数学ビジュアライズ

代数幾何図で読む代数幾何第8回

方程式の係数を動かす:族とファイバー

スキームの射を定義し、Spec の間の射が環の準同型と同じものであることを確かめます。射の各点の上のファイバーを、方程式のパラメータに値を代入した環として定め、xy=t の双曲線が2本の直線に、ty=x^2 の放物線が2重の直線に変わる族を回せる立体図で見ます。Spec Z[i] から Spec Z への射やブローアップのファイバーも計算します。

目次
  1. 前回の宿題
  2. スキームの射
  3. Spec の射は環の準同型で決まる
  4. ファイバー
  5. 族を数と図で見る
  6. 重なる点と剰余体: と
  7. ブローアップのファイバー
  8. まとめ:族とファイバーの表
  9. 第1回から第8回までを振り返る
  10. 参考文献
この記事の要点
射
スキームの射は、点の写像と、関数を引き戻す環の準同型の組です。引き戻しには、「値が0の関数を、値が0の関数に移す」という条件を付けます。
Spec の射と環準同型
環の準同型 φ ⁣:B→A\varphi\colon B\to A は射 Spec⁡A→Spec⁡B\operatorname{Spec}A\to\operatorname{Spec}B(点では Q↦φ−1(Q)Q\mapsto\varphi^{-1}(Q))を引き起こし、この形の射はすべて環の準同型から来ます。
ファイバー
点 PP の上のファイバーは Spec⁡(A⊗Bκ(P))\operatorname{Spec}(A\otimes_B\kappa(P)) です。AA が方程式で書けているなら、方程式の係数(パラメータ)に PP での値を代入した環になります。
族
1つの射を、底の点ごとのファイバーの族として見ます。xy=txy=t では双曲線が2本の直線に、ty=x2ty=x^2 では放物線が2重の直線に、Spec⁡Z[i]\operatorname{Spec}\mathbb{Z}[i] では2点が重なった点や剰余体の大きい1点に変わります。
  • 証明は、ステップの流れだけを短く書いています。「詳しく」の付いた行をクリックすると、そのステップの詳しい説明が開きます。説明の中にも開ける行があります。
  • 定義・命題・定理には、記事全体で通し番号を振っています。
  • もう少し詳しくは補足、専門的な話は先の回につながる話題です。どちらも開かずに読み進められます。
  • 各ブロックの「AIに質問」を押すと、その部分の内容を入れた質問文で、お使いのAIを開けます。

前回の宿題

第7回では、平面 A2\mathbb{A}^2 の原点をブローアップし、写像 π ⁣:A~2→A2\pi\colon\widetilde{\mathbb{A}}^2\to\mathbb{A}^2 を作りました。原点の上には射影直線 P1\mathbb{P}^1 がまるごと乗り、それ以外の点の上には1点だけが乗っていました。

点ごとに逆像を並べると、A2\mathbb{A}^2 の点を添字にした「空間の族」ができます。ほとんどの点では1点で、原点でだけ射影直線に変わる族です。

ただし、この連載ではまだ一般の写像(射)を定義していません。第4回で定義したのは同型だけです。

この記事では、まずスキームの射を定義し、環の準同型から射が作れることを確かめます。次に、射の点 PP の上のファイバーを定義し、いくつかの族を数と図で見ます。第2回で触れた Spec⁡Z[x]\operatorname{Spec}\mathbb{Z}[x] の還元や、ハーツホーンの放物線の族も、ここでファイバーとして捉え直します。

スキームの射

環はすべて単位元をもつ可換環とし、環の準同型は 1 を 1 に移すものとします。局所環 RR の極大イデアルを MRM_R と書きます。

定義1 局所環付き空間の射 [1, §II.2 定義, p.99–100; 1, p.102]

局所環の準同型 h ⁣:R→Sh\colon R\to S が h−1(MS)=MRh^{-1}(M_S)=M_R をみたすとき、hh を局所準同型と呼ぶ。

局所環付き空間 (X,OX)(X,\mathcal{O}_X) から (Y,OY)(Y,\mathcal{O}_Y) への射とは、連続写像 f ⁣:X→Yf\colon X\to Y と、YY の各開集合 WW に対する環の準同型

fW# ⁣:OY(W)→OX(f−1(W))f^\#_W\colon\mathcal{O}_Y(W)\to\mathcal{O}_X(f^{-1}(W))fW# ⁣:OY(W)→OX(f−1(W))\begin{aligned}f^\#_W\colon\mathcal{O}_Y(W) &\to \mathcal{O}_X(f^{-1}(W))\end{aligned}

の組で、制限と両立し(W′⊆WW'\subseteq W なら fW#(s)∣f−1(W′)=fW′#(s∣W′)f^\#_W(s)|_{f^{-1}(W')}=f^\#_{W'}(s|_{W'}))、各点 P∈XP\in X で茎の写像

fP# ⁣:OY,f(P)→OX,P(W,s)⟼(f−1(W), fW#(s))f^\#_P\colon\mathcal{O}_{Y,f(P)}\to\mathcal{O}_{X,P}\qquad (W,s)\longmapsto\bigl(f^{-1}(W),\,f^\#_W(s)\bigr)fP# ⁣:OY,f(P)→OX,P(W,s)⟼(f−1(W), fW#(s))\begin{gathered}f^\#_P\colon\mathcal{O}_{Y,f(P)}\to\mathcal{O}_{X,P}\\(W,s)\longmapsto\bigl(f^{-1}(W),\,f^\#_W(s)\bigr)\end{gathered}fP# ⁣:OY,f(P)→OX,P(W,s)⟼(f−1(W), fW#(s))\begin{aligned}f^\#_P\colon\mathcal{O}_{Y,f(P)} &\to \mathcal{O}_{X,P}\\[4pt]&(W,s)\longmapsto\bigl(f^{-1}(W),\,f^\#_W(s)\bigr)\end{aligned}

が局所準同型であるものをいう。スキームの間の射をスキームの射と呼ぶ。

第4回の定義2と比べると、同相写像が連続写像に、環の同型が環の準同型に変わり、茎の写像が局所準同型という条件が加わっています。同型の茎の写像は環の同型なので、この条件を自動的にみたします。

ハーツホーンは f#f^\# を順像の層への層の写像として定義しています。開集合ごとに書くと上の形になります。

局所準同型の条件 h−1(MS)=MRh^{-1}(M_S)=M_R は、h(MR)⊆MSh(M_R)\subseteq M_S と同じことです。h−1(MS)h^{-1}(M_S) は 11 を含まない素イデアルなので、極大イデアル MRM_R を含めば MRM_R に等しくなるからです。

茎の極大イデアルは「その点で値が0になる芽」の全体でした(第4回の例4)。そこで局所準同型の条件は、関数の値で言い換えられます。

点 PP での剰余体を κ(P)=OX,P/MP\kappa(P)=\mathcal{O}_{X,P}/M_P、芽 gg の像を値 g(P)g(P) と書きます。X=Spec⁡AX=\operatorname{Spec}A なら OX,P=AP\mathcal{O}_{X,P}=A_P で、AP/PAP≅Frac⁡(A/P)A_P/PA_P\cong\operatorname{Frac}(A/P) なので、第2回の定義2の剰余体と値に一致します。

命題2 射は値を保つ

f ⁣:X→Yf\colon X\to Y を局所環付き空間の射、P∈XP\in X とする。fP#f^\#_P は体の準同型 ι ⁣:κ(f(P))→κ(P)\iota\colon\kappa(f(P))\to\kappa(P) を引き起こし、f(P)f(P) での芽 gg について (fP#g)(P)=ι(g(f(P)))\bigl(f^\#_P g\bigr)(P)=\iota\bigl(g(f(P))\bigr) が成り立つ。とくに、g(f(P))=0g(f(P))=0 と (fP#g)(P)=0\bigl(f^\#_Pg\bigr)(P)=0 は同値である。

証明
  1. fP#f^\#_P は局所準同型なので、Mf(P)M_{f(P)} を MPM_P の中に移す。よって剰余環の間の準同型 ι\iota が決まり、値の式はその定義そのものである。
  2. 体の準同型は単射なので、ι(c)=0\iota(c)=0 と c=0c=0 は同値である。

図式で書くと次のとおりです。縦の矢印は、芽にその点での値を対応させる写像です。

OY,f(P)→fP#OX,P↓↓κ(f(P))→ικ(P)\begin{CD} \mathcal{O}_{Y,f(P)} @>{f^\#_P}>> \mathcal{O}_{X,P} \\ @VVV @VVV \\ \kappa(f(P)) @>>{\iota}> \kappa(P) \end{CD}

局所準同型でない写像では、この図式が作れません。次の例は、全体の上の関数の引き戻しは同じでも、点の行き先によって射になったりならなかったりすることを示しています。

例3 局所準同型でない写像 [1, 例2.3.2, p.102]

Y=Spec⁡Z(5)Y=\operatorname{Spec}\mathbb{Z}_{(5)} は2点 (0)(0)、(5)(5) からなり、開集合は ∅\varnothing、{(0)}=D(5)\{(0)\}=D(5)、YY の3つで、OY(Y)=Z(5)\mathcal{O}_Y(Y)=\mathbb{Z}_{(5)}、OY({(0)})=Q\mathcal{O}_Y(\{(0)\})=\mathbb{Q} である。X=Spec⁡QX=\operatorname{Spec}\mathbb{Q} は1点 ∗\ast からなる。

(1) f1(∗)=(0)f_1(\ast)=(0) とし、fY# ⁣:Z(5)→Qf^\#_Y\colon\mathbb{Z}_{(5)}\to\mathbb{Q} を包含、f{(0)}# ⁣:Q→Qf^\#_{\{(0)\}}\colon\mathbb{Q}\to\mathbb{Q} を恒等写像とする。茎の写像は Q→Q\mathbb{Q}\to\mathbb{Q} の恒等写像で、局所準同型である。

(2) f2(∗)=(5)f_2(\ast)=(5) とし、fY# ⁣:Z(5)→Qf^\#_Y\colon\mathbb{Z}_{(5)}\to\mathbb{Q} を包含、f{(0)}# ⁣:Q→OX(∅)=0f^\#_{\{(0)\}}\colon\mathbb{Q}\to\mathcal{O}_X(\varnothing)=0 とする。f2f_2 は連続で、f#f^\# は制限と両立するので、環付き空間の写像ではある。しかし茎の写像 Z(5)→Q\mathbb{Z}_{(5)}\to\mathbb{Q} で極大イデアル (0)(0) の逆像は (0)≠5Z(5)(0)\neq5\mathbb{Z}_{(5)} なので、局所準同型ではなく、射ではない。

(2) では、関数 5∈Z(5)5\in\mathbb{Z}_{(5)} の点 (5)(5) での値は F5\mathbb{F}_5 の 00 です。ところが引き戻した 5∈Q5\in\mathbb{Q} は、点 ∗\ast で値 5≠05\neq0 をとります。値が0の関数が、値が0でない関数に引き戻されてしまうわけです。

(2) の f2−1({(0)})f_2^{-1}(\{(0)\}) は空集合です。層では空集合の上の環を 00 とするので、f{(0)}#f^\#_{\{(0)\}} は 00 への写像しかありません。

Spec⁡Q\operatorname{Spec}\mathbb{Q}
Spec⁡Z(5)\operatorname{Spec}\mathbb{Z}_{(5)}
(0)(0)
(0)(0)
(5)(5)
射:茎の写像 Q→Q\mathbb{Q}\to\mathbb{Q}
射でない:茎の写像 Z(5)→Q\mathbb{Z}_{(5)}\to\mathbb{Q}
55 の値 0∈F50\in\mathbb{F}_5
55 の値 5≠05\neq0
図1概念図例3の2つの写像。右の Spec⁡Z(5)\operatorname{Spec}\mathbb{Z}_{(5)} は、閉点 (5)(5)(黒)と生成点 (0)(0)(灰色)の2点です。どちらの写像も関数を包含 Z(5)⊆Q\mathbb{Z}_{(5)}\subseteq\mathbb{Q} で引き戻します。生成点に送る緑の矢印は射で、閉点に送るオレンジの破線は、関数 55 の値((5)(5) では 00、引き戻すと 55)が合わないので射ではありません。図の位置には意味がなく、どの点がどの点に移るかだけを描いています。

Spec の射は環の準同型で決まる

アフィンスキームの間の射は、環の準同型と同じものです。族を考えるときに底になる環を BB とし、φ ⁣:B→A\varphi\colon B\to A と書きます。ハーツホーンとは AA と BB の役割が逆なので注意してください。

命題4 [1, 命題2.3(b)(c), p.100–101]

φ ⁣:B→A\varphi\colon B\to A を環の準同型とする。

(1) Q∈Spec⁡AQ\in\operatorname{Spec}A について φ−1(Q)\varphi^{-1}(Q) は BB の素イデアルで、f(Q)=φ−1(Q)f(Q)=\varphi^{-1}(Q) で決まる写像 f ⁣:Spec⁡A→Spec⁡Bf\colon\operatorname{Spec}A\to\operatorname{Spec}B は連続である。実際、BB のイデアル JJ について f−1(V(J))=V(φ(J)A)f^{-1}(V(J))=V(\varphi(J)A) となる。
(2) 各 QQ で、b/s↦φ(b)/φ(s)b/s\mapsto\varphi(b)/\varphi(s) は局所準同型 Bf(Q)→AQB_{f(Q)}\to A_Q を与える。これを茎の写像とするスキームの射 (f,f#)(f,f^\#) がある。
(3) Spec⁡A\operatorname{Spec}A から Spec⁡B\operatorname{Spec}B へのスキームの射は、すべて (2) の形で、ただ1つの環の準同型 φ\varphi から来る。φ\varphi は全体の上の関数の写像 f# ⁣:O(Spec⁡B)=B→O(Spec⁡A)=Af^\#\colon\mathcal{O}(\operatorname{Spec}B)=B\to\mathcal{O}(\operatorname{Spec}A)=A である。

以下では (1) と、(2) の茎の写像が局所準同型であること、(3) で点の写像が φ\varphi で決まることを示します。層の写像 fW#f^\#_W の作り方と、それが φ\varphi で決まることの確認は、ハーツホーンの証明(p.100–101)に任せます。

証明
  1. (1) φ−1(Q)\varphi^{-1}(Q) は素イデアルである。φ(1)=1∉Q\varphi(1)=1\notin Q なので 1∉φ−1(Q)1\notin\varphi^{-1}(Q)。bc∈φ−1(Q)bc\in\varphi^{-1}(Q) なら φ(b)φ(c)∈Q\varphi(b)\varphi(c)\in Q で、QQ が素イデアルなので φ(b)\varphi(b) か φ(c)\varphi(c) が QQ に入る。
  2. 連続性:f(Q)⊇J  ⟺  Q⊇φ(J)  ⟺  Q⊇φ(J)Af(Q)\supseteq J\iff Q\supseteq\varphi(J)\iff Q\supseteq\varphi(J)A なので、f−1(V(J))=V(φ(J)A)f^{-1}(V(J))=V(\varphi(J)A) で、閉集合の逆像は閉集合である。
  3. (2) s∉f(Q)s\notin f(Q) なら φ(s)∉Q\varphi(s)\notin Q なので、φ(s)\varphi(s) は AQA_Q で逆元をもち、写像 Bf(Q)→AQB_{f(Q)}\to A_Q が決まる。

    b/s=b′/s′b/s=b'/s'(ある u∉f(Q)u\notin f(Q) で u(bs′−b′s)=0u(bs'-b's)=0)なら、φ(u)∉Q\varphi(u)\notin Q で φ(u)(φ(b)φ(s′)−φ(b′)φ(s))=0\varphi(u)(\varphi(b)\varphi(s')-\varphi(b')\varphi(s))=0 なので、行き先も等しい。

  4. 局所準同型である。φ(b)/φ(s)∈QAQ  ⟺  φ(b)∈Q  ⟺  b∈f(Q)  ⟺  b/s∈f(Q)Bf(Q)\varphi(b)/\varphi(s)\in QA_Q\iff\varphi(b)\in Q\iff b\in f(Q)\iff b/s\in f(Q)B_{f(Q)}。

    u∉Qu\notin Q は AQA_Q の単元なので、a/u∈QAQa/u\in QA_Q と a/1∈QAQa/1\in QA_Q は同値である。a/1∈QAQ  ⟺  a∈Qa/1\in QA_Q\iff a\in Q は、第4回の命題18の証明で示した。同じことを Bf(Q)B_{f(Q)} でも使う。

  5. (3) 射 (f,f#)(f,f^\#) が与えられたとき、全体の上の関数の写像を φ\varphi とする。各点 QQ で、φ\varphi と茎の写像は局所化と両立し、茎の写像が局所準同型であることから f(Q)=φ−1(Q)f(Q)=\varphi^{-1}(Q) が従う。

    次の図式が可換である。横の矢印は茎の写像と φ\varphi、縦の矢印は全体の関数をその点の芽に送る局所化の写像である。

    B→φA↓↓Bf(Q)→fQ#AQ\begin{CD} B @>{\varphi}>> A \\ @VVV @VVV \\ B_{f(Q)} @>>{f^\#_Q}> A_Q \end{CD}

    b∈Bb\in B について、左下を回ると fQ#(b/1)f^\#_Q(b/1)、右上を回ると φ(b)/1\varphi(b)/1 で、両者は等しい。局所準同型なので b/1∈f(Q)Bf(Q)  ⟺  φ(b)/1∈QAQb/1\in f(Q)B_{f(Q)}\iff\varphi(b)/1\in QA_Q、つまり b∈f(Q)  ⟺  φ(b)∈Qb\in f(Q)\iff\varphi(b)\in Q。よって f(Q)=φ−1(Q)f(Q)=\varphi^{-1}(Q)。

(3) は、茎の写像が局所準同型であることを仮定しないと成り立ちません[1, 警告2.3.0, p.101]。例3(2) は、全体の関数の写像が包含 Z(5)⊆Q\mathbb{Z}_{(5)}\subseteq\mathbb{Q} なのに点を (5)(5) に送っていて、どの環の準同型からも来ません。

点での値でも確かめられます。φ\varphi が引き起こす剰余体の写像は B/f(Q)→A/QB/f(Q)\to A/Q から来る ι ⁣:κ(f(Q))→κ(Q)\iota\colon\kappa(f(Q))\to\kappa(Q) で、命題2の式は次のようになります。

φ(g)(Q)=ι(g(f(Q)))(g∈B)\varphi(g)(Q)=\iota\bigl(g(f(Q))\bigr)\qquad(g\in B)φ(g)(Q)=ι(g(f(Q)))(g∈B)\begin{gathered}\varphi(g)(Q)=\iota\bigl(g(f(Q))\bigr)\\(g\in B)\end{gathered}φ(g)(Q)=ι(g(f(Q)))(g∈B)\begin{aligned}\varphi(g)(Q) &= \iota\bigl(g(f(Q))\bigr)\\[4pt]&(g\in B)\end{aligned}

例5 点の行き先

(1) kk を体とし、φ ⁣:k[t]→A=k[x,y,t]/(xy−t)\varphi\colon k[t]\to A=k[x,y,t]/(xy-t) を自然な写像とする。AA では t=xyt=xy なので A≅k[x,y]A\cong k[x,y] で、φ(t)=xy\varphi(t)=xy である。閉点 Q=(x−2, y−3)Q=(x-2,\ y-3)(点 (2,3)(2,3))は f(Q)=(t−6)f(Q)=(t-6) に移る。

φ(t−6)=xy−6=(x−2) y+2 (y−3)∈Q\varphi(t-6)=xy-6=(x-2)\,y+2\,(y-3)\in Qφ(t−6)=xy−6=(x−2) y+2 (y−3)∈Q\begin{aligned}\varphi(t-6) &= xy-6\\&= (x-2)\,y+2\,(y-3)\in Q\end{aligned}φ(t−6)=xy−6=(x−2) y=+2 (y−3)∈Q\begin{aligned}\varphi(t-6) &= xy-6\\&= (x-2)\,y\\&\phantom{=}{} +2\,(y-3)\in Q\end{aligned}

一般に (x−a, y−b)↦(t−ab)(x-a,\ y-b)\mapsto(t-ab) である。素イデアル (x)(x)(直線 x=0x=0 の生成点)は (t)(t) に、生成点 (0)(0) は (0)(0) に移る。

(2) φ ⁣:Z→Z[x]/(x2+1)=Z[i]\varphi\colon\mathbb{Z}\to\mathbb{Z}[x]/(x^2+1)=\mathbb{Z}[i] とし、Z[i]\mathbb{Z}[i] の点を、x2+1x^2+1 を含む Z[x]\mathbb{Z}[x] の素イデアルで書く。(5, x−2)↦(5)(5,\ x-2)\mapsto(5)、(2, x+1)↦(2)(2,\ x+1)\mapsto(2)、(3, x2+1)↦(3)(3,\ x^2+1)\mapsto(3)、(x2+1)↦(0)(x^2+1)\mapsto(0) である。剰余体の写像は、それぞれ F5→F5\mathbb{F}_5\to\mathbb{F}_5、F2→F2\mathbb{F}_2\to\mathbb{F}_2、F3→F9\mathbb{F}_3\to\mathbb{F}_9、Q→Q(i)\mathbb{Q}\to\mathbb{Q}(i) である。

(3) φ ⁣:k[x,y]→k[x,m]\varphi\colon k[x,y]\to k[x,m]、x↦xx\mapsto x、y↦xmy\mapsto xm とする(第7回のブローアップのチャート)。閉点 (x−a, m−b)(x-a,\ m-b) は (x−a, y−ab)(x-a,\ y-ab) に移る。とくに a=0a=0 なら、bb によらずすべて原点 (x, y)(x,\ y) に移り、直線 x=0x=0 の生成点 (x)(x) も原点に移る。

証明
  1. (1) φ−1(Q)\varphi^{-1}(Q) は t−6t-6 を含む素イデアルで、(t−6)(t-6) は極大イデアルなので、φ−1(Q)=(t−6)\varphi^{-1}(Q)=(t-6)。一般の (a,b)(a,b) でも xy−ab=(x−a)y+a(y−b)xy-ab=(x-a)y+a(y-b) から同じ。
  2. (x)(x) の逆像は、g(xy)∈(x)g(xy)\in(x) となる g(t)g(t)、つまり g(0)=0g(0)=0 となる gg の全体で、(t)(t) である。g(xy)=0g(xy)=0 なら g=0g=0 なので、(0)(0) の逆像は (0)(0)。
  3. (2) 閉点の3つのイデアルは 5,2,35,2,3 を含むので、逆像はそれを含む Z\mathbb{Z} の素イデアル、つまり (5),(2),(3)(5),(2),(3)。(x2+1)(x^2+1) と Z\mathbb{Z} の共通部分は 00 なので、生成点は (0)(0) に移る。剰余体は第2回の例18で求めたとおり。
  4. (3) φ(y−ab)=xm−ab=(x−a)m+a(m−b)\varphi(y-ab)=xm-ab=(x-a)m+a(m-b) と φ(x−a)=x−a\varphi(x-a)=x-a は (x−a, m−b)(x-a,\ m-b) に入るので、極大イデアル (x−a, y−ab)(x-a,\ y-ab) が逆像に含まれ、等しい。(x)(x) の逆像は g(x,xm)∈(x)g(x,xm)\in(x)、つまり g(0,0)=0g(0,0)=0 となる gg の全体で、(x, y)(x,\ y)。

(1) で値を比べます。関数 g=t−6g=t-6 の点 f(Q)=(t−6)f(Q)=(t-6) での値は 00 で、引き戻した φ(g)=xy−6\varphi(g)=xy-6 の点 (2,3)(2,3) での値も 2⋅3−6=02\cdot3-6=0 です。関数 tt は点 t=6t=6 で値 66 をとり、引き戻した xyxy は点 (2,3)(2,3) で値 66 をとります。

(2) で関数 10∈Z10\in\mathbb{Z} を見ると、点 (5)(5) での値は F5\mathbb{F}_5 の 00 です。引き戻した 10∈Z[i]10\in\mathbb{Z}[i] の点 (5, x−2)(5,\ x-2) での値も 00 で、命題2のとおりです。

ファイバー

射 f ⁣:Spec⁡A→Spec⁡Bf\colon\operatorname{Spec}A\to\operatorname{Spec}B の点 PP の上の逆像 f−1(P)f^{-1}(P) は、点の集合としてはすぐ求まります。しかし第2回の xx と x2x^2 の違いのように、点の集合だけでは失われる情報があります。そこで逆像に環を付けてスキームにします。

そのために、2つの環 AA と κ(P)\kappa(P) から1つの環を作るテンソル積 A⊗Bκ(P)A\otimes_B\kappa(P) を使います。テンソル積の一般の定義はここでは述べず、必要な性質(下の命題)だけを使います。

定義6 ファイバー [1, §II.3 定義, p.122]

φ ⁣:B→A\varphi\colon B\to A を環の準同型、f ⁣:Spec⁡A→Spec⁡Bf\colon\operatorname{Spec}A\to\operatorname{Spec}B を対応する射とする。P∈Spec⁡BP\in\operatorname{Spec}B について、B→κ(P)B\to\kappa(P) を値をとる写像とし、

XP=Spec⁡(A⊗Bκ(P))X_P=\operatorname{Spec}\bigl(A\otimes_B\kappa(P)\bigr)XP=Spec⁡(A⊗Bκ(P))\begin{aligned}X_P &= \operatorname{Spec}\bigl(A\otimes_B\kappa(P)\bigr)\end{aligned}

を ff の点 PP の上のファイバーと呼ぶ。PP が Spec⁡B\operatorname{Spec}B の生成点のとき(例えば BB が整域で P=(0)P=(0) のとき)、XPX_P を生成ファイバーと呼ぶ。

本文でテンソル積について使うのは、主に次の命題です。

命題7 パラメータに値を代入する [2, 例2.13 (ii), p.41; 3, 演習問題2.2, p.47]

A=B[x1,…,xn]/(g1,…,gr)A=B[x_1,\dots,x_n]/(g_1,\dots,g_r) とし、P∈Spec⁡BP\in\operatorname{Spec}B とする。gig_i の係数を κ(P)\kappa(P) に移した多項式を gˉi∈κ(P)[x1,…,xn]\bar g_i\in\kappa(P)[x_1,\dots,x_n] と書くと、

A⊗Bκ(P)≅κ(P)[x1,…,xn]≅/(gˉ1,…,gˉr)\begin{aligned} A\otimes_B\kappa(P)&\cong\kappa(P)[x_1,\dots,x_n]\\ &\phantom{{}\cong{}}/(\bar g_1,\dots,\bar g_r) \end{aligned}

である。

証明
  1. 多項式環では B[x1,…,xn]⊗Bκ(P)≅κ(P)[x1,…,xn]B[x_1,\dots,x_n]\otimes_B\kappa(P)\cong\kappa(P)[x_1,\dots,x_n] で、g⊗1g\otimes1 は gˉ\bar g に移る。
  2. 剰余環とのテンソル積は (R/J)⊗RM≅M/JM(R/J)\otimes_RM\cong M/JM で、R=B[x]R=B[x]、J=(g1,…,gr)J=(g_1,\dots,g_r)、M=κ(P)[x]M=\kappa(P)[x] とすると、右辺は κ(P)[x]/(gˉ1,…,gˉr)\kappa(P)[x]/(\bar g_1,\dots,\bar g_r) になる。

    A⊗Bκ(P)≅A⊗B[x](B[x]⊗Bκ(P))=(B[x]/J)⊗B[x]κ(P)[x]A\otimes_B\kappa(P)\cong A\otimes_{B[x]}\bigl(B[x]\otimes_B\kappa(P)\bigr)=(B[x]/J)\otimes_{B[x]}\kappa(P)[x] と書き直してから、上の同型を使う。Jκ(P)[x]J\kappa(P)[x] は gig_i の像 gˉi\bar g_i で生成される。

つまり、ファイバーの環は「方程式の係数を、点 PP での値に取り替えた環」です。B=k[t]B=k[t] の閉点 P=(t−c)P=(t-c) では κ(P)=k\kappa(P)=k で、tt に cc を代入します。生成点 P=(0)P=(0) では κ(P)=k(t)\kappa(P)=k(t) で、tt を有理関数体の元として残します。

k[x,y,t]/(xy−t) ⊗k[t] k[t]/(t−c)≅k[x,y]/(xy−c)k[x,y,t]/(xy−t) ⊗k[t] k(t)≅k(t)[x,y]/(xy−t)Z[x]/(x2+1) ⊗Z Fp≅Fp[x]/(x2+1)\begin{aligned} &k[x,y,t]/(xy-t)\ \otimes_{k[t]}\ k[t]/(t-c)\\ &\qquad\cong k[x,y]/(xy-c)\\[4pt] &k[x,y,t]/(xy-t)\ \otimes_{k[t]}\ k(t)\\ &\qquad\cong k(t)[x,y]/(xy-t)\\[4pt] &\mathbb{Z}[x]/(x^2+1)\ \otimes_{\mathbb{Z}}\ \mathbb{F}_p\\ &\qquad\cong \mathbb{F}_p[x]/(x^2+1)\end{aligned}

第2回で、Spec⁡Z[x]→Spec⁡Z\operatorname{Spec}\mathbb{Z}[x]\to\operatorname{Spec}\mathbb{Z} の点 (p)(p) の上のファイバーを V(p)≅Spec⁡Fp[x]V(p)\cong\operatorname{Spec}\mathbb{F}_p[x] と呼びました(第2回の例16のあとの段落)。これは今の定義で Z[x]⊗ZFp≅Fp[x]\mathbb{Z}[x]\otimes_{\mathbb{Z}}\mathbb{F}_p\cong\mathbb{F}_p[x] としたものと同じです。

ファイバーの点は、確かに f−1(P)f^{-1}(P) の点です。

命題8 [1, 演習3.10(a), p.126; 3, 演習問題3.21 iv), p.72]

a↦a⊗1a\mapsto a\otimes1 が引き起こす XP→Spec⁡AX_P\to\operatorname{Spec}A は、XPX_P から f−1(P)f^{-1}(P) への同相写像である。

ここでは、点の集合として f−1(P)f^{-1}(P) と1対1に対応することを、PP が極大イデアルの場合と、BB が整域で φ\varphi が単射、P=(0)P=(0) の場合に示します。一般の場合と、位相が一致することの証明は略します。

証明
  1. P=MP=M が極大イデアルのとき、κ(M)=B/M\kappa(M)=B/M で、A⊗BB/M≅A/MAA\otimes_BB/M\cong A/MA(MAMA は φ(M)\varphi(M) で生成した AA のイデアル)。A/MAA/MA の素イデアルは、MAMA を含む AA の素イデアル QQ と対応する。
  2. Q⊇MA  ⟺  φ−1(Q)⊇M  ⟺  φ−1(Q)=MQ\supseteq MA\iff\varphi^{-1}(Q)\supseteq M\iff\varphi^{-1}(Q)=M。最後は、φ−1(Q)\varphi^{-1}(Q) が 11 を含まない素イデアルで、MM が極大だから。
  3. BB が整域で P=(0)P=(0) のとき、κ(P)=Frac⁡B\kappa(P)=\operatorname{Frac}B で、A⊗BFrac⁡BA\otimes_B\operatorname{Frac}B は AA を S=φ(B∖{0})S=\varphi(B\setminus\{0\}) で局所化した環 S−1AS^{-1}A である。

    BB 加群 AA の局所化と係数拡大の同型 (B∖{0})−1A≅Frac⁡B⊗BA(B\setminus\{0\})^{-1}A\cong\operatorname{Frac}B\otimes_BA による[3, 命題3.5, p.60]。φ\varphi が単射なので 0∉S0\notin S である(単射でないと SS が 00 を含み、環が 00 になってファイバーは空になる)。

  4. S−1AS^{-1}A の素イデアルは、SS と交わらない AA の素イデアル QQ と対応する[3, 命題3.11 iv), p.63]。Q∩S=∅  ⟺  φ−1(Q)∩(B∖{0})=∅  ⟺  φ−1(Q)=(0)Q\cap S=\varnothing\iff\varphi^{-1}(Q)\cap(B\setminus\{0\})=\varnothing\iff\varphi^{-1}(Q)=(0)。

環の側では次の四角形が可換で、Spec をとると矢印が逆になります。Spec⁡κ(P)\operatorname{Spec}\kappa(P) は1点で、その点は PP に移ります。

B→φA↓↓κ(P)→A⊗Bκ(P)XP→Spec⁡A↓↓fSpec⁡κ(P)→Spec⁡B{}\begin{gathered} \begin{CD} B @>{\varphi}>> A \\ @VVV @VVV \\ \kappa(P) @>>> A\otimes_B\kappa(P) \end{CD}\\[8pt] \begin{CD} X_P @>>> \operatorname{Spec}A \\ @VVV @VV{f}V \\ \operatorname{Spec}\kappa(P) @>>> \operatorname{Spec}B \end{CD} \end{gathered}

ハーツホーンは、ファイバーを「射の点 yy の上の、k(y)k(y) 上のスキーム」とし、射を「底の点で添字付けられたファイバーの族」と見る考え方を紹介しています[1, p.122]。この記事でもその見方で、射を族と呼びます。

専門的な話ファイバー積によるファイバーの定義

ハーツホーンは、ファイバーを一般のスキームの射 f ⁣:X→Yf\colon X\to Y について Xy=X×YSpec⁡k(y)X_y=X\times_Y\operatorname{Spec}k(y) と定義しています[1, §II.3 定義, p.122]。X×YZX\times_YZ はファイバー積で、XX と ZZ への射の組を1つの射にまとめる普遍性で定義されます[1, §II.3 定義, p.119]。

ファイバー積はいつも存在し、すべてアフィンなら Spec⁡A×Spec⁡BSpec⁡C=Spec⁡(A⊗BC)\operatorname{Spec}A\times_{\operatorname{Spec}B}\operatorname{Spec}C=\operatorname{Spec}(A\otimes_BC) です[1, 定理3.3, p.120]。C=κ(P)C=\kappa(P) とすると、定義6に一致します。

XX がアフィンでないときは、XX をアフィンな開集合 Spec⁡Ai\operatorname{Spec}A_i で覆い、各 Spec⁡Ai→Spec⁡B\operatorname{Spec}A_i\to\operatorname{Spec}B のファイバーを貼り合わせたものが XPX_P になります(定理3.3 の証明でも、アフィンな場合のファイバー積を貼り合わせて一般の場合を作っています)。ブローアップの例は、この形で計算します。

族を数と図で見る

底を直線 Spec⁡k[t]\operatorname{Spec}k[t] とする族を2つ見ます。どちらも、tt が0でない点の上ではよく知った曲線で、t=0t=0 の上だけ形が変わります。

例9 双曲線の族 xy=txy=t [1, 例3.3.2, p.124]

kk を体、X=Spec⁡k[x,y,t]/(xy−t)X=\operatorname{Spec}k[x,y,t]/(xy-t)、f ⁣:X→Spec⁡k[t]f\colon X\to\operatorname{Spec}k[t] とする。

(1) c≠0c\neq0 のとき、ファイバーは Spec⁡k[x,y]/(xy−c)\operatorname{Spec}k[x,y]/(xy-c) で、k[x,y]/(xy−c)≅k[x,1/x]k[x,y]/(xy-c)\cong k[x,1/x](y↦c/xy\mapsto c/x)は整域である。ファイバーは既約な双曲線 xy=cxy=c である。

(2) c=0c=0 のとき、ファイバーは Spec⁡k[x,y]/(xy)\operatorname{Spec}k[x,y]/(xy) で、2本の直線 V(x)V(x) と V(y)V(y) が原点で交わったもの(既約でないが、被約)である。

(3) 生成ファイバーは Spec⁡k(t)[x,y]/(xy−t)\operatorname{Spec}k(t)[x,y]/(xy-t) で、k(t)[x,y]/(xy−t)≅k(t)[x,1/x]k(t)[x,y]/(xy-t)\cong k(t)[x,1/x] は整域である。

証明
  1. (1) y↦c/xy\mapsto c/x は全射 k[x,y]/(xy−c)→k[x,1/x]k[x,y]/(xy-c)\to k[x,1/x] を与える(1/x1/x は y/cy/c の像)。これが単射であることを示す。

    k[x,y]/(xy−c)k[x,y]/(xy-c) では xy=cxy=c なので、xiyjx^iy^j(i,j≥1i,j\geq1)は xi−1yj−1x^{i-1}y^{j-1} の cc 倍になる。よって、どの元も xix^i(i≥0i\geq0)と yjy^j(j≥1j\geq1)の1次結合で書ける。

    それらの像 xix^i と cjx−jc^jx^{-j} は k[x,1/x]k[x,1/x] の異なる基底ベクトルの0でない定数倍なので、1次独立である。よって0でない元は0に移らない。

  2. (3) は (1) の kk を k(t)k(t) に、cc を tt(k(t)k(t) の0でない元)に取り替えた同じ計算である。
  3. (2) (xy)=(x)∩(y)(xy)=(x)\cap(y) で、(x),(y)(x),(y) は素イデアルなので V(xy)=V(x)∪V(y)V(xy)=V(x)\cup V(y)。k[x,y]/(xy)k[x,y]/(xy) にはべき零元がない(gn∈(xy)g^n\in(xy) なら x∣gx\mid g かつ y∣gy\mid g で、x,yx,y は互いに素なので xy∣gxy\mid g)。

k=Qk=\mathbb{Q} として数を入れると、ファイバー t=6t=6 には (2,3)(2,3)、(3,2)(3,2)、(1,6)(1,6)、(−2,−3)(-2,-3)、(1/2, 12)(1/2,\ 12) などの点があります。例5(1) で、点 (2,3)(2,3) が t=6t=6 に移ることを計算しました。

XX は k[x,y]k[x,y] の Spec と同型でした。この族は、平面 A2\mathbb{A}^2 を関数 xyxy の値で切り分けたもので、ファイバーは関数 xyxy の等高線です。

ドラッグで回せます

青い曲面が xy=txy=t の実数の点(縦軸が tt)で、灰色の線は t=0.6, 0.25, 0, −0.4t=0.6,\ 0.25,\ 0,\ -0.4 の切り口です。「真上」から見ると切り口は平面の双曲線の族(関数 xyxy の等高線)として重なり、「正面」から見ると高さ tt の水平な線に並びます。射 (x,y,t)↦t(x,y,t)\mapsto t は、高さを読む写像です。

t=0.6t=0.6 の上のファイバーは双曲線 xy=0.6xy=0.6 です。矢印の先が、底の直線 Spec⁡k[t]\operatorname{Spec}k[t] の点 t=0.6t=0.6 です。実数の点は2本の枝に分かれますが、k[x,y]/(xy−0.6)≅k[x,1/x]k[x,y]/(xy-0.6)\cong k[x,1/x] は整域なので、ファイバーは既約です。

t=0.25t=0.25 では、双曲線が原点に近づきます。黒い点 (1,0.25)(1,0.25) は xy=0.25xy=0.25 をみたし、射で点 t=0.25t=0.25 に移ります。

t=0t=0 のファイバーは xy=0xy=0、つまり2本の直線 x=0x=0 と y=0y=0 です(緑)。双曲線の2本の枝が、原点で交わる2本の直線になりました。既約でないファイバーです。

t=−0.4t=-0.4 では、枝が反対側の象限に移ります。tt が正から0を通って負になるとき、双曲線は2本の直線を経て向きを変えます。

図2具体例例9の族を、tt を縦にして描いた図です。曲面 xy=txy=t を高さ t=ct=c で切った切り口がファイバーで、右手前の縦の線が底の直線 Spec⁡k[t]\operatorname{Spec}k[t] です。「真上」から見ると切り口は平面の双曲線の族として重なり、「正面」から見ると高さ cc ごとに並びます。射 (x,y,t)↦t(x,y,t)\mapsto t は、この縦の射影です。回すと、等高線の図と族の図が同じものだと分かります。実数の点だけを描いています。

次は、ハーツホーンが「被約でないスキームが自然に現れる例」として挙げている族です。ハーツホーンに合わせて、底の座標を tt、閉点を a∈ka\in k と書きます。

例10 放物線の族 ty=x2ty=x^2 [1, 例3.3.1, p.123]

kk を代数閉体、X=Spec⁡k[x,y,t]/(ty−x2)X=\operatorname{Spec}k[x,y,t]/(ty-x^2)、f ⁣:X→Spec⁡k[t]f\colon X\to\operatorname{Spec}k[t] とする。

(1) a≠0a\neq0 のとき、ファイバーは放物線 ay=x2ay=x^2 で、k[x,y]/(ay−x2)≅k[x]k[x,y]/(ay-x^2)\cong k[x](y↦x2/ay\mapsto x^2/a)である。

(2) a=0a=0 のとき、ファイバーは Spec⁡k[x,y]/(x2)\operatorname{Spec}k[x,y]/(x^2) で、点の集合は直線 V(x)V(x)(yy 軸)だが、xx は0でないべき零元である。

(3) b∈kb\in k とし、直線 y=by=b とファイバーの交わりの環は k[x]/(x2−ab)k[x]/(x^2-ab) である。ab≠0ab\neq0 なら2点 x=±abx=\pm\sqrt{ab}(標数 ≠2\neq2 のとき)、a=0a=0 なら重なった点 k[x]/(x2)k[x]/(x^2) になる。

証明
  1. (1) ay−x2=a (y−x2/a)ay-x^2=a\,(y-x^2/a) で aa は単元なので、k[x,y]/(ay−x2)=k[x,y]/(y−x2/a)≅k[x]k[x,y]/(ay-x^2)=k[x,y]/(y-x^2/a)\cong k[x](y↦x2/ay\mapsto x^2/a)。
  2. (2) は 命題7で t=0t=0 とおいた環 k[x,y]/(−x2)=k[x,y]/(x2)k[x,y]/(-x^2)=k[x,y]/(x^2)。素イデアルは (x)(x) を含むものなので、点の集合は V(x)V(x)。
  3. (3) k[x,y]/(ay−x2, y−b)≅k[x]/(ab−x2)k[x,y]/(ay-x^2,\ y-b)\cong k[x]/(ab-x^2)(y↦by\mapsto b)。あとは第2回の命題15で c=abc=ab としたもの。

k=Ck=\mathbb{C} として数を入れます。線 y=4y=4 との交点は、a=1a=1 なら x2=4x^2=4 で x=±2x=\pm2、a=1/4a=1/4 なら x2=1x^2=1 で x=±1x=\pm1、a=1/16a=1/16 なら x=±1/2x=\pm1/2 です。a→0a\to0 で2点が近づき、a=0a=0 で重なった点になります。

(2) のファイバーは、第2回の例14の重なった点 k[x]/(x2)k[x]/(x^2) を、yy 軸に沿って並べたものです。xx と x2x^2 の違い(第1回からの宿題)が、ここでは族の極限として現れます。

ハーツホーンは、XX も底も整で、ff が全射なのに、1つだけ被約でないファイバーがある族として、この例を挙げています。XX が整という性質は、ファイバーに受け継がれないということです[1, p.123]。

ドラッグで回せます

青い曲面が ty=x2ty=x^2 の実数の点(原点を頂点とする錐)で、灰色の線は t=1, 0.3, 0.08, 0, −0.6t=1,\ 0.3,\ 0.08,\ 0,\ -0.6 の切り口です。「真上」から見ると放物線の族が重なり、tt が0に近いものほど細くなって yy 軸に寄っていきます。「真横」から見ると、切り口は高さ tt ごとに並んでいます。

t=1t=1 の上のファイバーは放物線 y=x2y=x^2 です。黒い線 y=1.2y=1.2 とは、x=±1.2≈±1.10x=\pm\sqrt{1.2}\approx\pm1.10 の2点で交わります。

t=0.3t=0.3 では放物線 0.3y=x20.3y=x^2 が細くなり、線 y=1.2y=1.2 との交点は x=±0.36=±0.6x=\pm\sqrt{0.36}=\pm0.6 です。

t=0.08t=0.08 では交点が x=±0.096≈±0.31x=\pm\sqrt{0.096}\approx\pm0.31 まで近づきます。

t=0t=0 のファイバーは x2=0x^2=0 です。点の集合としては yy 軸(紫)ですが、環 k[x,y]/(x2)k[x,y]/(x^2) には0でない xx が残っています。このファイバーは、yy 軸を「2重に」数えたものです。線 y=1.2y=1.2 との交わりも、2点がぶつかった重なった点 k[x]/(x2)k[x]/(x^2) になります。

図3具体例例10の族。曲面 ty=x2ty=x^2 は原点を頂点とする錐で、高さ t=at=a の切り口が放物線 ay=x2ay=x^2 です。段階を進めると、放物線が細くなり、線 y=1.2y=1.2(黒)との2つの交点が近づいて、a=0a=0 で yy 軸(紫)の上の1点に重なります。「真上」から見ると、平面の放物線の族が重なって見えます。「真横」から見ると、それが高さ aa ごとの切り口に分かれます。実数の点だけを描いています。

図3の a<0a<0 の切り口(灰色)は、下に開いた放物線です。ab<0ab<0 なら x2=abx^2=ab は実数の解をもたず、交点は図から消えますが、複素数では2点 ±i∣ab∣\pm i\sqrt{|ab|} があります。第2回の図3と同じ現象です。

重なる点と剰余体:x2=tx^2=t と Spec⁡Z[i]\operatorname{Spec}\mathbb{Z}[i]

ファイバーが有限個の点になる族を2つ並べます。1つは直線 Spec⁡k[t]\operatorname{Spec}k[t] の上、もう1つは Spec⁡Z\operatorname{Spec}\mathbb{Z} の上の族で、同じ種類のファイバーが現れます。

例11 x2=tx^2=t [1, 演習3.10(b), p.126]

kk を標数が2でない代数閉体とし、φ ⁣:k[t]→k[x]\varphi\colon k[t]\to k[x]、t↦x2t\mapsto x^2 が引き起こす射 f ⁣:Spec⁡k[x]→Spec⁡k[t]f\colon\operatorname{Spec}k[x]\to\operatorname{Spec}k[t] を考える。ファイバーの環は k[x]⊗k[t]κ(P)≅κ(P)[x]/(x2−t)k[x]\otimes_{k[t]}\kappa(P)\cong\kappa(P)[x]/(x^2-t) で、

(1) c≠0c\neq0 の上では k[x]/(x2−c)≅k×kk[x]/(x^2-c)\cong k\times k:2点 x=±cx=\pm\sqrt c。
(2) c=0c=0 の上では k[x]/(x2)k[x]/(x^2):重なった1点。
(3) 生成点の上では k(t)[x]/(x2−t)k(t)[x]/(x^2-t):これは k(t)k(t) の2次の拡大体で、ファイバーは剰余体が2次に広がった1点。

証明
  1. (1)(2) は 命題7と第2回の命題15。
  2. (3) x2−tx^2-t は k(t)k(t) に根をもたないので既約で、k(t)[x]/(x2−t)k(t)[x]/(x^2-t) は体である。

    t=(p/q)2t=(p/q)^2(p,q∈k[t]p,q\in k[t]、q≠0q\neq0)とすると tq2=p2tq^2=p^2 で、左辺の次数は奇数、右辺は偶数になり矛盾する。2次式は根をもたなければ既約で、既約多項式で割った剰余環は体である。

標数が2なら、x2−c=(x−c)2x^2-c=(x-\sqrt c)^2 なので、どの閉点の上のファイバーも重なった点になります。2点に分かれる族になるのは、標数が2でないときだけです。

例12 Spec⁡Z[i]→Spec⁡Z\operatorname{Spec}\mathbb{Z}[i]\to\operatorname{Spec}\mathbb{Z}

Z→Z[x]/(x2+1)=Z[i]\mathbb{Z}\to\mathbb{Z}[x]/(x^2+1)=\mathbb{Z}[i] が引き起こす射のファイバーの環は、Fp[x]/(x2+1)\mathbb{F}_p[x]/(x^2+1)(点 (p)(p) の上)と Q[x]/(x2+1)=Q(i)\mathbb{Q}[x]/(x^2+1)=\mathbb{Q}(i)(生成点の上)である。

  • p=2p=2:x2+1=(x+1)2x^2+1=(x+1)^2 なので、重なった1点 (2, x+1)(2,\ x+1)。
  • p=5p=5:x2+1=(x−2)(x+2)x^2+1=(x-2)(x+2) なので2点。p=13p=13 も (x−5)(x+5)(x-5)(x+5) で2点。剰余体はどれも Fp\mathbb{F}_p。
  • p=3,7p=3,7:x2+1x^2+1 は既約なので1点で、剰余体は F9\mathbb{F}_9、F49\mathbb{F}_{49}。
  • 生成点:Q(i)\mathbb{Q}(i) は体なので1点で、剰余体は Q\mathbb{Q} の2次の拡大体。
証明
  1. 命題7で、係数を Fp\mathbb{F}_p または Q\mathbb{Q} に移す。Fp\mathbb{F}_p での分解は第2回の例18で計算した(22+1=52^2+1=5、52+1=26=2⋅135^2+1=26=2\cdot13)。
  2. x2+1x^2+1 は Q\mathbb{Q} に根をもたないので既約で、Q[x]/(x2+1)\mathbb{Q}[x]/(x^2+1) は体 Q(i)\mathbb{Q}(i) である。

第2回では、同じ計算を「曲線 V(x2+1)V(x^2+1) と縦の線 V(p)V(p) の交わり」として見ました。今回はそれを、射 Spec⁡Z[i]→Spec⁡Z\operatorname{Spec}\mathbb{Z}[i]\to\operatorname{Spec}\mathbb{Z} のファイバーとして見ています。素数を 59 まで調べると、4で割って1余る素数では2点、3余る素数では剰余体が Fp2\mathbb{F}_{p^2} の1点になります(計算機で確かめました。図4のプログラムも 13 までを確かめています)。

…
(0)(0)
Spec⁡Z\operatorname{Spec}\mathbb{Z}
Spec⁡Z[i]\operatorname{Spec}\mathbb{Z}[i]
(2)(2)
x=1x=1
(x+1)2(x+1)^2
(3)(3)
F9\mathbb{F}_{9}
既約
(5)(5)
x=−2x=-2
x=2x=2
(x−2)(x+2)(x-2)(x+2)
(7)(7)
F49\mathbb{F}_{49}
既約
(11)(11)
F121\mathbb{F}_{121}
既約
(13)(13)
x=−5x=-5
x=5x=5
(x−5)(x+5)(x-5)(x+5)
Q(i)\mathbb{Q}(i)
既約
上段:x2+1x^2+1 を Fp\mathbb{F}_p で分解した形 点の横の数:根 xx(剰余体 Fp\mathbb{F}_p)
紫:剰余体 Fp2\mathbb{F}_{p^2} の1点 オレンジの輪:重なった点 灰色:生成点
図4概念図Spec⁡Z[i]→Spec⁡Z\operatorname{Spec}\mathbb{Z}[i]\to\operatorname{Spec}\mathbb{Z} のファイバー。下の横線が Spec⁡Z\operatorname{Spec}\mathbb{Z} で、各素数 (p)(p) の上の縦の列がファイバーです。黒い点は剰余体 Fp\mathbb{F}_p の点で、横の数は Fp\mathbb{F}_p での根です。紫の点は剰余体 Fp2\mathbb{F}_{p^2} の1点、オレンジの輪は重なった点、右端の灰色は生成点 (0)(0) とその上の1点 Q(i)\mathbb{Q}(i) です。上の点が下の点に移ることを、灰色の矢印で表しています。列の中の位置は点を区別するためだけのもので、意味はありません。生成点は、第2回の約束どおり灰色の雲で描いています。

2つの族を並べると、ファイバーの種類がぴったり対応します。どの行でも、ファイバーの環は κ(P)\kappa(P) 上2次元です。

ファイバーx2=tx^2=t(底 Spec⁡k[t]\operatorname{Spec}k[t])x2=−1x^2=-1(底 Spec⁡Z\operatorname{Spec}\mathbb{Z})
2点t=c≠0t=c\neq0:k×kk\times kp≡1(mod4)p\equiv1\pmod4:Fp×Fp\mathbb{F}_p\times\mathbb{F}_p
重なった1点t=0t=0:k[x]/(x2)k[x]/(x^2)p=2p=2:F2[x]/((x+1)2)\mathbb{F}_2[x]/\bigl((x+1)^2\bigr)
剰余体が2次の1点生成点:k(t)(t)k(t)(\sqrt t)p≡3(mod4)p\equiv3\pmod4:Fp2\mathbb{F}_{p^2}、生成点:Q(i)\mathbb{Q}(i)

2次元になるのは、k[x]k[x] が k[t]k[t] 加群として 1,x1,x を基底にもち、Z[i]\mathbb{Z}[i] が Z\mathbb{Z} 加群として 1,i1,i を基底にもつからです。テンソル積をとっても基底はそのまま残ります。

k[x]=k[t]⋅1⊕k[t]⋅xZ[i]=Z⋅1⊕Z⋅iZ[i]⊗ZFp=Fp⋅1⊕Fp⋅xk[x]=k[t]\cdot1\oplus k[t]\cdot x\qquad \mathbb{Z}[i]=\mathbb{Z}\cdot1\oplus\mathbb{Z}\cdot i\qquad \mathbb{Z}[i]\otimes_{\mathbb{Z}}\mathbb{F}_p=\mathbb{F}_p\cdot1\oplus\mathbb{F}_p\cdot xk[x]=k[t]⋅1⊕k[t]⋅xZ[i]=Z⋅1⊕Z⋅iZ[i]⊗ZFp=Fp⋅1⊕Fp⋅x\begin{gathered}k[x]=k[t]\cdot1\oplus k[t]\cdot x\\\mathbb{Z}[i]=\mathbb{Z}\cdot1\oplus\mathbb{Z}\cdot i\\\mathbb{Z}[i]\otimes_{\mathbb{Z}}\mathbb{F}_p=\mathbb{F}_p\cdot1\oplus\mathbb{F}_p\cdot x\end{gathered}k[x]=k[t]⋅1⊕k[t]⋅xZ[i]=Z⋅1⊕Z⋅iZ[i]⊗ZFp=Fp⋅1⊕Fp⋅x\begin{aligned}k[x] &= k[t]\cdot1\oplus k[t]\cdot x\\[4pt]\mathbb{Z}[i] &= \mathbb{Z}\cdot1\oplus\mathbb{Z}\cdot i\\[4pt]\mathbb{Z}[i]\otimes_{\mathbb{Z}}\mathbb{F}_p &= \mathbb{F}_p\cdot1\oplus\mathbb{F}_p\cdot x\end{aligned}

点の数は1か2に変わりますが、「重さ」(重なった点は2)と「剰余体の次数」(Fp2\mathbb{F}_{p^2} は2)を掛けて数えると、いつも2です。例えば p=5p=5 では 1+11+1、p=2p=2 では 2×12\times1、p=3p=3 では 1×21\times2 です。

整数論では、pp の上で2点に分かれることを「分解する」、重なった点になることを「分岐する」、剰余体が大きくなる1点のままであることを「惰性的」と呼びます。x2=tx^2=t の族の t=0t=0 は、分岐点にあたります。

ブローアップのファイバー

最後に、前回の宿題だったブローアップ π ⁣:A~2→A2\pi\colon\widetilde{\mathbb{A}}^2\to\mathbb{A}^2 のファイバーを計算します。A~2\widetilde{\mathbb{A}}^2 はアフィンでないので、2枚のチャートで計算して貼り合わせます。

例13 ブローアップのファイバー

kk を体とする。A~2\widetilde{\mathbb{A}}^2 を2枚のチャート Spec⁡k[x,m]\operatorname{Spec}k[x,m](y=xmy=xm)と Spec⁡k[y,n]\operatorname{Spec}k[y,n](x=ynx=yn)で覆い、重なりでは n=1/mn=1/m とする。点 (a,b)∈k2(a,b)\in k^2 の上のファイバーの環は、チャートごとに次のとおりである。

k[x,m]/(x−a, xm−b)≅k[m]/(am−b)k[y,n]/(y−b, yn−a)≅k[n]/(bn−a)\begin{aligned} &k[x,m]/(x-a,\ xm-b)\\ &\qquad\cong k[m]/(am-b)\\[4pt] &k[y,n]/(y-b,\ yn-a)\\ &\qquad\cong k[n]/(bn-a) \end{aligned}

(1) (a,b)≠(0,0)(a,b)\neq(0,0) なら、ファイバーは1点で、剰余体は kk である(a≠0a\neq0 なら m=b/am=b/a、b≠0b\neq0 なら n=a/bn=a/b)。
(2) 原点の上では、2つのチャートのファイバーは Spec⁡k[m]\operatorname{Spec}k[m] と Spec⁡k[n]\operatorname{Spec}k[n] で、これを n=1/mn=1/m で貼り合わせたもの、つまり射影直線 P1\mathbb{P}^1 である。

証明
  1. チャートの式は 命題7で x=ax=a、y=by=b を代入したもの。
  2. (1) a≠0a\neq0 なら k[m]/(am−b)≅kk[m]/(am-b)\cong k(m↦b/am\mapsto b/a)。a=0a=0、b≠0b\neq0 なら k[m]/(−b)=0k[m]/(-b)=0 でこのチャートには点がなく、もう一方で k[n]/(bn)≅kk[n]/(bn)\cong k(n=0n=0)。ab≠0ab\neq0 の点は両方のチャートに現れるが、n=a/b=1/mn=a/b=1/m なので同じ点である。
  3. (2) a=b=0a=b=0 なら環は k[m]k[m] と k[n]k[n] で、重なりの同一視 n=1/mn=1/m は第4回の例10の貼り合わせ s=1/ts=1/t と同じである。

例えば k=Qk=\mathbb{Q} なら、点 (2,6)(2,6) の上のファイバーは、m=3m=3(n=1/3n=1/3)の1点です。傾き3の直線 y=3xy=3x が、点 (2,6)(2,6) を通る原点からの直線だからです。点 (0,5)(0,5) の上は、2つめのチャートの n=0n=0 の1点で、これは縦の直線 x=0x=0 の方向にあたります。

kk が代数閉体なら、原点の上のファイバーの閉点は、原点を通る直線の方向 [u0:u1][u_0:u_1] の全体です。m=u1/u0m=u_1/u_0、n=u0/u1n=u_0/u_1 で、第7回の例外曲線 EE がこのファイバーです(第7回の命題4)。

例5(3) で、チャートの直線 x=0x=0 が丸ごと原点に移ることを見ました。ここではそれが、原点の上のファイバーが1点でなく直線になることとして現れています。

専門的な話平坦性:ファイバーが跳ねない族

族の「よさ」を測る条件として、ハーツホーンは平坦性を使います[4, §III.9, p.72–73]。環の準同型 B→AB\to A が平坦であるとは、BB 加群の単射 N′→NN'\to N に A⊗B−A\otimes_B- を施しても単射のままであることです。

底が k[t]k[t] や Z\mathbb{Z}(単項イデアル整域)なら、平坦であることは「AA にねじれがない」こと、つまり 00 でない b∈Bb\in B と 00 でない a∈Aa\in A で φ(b)a=0\varphi(b)a=0 となるものがないことと同値です[4, 例9.1.3, p.73]。

この記事の xy=txy=t、ty=x2ty=x^2、x2=tx^2=t、Spec⁡Z[i]\operatorname{Spec}\mathbb{Z}[i] はどれも AA が整域で φ\varphi が単射なので、平坦です。ハーツホーンも、xy=txy=t と ty=x2ty=x^2 の族を「平坦だが、特別なファイバーは既約でない・被約でない」例として挙げています[4, 例9.8.2, p.80]。

平坦な族では、ファイバーの次元が跳ねません。体上有限型の平坦な射 f ⁣:X→Yf\colon X\to Y では、y=f(x)y=f(x) として dim⁡x(Xy)=dim⁡xX−dim⁡yY\dim_x(X_y)=\dim_xX-\dim_yY が成り立ちます[4, 命題9.5, p.76]。ここで dim⁡xX\dim_xX は局所環 OX,x\mathcal{O}_{X,x} の次元です。上の表で「重さ×剰余体の次数」がいつも2だったのも、AA が自由加群だった(平坦性の強い形)ことの表れです。

平坦でない例を数で見ます。A=k[x,t]/(xt)A=k[x,t]/(xt)、B=k[t]B=k[t] とすると、ファイバーの環は k[x]/(cx)k[x]/(cx) で、c≠0c\neq0 なら1点 x=0x=0、c=0c=0 なら直線 k[x]k[x] です。AA では t⋅x=0t\cdot x=0、x≠0x\neq0 なので、ねじれがあります。

ハーツホーンの命題9.7 によれば、底が1次元の正則な整スキームで XX が被約なら、平坦であることは XX のすべての既約成分が底の生成点に移ることと同値です[4, 命題9.7, p.78]。xt=0xt=0 の既約成分 V(t)V(t)(xx 軸)は点 t=0t=0 に潰れるので、平坦ではありません。

ブローアップも平坦ではありません。A~2\widetilde{\mathbb{A}}^2 と A2\mathbb{A}^2 の閉点での局所環はどれも2次元なので、平坦なら、原点の上のファイバーの閉点での次元は 2−2=02-2=0 のはずです。ところが、そのファイバー P1\mathbb{P}^1 の閉点での局所環は1次元です[4, 例9.7.2, p.79]。

まとめ:族とファイバーの表

族ほとんどのファイバー特別なファイバー生成ファイバー平坦か
xy=txy=t双曲線(既約)t=0t=0:交わる2直線(既約でない、被約)k(t)[x,1/x]k(t)[x,1/x]平坦
ty=x2ty=x^2放物線(既約)t=0t=0:2重の直線 x2=0x^2=0(被約でない)k(t)[x]k(t)[x]平坦
x2=tx^2=t2点t=0t=0:重なった点体 k(t)(t)k(t)(\sqrt t) の1点平坦
Spec⁡Z[i]→Spec⁡Z\operatorname{Spec}\mathbb{Z}[i]\to\operatorname{Spec}\mathbb{Z}2点、または Fp2\mathbb{F}_{p^2} の1点p=2p=2:重なった点体 Q(i)\mathbb{Q}(i) の1点平坦
ブローアップ π\pi1点原点:P1\mathbb{P}^1体 k(x,y)k(x,y) の1点平坦でない

射は、点の写像と関数の引き戻しの組で、アフィンスキームの間では環の準同型そのものでした。射の各点の上の逆像に環を付けたものがファイバーで、その環は方程式のパラメータに値を代入して求まります。

族として見ると、ほとんどの点の上のファイバーは同じ形で、特別な点の上だけ形が変わります。変わり方は、交わる2直線、2重の直線、重なった点、大きい剰余体の点など、点の集合だけでは見えないものを含んでいます。この記事の後半は、第2回から使ってきた「Spec の点に環を付けて見る」考え方を、族全体に広げたものです。

第1回から第8回までを振り返る

連載はここで一区切りです。これまでの回で扱ったことを並べます。

  • 第1回:多項式の零点集合 VV とイデアル II の対応。零点定理で、代数閉体の上では代数的集合と根基イデアルが1対1に対応することを見ました。
  • 第2回:素イデアルを点にした Spec⁡A\operatorname{Spec}A。生成点が加わり、Spec⁡Z[x]\operatorname{Spec}\mathbb{Z}[x] のように整数と多項式が同じ形の空間になりました。
  • 第3回:層・茎・芽と構造層。xx と x2x^2 の違いが、点のまわりの関数に残ることを確かめました。
  • 第4回:スキームと貼り合わせ。射影直線を作り、どの環の Spec とも違う空間があることを示しました。
  • 第5回:射影平面と Proj。平行線が無限遠で交わる平面です。
  • 第6回:接空間と特異点。曲線が尖る点や交わる点を、ヤコビ行列と局所環で調べました。
  • 第7回:ブローアップ。特異点を、原点を射影直線に置き換えてほどきました。
  • 第8回(この記事):射とファイバー。1つの射を、ファイバーの族として見ました。

次回は、第5回で名前だけ挙げたベズーの定理に戻ります。2つの曲線の交点を重複度つきで数える方法を定義し、射影平面ではその合計が次数の積になることを確かめます。

その先は、曲線の上の点の形式的な和である因子、それに対応する直線束、3次曲線の上の足し算(楕円曲線)へ進みます。

参考文献

  1. R. ハーツホーン(高橋宣能・松下大介 訳), 『代数幾何学 1』, 丸善出版, 2013.
  2. 堀田良之, 『可換環と体』, 岩波書店, 2006.
  3. M. F. アティヤ, I. G. マクドナルド(新妻弘 訳), 『可換代数入門』, 共立出版, 2006.
  4. R. ハーツホーン(高橋宣能・松下大介 訳), 『代数幾何学 2』, 丸善出版, 2012.