x0x-x_0 と y−y0y-y_0 にとった場合です。

図で言えば、fy(P)=0f_y(P)=0 は接線が縦になる点です。縦の接線をもつ点では、xx は曲線に沿って2次以上でしか変わらないので、x−x0x-x_0 は2位以上の零点になります。

以下、楕円曲線は kk の標数が2でも3でもないとして、次の形で考えます。

E ⁣: y2=x3+ax+bΔ=−16(4a3+27b2)≠0E\colon\ y^2=x^3+ax+b\qquad \Delta=-16(4a^3+27b^2)\neq0E ⁣: y2=x3+ax+bΔ=−16(4a3+27b2)≠0\begin{gathered}E\colon\ y^2=x^3+ax+b\\\Delta=-16(4a^3+27b^2)\neq0\end{gathered}E ⁣: y2=x3+ax+bΔ=−16(4a3+27b2)≠0\begin{aligned}E\colon\ y^2 &= x^3+ax+b\\[4pt]\Delta &= -16(4a^3+27b^2)\\&\neq 0\end{aligned}

斉次座標 [X:Y:Z][X:Y:Z](x=X/Z, y=Y/Zx=X/Z,\ y=Y/Z)で書くと Y2Z=X3+aXZ2+bZ3Y^2Z=X^3+aXZ^2+bZ^3 で、無限遠点は O=[0:1:0]O=[0:1:0] の1つだけです。座標の書き方は第10回と同じで、第5回・第9回の [x0:x1:x2][x_0:x_1:x_2] とは x0=Zx_0=Z、x1=Xx_1=X、x2=Yx_2=Y で対応します。第5回の座標では O=[0:0:1]O=[0:0:1] です(第12回は同じ座標を小文字で [x:y:z][x:y:z] と書きました)。

Δ≠0\Delta\neq0 は、3次式 x3+ax+bx^3+ax+b が重根をもたないことと同じで、EE が非特異であることを表します。

y2=x3+ax+by^2=x^3+ax+b を微分すると、例2(3) のとおり 2y dy=(3x2+a) dx2y\,dy=(3x^2+a)\,dx です。両辺を 2y(3x2+a)2y(3x^2+a) で割ると、同じ微分形式の2通りの書き方が得られます。

ω=dx2y=dy3x2+a\omega=\frac{dx}{2y}=\frac{dy}{3x^2+a}ω=dx2y=dy3x2+a\begin{aligned}\omega &= \frac{dx}{2y}\\&= \frac{dy}{3x^2+a}\end{aligned}

定理13 [2, 例1.3.6, p.6]

kk を標数が2でも3でもない代数閉体、EE を上の楕円曲線とする。ω=dx/2y\omega=dx/2y はどの点でも零点も極ももたない。つまり div⁡(ω)=0\operatorname{div}(\omega)=0 で、EE の標準因子は K=0K=0、deg⁡K=0\deg K=0 である。

証明
  1. y0≠0y_0\neq0 の点 P=(x0,y0)P=(x_0,y_0):f=y2−x3−ax−bf=y^2-x^3-ax-b について fy(P)=2y0≠0f_y(P)=2y_0\neq0 なので、x−x0x-x_0 が一意化元で、ω=12y d(x−x0)\omega=\tfrac1{2y}\,d(x-x_0)。1/2y1/2y は PP で単元なので、位数は0。
  2. y0=0y_0=0 の点:fx(P)=−(3x02+a)≠0f_x(P)=-(3x_0^2+a)\neq0 なので yy が一意化元で、ω=13x2+a dy\omega=\tfrac1{3x^2+a}\,dy。1/(3x2+a)1/(3x^2+a) は PP で単元なので、位数は0。

    3x02+a=03x_0^2+a=0 なら、x0x_0 は x3+ax+bx^3+ax+b(y0=0y_0=0 なので x0x_0 はその根)とその微分 3x2+a3x^2+a の共通の根で、重根になる。これは Δ≠0\Delta\neq0 に反する。

  3. 無限遠点 OO:u=x/yu=x/y が一意化元で、ord⁡O(x)=−2\operatorname{ord}_O(x)=-2、ord⁡O(y)=−3\operatorname{ord}_O(y)=-3 である。

    Y≠0Y\neq0 の地図の座標 u=X/Yu=X/Y、w=Z/Yw=Z/Y では、式は w=u3+auw2+bw3w=u^3+auw^2+bw^3 で、OO は原点である。G=w−u3−auw2−bw3G=w-u^3-auw^2-bw^3 の ww での偏微分は原点で1なので、命題12(1) から uu が一意化元である。

    式を w(1−auw−bw2)=u3w(1-auw-bw^2)=u^3 と書き直す。1−auw−bw21-auw-bw^2 は原点で値1の単元なので、ord⁡O(w)=3\operatorname{ord}_O(w)=3。よって y=1/wy=1/w の位数は −3-3、x=u/wx=u/w の位数は 1−3=−21-3=-2。

  4. 標数は2でないので、補題7から ord⁡O(dx)=−2−1=−3\operatorname{ord}_O(dx)=-2-1=-3。ord⁡O(2y)=−3\operatorname{ord}_O(2y)=-3 なので、ord⁡O(ω)=−3−(−3)=0\operatorname{ord}_O(\omega)=-3-(-3)=0。

証明の3つの場合は、使う一意化元で分かれています。縦の接線をもつ y=0y=0 の点では xx が使えず yy を使い、無限遠点では x/yx/y を使います。どの場合も、ω\omega の係数は単元でした。

Δ≠0\Delta\neq0(非特異)が効いているのは2つめの場合です。y=0y=0 の点で 3x2+a3x^2+a が0にならないので、dy/(3x2+a)dy/(3x^2+a) の分母が消えません。

例14 y2=x3−xy^2=x^3-x での検算

k=Ck=\mathbb{C} とし、E ⁣:y2=x3−xE\colon y^2=x^3-x(a=−1, b=0, Δ=64a=-1,\ b=0,\ \Delta=64)の点で ω=h dt\omega=h\,dt の係数を求めると、次のようになる。

点 PP一意化元 tthhh(P)h(P)
(0,0)(0,0)yy1/(3x2−1)=−1−3y4−⋯1/(3x^2-1)=-1-3y^4-\cdots−1-1
(±1,0)(\pm1,0)yy1/(3x2−1)1/(3x^2-1)1/21/2
(2,6)(2,\sqrt6)x−2x-21/2y1/2y1/(26)1/(2\sqrt6)
(−13,y1)\bigl(-\tfrac1{\sqrt3},y_1\bigr)x+13x+\tfrac1{\sqrt3}1/2y1/2y1/(2y1)1/(2y_1)
OOu=x/yu=x/y−1+2u4+⋯-1+2u^4+\cdots−1-1

ここで y12=233y_1^2=\tfrac{2}{3\sqrt3} である。h(P)h(P) はどれも0でも ∞\infty でもない。

証明
  1. (0,0)(0,0) の近くでは x=x3−y2x=x^3-y^2 を繰り返し代入して x=−y2−y6−⋯x=-y^2-y^6-\cdots、3x2−1=−1+3y4+⋯3x^2-1=-1+3y^4+\cdots。逆数をとって h=−1−3y4−⋯h=-1-3y^4-\cdots。
  2. x=−1/3x=-1/\sqrt3 の点では fx=−(3x2−1)=0f_x=-(3x^2-1)=0 である。命題12(2) で xx と yy を入れ替えた形から、x+1/3x+1/\sqrt3 が一意化元で、y−y1y-y_1 は一意化元にならない。
  3. OO の近くでは w=u3−uw2w=u^3-uw^2 を繰り返し代入して w=u3−u7+⋯w=u^3-u^7+\cdots。これから x=u/w=u−2+u2+⋯x=u/w=u^{-2}+u^2+\cdots、y=1/w=u−3+u+⋯y=1/w=u^{-3}+u+\cdots で、dx/2y=(−1+2u4+⋯ ) dudx/2y=(-1+2u^4+\cdots)\,du。
    dx=(−2u−3+2u+⋯ )du2y=2u−3+2u+⋯dx2y=−1+u4+⋯1+u4+⋯ du=(−1+2u4+⋯ ) dudx=\bigl(-2u^{-3}+2u+\cdots\bigr)du\qquad 2y=2u^{-3}+2u+\cdots\qquad \frac{dx}{2y}=\frac{-1+u^4+\cdots}{1+u^4+\cdots}\,du=(-1+2u^4+\cdots)\,dudx=(−2u−3+2u+⋯ )du2y=2u−3+2u+⋯dx2y=−1+u4+⋯1+u4+⋯ du=(−1+2u4+⋯ ) du\begin{gathered}dx=\bigl(-2u^{-3}+2u+\cdots\bigr)du\\2y=2u^{-3}+2u+\cdots\\\frac{dx}{2y}=\frac{-1+u^4+\cdots}{1+u^4+\cdots}\,du=(-1+2u^4+\cdots)\,du\end{gathered}dx=(−2u−3+2u+⋯ )du2y=2u−3+2u+⋯dx2y=−1+u4+⋯1+u4+⋯ du=(−1+2u4+⋯ ) du\begin{aligned}dx &= \bigl(-2u^{-3}+2u+\cdots\bigr)du\\[4pt]2y &= 2u^{-3}+2u+\cdots\\[4pt]\frac{dx}{2y} &= \frac{-1+u^4+\cdots}{1+u^4+\cdots}\,du\\&= (-1+2u^4+\cdots)\,du\end{aligned}

    級数の計算は計算機でも確かめた(一般の a,ba,b では x=u−2−au2−bu4−⋯x=u^{-2}-au^2-bu^4-\cdots、dx/2y=(−1−2au4+⋯ ) dudx/2y=(-1-2au^4+\cdots)\,du)。

第10回の例19の div⁡(y)\operatorname{div}(y) とも合います。dx=2y ωdx=2y\,\omega なので、div⁡(dx)=div⁡(y)+div⁡(ω)=div⁡(y)\operatorname{div}(dx)=\operatorname{div}(y)+\operatorname{div}(\omega)=\operatorname{div}(y) です。

div⁡(dx)=(0,0)+(1,0)+(−1,0)−3O\operatorname{div}(dx)=(0,0)+(1,0)+(-1,0)-3Odiv⁡(dx)=(0,0)+(1,0)+(−1,0)−3O\begin{aligned}\operatorname{div}(dx) &= (0,0)+(1,0)+(-1,0)-3O\end{aligned}div⁡(dx)=(0,0)+(1,0)+(−1,0)=−3O\begin{aligned}\operatorname{div}(dx) &= (0,0)+(1,0)+(-1,0)\\&\phantom{=}{} -3O\end{aligned}div⁡(dx)=(0,0)+(1,0)=+(−1,0)−3O\begin{aligned}\operatorname{div}(dx) &= (0,0)+(1,0)\\&\phantom{=}{} +(-1,0)-3O\end{aligned}

y=0y=0 の3点 (x0,0)(x_0,0) では、x−x0x-x_0 が2位の零点をもちます(第10回の表の ord⁡(x)\operatorname{ord}(x) と ord⁡(x∓1)\operatorname{ord}(x\mp1))。d(x−x0)=dxd(x-x_0)=dx なので、補題7から dxdx はそこで1位の零点です。OO では xx が2位の極なので、dxdx は3位の極です。どちらの計算も上の式と合っています。

k=Ck=\mathbb{C} として実数の点だけを取り出し、ω(v)=1\omega(v)=1 となる接ベクトル vv を描いてみます。f=y2−x3−ax−bf=y^2-x^3-ax-b について、次の vv は曲線に接し、ω(v)=dx(v)/2y=1\omega(v)=dx(v)/2y=1 をみたします。

v=2y ∂∂x+(3x2+a) ∂∂y=fy ∂∂x−fx ∂∂yv=2y\,\frac{\partial}{\partial x}+(3x^2+a)\,\frac{\partial}{\partial y}=f_y\,\frac{\partial}{\partial x}-f_x\,\frac{\partial}{\partial y}v=2y ∂∂x+(3x2+a) ∂∂y=fy ∂∂x−fx ∂∂y\begin{aligned}v &= 2y\,\frac{\partial}{\partial x}+(3x^2+a)\,\frac{\partial}{\partial y}\\&= f_y\,\frac{\partial}{\partial x}-f_x\,\frac{\partial}{\partial y}\end{aligned}v=2y ∂∂x=+(3x2+a) ∂∂y=fy ∂∂x−fx ∂∂y\begin{aligned}v &= 2y\,\frac{\partial}{\partial x}\\&\phantom{=}{} +(3x^2+a)\,\frac{\partial}{\partial y}\\&= f_y\,\frac{\partial}{\partial x}-f_x\,\frac{\partial}{\partial y}\end{aligned}

v=0v=0 となるのは fx=fy=0f_x=f_y=0 の点、つまり特異点だけです。EE は非特異なので、vv は曲線のどこでも0になりません。

(0,0)(0,0)
(−1,0)(-1,0)
(1,0)(1,0)
x=−1/3x=-1/\sqrt3
OO へ(x/yx/y が一意化元)
y2=x3−xy^2=x^3-x と v=2y ∂x+(3x2−1) ∂yv=2y\,\partial_x+(3x^2-1)\,\partial_y(ω(v)=1\omega(v)=1)
y=0y=0 の点:yy が一意化元
3x2−1=03x^2-1=0 の点:x+1/3x+1/\sqrt3 が一意化元
図3具体例y2=x3−xy^2=x^3-x の実数の点(黒)と、ω=dx/2y\omega=dx/2y に対して ω(v)=1\omega(v)=1 となる接ベクトル vv(青い矢印。長さはそろえ、向きだけ)。オレンジの3点は y=0y=0 の点で、接線が縦なので xx は一意化元にならず、yy を使います。緑の2点は 3x2−1=03x^2-1=0 の点で、接線が横なので y−y0y-y_0 が一意化元にならず、x−x0x-x_0 を使います。そのほかの点ではどちらも使えます。矢印はどこでも0にならず、曲線を一定の向きにたどります。図を作るプログラムで、vv が接していて0でないこと、dx/2y=dy/(3x2−1)dx/2y=dy/(3x^2-1) を確かめています。

零点も極もない微分形式があると、正則な微分形式がすべて分かります。

系15

EE の正則な微分形式は、ω=dx/2y\omega=dx/2y の定数倍 c ωc\,\omega(c∈kc\in k)だけである。

証明
  1. 正則な ω′≠0\omega'\neq0 を ω′=fω\omega'=f\omega と書くと、div⁡(f)=div⁡(ω′)≥0\operatorname{div}(f)=\operatorname{div}(\omega')\geq0 で、ff には極がない。
  2. 極のない有理関数は定数である。

    点 PP をとり c=f(P)c=f(P) とおく。g=f−cg=f-c にも極がなく、g≠0g\neq0 なら PP が零点なので deg⁡div⁡(g)≥1\deg\operatorname{div}(g)\geq1 となり、主因子の次数が0であることに反する。よって g=0g=0、f=cf=c。

射影直線では正則な微分形式が0だけ、楕円曲線では1次元でした。この次元が種数 gg で、射影直線は g=0g=0、楕円曲線は g=1g=1 です[2, 命題1.1, p.2]。

専門的な話複素数では dx/2y=dzdx/2y=dz

k=Ck=\mathbb{C} のとき、楕円曲線は複素平面を格子 Λ\Lambda で割ったトーラス C/Λ\mathbb{C}/\Lambda と同じものです。座標は、ワイエルシュトラスの ℘\wp 関数で x=℘(z)x=\wp(z)、y=℘′(z)/2y=\wp'(z)/2 と書けます(℘′2=4℘3−g2℘−g3\wp'^2=4\wp^3-g_2\wp-g_3 で、a=−g2/4a=-g_2/4、b=−g3/4b=-g_3/4)。

このとき dx=℘′(z) dz=2y dzdx=\wp'(z)\,dz=2y\,dz なので、ω=dx/2y=dz\omega=dx/2y=dz です。dzdz はトーラスのどこでも同じ形で、零点も極もありません。平行移動 z↦z+cz\mapsto z+c で変わらないことも分かります。

トーラスの平行移動は、第12回の定義6の足し算を使った写像 P↦P+QP\mapsto P+Q に当たります。ω\omega は、足し算で動かしても変わらない微分形式です(不変微分と呼ばれます)。

平面4次曲線:標準因子は直線との交点

次数が4の平面曲線では、標準因子の次数は正になります。フェルマー曲線で計算します。

例16 フェルマー4次曲線

kk を標数が2でない代数閉体とし、C ⁣:X4+Y4=Z4C\colon X^4+Y^4=Z^4(アフィン部分は x4+y4=1x^4+y^4=1)、ω=dx/y3\omega=dx/y^3 とする。無限遠の4点を Pζ=[1:ζ:0]P_\zeta=[1:\zeta:0](ζ4=−1\zeta^4=-1)と書くと、次が成り立つ。

div⁡(ω)=∑ζ4=−1Pζdeg⁡K=4\operatorname{div}(\omega)=\sum_{\zeta^4=-1}P_\zeta\qquad \deg K=4div⁡(ω)=∑ζ4=−1Pζdeg⁡K=4\begin{gathered}\operatorname{div}(\omega)=\sum_{\zeta^4=-1}P_\zeta\\\deg K=4\end{gathered}div⁡(ω)=∑ζ4=−1Pζdeg⁡K=4\begin{aligned}\operatorname{div}(\omega) &= \sum_{\zeta^4=-1}P_\zeta\\[4pt]\deg K &= 4\end{aligned}

さらに i2=−1i^2=-1 として div⁡(x ω)=(0,1)+(0,−1)+(0,i)+(0,−i)\operatorname{div}(x\,\omega)=(0,1)+(0,-1)+(0,i)+(0,-i) で、これは CC と直線 x=0x=0 の4つの交点である。

証明
  1. CC は非特異である。f=x4+y4−1f=x^4+y^4-1 の偏微分 4x3, 4y34x^3,\ 4y^3 が両方0になるのは原点だけで、原点は CC にない。無限遠の点は3つめのステップで調べる。

    非特異な平面曲線は既約である。既約成分が2つあれば、ベズーの定理(第5回の定理12)から2つは交わり、交点では定義式の偏微分がすべて0になり、特異点になるからである(F=GHF=GH なら ∂F=G ∂H+H ∂G\partial F=G\,\partial H+H\,\partial G)。

  2. アフィン部分では零点も極もない。4x3dx+4y3dy=04x^3dx+4y^3dy=0 から ω=dx/y3=−dy/x3\omega=dx/y^3=-dy/x^3 で、y≠0y\neq0 の点では x−x0x-x_0 が、y=0y=0 の点(x4=1x^4=1)では yy が一意化元になり、係数 1/y31/y^3 か −1/x3-1/x^3 が単元である。
  3. 無限遠点 PζP_\zeta では位数1である。X≠0X\neq0 の地図の座標 z=Z/Xz=Z/X、w=Y/Xw=Y/X で式は 1+w4=z41+w^4=z^4、PζP_\zeta は (z,w)=(0,ζ)(z,w)=(0,\zeta) で、zz が一意化元になる。

    1+w4−z41+w^4-z^4 の ww での偏微分は 4ζ3≠04\zeta^3\neq0 なので、命題12(1) から zz が一意化元である(この点が非特異であることも分かる)。x=1/zx=1/z、y=w/zy=w/z を代入すると

    ω=dxy3=−dzz2⋅z3w3=−zw3 dz\omega=\frac{dx}{y^3}=-\frac{dz}{z^2}\cdot\frac{z^3}{w^3}=-\frac{z}{w^3}\,dzω=dxy3=−dzz2⋅z3w3=−zw3 dz\begin{aligned}\omega &= \frac{dx}{y^3}\\&= -\frac{dz}{z^2}\cdot\frac{z^3}{w^3}\\&= -\frac{z}{w^3}\,dz\end{aligned}

    ww は PζP_\zeta で値 ζ≠0\zeta\neq0 をとるので、位数は ord⁡(z)=1\operatorname{ord}(z)=1。

  4. x ωx\,\omega:x=1/zx=1/z は PζP_\zeta で1位の極なので、xωx\omega の PζP_\zeta での位数は −1+1=0-1+1=0。アフィン部分では xx の零点 (0,±1)(0,\pm1)、(0,±i)(0,\pm i) で位数1である。

    xx の極は無限遠の4点の1位の極だけなので、deg⁡div⁡(x)=0\deg\operatorname{div}(x)=0 から零点の位数の合計は4である。零点は相異なる4点 (0,y)(0,y)(y4=1y^4=1)なので、どれも位数1になる。

同じ計算で、別の直線を使っても標準因子が作れます。k=Ck=\mathbb{C} で ℓ=x+y−1\ell=x+y-1 とすると、CC との交点は次の4点で、div⁡(ℓ ω)\operatorname{div}(\ell\,\omega) はこの4点の和です。

x4+(1−x)4−1=2x(x−1)(x2−x+2)x=0, 1, 1±−72\begin{aligned} &x^4+(1-x)^4-1\\ &\quad=2x(x-1)(x^2-x+2)\\[4pt] &x=0,\ 1,\ \frac{1\pm\sqrt{-7}}{2}\end{aligned}

ℓ=(1+w−z)/z\ell=(1+w-z)/z は PζP_\zeta で1位の極をもち(1+ζ≠01+\zeta\neq0)、ω\omega の1位の零点と打ち消し合います。4つの交点はどれも1位の零点です。xx のときと同じく、ℓ\ell の極は無限遠の4点の1位の極だけなので、零点の位数の合計は4で、相異なる4点に1ずつ配られます。

2つの標準因子の差は、主因子 div⁡(x/ℓ)\operatorname{div}(x/\ell) です。

div⁡(x ω)−div⁡(ℓ ω)=div⁡(xx+y−1)\operatorname{div}(x\,\omega)-\operatorname{div}(\ell\,\omega)=\operatorname{div}\Bigl(\frac{x}{x+y-1}\Bigr)div⁡(x ω)−div⁡(ℓ ω)=div⁡(xx+y−1)\begin{aligned}\operatorname{div}(x\,\omega)-\operatorname{div}(\ell\,\omega) &= \operatorname{div}\Bigl(\frac{x}{x+y-1}\Bigr)\end{aligned}
x=0x=0
x+y=1x+y=1
(0,1)(0,1)
(1,0)(1,0)
(0,−1)(0,-1)
x4+y4=1x^4+y^4=1、ω=dx/y3\omega=dx/y^3
div⁡(x ω)\operatorname{div}(x\,\omega):(0,±1)(0,\pm1) と (0,±i)(0,\pm i)
div⁡((x+y−1) ω)\operatorname{div}((x+y-1)\,\omega):(1,0), (0,1)(1,0),\ (0,1) と虚数の2点
図4具体例x4+y4=1x^4+y^4=1 の実数の点(黒)と、2本の直線 x=0x=0(青)、x+y=1x+y=1(オレンジ)。div⁡(x ω)\operatorname{div}(x\,\omega) は直線 x=0x=0 との交点 (0,±1),(0,±i)(0,\pm1),(0,\pm i)、div⁡((x+y−1) ω)\operatorname{div}((x+y-1)\,\omega) は直線 x+y=1x+y=1 との交点 (1,0),(0,1)(1,0),(0,1) と虚数の2点です。実数の点として見えるのは、どちらも4点のうち2点だけです。直線を動かすと標準因子が線形同値類の中で動きます。交点の座標と、交わりが接していないことは、図を作るプログラムで確かめています。

ω=dx/y3\omega=dx/y^3 自身の因子 ∑Pζ\sum P_\zeta も、無限遠直線 Z=0Z=0 と CC の交点です。ℓ\ell を1次式とすると ℓ ω\ell\,\omega は正則で、因子は直線 ℓ=0\ell=0 との交点(重複度こみ)になります。1,x,y1,x,y は1次独立なので、正則な微分形式は少なくとも3次元あります。ちょうど3次元であること(ω, x ω, y ω\omega,\ x\,\omega,\ y\,\omega の1次結合で尽きること)は、第15回のリーマン・ロッホの定理で分かります。

4次曲線で起きたことは、一般の次数でも起きます。

定理17 [1, 例8.20.3, p.249]

C⊆P2C\subseteq\mathbb{P}^2 を次数 dd の非特異な平面曲線とする。標準因子は、CC と直線の交点(重複度こみ、dd 個)の d−3d-3 倍と線形同値で、deg⁡K=d(d−3)\deg K=d(d-3) である。

d=1,2d=1,2 では C≅P1C\cong\mathbb{P}^1 で deg⁡K=−2\deg K=-2、d=3d=3 では楕円曲線で deg⁡K=0\deg K=0、d=4d=4 では deg⁡K=4\deg K=4 です。どれもこの記事の計算と合います。

次数 dd例deg⁡K=d(d−3)\deg K=d(d-3)正則な微分形式の次元
1, 21,\ 2直線、円錐曲線(≅P1\cong\mathbb{P}^1)−2-200
33楕円曲線 y2=x3+ax+by^2=x^3+ax+b0011
44x4+y4=1x^4+y^4=14433
55x5+y5=1x^5+y^5=1101066

表の右の2列には deg⁡K=2g−2\deg K=2g-2 の関係があります(gg は最後の列の次元)[2, 例1.3.3, p.6]。これを使うと、平面曲線の種数は g=(d−1)(d−2)/2g=(d-1)(d-2)/2 になります。この式は第16回で扱います。

専門的な話一般の次数での計算の流れ

C ⁣:F(X,Y,Z)=0C\colon F(X,Y,Z)=0 を次数 dd の非特異曲線とし、f(x,y)=F(x,y,1)f(x,y)=F(x,y,1) とします。アフィン部分では、楕円曲線と同じ議論で ω0=dx/fy=−dy/fx\omega_0=dx/f_y=-dy/f_x に零点も極もありません。

無限遠の点 PP は、例えば X≠0X\neq0 の地図 z=Z/Xz=Z/X、w=Y/Xw=Y/X に入ります。g(w,z)=F(1,w,z)g(w,z)=F(1,w,z) とおくと、x=1/zx=1/z、y=w/zy=w/z で次のように書き直せます。

fy(x,y)=z1−d gw(w,z)ω0=dxfy=−zd−3 dzgwf_y(x,y)=z^{1-d}\,g_w(w,z)\qquad \omega_0=\frac{dx}{f_y}=-z^{d-3}\,\frac{dz}{g_w}fy(x,y)=z1−d gw(w,z)ω0=dxfy=−zd−3 dzgw\begin{gathered}f_y(x,y)=z^{1-d}\,g_w(w,z)\\\omega_0=\frac{dx}{f_y}=-z^{d-3}\,\frac{dz}{g_w}\end{gathered}fy(x,y)=z1−d gw(w,z)ω0=dxfy=−zd−3 dzgw\begin{aligned}f_y(x,y) &= z^{1-d}\,g_w(w,z)\\[4pt]\omega_0 &= \frac{dx}{f_y}\\&= -z^{d-3}\,\frac{dz}{g_w}\end{aligned}

dz/gwdz/g_w はこの地図の中で零点も極もないので、ord⁡P(ω0)=(d−3)ord⁡P(z)\operatorname{ord}_P(\omega_0)=(d-3)\operatorname{ord}_P(z) です。zz は無限遠直線の式なので、ord⁡P(z)\operatorname{ord}_P(z) は PP での CC と無限遠直線の交点重複度になり、ベズーの定理(第5回の定理12)から合計は dd です。

フェルマー曲線では fy=4y3f_y=4y^3 なので dx/y3=4ω0dx/y^3=4\omega_0 で、d−3=1d-3=1 です。層の言葉では ΩC≅OC(d−3)\Omega_C\cong\mathcal{O}_C(d-3) と書けます[1, 例8.20.3, p.249]。

標準層と直線束

ここまでは1つの微分形式 ω\omega の因子を見てきました。微分形式を開集合ごとに集めると層になります。

開集合 UU の上で正則な微分形式(UU の点で位数が0以上のもの)の全体を ΩC(U)\Omega_C(U) とすると、ΩC\Omega_C は直線束(階数1の局所自由層)です[1, 定理8.15, p.241]。曲線では、これがハーツホーンの標準層 ωC\omega_C です[1, §II.8 定義, p.246]。全体の切断 Γ(C,ΩC)\Gamma(C,\Omega_C) は、正則な微分形式の全体です。

第11回の定義12では、P1\mathbb{P}^1 の因子 DD から直線束 O(D)\mathcal{O}(D) を作りました。同じ式で、どの曲線の因子からも直線束が作れます。K=div⁡(ω)K=\operatorname{div}(\omega) のとき、f↦fωf\mapsto f\omega が同型を与えます。

O(K) → ≅  ΩCf⟼f ω(div⁡(f)+K≥0  ⟺  div⁡(fω)≥0)\mathcal{O}(K)\ \xrightarrow{\ \cong\ }\ \Omega_C\qquad f\longmapsto f\,\omega\qquad\bigl(\operatorname{div}(f)+K\geq0\iff\operatorname{div}(f\omega)\geq0\bigr)O(K) → ≅  ΩCf⟼f ω(div⁡(f)+K≥0  ⟺  div⁡(fω)≥0)\begin{gathered}\mathcal{O}(K)\ \xrightarrow{\ \cong\ }\ \Omega_C\\f\longmapsto f\,\omega\\\bigl(\operatorname{div}(f)+K\geq0\iff\operatorname{div}(f\omega)\geq0\bigr)\end{gathered}

射影直線では K=−2∞K=-2\infty なので ΩP1≅O(−2)\Omega_{\mathbb{P}^1}\cong\mathcal{O}(-2) で、第11回の定義6の O(n)\mathcal{O}(n) で n=−2n=-2 としたものです[1, 例8.20.1, p.248]。O(−2)\mathcal{O}(-2) に0でない大域切断がないこと(第11回の定理7)は、定理11の「正則な微分形式がない」と同じ内容です。

貼り合わせの式で確かめます。微分形式を tt の地図で f dtf\,dt、ss の地図で g dsg\,ds と書くと、dt=−t2 dsdt=-t^2\,ds なので、重なりでは f=−t−2gf=-t^{-2}g です。第11回の O(−2)\mathcal{O}(-2) の貼り合わせ f=t−2gf=t^{-2}g とは符号だけが違い、ss の側で gg を −g-g に取り替えれば一致します。図1の2枚の地図の矢印の違いは、この貼り合わせ方を表しています。

まとめ:微分形式で曲線を見分ける

曲線微分形式 ω\omegadiv⁡(ω)\operatorname{div}(\omega)deg⁡K\deg K正則な微分形式
P1\mathbb{P}^1dtdt−2∞-2\infty−2-200 だけ
楕円曲線dx/2ydx/2y0000c dx/2yc\,dx/2y(1次元)
x4+y4=1x^4+y^4=1dx/y3dx/y^3無限遠の4点44(αx+βy+γ) dx/y3(\alpha x+\beta y+\gamma)\,dx/y^3(3次元)
dd 次の平面曲線dx/fydx/f_y無限遠直線との交点の d−3d-3 倍d(d−3)d(d-3)(d−1)(d−2)/2(d-1)(d-2)/2 次元

微分形式は、一意化元 tt を使えば各点で h dth\,dt と書け、hh の位数がその点での位数でした。地図を取り替えると dt=−s−2 dsdt=-s^{-2}\,ds のように係数が変わり、そこから零点と極が生まれます。

2つの微分形式の比は有理関数なので、標準因子は線形同値類として1つに決まり、次数は曲線の不変量になります。関数の主因子がどの曲線でも次数0だったのに対し、標準因子の次数は −2, 0, 4,…-2,\ 0,\ 4,\dots と曲線ごとに違います。

次回:層のコホモロジー

正則な微分形式の次元は、射影直線で0、楕円曲線で1、平面4次曲線で3でした。この数(種数)を、微分形式を使わずに、構造層 OC\mathcal{O}_C だけから求める方法があります。

手がかりは、第4回の貼り合わせです。2枚の地図の上の関数を、重なりで食い違わないように貼り合わせられるかを考えます。貼り合わせられない食い違いを集めたものが H1(C,OC)H^1(C,\mathcal{O}_C) で、その次元が種数に等しくなります。

次回は、2枚の開集合による被覆から層のコホモロジー H0H^0 と H1H^1 を定義し、射影直線の上の O(n)\mathcal{O}(n) で計算します。この記事の ΩP1≅O(−2)\Omega_{\mathbb{P}^1}\cong\mathcal{O}(-2) も、そこで別の顔を見せます。

参考文献

  1. R. ハーツホーン(高橋宣能・松下大介 訳), 『代数幾何学 1』, 丸善出版, 2013.
  2. R. ハーツホーン(高橋宣能・松下大介 訳), 『代数幾何学 3』, 丸善出版, 2012.